植物篇 各論

◎凡例

 総合評価,地域評価,文献,標本等の欄で, 以下のような省略表記を用いた.

  • 総合評価
    絶滅種をEx,絶滅危倶種をEn,減少種をVとし,序論で定義したAからHのRD度(8頁参照)をハイフォンでつないで表記した.
  • 地域評価
    多摩,三浦,相模原,湘南,西湘,小仏,丹沢の8つの調査ブロック毎に評価し,絶滅種をEx,絶滅危倶種をEn,減少種をVと表記した.
  • 文献

     頻出する文献は下記のような略称を用いて表記した.

      神植目33: 神奈川県植物目録(1933).

      神植誌58: 神奈川県植物誌(1958).

      神植誌88: 神奈川県植物誌1988.

      FK: FLORA KANAGAWA.

     神植誌88の後には,さらに調査メッシュコード(下図参照)と情報源の種別を次のような記号で示した.

    例) YA-1 調査期間(1979~1988年)にメッシュ山北1で      標本がある場合.

    #YA-1 調査期間に植物誌以外の標本がある場合.

    $YA-1 調査期間に文献またはメモの記録がある場合.

    *YA-1 1979以前に植物誌以外の標本がある場合.

    +YA-1 1979以前に文献またはメモの記録がある場合.

  • 標本

     標本データは基本的に標本庫略号,資料番号,産地,採集日,採集者の順で表記した.標本庫の略称は以下のとおりである.

     KPM: 神奈川県立博物館.

     FLK: 神奈川県立博物館(神植誌1988の標本.ただしNo.100000以上は神植誌1988刊行後に収められた標本).

     YCM: 横須賀市自然博物館.

     HCM: 平塚市博物館.

     TI: 東京大学理学部附属植物園,および総合研究資料館.

     MAK: 東京都立大学牧野標本館.

     TNS: 国立科学博物館.

 

◎絶滅種・絶滅危惧種・減少種

マツバラン科 PSILOTACEAE

マツバラン Psilotum nudum (L.) P. Beauv.

総合評価: En-E. 地域評価: 西湘(En) 三浦(En) 箱根(Ex). 原因: 園芸採取; 自然遷移; その他(草刈り).

熱帯~亜熱帯に本拠を置く常緑多年草.本州(宮城県・石川県)以南に分布し,暖地の岩上の小さな割れ目や地上,樹幹などに生える.本県では稀な部類に属し,散発的に見つかる小田原,鎌倉方面を除くと,西湘・多摩・三浦地域に一部の記録が知られるだけである.全国版のレッドデータブックでは危急種として取り上げられているが,園芸的に栽培もされ,その胞子で二次的に広がったと思われるものが,暖かな環境下の植木の根もとや石積・石垣などにしばしば野生状態で生育する.また,温室では雑草的存在にもなる.こうした背景からか,神植目1933では県下のものを‘栽培’として扱っている.

文献: 神植目1933 栽培 神植誌1958 鎌倉(大谷茂1956)・小田原(朝倉修一1954) 神植誌1988 KA-1;$OD-2 その他の文献: Franch. et Sav. (1879): 201 倉田(1953) Ohtani(1956) 大谷(1957) 宮代(1958) 松浦(1958) 大谷(1966) 大谷(1976c) 倉田・中池編(1987) FK(30): 321 秋山(1994) 山本(1994) 支倉(1995).

標本: FLK-103376 ISE-1 日向 1989.02.12 酒井重謙; KPM-5666 YU-2 吉浜 1960.06.17 西尾和子; KPM-5667 YU-2 幕山 1960.06.04 西尾和子; KPM-5668 OD-2 小田原 1958.07.12 西尾和子; YCM-2955 KA-1 扇ケ谷 1956.12.12 大谷茂.

 

ヒカゲノカズラ科 LYCOPODIACEAE

ミズスギ Lycopodium cernuum L.; Lycopodiella cernua (L.) Pichi Sermolli

総合評価: En-E. 地域評価: 三浦(Ex) 箱根(En). 原因: 自然遷移; 産地極限; その他(標本採取).

熱帯~亜熱帯性の常緑多年草.暖かな環境下のやや湿り気のある明るくて痩せた地(切土のり面などを含む)の上を短く這って生育する.分布量は西南暖地に多いが,中部以北の本州や北海道(阿寒,弟子屈など)においても極めて局所的に生じている.それらは冬の寒さを凌ぐことのできる火山の噴気孔付近である.1世紀以上も昔から知られた本県の産地,箱根の場合も同様である.その著名な自生地,大涌谷では関東大震災の時に一時地温が低下し,存続が危ぶまれるほどの状態に陥ったが,完全には絶えなかったらしく,その周辺部では何カ所かで1951,1960,1974年,また神植誌1988の期間中にも健在が確認された.なお,久内清孝により1911年に記録された鎌倉については,その後全く確認の報告がないことから,絶滅したと考えられる.

文献: 神植目1933 箱根(大正12年大震災で枯死) 神植誌1958 箱根(大涌谷大震災で全滅)神植誌1988 HAK-4(大涌谷に健在) その他の文献: Franch. et Sav.(1879) 三好(1887) 神奈川懸植物調査會編(1913) 牧野(1929) 奥山(1948d) 132 宮代(1958) 大谷(1960) 尾崎(1963) 大谷(1966) 1973.7.4付朝日新聞 大谷(1976c) 倉田・中池編(1989) 中池(1992).

標本: FLK-50000 HAK-4 大涌谷 1987.06.13 守矢淳一(久内清孝による).

 

アスヒカズラ Lycopodium complanatum L.

総合評価: Ex-A. 地域評価: 箱根(Ex). 原因: 不明.

地上生の常緑多年草.北海道,本州(岡山県以北),四国(徳島県)の温帯に分布し,山地の日当たりのよい草原や疎林下などに生える.本県では極めて稀で,箱根に僅かな記録が見られるだけである.

その他の文献: 松浦(1958): 8; 倉田・中池編(1989): 56.

 

スギラン Lycopodium cryptomerinum Maxim.; Huperzia cryptomerina (Maxim.) Dixit

総合評価: V-G. 地域評価: 丹沢(V) 箱根(Ex). 原因: 園芸採取; その他(森林荒廃,標本採取).

