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【特別展】どうする?どうなる!外来生物 とりもどそう 私たちの原風景

【特別展】どうする?どうなる!外来生物 とりもどそう 私たちの原風景

この展示は終了しました

お知らせ

2014年10月10日(金曜) 在来種オオサンショウウオと外来種チュウゴクオオサンショウウオとの交雑種の生体展示をしています
2014年9月17日(水曜) 10月18日に特別展関連講演会を開催します
2014年7月30日(水曜) 連載記事ページを掲載しました
2014年7月24日(木曜) 展示内容を掲載しました
2014年7月3日(木曜) スペシャルページを掲載しました

 概要

【特別展】どうする?どうなる!外来生物 とりもどそう 私たちの原風景
開催期間 2014年7月19日(土曜)から11月3日(月曜)
開催時間 9時から16時30分(入館は16時まで)
休館日 9月1日(月曜)、9月8日(月曜)、9月9日(火曜)、9月16日(火曜)、9月22日(月曜)、9月24日(水曜)、9月29日(月曜)、10月6日(月曜)、10月14日(火曜)、10月15日(水曜)、10月20日(月曜)、10月27日(月曜)
観覧料
観覧料
(常設展含む)
個人 団体
(有料人員20人以上)
20歳以上65歳未満
(学生を除く)
720円 610円
15歳以上20歳未満・学生
(中学生・高校生を除く)
400円 300円
高校生・65歳以上 200円
中学生以下 無料
  • 学生の方は学生証、満65歳以上の方は、年齢を確認できるもの(運転免許証など)をお持ちください。
  • 障害者手帳/療育手帳/精神障害者保健福祉手帳の交付を受けている方は、手帳提示で観覧料は免除(無料)となります。総合案内にてご提示ください。
主催 神奈川県立生命の星・地球博物館
後援 神奈川新聞社
協力 小田急グループ、カナダガン調査グループ、京都水族館、広島市安佐動物公園、琵琶湖を戻す会、大阪市立自然史博物館、小笠原自然文化研究所、日本森林技術協会
問合せ先 神奈川県立生命の星・地球博物館
〒250-0031 神奈川県小田原市入生田499
電話:0465-21-1515 FAX:0465-23-8846

A4版チラシのPDFファイルをダウンロードできます

展示内容

展示解説書 「どうする?どうなる! 外来生物 とりもどそう 私たちの原風景」(A4判 128ページ フルカラー 1000円)目次(146KB) は当館ミュージアムショップにて発売しています。(通信販売もしています。)

展示解説書4ページと5ページ
展示解説書38ページと39ページ

近年、各地で問題になっている「外来生物」をテーマに、その由来や生息状況をはじめ、実際に定着した外来生物が引き起こしている様々な事例と対策を紹介します。

アメリカザリガニの横断幕

もしあなたが体長4センチほどのゲンゴロウだったら、アメリカザリガニはどれくらいの大きさに見えるのでしょう。

アメリカザリガニの横断幕

1. シンボル展示

代表的な外来生物を標本や模型で紹介します。ワニガメやオオクチバス、アメリカザリガニなど、このケースに入っている生きものはすべて外来生物です。

シンボル展示「アライグマ」
シンボル展示「外来生物」

2. 外来生物ってなあに?

外来生物について、その概要や導入の歴史、由来、関連する法律などを紹介しています。外来生物ということばには「外国から人間に連れてこられた生きもの」というイメージがありますが、国内由来の外来生物もいるのです。詳しくは展示をご覧ください。

「外来生物ってなんだろう?」
「遺伝子汚染」と「狩猟を目的とした放鳥」

3. あなたも当事者?ペットの放野

カブトムシやグッピーなど、ペットを飼いきれなくなったからといって、野外に放していませんか?ペットにとって良かれと思ってやった行為が外来生物を生みだした事例を紹介しています。

「止まらない侵略」
「ペット昆虫にご注意」

4. あらゆる環境で見られる外来生物

河川敷や湖沼、私たちの家の周りや里山、そして海にも外来生物はいます。それぞれの環境で見られる外来生物を紹介しています。

「水辺の外来生物」
「貝類とカニ類」

5. 外来生物対策の現場から

日本だけではなく、世界各地で外来生物による生態系への影響が出始めています。ここでは、たくさんの人々が、いろいろな地域で行なっている外来生物の対策事例を紹介しています。

