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学芸員の渡辺がハチの新種を発表しました

学芸員の渡辺がハチの新種を発表しました

2024年8月29日 更新

 

学芸員の渡辺がドイツ在住の昆虫学者であるMatthias Riedel博士との共同研究で、ハチの新種を発表しました。日本産のSyzeuctusに属するウスマルヒメバチ亜科の寄生蜂について分類学的研究を行い、その成果が動物系統分類学の専門誌である「Zootaxa」に掲載されました。論文の概要は次の通りです。

 

【論文の概要】

本論文で扱ったSyzeuctusは、ハマキガ類などのチョウ目昆虫に寄生する美麗なヒメバチです。研究に着手した際には日本からは4種が記録されていましたが、分類学的位置が疑わしい種やいくつかの不明種が得られており、包括的な分類学的研究が必要とされていました。

 

論文では、日本産の本属を12種に整理し、5種の新種を新たに記載、命名しています。また、3種を日本新産種として報告し、各種の分布や生態についても報告と考察をしています。新種と日本新記録種の概要は次の通りです。いずれも和名はまだありません。

 

Syzeuctus brevicaudus Watanabe & Riedel, 2024

 

今回の論文で記載された新種です。タイプ産地※は福島県只見町浅草岳で、ホロタイプのみが知られる珍しい種です。種小名はラテン語で短い(brevi-)尾(caudus)という意味で、他種と比べて明らかに短い産卵管に由来します。ホロタイプは愛媛大学ミュージアムに収蔵されています。

 

Syzeuctus flavitarsis Watanabe & Riedel, 2024(図1)

 

今回の論文で記載された新種です。タイプ産地は栃木県那須塩原市で、他に山形県、滋賀県、奈良県、鳥取県、愛媛県からも標本が得られています。現時点では神奈川県から未記録ですが、今後発見される可能性は高いです。種小名はラテン語で黄色い(flavi-)フ節の(tarsis)という意味で、脚のフ節が黄色みを帯びる点にちなみます。ホロタイプ(KPM-NK 103102)とパラタイプの一部(KPM-NK 103103, 103104)が当館に収蔵されています。

 

Syzeuctus flavofacialis Kang & Lee, 2020

 

従来韓国から知られていた種で、本論文で日本から新たに記録されました。日本国内では埼玉県、東京都、神奈川県に分布し、県内では川崎市生田緑地、横浜市円海山で標本が得られています。

 

Syzeuctus laoticus Riedel, 2022

 

従来ラオスから知られていた種で、驚くべきことに遠く離れた日本から新たに記録されました。日本とラオスには共通の昆虫もいますので、そのような事例の一つであるとみなせます。珍しい種で、日本国内では埼玉県秩父市で採集された1個体しか標本が知られていません。

 

Syzeuctus maculatus Sheng, 2009

 

従来中国から知られていた種で、本論文で日本から新たに記録されました。日本国内では愛知県、東京都伊豆大島、神津島および三宅島、高知県、愛媛県大三島、長崎県壱岐、鹿児島県屋久島から標本が得られており、産地が島嶼域や沿岸部に集中している点が分布地理上興味深いです。神奈川県からは未発見ですが、湯河原や真鶴など、海沿いの照葉樹林を丹念に調査をすれば見つかる可能性があります。

 

Syzeuctus nigrus Watanabe & Riedel, 2024

 

今回の論文で記載された新種です。タイプ産地は鹿児島県奄美大島油井岳で、他に千葉県、神奈川県、東京都伊豆大島、兵庫県淡路島、愛媛県、長崎県対馬、沖縄県沖縄島から標本が得られています。神奈川県では横浜市円海山から標本が得られています。種小名はラテン語で黒い(nigrus)という意味で、本属の種としては体色が比較的黒い点にちなみます。ホロタイプ(KPM-NK 103105)とパラタイプの一部(KPM-NK 103106–103112)が当館に収蔵されています。

 

Syzeuctus rufiapicalis Watanabe & Riedel, 2024(図2)

 

今回の論文で記載された新種です。タイプ産地は石川県加賀市刈安山で、他に山形県、埼玉県、愛媛県からも採集されています。現時点では神奈川県から未記録ですが、今後発見される可能性は高いです。種小名はラテン語で赤い(rufi-)先端の(apicalis)という意味で、腹部の先端方が赤いことにちなみます。ホロタイプ(KPM-NK 103113)とパラタイプの一部(KPM-NK 103114–103127)が当館に収蔵されています。

 

Syzeuctus yamatonis Watanabe & Riedel, 2024

 

今回の論文で記載された新種です。タイプ産地は神奈川県横浜市円海山で、他に北海道、山形県、新潟県、山梨県、福井県、鳥取県、愛媛県、鹿児島県から標本が得られています。種小名は日本の古称である「大和」にちなみます。ホロタイプ(KPM-NK 103128)とパラタイプの一部(KPM-NK 103129–103135)が当館に収蔵されています。

 

※生物の学名を命名する際に使われる標本をタイプといいます。ホロタイプは学名の基準となる標本で、タイプの中から一つだけ選ばれます。パラタイプはホロタイプ以外のタイプです。ホロタイプが得られた産地をタイプ産地といいます。

 

※※KPM-NKは当館の昆虫標本の資料番号であることを示す記号です。

 

【論文詳細】

Watanabe, K. & M. Riedel, 2024. Revision of the genus Syzeuctus Förster, 1869 (Hymenoptera, Ichneumonidae, Banchinae) from Japan.

Zootaxa, 5496(1): 35-71.

(DOI: https://doi.org/10.11646/zootaxa.5496.1.2)

 

図1. Syzeuctus flavitarsis Watanabe & Riedel, 2024のホロタイプ(KPM-NK 103102;メス).

図2. Syzeuctus rufiapicalis Watanabe & Riedel, 2024のホロタイプ(KPM-NK 103113;メス).