樹上,岩上に着生する常緑多年草.北海道南部,本州,四国,九州に分布する.本県では丹沢や箱根で点々と記録されているほか,大山にも生育する.ブナやミズナラなどの大木の樹幹の高さ3~4mほどのところに着生することが多い(秋山守・勝山輝男の観察による).箱根では大涌谷の産が古くから知られていたが,そこでは少なくとも30年ほど前には絶滅していたらしい(大谷,1966).

文献: 神植目1933: 105 箱根・大山・丹沢山・塔ケ岳・蛭ケ岳・石老山; 神植誌1958: 22 箱根(大涌谷絶滅); 神植誌1988 OY;+YA-2;3;4;5;*YA-6;HAK-1;4.

その他の文献: 神奈川懸植物調査會編(1913): 152‘ヒロハスギラン’; 宮代(1958): 95; 松浦(1958): 8; 大谷(1960): 29; 林・ほか(1961): 14,28,45; 大谷(1966): 34; 大川(1967); 倉田・中池編(1989): 61; FK(27): 251; 平塚市博物館(1990): 5; FK(37): 403-404; 中池(1992): 791.

 

マンネンスギ Lycopodium obscurum L.

総合評価: Ex-B. 地域評価: 丹沢(Ex)箱根(Ex). 原因: 不明.

温帯~亜寒帯性の常緑多年草.深山の林床に生育する.北海道,本州,四国,九州に分布する.本県では大山,丹沢(丹沢山~蛭ケ岳),箱根(大涌谷,駒ケ岳,神山)などに記録があるが,1960年頃を境に,それ以降の生育状況は不明である.

文献: 神植目1933: 105 箱根・大山・山北・丹沢山・塔ケ岳・蛭ケ岳・神ノ川; 神植誌1958: 22 大山・山北・丹沢・箱根; 神植誌1988 +YA-3;5;+HAK-4.

その他の文献: 三好(1887): 116; 神奈川懸植物調査會編(1913): 152; 松浦(1952)“大涌谷より(箱根権現神域へ)移植”; 宮代(1958): 95; 松浦(1958): 8; 林・ほか(1961): 24,45; 大谷(1966): 34; 平塚市博物館(1980): 16; 倉田・中池編(1989): 81.

標本: KPM-5042 HAK-4 神山 1959.05.17 西尾和子.

 

ヒモラン Lycopodium sieboldii Miq.

総合評価: Ex-A. 地域評価: 箱根(Ex). 原因: 産地極限;不明.

暖帯性の常緑多年草.樹幹や岩上に生育する.神奈川県以西の本州,四国,九州に分布する.県下では1960年前後に奥湯河原で記録されたが,その後は確認の情報が得られないことから,絶滅した可能性が大きい.

文献: 神植誌1988 +YU-1 奥湯河原(陣野一郎1958).

その他の文献: 大谷(1960): 29; 大谷(1966): 35; 大谷(1976c): 10.

 

イワヒバ科 SELAGINELLACEAE

ヒモカズラ Selaginella shakotanensis (Franch. ex Takeda) Miyabe et Kudo

総合評価: Ex-A. 地域評価: 丹沢(Ex). 原因: 産地極限;不明.

温帯~寒帯のやや明るくて霧のかかるようなところの湿り気のある岩上に生える常緑多年草.北海道,本州(中部地方以北と京都,奈良,広島)に分布する.本県では丹澤山(神植目1933),丹沢山竜ケ馬場(林・ほか,1961)の記録(稀)があるが,近年はまったく確認の情報が得られていない.

文献: 神植目1933: 104 丹沢山; 神植誌1958: 23 丹沢山; 神植誌1988 +YA-3(分布図なし).

その他の文献: 奥山(1948b): 54; 宮代(1958): 95; 林・ほか(1961): 24,28,45; 大谷(1966): 36.

 

ミズニラ科 ISOETACEAE

ミズニラ Isoetes japonica A. Br.

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(V) 湘南(Ex) 西湘(En) 相模原(En). 原因: 池沼開発; 湿地開発; 土地造成; 農薬汚染; 管理放棄.

暖帯~温帯性の多年草.谷戸奥の耕作水田,緩やかな小流中,ため池や沼沢地の水辺付近などの泥土上に生育する.暖かな水中では葉が常緑性を示すとされる(志村・名倉,1991)が,県下でふつう見られるものは冬に葉が枯れている.本州,四国,九州に分布し,広島県や高知県辺りを境に,それより西ではシナミズニラに置き換わる傾向がある.本県では主に多摩丘陵と箱根に分布し,平塚や座間にも記録があるが,埋め立てなどにより生育地は年々狭められ,消失した地域も少なくない.ただ,都心部のようなところでも水辺をもつ古い庭園などがあれば,本種の姿を割合見つけられるものである.小胞子は干上がった状態でも2カ月は生き延びることができるという(湯浅,1933).

文献: 神植目1933: 104 産地記載なし; 神植誌1958: 23 横浜(今宿 内田光雄1957); 神植誌1988 各地.

その他の文献: 帝國女子醫學藥學専門學校學友會(1932): 59; 原(1934): 24; 宮代(1958): 95; 大谷(1966): 36-37; 出口(1966): 2; 出口(1968): 53; 平塚市博物館(1980): 17; 倉田・中池編(1985): 87; 斉藤(1989); 岡(1990); 志村・名倉(1991); 宮本・ほか(1991): 3,8; 山本(1993); 多摩丘陵植物調査会(1994): 14.

 

ハナワラビ科 BOTRYCHIACEAE

ヒメハナワラビ Botrychium lunaria (L.) Sw.

総合評価: Ex-A. 地域評価: 丹沢(Ex). 原因: 産地極限;不明.

亜寒帯~寒帯性の夏緑の多年草.亜高山的環境の岩場や草地に生える.北海道,本州(鳥取県と中部地方以北)に分布する.本県では丹沢三ノ塔が唯一の産地で,大谷(1966)のFig.2に小島俊郎採集の証拠標本の写真が載っている.

文献: 神植誌1988 丹沢三の塔(小島俊郎1959.7).

その他の文献: 林・ほか(1961): 24,28-29,45+pl.8; 大谷(1966): 37-38+Fig.2.

