学芸トピックス―瀬能 宏―
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学芸員の瀬能がリュウグウノツカイについてテレビのニュースでコメントしました

学芸員の瀬能がリュウグウノツカイについてテレビのニュースでコメントしました

2019年2月26日更新

学芸員の瀬能が、2月19日に「NHKニュースウオッチ9」で報道されたリュウグウノツカイの人工ふ化についてコメントしました。このニュースは沖縄県の美ら海水族館で成功した世界初のリュウグウノツカイの人工授精と人工ふ化について報じたものです。

リュウグウノツカイは日本近海では冬から早春にかけて多く記録されます。この時期の海は、表層と底層との水温差が小さくなり、卓越する北西季節風の影響を受けて海水の循環が起こりやすくなります。そのため、深い場所に住むリュウグウノツカイが浅い場所に運ばれ、風や波の影響を受けるなどして岸近くに吹き寄せられやすくなるのです。これまでに多数のリュウグウノツカイが記録されていますが、なぜか成熟した個体は見つかっていませんでした。今回の沖縄における成熟した個体の出現は、この魚が沖縄近海で産卵している可能性を強く示唆する点できわめて重要です。実は当館にはこの仮説を裏付ける標本が保管されています(写真1)。沖縄県の慶良間諸島渡嘉敷島で採集された稚魚で、野外で記録された本種の標本としては世界最小、唯一のものです。静岡県の駿河湾では、やはり冬から早春にかけてリュウグウノツカイの稚魚が出現しますが、ある程度成長したものに限られます(写真2)。沖縄で生まれた稚魚は、黒潮に運ばれる過程で少しずつ成長し、駿河湾に到達しているのかも知れません。今後、この謎に満ちた魚の研究の進展が大いに期待されます。

 

リュウグウノツカイの標本

写真1 リュウグウノツカイの稚魚の固定標本
KPM-NI 26675 体長13.7 mm 沖縄県渡嘉敷島産

リュウグウノツカイの鮮時標本

写真2 リュウグウノツカイの稚魚の鮮時標本
KPM-NI 41516 体長72.9 mm 静岡県駿河湾産

※KPM-NIは当館所蔵の魚類資料であることを示す記号です。

 

参考資料

崎山直夫・瀬能 宏, 2012. 相模湾におけるリュウグウノツカイ(アカマンボウ目リュウグウノツカイ科)の記録について. 神奈川自然誌資料, (33): 95-101.

沖山宗雄・瀬能 宏, 2014. リュウグウノツカイ. 沖山宗雄(編), 日本産稚魚図鑑, pp. 392-393. 東海大学出版会, 秦野.