学芸員の渡辺がハチの新種を発表しました
2025年3月1日 更新
学芸員の渡辺は、愛知県在住の寄生蜂の研究者である森下俊介氏との共同研究で、ヒラタアブ類に寄生するヒメバチの仲間を調査し、新種を含む多数の種を発表しました。その成果が動物系統分類学の専門誌である「Zootaxa」に掲載されました。論文の概要は次の通りです。
【論文の概要】
ヒラタアブヒメバチの2属、HomotopusとSyrphoctonusは互いに形態が似通っていることもあり、属の定義に関する議論が続いていました。この問題は2014年に欧州の研究者が定義を整理したことで一応の決着を見ましたが、日本に分布する2属10種の所属については、古い分類体系に基づく属の所属のままでした。また、日本産既知種に該当しない種が存在することや、国外に分布する種と日本産種の比較が不十分であることが課題となっていました。
論文では、日本各地で採集された両属のハチを分類し、1新種や5種の日本新産種を含む2属12種を認めました。6種増えたように見えて種数が10種から12種へと2種しか増えていないのは、海外の種との比較によって4種において異名※が認められたことによります。
Homotropus japonicum Morishita & Watanabe, 2025
和名はまだありません。本州(長野県、富山県、石川県)に分布します。生態は不明ですが、山地性の種のようです。種小名は日本にちなみます。ホロタイプ※※(KPM-NK 103231※※※)とパラタイプの一部(KPM-NK 103232, 103233)が当館に収蔵されています。
本論文により、世界の分類体系に準じた形で日本産の両属が整理され、多様性がより正確に認識できるようになりました。今後各種の分布や生態の解明が望まれます。
※同じ種に対して複数の学名がある場合は、基本的には先に命名された方が有効となり、それ以外は無効になり、異名(シノニム)とされます。海外の種と比較をすることで、別々とされていた海外の種と日本の種が実は同じ種であることが判明することは良くあることです。このような問題を解決することも、分類学の重要な仕事です。
※※生物の学名を命名する際に使われる標本をタイプといいます。ホロタイプは学名の基準となる標本で、タイプの中から一つだけ選ばれます。パラタイプはホロタイプ以外のタイプです。
※※※KPM-NKは当館の昆虫標本の資料番号であることを示す記号です。
【論文詳細】
Morishita, S. & K. Watanabe, 2025. Review of the genera Homotropus Förster and Syrphoctonus Förster (Hymenoptera, Ichneumonidae, Diplazontinae) from Japan. Zootaxa, 5588(1): 49-76.
図1. Homotropus japonicum Morishita & Watanabe, 2025のホロタイプ(KPM-NK 103231;メス).
A: 側方から見た全形; B: 前方から見た頭部; C: 側方から見た後脚の一部.