標本: YCM-6549 丹沢山三ノ峯 1959.07 林弥栄.

 

アカハナワラビ Sceptridium nipponicum (Makino) Holub

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(En) 西湘(S) 丹沢(V) 小仏(En) 箱根(V). 原因: 園芸採取; 踏みつけ; 管理放棄; 自然遷移; その他(標本採取).

暖帯の林縁や疎林下に生える冬緑の多年草.本州(宮城県以南),四国,九州に分布する.本県では箱根・奥湯河原,西湘,三浦,多摩,津久井の各地域の疎林下で少しずつ記録されているが,分布量は少ない.また本州中部のブナ帯に本拠のあるウスイハナワラビとの関係がひじょうに微妙な上(区別点としては葉裏の毛の状態や羽片の柄の長さ,分布域の違いなどが知られる),文献上の記録の中にはアカフユノハナワラビなどが含まれていた可能性もあり,分類上の課題や問題が残されている.

文献: 神植目1933: 105 箱根; 神植誌1958: 6 三浦・箱根・奥湯河原(行方沼東1957)散生; 神植誌1988 AI;TS-4;TAM;ISE;NIN.

その他の文献: 久内(1927);増島・石渡(1950): 19; 行方(1953); Ohtani(1956): 13; 大谷(1960): 27“ウスイハナワラビ:箱根権現(岸田松若 1932.10.17 TNS-39432)”; 宮代(1958): 102; 松浦(1958): 1; 西田(1959); 大谷(1966): 38-39; 平塚市博物館(1987): 15; 倉田・中池編(1989): 318; 平塚市博物館(1990): 6; FK(30): 321; 中池(1992): 793; 小崎(1993a): 23-24; 多摩丘陵植物調査会(1994): 20-21.

 

コヒロハハナヤスリ Ophioglossum petiolatum Hook.

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(En) 湘南(En) 西湘(S) 三浦(Ex). 原因: 土地造成; 踏みつけ; 管理放棄; 自然遷移.

裸地が所々に混じるような原野や低茎草地などにしばしば群生する夏緑の多年草.本州(関東地方以西),四国,九州,琉球,小笠原に分布する.県下では東半部の地域に記録が偏り,中でも多摩丘陵から三浦半島の逗子市にかけての地域で目立つ.鎌倉では社寺の境内で見出されることが多いようである.

文献: 神植誌1988 SA-3;CH-1;AS;TAM;KAZ;TO-3;HO.

その他の文献: 大谷(1960): 27; 大谷(1966): 37; 大谷(1976c): 10; 平塚市博物館(1980): 17; 平塚市博物館(1987): 15; 倉田・中池編(1989): 269; FK(30): 333; FK(33): 364; 小崎(1993a): 16; 多摩丘陵植物調査会(1994): 17.

 

ゼンマイ科 OSMUNDACEAE

ヤマドリゼンマイ Osmunda cinnamomea (L.) Pr. var. fokiensis Copel.

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(Ex) 小仏(V) 箱根(V). 原因: 不明.

温帯~亜寒帯性の夏緑多年草.山地の草原や湿原,林縁付近,疎林下など比較的明るい湿り気のある条件のところに群生することが多い.北海道,本州,四国,九州に分布する.本県では稀で,県下最初の発見地として知られる箱根仙石原(澤田武太郎1935.5.28)のほか,箱根の神山,津久井の藤野町で記録されている程度である.なお,古くは‘circa Yokokama’(左記は横浜付近の意と思われる)の産とされるバビングトンとマクシモヴッチの標本があるらしい(Franch. et Sav. 1879).移入的存在とみられるが,最近,八王子市の多摩丘陵で小さな1株が酒井藤夫により見出された.

文献: 神植誌1988 FUJ-1;HAK-4;+HAK-1.

その他の文献: Franch. et Sav.(1879): 251; 澤田(1935b): 713; 松浦(1958): 7; 大谷(1966): 40; 大谷(1976c): 11.

 

コケシノブ科 HYMENOPHYLLACEAE

コケシノブ Mecodium wrightii (v. d. Bosch) Copel.

総合評価: V-G. 地域評価: 丹沢(V) 箱根(V). 原因: 森林伐採; 道路工事; その他(標本採取,空中湿度の低下).

温帯性の常緑多年草.山地林下の湿り気のある岩上や樹幹に着生する.北海道,本州,四国,九州に分布する.本県では大山,丹沢,箱根の比較的高所に知られるが,少ない.

文献: 神植誌1958: 7 大山・丹沢・道了山・箱根・湯河原; 神植誌1988 TS-2, 3; KI-2; YA-5, 6; MIA-2, 3; HAK-2, 4.

その他の文献: 宮代(1958): 102; 林・ほか(1961): 45; 大谷(1966): 43; 倉田・中池編(1987): 98.

 

キヨスミコケシノブ Mecodium oligosorum (Makino) H. Ito

総合評価: V-G. 地域評価: 箱根(V) 丹沢(En). 原因: 森林伐採; その他(標本採取,空中湿度の低下).

暖帯性の常緑多年草.樹幹,まれに岩上に生える.茨城県以南の本州,九州の山地に分布する.本県では稀で,丹沢や箱根の一部の地域で記録されているだけである.

文献: 神植誌1958: 7 道了山(伊藤洋1956); 神植誌1988 MIA-2;MIA-3;YA-4(標本不在).

その他の文献: 大谷(1966): 42; 倉田・中池編(1979): 73.

 

ワラビ科 PTERIDACEAE

ヒメウラジロ Cheilanthes argentea (Gmel.) Kunze

総合評価: V-G. 地域評価: 丹沢(V) 小仏(V). 原因: 道路開発; 園芸採取; その他(採取).

常緑多年草.ふつう石灰岩地の明るい岩上,石灰岩を用いた道路沿いの石積・石垣などに生育する.本州(岩手県以南),四国,九州,琉球に分布する.本県では極めて稀で,津久井,丹沢に僅かな記録が見られるだけである.

文献: 神植誌1988 FUJ-1;MAT;KI-3.

その他の文献: Franch. et Sav.(1879): 212(Tamiokaは横浜市金沢区?); 倉田・中池編(1979): 99.