「富士山麓に生息するカナダガン」
「侵略的外来種アメリカザリガニやウシガエル」について

6. とりもどそう私たちの原風景

展示をとおして、外来生物によって引き起こされている自然への影響を知ることができました。そのまとめとして私たちが取り戻すべき原風景について考えてみましょう。

「外来生物について調べるには?」
「学校の授業で外来生物をどのように取り上げられているのか?」

7. 子どもコーナー

次世代を担う子どもたちにも。外来生物への認識を深めてもらうコーナーです。クイズやぬり絵をとおして、外来生物のことを勉強しましょう。

「外来生物のおさかなつり」
「子ども展示(一部)」

8. 生きもの展示

侵略的外来種アメリカザリガニやミシシッピアカミミガメを展示しています。カメをさがそうの水槽では、外来種と在来種のカメを見比べることができ、野外で両者を見分けるポイントをクイズやパネルで紹介しています。10月10日からは、日本の在来種オオサンショウウオと中国原産の外来種チュウゴクオオサンショウウオとの交雑種を京都水族館から借用、展示しています。(なお、生きもの展示は、状況によって展示の種類が変わります。)

生きもの展示「カメ」
生きもの展示「オオサンショウウオ」

 関連行事

講座

外来生物問題について考えよう[当博物館講義室]終了しました 8月16日(土曜)10時から16時
外来生物のすんでいる池を訪ねよう[川崎市麻生区]終了しました 9月21日(日曜)各9時30分から16時
外来生物のすんでいる池を訪ねよう[川崎市麻生区]終了しました 10月18日(土曜)各9時30分から16時

ミニワークショップ(当日受付) 終了しました

「ぬり絵にちょうせん!」、「がいらいせいぶつのシール絵本づくり」など、子ども向けイベントを行います。 内容は当日来館してのお楽しみです。特別展示室で開催します。

日程 7月26日(土曜)・ 8月2日(土曜)・ 8月9日(土曜)・ 8月23日(土曜)
時間 各13時から15時

特別展関連講演会「外来生物対策の現場から」(当日受付:先着300名)終了しました

日時 10月18日(土曜)13時30分から16時 
場所 当博物館SEISA ミュージアムシアター
演者 高田 昌彦 氏(琵琶湖を戻す会 代表)
田口 勇輝 氏(広島市安佐動物公園 飼育技師)
西原 昇吾 氏(東京大学大学院)

第112回サロン・ド・小田原「西へ東へ!カナダガン追っかけ10年間の記録」(当日受付:友の会共催)終了しました

日時 9月6日(土曜)17時30分から18時30分
場所 当博物館講義室
話題提供 加藤ゆき(当館鳥類担当学芸員)

連載記事

2014年7月18日から週一回(合計12回)の間隔で連載が始まった神奈川新聞掲載記事の内容を紹介しています。執筆は当館スタッフによるものです。

第1回 「外来生物について」 名誉館員 高桑正敏(2014年7月18日掲載)
第2回 「河川敷の外来植物」 学芸部長 勝山輝男(2014年7月25日掲載)
第3回 「船のバラスト水によって運ばれる生きもの」 学芸員 佐藤武宏(2014年8月1日掲載)
第4回 「ペット昆虫が引き起こす問題」 学芸員 渡辺恭平(2014年8月8日掲載)
第5回 「加速する淡水魚の外来魚化」 学芸員 瀬能 宏(2014年8月15日掲載)
第6回 「鶴は千年、亀は万年?」 学芸員 松本涼子(2014年8月22日掲載)
第7回 「カナダガン対策の現場から」 学芸員 加藤ゆき(2014年8月29日掲載)
第8回 「固有種ニホンザルを守る」 学芸員 広谷浩子(2014年9月5日掲載)
第9回 「止まらない新たな侵入」 学芸員 苅部治紀(2014年9月12日掲載)
第10回 「外来種駆除とその副作用」 学芸員 苅部治紀(2014年9月19日掲載)
第11回 「私たちにできることは?」 学芸員 大西 亘(2014年9月26日掲載)
第12回 「原風景をとりもどすために」 学芸員 瀬能 宏(2014年10月3日掲載)

第1回 外来生物について

最近は、生物多様性とその保全の重要性が理解されるようになり、また生物多様性を損なう脅威として、外来生物問題がクローズアップされるようになった。

「外来生物」とは「その自然分布域外に、人間が関与して導入した生物」のこと。例えば、動物園や植物園での展示物の多くが外来生物である。イネなどの作物や、熱帯魚などのペットも。つまり今の社会は、外来生物なしには成り立たない面もあるが、飼育・栽培下できちんと管理されている限り、問題を生じない。

