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+2℃の世界・縄文時代に見る地球温暖化・2004年12月18日(土曜)から2005年2月27日(日曜)

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+2℃の世界
縄文時代に見る地球温暖化

沼サンゴ層 −北限群生地に熱帯種−

 房総半島南端の館山湾には、現在、規模は小さいながら水深一〇メートル前後の海底にサンゴの群生地があります。そこでは二十五種類のサンゴが生息していて、世界で最北の群生地点として大変貴重です。

 ところが約六千五百年〜五千五百年前の縄文時代には、この海に現在よりはるかに規模の大きな群生があり、八十種類以上ものサンゴが生息していたことが化石調査により分かっています。化石では細かな組織構造や軟体部が失われていますので、種類を決めるのは難しいことですが、それでもこんなに多く見つかっています。

 当時、実際にはもっと多くの種類がいたと想像できます。このさんご礁は、館山湾周辺の沼(ぬま)地区に分布する沖積層に化石さんご礁として残っていて、「沼サンゴ層」と呼ばれています。また、化石の中には、現在では鹿児島県以南にしかいない種類が含まれています。

 サンゴは一年間で成長できる速さが海水温によって違います。そのことをキクメイシというサンゴでみますと、伊豆半島江ノ浦の現生種では三.〇一ミリ、奄美大島では四.八二ミリ、そして沼層化石では四.六一ミリです。沼層産化石の年間成長率は、奄美大島の値に近いものです。サンゴ化石と一緒にみられる貝化石からは、ベニエガイ、ヨロイガイ、オハグロガキなど、現在の南関東には分布していない熱帯種が見つかっています。

 このような点から沼さんご礁が分布していた約六千五百年〜五千五百年前の館山湾の環境を推定すると、現在の紀伊半島以南、南九州から奄美大島ほどの暖かな海水の洗う内湾になっていたと考えられます。

 

(県立生命の星・地球博物館外来研究員  門田 真人)

下末吉期の海岸線の様子

千葉県館山市香(こうやつ)に分布する約6500年前の沼サンゴ層(撮影・松島義章)


※ 2005年1月28日に、神奈川新聞に掲載された記事を再録しました。

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