 

コバノイシカグマ Dennstaedtia scabra (Wall. ex Hook.) Moore

総合評価: V-G. 地域評価: 西湘(V) 丹沢(V) 箱根(V). 原因: 不明.

暖帯の山地林下に生える常緑多年草.本州(秋田県以南),四国,九州に分布する.本県では南西部の湯河原~松田にかけての地域には散在するが,その他の地域ではかなり稀である.

文献: 神植誌1958: 8 泉(静岡); 神植誌1988 MAT;MIA-3;OD-2;OD-4;HAK-5.

その他の文献: 奥山(1948b): 55; 宮代(1958): 97; 松浦(1958): 3; 大谷(1966): 46; 倉田・中池編(1987): 241; 田中(1992a): 95,102+写真2; 田中(1992b): 8; 中池(1992): 796; 飯田(1988): 2-3.

 

カラクサシダ Pleurosoriopsis makinoi (Maxim. ex Makino) Fomin

総合評価: V-G. 地域評価: 丹沢(V) 箱根(V). 原因: 森林伐採; その他(標本採取,空中湿度の低下).

暖帯~温帯の山地の苔むした岩上や樹幹に生える冬緑型の多年草.北海道~九州(最南部を除く)に分布する.本県では奥湯河原・箱根から西丹沢にかけての山地に知られるが,目につきにくいことも関係するのか,記録は少ない.

文献: 神植目1933: 107 箱根; 神植誌1958: 9 泉(静岡); 神植誌1988 MAT;MIA-3;OD-2;OD-4;HAK-5.

その他の文献: 奥山(1948d): 132; 松浦(1958): 5; 大谷(1963b): 99,101; 大谷(1966): 48; 倉田・中池編(1979): 198; 井上・ほか(1991): 49.

標本: 東京薬科大学所蔵 奥湯河原日金 1963.11.17 佐竹元吉.

 

オオバノアマクサシダ Pteris excelsa Gaud. var. simplicior (Tagawa) Shieh.

総合評価: V-G. 地域評価: 西湘(V) 丹沢(V) 三浦(Ex). 原因: 森林伐採; ゴルフ場; 土地造成.

暖帯性の多年草.西南暖地では常緑であるが,三浦半島では冬に枯れるという(大谷,1966).谷間の湿った林下,とくに小さな流れに沿ったところに生える.関東地方以西の本州,四国,九州に分布する.本県では小田原・湯河原方面に散在するほか,三浦半島でも稀に見出される.基準変種のオオバノハチジョウシダと比べると,分布量はずっと少ないが,両者をとくに区別しない考え方もある.とくに若い時には区別が難しい.三浦半島では主産地がゴルフ場や宅地の造成のために失われた.

文献: 神植目1933: 111 湯河原; 神植誌1958: 9 三浦・道了山・山北・箱根・湯河原; 神植誌1988 MIA-3;AT-1;+YU-1.

その他の文献: Franch. et Sav.(1879): 214に注意; 神奈川懸植物調査會編(1913): 149; 奥山(1948b): 55; Ohtani(1956): 15,23+Fig.8; 宮代(1958): 97; 松浦(1958): 6; 大谷(1963a): 88,93,95; 大谷(1966): 49; 平塚市博物館(1980): 24; 倉田・中池編(1985): 177; 逗子市(1987): 351+口絵82; 田中(1988): 48; 大森(1988): 44; 田中(1992a): 96.

 

ハチジョウシダ Pteris fauriei Hieron.

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(En). 原因:不明.

暖帯~亜熱帯性の常緑多年草.沿海地の林縁,疎林下などに生える.神奈川県以南の本州南部(神奈川県以南伊豆半島,紀伊半島),四国(南西端),九州南部,琉球に分布する.伊豆諸島には少なくないが,本県では1991年1月,小田原市の一部で田中一雄により1株発見されているだけで,これは本種の北限に当たる.

その他の文献: 田中(1991): 9; 田中(1992): 96,102+写真3.

 

ニシノコハチジョウシダ(コハチジョウシダ) Pteris kiuschiuensis Hieron.

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(En). 原因: 不明.

暖帯性の常緑多年草.山地の林下に生える.神奈川県以南の本州(伊豆半島,紀伊半島など),四国南東部,九州南部に分布する.本県では,1993年11月に田中一雄により箱根外輪山東麓で1株発見されているだけである.これは本種の北限に当たる.

その他の文献: 田中(1994): 10-11.

 

コハチジョウシダ(ハチジョウシダモドキ) Pteris oshimensis Hieron.

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(V). 原因: 不明.

暖帯~亜熱帯性の常緑多年草.山地の林下に生える.本州(神奈川県以南,千葉県以西),四国,九州,奄美大島に分布する.本県では箱根の東部山麓,小田原市風祭の林中で飯田和らによって1958年1月16日に1株が発見されたが,それから約30年を経過した1987年に同地域で田中一雄が再発見し,60株以上はあったと報告した.産地は概ね同一地域に属し,県下では分布のかなり稀なシダと言える.北限産地.

文献: 神植誌1958: 9 小田原(風祭 朝倉・飯田1957)稀; 神植誌1988 0D-2.

その他の文献: 朝倉・飯田(1957); 大谷(1966): 50; 倉田・中池編(1979): 245; 田中(1987b): 7-8; FK(27): 254; FK(32): 352; 田中(1992a): 102-103; 田中(1993); 飯田(1988): 3-4.

標本: FLK-51774 OD-2 風祭 1987.02.22 田中一雄; YCM-22636 OD-1 風祭 1991.11.23 山本明.

 

ナチシダ Pteris wallichiana Ag.

総合評価: Ex-A. 地域評価: 箱根(Ex). 原因: 不明.

主に暖帯~亜熱帯性の多年草.山地の湿潤な林下に生育する.暖地では常緑性を示すが,北限付近では冬に枯れる.本州(千葉県以西,福井県以南),四国南部,九州,琉球に分布する.本県では湯河原町の奥湯河原や広河原が産地として知られるが,近年の生育状況は全く不明である.

文献: 神植誌1958: 9 伊豆山(静岡); 神植誌1988 +YU-1;+YU-2;飯田和1959 奥湯河原の記録.