しかし、自然の中に生活する外来生物は違う。これには、タイワンリスのように飼育下から野外へと逸出したものと、ブタクサのように海外からの物資に紛れて侵入したものとがある。どちらにしても、在来の生物と食・被食の関係、あるいは餌・栄養資源や生活場所をめぐる争いを生ずるなど、地域の生物多様性=自然史を多少とも撹乱する。中でも、ブラックバスやアメリカザリガニなどは生態系に大被害を与える。

駆除を行うにも、自然の中だけに難しい。かわいそうという感情や、税金の無駄遣いという意見もある。が、手をこまねくなら、確実に生物多様性は損なわれる。

いまや湘南名物ともなりつつある外来のタイワンリス

いまや湘南名物ともなりつつある外来のタイワンリス(筆者撮影)

(名誉館員 高桑正敏)

※こちらは2014年7月18日付け神奈川新聞に掲載された記事の内容を紹介しています。


第2回 河川敷の外来植物

日本では在来植物に被われている所へは外来種はそう簡単には侵入できない。土地造成を行うなど人為的に裸地をつくり、在来種の生育を制限するような土地管理を行うと外来種が入り込みやすくなる。

ところが、河川敷は自然の空間であるにもかかわらず、外来植物が多く生育する場所になっている。

上流にダムができて、河川の中下流には大きな石は運ばれてこなくなり、細かい砂や泥が増え、周辺の農地や下水からは、窒素やリンなどの栄養分が供給される。

このような河川が増水して裸地ができると、豊富な養分を使ってヒメムカシヨモギ、オオブタクサ、アメリカセンダングサ、アレチウリ、シナダレスズメガヤ、オニウシノケグサなどの外来植物が急速に繁茂する。

カワラノギクやカワラヨモギのような日本の礫(れき)河原に特有な植物は、貧栄養な環境で増水に耐え、少しずつ成長するため、成長の早い外来雑草との競争には勝てない。外来雑草が繁茂した河川敷からは河原に特有な昆虫も姿を消してしまう。河川敷の生物群集は人間による河川環境の改変と外来生物により大きく変わってしまった。

酒匂川の礫河原に生える外来のヒメムカシヨモギ

酒匂川の礫河原に生える外来のヒメムカシヨモギ(筆者撮影)

(学芸部長 勝山輝男)

※こちらは2014年7月25日付け神奈川新聞に掲載された記事の内容を紹介しています。


第3回 船のバラスト水によって運ばれる生きもの

横浜には今日も世界中から多くの船が来航する。もしかするとその船には外来生物が密航者として乗り込んでいるかもしれない。

船の総重量を調整し船体を安定させるために積載される、おもりとしての海水をバラスト水という。海の中にすむ無数の生きものの成体、幼生、卵もバラスト水とともに船に積み込まれ、その目的地で排出される。

バラスト水によって非意図的に運ばれたとされるシマメノウフネガイ、イッカククモガニ、チチュウカイミドリガニといった外来生物は、神奈川やその周辺地域で最初に発見されている。最近の注目種はホンビノスガイという大型の二枚貝。1998年の東京湾での最初の発見以来、じわじわと分布を広げつつある。

バラスト水由来の外来生物は、誰がいつどのように持ち込んだのかがわからない上、気が付いたときには相当数が生息してしまっている、という特徴を持つ。前者はしばしば責任の所在をあいまいにし、後者は積極的対策の足かせとなる。

わが国ではつい最近、海洋汚染防止法が改正された。法に基づくバラスト水管理は、非意図的導入に対策を講じる大きな一歩となることを期待されている。

原産地の北米東海岸ではクラムチャウダーなどに利用されるホンビノスガイ(KPM-NGD000006).殻長(横幅)は83mm.佐藤武宏撮影.

原産地の北米東海岸ではクラムチャウダーなどに利用される
ホンビノスガイ(KPM-NGD000006)
殻長(横幅)は83ミリ(筆者撮影)

(学芸員 佐藤武宏)

※こちらは2014年8月1日付け神奈川新聞に掲載された記事の内容を紹介しています。


第4回 ペット昆虫が引き起こす問題

子供たちの憧れであるオオクワガタや、海外産のカブトムシ・クワガタムシからカマキリやタガメまで、最近は多くの昆虫がペットとして販売・流通しています。読者の中にも、これらペット昆虫を飼育している人がおられるかと思います。

