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+2℃の世界・縄文時代に見る地球温暖化・2004年12月18日(土曜)から2005年2月27日(日曜)
神奈川新聞掲載記事

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+2℃の世界
縄文時代に見る地球温暖化

貝塚 −環境変化知る指標に−

 土器の使用が始まった縄文時代草創期、人々は旧石器時代と同様に狩猟や採集に頼る生活を営んでいました。

 やがて縄文時代早期(約九千年前)になると気候が温暖化し、海面の上昇により海岸地帯におぼれ谷の地形が発達して、内湾や入り江がつくり出され、遠浅の砂浜や干潟が拡大されました。このころから海と人間との深い結びつきが始まり、人々は河口や入り江に出て魚や貝の捕獲を行うようになったのです。

 食料に用いられたあとの魚の骨や貝の殻は、彼らの住まいの周辺に捨てられました。そこにはイノシシやシカの骨や角、土器のかけら、作りかけの銛(もり)や釣り針、折れた石器なども混じっています。それらは長い時間を経て堆積(たいせき)し、貝塚を形成したのです。

 横須賀市吉井貝塚は縄文時代早期末から中期に至る、およそ六千五百〜四千五百年前に形成された貝塚です。上下二つの貝層からなり、下部は海進最高期に、上部は海退期に形成されました。下部貝層は内湾の潮間帯の砂地や泥地に生息するマガキ、ハイガイを主体に、オキシジミ、ハマグリなどの二枚貝が多く見られ、ここからは早期末の土器が出土しています。

 上部貝層はマガキ、ハイガイなどの二枚貝が減少し、イシダタミ、スガイ、クボガイ、レイシガイ、サザエなどの波打ち際の岩礁地帯に生息する巻き貝が多く見られ、ここからは中期後半の土器が出土しています。

 このことは、早期末の海進最高期に伴って発達した内湾が、中期以降になると次第に縮小され、マガキやハイガイの生息できる環境が失われていったことを示しています。

 このように、同一場所における貝層の様相の違いは、時期によって、自然環境が変化していったことを知る手掛かりになっています。

 

( 県立歴史博物館学芸部長 ・川口 徳治朗 )

下末吉期の海岸線の様子

横須賀・吉井貝塚の貝層断面(県立歴史博物館)


(注) 2005年1月30日に、神奈川新聞に掲載された記事を再録しました。

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