その他の文献: 大谷(1960): 28“湯河原と泉の境(飯田和1958.11.12)”-静岡県側?; 大谷(1966): 50; 倉田・中池編(1979): 267.

 

ハマホラシノブ Sphenomeris biflora (Kaulf.) Tagawa

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(En) 三浦(En) 箱根(V). 原因: 海岸開発; 土地造成; 道路工事; 自然遷移; その他(崩壊,標本採取).

暖帯~亜熱帯性の常緑多年草.海岸付近の飛沫の影響を受けるような岩壁に生えることが多い.本州(茨城県日立市以南の太平洋沿岸),伊豆諸島,四国,九州,琉球,小笠原に分布する.本県では横浜市の本牧,三浦半島,真鶴半島に少数の記録が見られるだけで比較的稀な部類に属する.1950年頃より気づかれた本牧の自生地は,数十年来の埋め立ての進行によって海の飛沫と無縁と言えるほど海岸線から遠ざけられてしまったが,1993年3月,まだ現存することが確かめられた(山本,1993).その他の産地でも近年,生育が再確認されている.

文献: 神植目1933: 109 真鶴; 神植誌1958: 9-10 真鶴(松浦茂寿1940・飯田和1956); 神植誌1988 NAK;MAN;MIU.

その他の文献: 増島・石渡(1950): 20; 倉田(1953): 12; Ohtani(1956): 23; 宮代(1958): 97; 松浦(1958): 6; 大谷(1966): 50; 大谷(1973); 大谷(1974): 7-10; 大谷(1976c): 15; 倉田・中池編(1979): 283; 山内(1989): 10; 山本(1993): 3,7.

 

ミズワラビ科 PARKERIACEAE

ミズワラビ Ceratopteris thalictroides (L.) Brongn.

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(En) 湘南(En) 西湘(V) 三浦(En). 原因: 池沼開発; 土地造成(水田の埋め立て).

暖帯~亜熱帯性の夏型一年草.低標高地の湿地や水中に生える.沈水生または抽水生であるが,夏~秋の刈り取り後の田圃で気づくことが多い.本州(新潟県・茨城県水戸市以南),四国,九州,琉球に分布する.その分布には,秋に胞子が散布されてから翌夏に胞子体が生ずるまでの滞留条件が大きく影響しているとみられている(下瀬川,1983a; 1983b; 1991).本県では湘南や横浜市の鶴見川流域,小田原などの水田地帯でやや稀に見つかる程度で,もともと少なかったようであるが,埋め立ての影響も見逃せない.

文献: 神植目1933: 107 横浜・登戸・都筑・小田原; 神植誌1958: 10 小田原(富水)稀; 神植誌1988 MI-1; MIU; FU-2;CH-1; ISE-2; ISE-3;OI.

その他の文献: 帝國女子醫學藥學専門學校學友會(1932): 61; 奥山(1948a): 30; 宮代(1958): 96; 松浦(1958): 7; 大谷(1966): 51; 出口(1966): 10; 出口(1968): 69; 倉田・中池編(1979): 309; 下瀬川(1983a);下瀬川(1983b); 平塚市博物館(1987): 23; 平塚市博物館(1990): 9-10; FK(30): 321; 下瀬川(1991); 宮本・ほか(1991): 2; 多摩丘陵植物調査会(1994): 32.

 

キジノオシダ科 PLAGIOGYRIACEAE

オオキジノオ Plagiogyria euphlebia (Kunze) Mett.

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(En) 西湘(V) 三浦(Ex) 箱根(S). 原因: 森林伐採; その他(標本採取).

暖帯性の常緑多年草.やや乾き気味の林下に生える.本州(新潟県以南,関東地方以西),四国,九州,奄美大島に分布する.本県では湯河原・真鶴・小田原方面に散在し,横浜,三浦にも知られるが,東半部の地域では稀である.

文献: 神植誌1958: 10 小田原(入生田)・真鶴・湯河原・泉(静岡)・横浜(根岸 久内清孝1916) 神植誌1988 AS;ISE-1;MIA-2;OD-2;OD-4;YU-1;YU-2.

その他の文献: 奥山(1948b): 55; 松浦(1958): 1; 大谷(1961a): 32,36+Fig.1; 大谷(1961b): 41,43; 大谷(1966): 51; 出口(1968): 28,65+写真; 大谷(1968): 24; 大谷(1976c): 15; 大谷(1978):2; 倉田・中池編(1979): 325; 大谷(1980): 2; 逗子市(1987): 352; 平塚市博物館(1987): 24; 平塚市博物館(1990): 10; 岡(1990); 田中(1992a): 96; 山本(1993); 小崎(1993a): 23-24; 多摩丘陵植物調査会(1994): 24.

 

キジノオシダ Plagiogyria japonica Nakai

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(En) 西湘(V) 三浦(En) 丹沢(En) 箱根(S). 原因: 森林伐採; その他(標本採取).

暖帯の林下に生える常緑多年草.本州(山形県以南),四国,九州,奄美大島に分布する.前種と同様,本県では湯河原・小田原方面を中心に散生し,それ以外の西湘,三浦,多摩丘陵などの地域では稀である.丹沢山塊の一角の松田町虫沢にもあるという(長谷川私信).三浦半島ではオオキジノオよりも珍しいという(大谷,1976c).

文献: 神植誌1958: 10 入生田・湯河原・泉(静岡); 神植誌1988 MI-1;ZU;MIA-3;NAI;HAK-5;OD-4;YU-1;YU-2.

その他の文献: 寺本(1948); 松浦(1958): 1; 大谷(1966): 51; 大谷(1976c): 16; 倉田・中池編(1979): 337; 平塚市博物館(1987): 24; 田中(1988): 48; FK(27): 254; 平塚市博物館(1990): 10; FK(32): 352; FK(33): 364; 田中(1992a): 96; 小崎(1993a): 18; 多摩丘陵植物調査会(1994): 25.

 

ヤマソテツ Plagiogyria matsumureana (Makino) Makino

総合評価: Ex-A. 地域評価: 丹沢(Ex). 原因: 不明.

温帯~亜寒帯性の夏緑の多年草.山地の林床に生育する.北海道,本州,四国,九州(鹿児島県屋久島)に分布し,本県では極めて稀で,丹沢の塔ケ岳(石渡宏1959.7.29YCM)で記録されているだけである(大谷,1966).現状不明.