子どものころに憧れた世界中の昆虫たちに日本で会えることはうれしい半面、原産地で初めて対面する感動を逃しているようで、寂しくもあります。これらのペット昆虫たち、ひとたび野外に放たれたら、在来の生き物を脅かす外来種となります。

海外産のペット昆虫が国内で定着する可能性や、定着した際の影響についてはほとんど検討されていませんが、在来種との競合・交雑のほか、ダニやウイルスなどの病害虫の媒介、農林業への被害を引き起こす恐れがあります。また、国内産のペット昆虫も問題を引き起こします。カブトムシやヒラタクワガタのように、各地に独自の地域個体群の存在が知られる種では、放たれた他の産地の個体群との交雑が、在来の個体群にとっての脅威となっています。

安易な気持ちで昆虫を放すことが、地域の自然を破壊する恐れがあることを、飼育する人はきちんと知っておくべきでしょう。

神奈川県産の在来のヒラタクワガタ、他地域の個体群と交雑する恐れがある

(学芸員 渡辺恭平)

※こちらは2014年8月8日付け神奈川新聞に掲載された記事の内容を紹介しています。


第5回 加速する淡水魚の外来魚化

今、日本では放流による淡水魚の外来魚化が加速している。遺棄や逸出も含めた広い意味での放流は、水産放流と私的放流に大別される。前者は殖産や遊漁など漁業を目的としたもので、主に漁協によって行われる。明治期以降、ニジマスやワカサギなど、国内外の水産有用種が各地で放流されてきた結果、数多くの外来魚を生み出した。

一方、私的放流はどんな魚をいつどこに誰が放すのかが明確ではない点で水産放流とは大きく異なる。イワナ、コイ、ミナミメダカなど、今も各地でさまざまな魚類が放流され、分布のかく乱や遺伝子汚染、競争や捕食などの問題を引き起こしている。最近では、オヤニラミのような絶滅危惧種の外来魚化や、沖縄のダム湖で大量に繁殖している多種多様な外国産熱帯魚など、何か特別な意図を感じざるを得ない事例も増加している。

水産放流の多くは計画的かつ一定の合意の下に行われてきた経緯があり、解決に向けての方策も立てやすい。しかし私的放流は人の意識が変わらない限り止められない。それがどような理由を付けても正当化できない悪行になりかねないことを強く啓発する必要があるだろう。

東京都の秋川に定着した絶滅危惧種オヤニラミ(筆者撮影)

東京都の秋川に定着した絶滅危惧種オヤニラミ(筆者撮影)

(学芸員 瀬能 宏)

※こちらは2014年8月15日付け神奈川新聞に掲載された記事の内容を紹介しています。


第6回 鶴は千年、亀は万年?

新たにペットを迎え入れる際、最後まで世話をする覚悟が必要である。犬や猫であれば、15年くらいの付き合いを予想できるだろう。では、爬虫(はちゅう)類の中でもペットとして最も流通しているミシシッピアカミミガメ(愛称ミドリガメ)の寿命を皆さんはご存じだろうか。

「鶴は千年、亀は万年」ということわざがある。さすがに万年の寿命はないが、インド洋や太平洋の島嶼(とうしょ)に生息するゾウガメは100年以上生きる。ミシシッピアカミミガメはこれに比べれば短いが、犬や猫よりも長く、20~40年生きる。つまり、われわれの人生の半分近くを共にする覚悟で家族に迎えなければならない。また、販売されているものは鮮やかな緑色の甲長3センチ程度の幼体だが、成長すると甲羅は茶色にくすみ、30センチ近くにまで達し、性格は攻撃的になる。飼いきれなくなった個体は野外に放たれ、現在では日本全国に分布してしまった。雑食であるため在来の動植物を食い荒らす。特に、在来のカメの卵を捕食するため生態系への影響が問題となる。現在、輸入や飼育を禁じる「特定外来生物」への指定が検討されているが、個人の飼育責任についてもう一度考えていただきたい。

米国南部からメキシコ北東部に自然分布するミシシッピアカミミガメの成体(左)。

米国南部からメキシコ北東部に自然分布する
ミシシッピアカミミガメの成体(左)
この成体の甲長は25センチ、幼体は3.5センチ(筆者撮影)

(学芸員 松本涼子)

※こちらは2014年8月22日付け神奈川新聞に掲載された記事の内容を紹介しています。


第7回 カナダガン対策の現場から

北米原産のカナダガンは、1970年頃から展示目的で動物園などに導入されてきた。野外では、85年に初めて静岡県富士宮市で2羽が確認された。国内の飼育施設から逃げ出したと考えられている。この2羽は同年から繁殖、少しずつ数を増やし、2010年には神奈川県や静岡県、山梨県などの湖沼で100羽が確認されるまでになった。