その他の文献: 大谷(1966): 51; 中池(1992): 799.

 

オシダ科 ASPIDIACEAE

ウスヒメワラビ Acystopteris japonica (Luerss.) Nakai

総合評価: Ex-A. 地域評価: 丹沢(Ex). 原因: その他(標本採取); 不明.

比較的暖かな地方の山地林下に生える夏緑の多年草.東北地方南部の本州,四国,九州,屋久島にかけて分布する.本県では丹沢山塊の姫次~蛭ケ岳に確実な記録があり,その他では神植誌1958に箱根の名が見られるが,こちらは出典に疑問を残す.いずれの産地も,1960年頃より後では情報が全く得られておらず,県下の現状は不明である.

文献: 神植目1933: 108 塔ケ岳; 神植誌1958: 19 塔ケ岳; 神植誌1988 +YA-3.

その他の文献: 奥山(1948b): 54; 松浦(1952); 宮代(1958): 99; 林・ほか(1961): 24,48; 西田・ほか(1964); 大谷(1967a): 58.

標本: YCM-6988 TS-2 姫次 1959.08.10 大谷茂.

 

オトコシダ Arachniodes assamica (Kuhn) Ohwi

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(En). 原因: 不明.

暖帯性の常緑多年草.低山の林下に生える.分布は,伊豆半島以西の本州(紀伊半島,山口県など),四国,九州に知られていたが,1992年5月,田中一雄により南足柄市でも1株発見され,これが北限となった.葉長は約30cm.県下における記録はこれだけであり,同一株からの過度の標本採取による萎縮・衰退を防止する点から,地域名だけを明らかにしておく.田中(1993)には1993年12月現在,順調に成長していることが記されている.

その他の文献: 田中(1992b); 田中(1993).

 

シノブカグマ Arachniodes mutica (Franch. et Sav.) Ohwi

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(En) 丹沢(En) 箱根(En). 原因: 森林伐採; その他(標本採取).

温帯~亜高山帯の山地林下に生える常緑多年草であるが,極く稀に暖帯上部の低標高地でも見出される.北海道,本州,四国,屋久島に分布する.本県では全般に稀で,箱根や丹沢の山地に点在することが知られるが,神植誌1988出版後,秦野市大倉(山口育子1988)や多摩丘陵の横浜市緑区(山田文雄1994)でもそれぞれ1株発見された.緑区産は小株であるが,1985年2月11日現在,健在である.

文献: 神植目1933: 109 丹沢山・箱根・塔ケ岳; 神植誌1958: 18 丹沢・箱根; 神植誌1988 +YA-3;+HAK-5;+HAK-6;HAT-3.

その他の文献: 神奈川懸植物調査會編(1913): 150; 奥山(1948d): 132; 倉田(1953): 13; 宮代(1958): 101; 松浦(1958): 6; 林・ほか(1961): 13,24,47; 倉田(1962b): 33-34:大谷(1967a): 60; FK(27): 251; 平塚市博物館(1990): 10-11; FK(38): 410; 多摩丘陵植物調査会(1994): 50,68.

標本: FLK-105995 MI-1 新治町 1994.06.24 山田文雄; YCM-8112 TS-1 蛭ケ岳 1960.11.04 大谷茂; HCM-38101 HAT-4 大倉 1988.04.14 山口育子;東京薬科大学所蔵 神山 1931.6 採者不明; 東京薬科大学所蔵 強羅 1932.10.20 K.H.

 

ミドリカナワラビ Arachniodes nipponica (Rosenst.) Ohwi

総合評価: V-H. 地域評価: 丹沢(En) 箱根(V). 原因: 森林伐採; その他(標本採取).

暖温帯の中部辺りに本拠のある常緑多年草.主に山地の林下に生える.本州(千葉県北東部以南),四国,九州に分布する.伊豆半島では比較的ふつうに見られるところもあるが,本県では箱根山麓寄り,奥湯河原,小田原,西丹沢に散在する程度である.

文献: 神植誌1958: 18 箱根(畑宿1951)・奥湯河原(田代・ほか1957); 神植誌1988 YA-5;YA-6;HAK-5;YU-1;OD-2;+MIA-2.

その他の文献: 倉田(1954a): 64-65; 松浦(1958): 6;大谷(1960): 29; 林・ほか(1961): 47; 倉田(1962b): 33; 大谷(1967a): 60; 倉田(1975): 18; 倉田・中池編(1979): 393; 平塚市博物館(1980): 27; 谷城(1988a): 3-4; 田中(1992a): 96-97+写真4.

 

サトメシダ Athyrium deltoidofrons Makino

総合評価: V-G. 地域評価: 箱根(V). 原因: 湿地開発; ゴルフ場; 土地造成.

温帯を中心に暖帯上部にかけての比較的明るい湿性草原の縁,小川の縁,林縁付近,疎林下に生える夏緑の多年草.北海道,本州,四国,九州に分布する.本県では箱根地域にやや稀に生育し,丹沢にも記録がある.品種レベルで区別されることのあるトガリバメシダ f. acutissimum (Kodama) Kurataも箱根(久内清孝1933)で記録されている.

文献: 神植目1933: 107 箱根; 神植誌1958: 11 箱根(芦ノ湯 大谷茂1932); 神植誌1988 HAK-5;+HAK-1;+HAK-4.

その他の文献: 神奈川懸植物調査會編(1913): 150; 奥山(1948d): 132; 宮代(1958): 99; 松浦(1958): 2; 林・ほか(1961): 24,48; 大谷(1967a): 62; 大谷(1976c): 17-18; 平塚市博物館(1980): 28; FK(30): 321; 田中(1992a): 97.トガリバメシダ:神植誌1958: 11; 大谷(1967a): 62;

 

ミヤコイヌワラビ Athyrium frangulum Tagawa

総合評価: Ex-A. 地域評価: 箱根(Ex). 原因: 不明.

暖地性の夏緑の多年草.山地林下の多湿な場所に生える.本州(関東地方以南西),四国,九州に分布する.本県では奥湯河原産の標本が残されているほか,早川上流の箱根小塚山に記録がある.しかし,いずれも1960年頃以降の生育状況は不明である.品種レベルで区別されることのあるダンドイヌワラビも同じ地域で記録されている.大谷(1967a)のFig.8には田代信二が奥湯河原白銀山で撮影した本品種の写真(1961.6.4)が出ている.

文献: 神植誌1958: 11 奥湯河原(田代・ほか1957); 神植誌1988 +YU-1.

その他の文献: 大谷(1967a): 62. ダンドイヌワラビ:神植誌1958: 11; 大谷(1967a): 62+Fig.8;

標本: ミヤコイヌワラビ KPM-3799 YU-1 奥湯河原 1959.02.01 西尾和子.

 

トガリバイヌワラビ Athyrium iseanum Rosenst. f. angustisectum (Tagawa) Kurata

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(En). 原因: 不明.

暖帯性の夏緑の多年草.基準品種のホソバイヌワラビと比べると,小羽片の切れ込みが深くなって裂片どうしがやや離れ,その先端が、芒状に尖ってくる形のものをいうが,中間的な形もあるという.分布域は基準品種(本州<東北地方南部以西>,四国,九州)とほぼ同じとされる(中池<1982>: 283-284).分類上の問題を残すが,本県産としては田中(1992b)の南足柄市の報告が初めてと思われ,分布量は稀と考えられるので取り上げておく.

文献: 南足柄市矢倉沢(田中一雄1992.7.11、1群)-田中(1992b): 9; 箱根‘禁伐森’-田中(1992b): 9.

 

イワイヌワラビ Athyrium nikkoense Makino

総合評価: Ex-A. 地域評価: 箱根(Ex). 原因: 不明.

温帯性の夏緑多年草.山地林中の岩壁上に生える.北海道,本州(中部地方以北)に分布する.本県では箱根台ケ岳(城川四郎1965.10.11YCM)の記録があるが,それ以後の消息についてはまったく不明である.採集品の葉長は約20cm.

文献: 神植誌1988 +HAK-1.

その他の文献: 大谷(1968a): 78-79; 大谷(1976c): 18.

標本: KPM-11672 HAK-4 駒ケ岳 1964.05.31 大場達之; YCM-7088 HAK-1 台ケ岳 1956.10.11 城川四郎.

 

タニイヌワラビ Athyrium otophorum (Miq.) Koidz.

総合評価: En-E. 地域評価: 三浦(Ex) 箱根(V). 原因: 森林伐採; その他(標本採取).

暖地性の常緑多年草.比較的湿り気の多い林下に生える.本州(山形県以南,千葉県下総台地以西),四国,九州に分布する.本県では湯河原や箱根の山麓部,三浦半島の逗子・葉山などに少数の記録が見られるだけである.

文献: 神植誌1958: 11 三浦(長柄1953. 逗子桜山1957)・奥湯河原(1948) 稀 神植誌1988 MIA-1;HAK-5;YU-1

その他の文献: 倉田(1953): 16; Ohtani(1956): 16-17,24+Fig.1; 大谷(1957): 6,10; 松浦(1958): 2; 倉田(1961b): 11; 大谷(1967a): 64; 谷城(1988b): 8; 倉田・中池編(1989): 559; 山本・大森(1991): 85-86,91.

標本: FLK-52574 MIA-1 関場 1986.07.19 田中一雄; FLK-52575 HAK-5 須雲川 1985.12.31 守矢淳一; FLK-52576 YU-1 広河原 1986.05.24 田中一雄; KPM-4031 YU-1 奥湯河原 1957.11.10 西尾和子; YCM-7096 YU-1 湯河原 1958.08.04 飯田和; YCM-7095 HAY 長柄 1953.05.07 山崎弘行.

 

ルリデライヌワラビ Athyrium wardii (Hook.) Makino var. inadae Tagawa

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(En). 原因: 不明.

暖帯の山地林下に生える夏緑の多年草.本州(中部地方以西),四国,九州に分布する.中池(1982)はヒロハイヌワラビと中間型で連絡するようであると述べているが,区別可能との見解に立てば,1994年に田中一雄が発見した箱根地域のものが県新産となる.なお,この記録は同氏からの私信(1995.1)によるもので,詳細は近く報告されるはずである.

その他の文献: 中池(1982): 313.

 

イッポンワラビ Cornopteris crenulatoserrulata (Makino) Nakai

総合評価: Ex-B. 地域評価: 丹沢(Ex)箱根(Ex). 原因: 不明.

温帯~亜寒帯性の夏緑の多年草.湿り気のある山地林下に生える.北海道,本州(中部地方以北,鳥取県)に分布する.本県では丹沢(塔ケ岳・蛭ケ岳~檜洞丸),箱根,湯河原で記録されているが,1960年頃より後での生育状況は不明である.

文献: 神植目1933: 108 箱根・塔ケ岳・蛭ケ岳; 神植誌1958: 12 箱根(朝倉1953)・丹沢(檜洞丸 田代・ほか1957); 神植誌1988 +YA-3;+HAK-1;+YU-1.

その他の文献: 奥山(1948d): 132; 宮代(1958): 99; 松浦(1958): 2; 林・ほか(1961): 24,49; 西田・ほか(1964): 183; 大谷(1967a): 67; 平塚市博物館(1980): 30.

標本: KPM-35002 YA-3 檜洞丸 1962.07.03 大場達之; KPM-4225 YA-3 石棚 1958.08.19 西尾和子; KPM-4214 MAT 鍋割山 1960.06.05 西尾和子; KPM-4193 YU-1 奥湯河原 1958.08.04 西尾和子.

 

タカオシケチシダ Cornopteris decurrenti-alata (Hook.) Nakai var. pilosella H. Ito

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(En) 箱根(S). 原因: 森林伐採; その他(空中湿度の低下).

暖帯の中~上部辺りに本拠のある夏緑の多年草.湿り気の多い沢沿いの林下などに生える.本州,四国,九州に分布する.和名のついた東京都の高尾山ではやや局所的ながら多産するところがあるが,本県では全体に少ないようで,箱根・小田原・奥湯河原方面における記録が多少目につくほかは,稀なものとなる.シケチシダは県南西部に広く産するが,毛の有無によってそれと区別するのは難しいとする意見もある(岩槻,1992).