本種の増殖率は高く、1905年に50羽ほどが導入されたニュージーランドでは、狩猟対象であるにもかかわらず100年で6万羽にまで増えた。生息地域では、草地の過食や水草の食害、水際の土壌流出などが問題となっている。

調査により、日本での主な生息地は河口湖と田貫湖で、それぞれ約50羽が生息すること、農作物や牧草の食害とフンによるキャンプ場の芝生汚染が起きていることが明らかとなった。地元自治体は有害駆除の実施を決め、カナダガン調査グループの協力により2011年から生体の捕獲や擬卵交換による繁殖抑制をすすめた。

この結果、現在の推定生息数は6羽となった。主要生息地での対策が功を奏したのである。これは、外来鳥類の対策は、生息数も生息地域も限られる段階で行うことの重要性と有効性を示している。

静岡県富士宮市の牧草地で採食をするカナダガン。右の個体には調査用の首環がついている。(筆者撮影)

静岡県富士宮市の牧草地で採食をするカナダガン
右の個体には調査用の首環がついている(筆者撮影)

(学芸員 加藤ゆき)

※こちらは2014年8月29日付け神奈川新聞に掲載された記事の内容を紹介しています。


第8回 固有種ニホンザルを守る

ニホンザルは、日本だけに生息する霊長類である。霊長類の多くは赤道付近だけに生息しているが、ニホンザルだけは高緯度地域に生息している。近年、ニホンザルの種の存続を脅かす問題が発生している。タイワンザルやアカゲザルなどの近縁種との交雑である。交雑がこのまま進むと、ニホンザルが絶滅する危険性もあり、深刻な問題である。

尾長10センチ以下のニホンザルに比べて、タイワンザルが約40センチ、アカゲザルが30センチ、雑種個体の尾はニホンザルと外来種の中間の長さになるため、発見は比較的容易である。国内5つの地域に外来種の群れが見つかり、一部では交雑が確認された。すべてが遊園地などの飼育施設由来で、飼育放棄やずさんな管理がきっかけとなっている。

交雑を止める最も効果的な方法は捕獲である。青森県下北半島と和歌山県南部では研究者家や住民の協力を得てタイワンザルの群れと交雑個体の捕獲を進めてきた結果、根絶がほぼ達成された。捕獲に対しては「かわいそう、飼えないの?」などの意見が寄せられることも多い。対策は「種の保存」を基本に、合意形成を図りながら進める必要がある。

ニホンザル(左)とタイワンザル(右)尾の長さが違う

ニホンザル(左)とタイワンザル(右)尾の長さが違う

(学芸員 広谷浩子)

※こちらは2014年9月5日付け神奈川新聞に掲載された記事の内容を紹介しています。


第9回 止まらない新たな侵入

外来種問題は簡単に解決できるものではなく、すでに問題化している種の対応だけでも手いっぱいなのが実情であるが、毎年のように新たな外来種が報告されている。ここでは、昆虫類における、ごく最近報告された国外からの外来種をを紹介する。

昨年秋に初めて確認されたのがムシャクロツバメシジミである。台湾や中国原産で、名古屋市近郊の河川敷で発見された。近縁種との交雑の心配があり、侵入初期であることから、駆除対策が実施されている。この他にも中部地方ではニューフェイスの報告が多く、ムネアカハラビロカマキリ(在来のハラビロカマキリを駆逐)、タケクマバチ(タケ類に営巣、地域によっては優占種)などがあり、いずれも急速に分布を拡大中である。昨年埼玉県で確認されたクロジャコウカミキリは、サクラの並木を加害している。海外では果樹の害虫としても著名な種である。

こうした新たな外来種は、人間が定着に気づいた時には拡散が進行しており、駆除を開始しても手遅れであることが多い。水際での検疫体制の強化を実施しないと、物資移動のグローバル化が顕著な状況から日本の生物を守ることは困難である。

昨年秋に名古屋市近郊で初めて確認されたムシャクロツバメシジミ(矢後勝也さん撮影)

昨年秋に名古屋市近郊で初めて確認された
ムシャクロツバメシジミ(矢後勝也さん撮影)

(学芸員 苅部治紀)

※こちらは2014年9月12日付け神奈川新聞に掲載された記事の内容を紹介しています。


第10回 外来種駆除とその副作用

外来種の中でも、生態系被害が顕著なものは、「侵略的外来種」と呼ばれ、積極的な対策が展開されている。ところが、近年駆除の試行例が増加するに従い、駆除がもたらす副作用も報告され、外来種対策は一筋縄でいかないことが理解されるようになってきた。

例えば、在来魚などに大きな被害を与えるオオクチバスは、完全駆除に成功した事例も多い。しかし、オオクチバス(肉食)とアメリカザリガニ(雑食)が一緒に生息している場合には注意が必要である。前者は後者の強力な捕食者なので、オオクチバスだけ駆除するとコントロール役を失ったアメリカザリガニが激増し水草が根絶され、駆除実施前より環境が劣化した事例が報告されている。

このように、複数の外来種が侵入定着しているところで駆除を実施する場合には、駆除の順番ややり方に細心の注意が必要なこと、状況をモニタリングしフィードバックしながら戦略を変えていく柔軟な対応が必要なことが分かってきた。

良かれと思って実施した駆除が、「やる前より悪くなることがある」のはつらい事実だが、自然環境を相手にするには、われわれの知見は限定されたものであることを自覚していけば、最適解にたどり着く日も近いだろう。

侵入前石川県の希少ゲンゴロウ生息地。駆除による副作用ではないが、左がアメリカザリガニ侵入前。
侵入後右が侵入2年後の様子。水は濁り、水生植物も激減した(西原昇吾さん撮影)

(学芸員 苅部治紀)

※こちらは2014年9月19日付け神奈川新聞に掲載された記事の内容を紹介しています。


第11回 私たちにできることは?

外来生物問題では、しばしば「外来生物の駆除」の取組みが注目される。駆除に対する批判的な意見もあるが、駆除はわずかに残された在来の生きものたちを救うための、おそらく最後の手段であることも忘れてはならないだろう。

ただし、私たちには外来生物の駆除に至る前にできることがある。それは新たな「駆除すべき外来生物」を生み出さないことだ。「逃げ出しそうな生きもの、成長して世話ができなくなりそうな生きものは育てない」「本来のすみかでないところに放さない」「一度育て始めたら生きものが死ぬまで世話をする」などの約束を私たち一人一人が守ることが、「駆除すべき外来生物」を生み出さないことに直結する。

社会全体で実施できる取組みやルールの整備も多くあるだろう。例えば、外来生物になりそうな生きものを販売しないことや、販売する場合には、健康に対する危険性がたばこの包装に明示されるように、危険性の情報提供を行うこと、などが挙げられる。

私たちが生きものから受ける恩恵はたくさんある。在来の生態系を守りつつ、さまざまな生きものたちと賢くつきあう方法が私たち一人一人に求められている。

ランタナ(シチヘンゲ)

ランタナ(シチヘンゲ)
見栄えのする園芸植物だが、世界の侵略的外来種
ワースト100にも挙げられている(筆者撮影)

(学芸員 大西 亘)

※こちらは2014年9月26日付け神奈川新聞に掲載された記事の内容を紹介しています。


第12回 原風景をとりもどすために

生物多様性を維持し、失われた自然を取り戻すことは容易ではない。生物を野外に放つ行為は善行であり、社会通念上も人の営為として認められてきた歴史があるからだ。そして生命を大切にする動物愛護の精神や倫理観もまた、善として多くの人たちに支持されている。

外来生物が引き起こす様々な問題を解決するために、短期的には法規制を強化すると同時に、被害地域の防除を進める必要がある。しかしながら、それだけでは真の解決には結びつかないだろう。多くの人たちが外来生物とは生物進化の歴史の中ではあり得ない不自然な存在であるという認識に至ることが必要だ。

そのためには知識を増やし、教養を高めること、そして自然度の高い地域とはどのような場所なのか、実際に訪れて体験することが必要である。結果、地質学的な時間を背景とした自然史に重みを感じ、自然への畏怖や畏敬の念を抱ける感性が磨かれ、自然はかけがえのないものという価値観が醸成される。

取り戻すべき原風景とは、そうしてはじめて思い描けるものであろう。目前の小川をメダカも住める豊かな自然とみるか、メダカしか住めない自然ととらえるのか、それはあなた次第である。

ランタナ(シチヘンゲ)

望ましい自然観を醸成するための概念図(筆者作図)

(学芸員 瀬能 宏)

※こちらは2014年10月3日付け神奈川新聞に掲載された記事の内容を紹介しています。