文献: 神植誌1988 MI-1(誤);HAK-5;+YU-1;+HO.

その他の文献: 大谷(1967a): 68; FK(28): 279; FK(29): 298; 岩槻(1992): 242; 多摩丘陵植物調査会(1994): 102.

標本: 東京薬科大学所蔵 足柄下郡真鶴岬 1934.06.10 採者不明.

 

メヤブソテツ Cyrtomium caryotideum (Wall. ex Hook. et Grev.) Pr.

総合評価: V-H. 地域評価: 多摩(En) 西湘(S) 丹沢(V) 三浦(En) 箱根(V). 原因: 森林伐採; 土地造成; その他(採取).

暖帯の中~上部辺りに本拠のある常緑多年草.ふつう林下生で,分布量は山地の石灰岩地帯の林下に偏りを見せるが,稀には路傍の石垣などでも見つかる.本州(関東地方,中部地方南東部,紀伊半島),四国,九州に分布する.本県では箱根,丹沢,大山など西半部を中心に広く分布が記録されているが,産量自体は少ないものである.県北西部,中部,および鎌倉付近を除く県東半部の地域では,稀なシダといえる.

文献: 神植目1933: 110 鎌倉・山北; 神植誌1958: 12 三浦・鎌倉・山北・橘町(田代1957)・入生田・風祭 稀; 神植誌1988 各地.

その他の文献: 奥山(1948a): 32; 奥山(1948c): 88; 増島・石渡(1950): 22; Ohtani(1956): 18+Fig.9; 朝倉・飯田(1957); 宮代(1958): 99; 松浦(1958): 3; 倉田(1963b): 26-27; 大谷(1967a): 69; 倉田・中池編(1979): 411; 平塚市博物館(1980): 32; 田中(1984): 8-9; 逗子市(1987): 353; 平塚市博物館(1987): 28; 田中(1988): 39; 平塚市博物館(1990): 12; 大和市動植物総合調査会編(1991): 43,95; 山田(1995).

標本: 東京薬科大学所蔵 鎌倉二階堂付近 1932.01.00,1932.02.25-1点,1932.03.25-4点,1932.06.05-3点,1932.06.12-1点,1932.12.04-2点など 岸田松若; 東京薬科大学所蔵 相州神武寺 1934.11.08 山岸; 東京薬科大学所蔵 長者ケ崎 1936.11.22-6点 採者不明,岸田松若?.

 

ヒロハヤブソテツ Cyrtomium macrophyllum (Makino) Tagawa var. macrophyllum

総合評価: V-G. 地域評価: 丹沢(Ex) 三浦(Ex) 箱根(V). 原因: 森林伐採; 土地造成; その他(標本採取).

暖帯性の常緑多年草.空中湿度の比較的高い山地林下の岩がちの谷側斜面などに生える.本州(新潟県以南,千葉県以西),四国,九州に分布し,北限は佐渡島.本県では静岡県境に近い湯河原・箱根方面が中心で,これ以外では西丹沢の山麓部や鎌倉で記録されているに過ぎない.古くから知られた奥湯河原では今もなお普通に見られるところがあるが,それ以外の地域では稀であり,鎌倉では半世紀以上も確認情報が得られないことから絶滅した可能性が大きい.

文献: 神植目1933: 110 山北; 神植誌1958: 12 道了山・橘町(田代信二1955)・箱根・奥湯河原; 神植誌1988 HAK-5;YU-1;+YA-8;+KA-1;+KA-2.

その他の文献: 神奈川懸植物調査會編(1913): 150; 牧野(1938); 増島・石渡(1950): 22; 倉田(1953): 14; Ohtani(1956): 23; 宮代(1958): 99; 松浦(1958): 3; 倉田(1963): 28; 大谷(1967a): 71; 大谷(1976c): 19-20; 倉田・中池編(1979): 421; 平塚市博物館(1980): 32.

 

ツクシヤブソテツ Cyrtomium macrophyllum (Makino) Tagawa var. tukusicola (Tagawa) Tagawa

総合評価: En-D. 地域評価: 丹沢(En). 原因: 不明.

暖帯性の常緑多年草.空中湿度の比較的高い山地の林下に生える.本州(長野県以南),四国,九州に分布する.本県では丹沢地域の伊勢原市大山(中池敏之1983),松田町寄(田中一雄1984)に記録があるが,詳しい状況は分からない.分類学的な検討も必要な種類である.

その他の文献: 倉田・中池編(1987): 631.

 

ヒカゲワラビ Diplazium chinense (Bak.) C. Chr.

総合評価: V-G. 地域評価: 西湘(V) 三浦(En) 箱根(V). 原因: 森林伐採.

その他(乾燥化,台風による土砂崩れなど)

暖帯のやや陰湿な林下に生える半常緑~夏緑の多年草.本州(宮城県金華山島以南),四国,九州,奄美諸島に分布する.本県では奥湯河原,箱根の山腹,大井・大磯などの西湘地域,三浦半島などにやや稀に生育する.

文献: 神植誌1958: 13 三浦(二子山 山田友久1953)・大磯(生沢 田代1956); 神植誌1988 OI;OIS;HAK-5;YU-1;+ZU.

その他の文献: Ohtani(1956): 17,24+Fig.4; 大谷(1968a): 62-63+Fig.3; 木村(1973): 31; 倉田・中池編(1983): 85; 谷城・村田(1987): 8; 平塚市博物館(1987): 30; 田中(1988): 32,39+写真13; 平塚市博物館(1990): 12-13.

 

ミヤマノコギリシダ Diplazium fauriei Christ

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(V). 原因: 不明.

暖帯~亜熱帯性の常緑多年草.山地の林下に生える.本州(新潟県・千葉県市原市以南),伊豆諸島,四国,九州,琉球に分布する.本県では1985年12月,田中一雄が南足柄市で1カ所発見した.田中(1986a)は5~6株あり増えつつあるようだと記している.なお,神奈川県以東の記録としては,倉俣(1993)が報告した千葉県市原市産が知られるだけである.

文献: 神植誌1988 MIA-3.

その他の文献: 田中(1986a): 10-11; 倉俣(1993): 18.

 

シロヤマシダ Diplazium hachijoense Nakai

総合評価: En-E. 地域評価: 西湘(V) 三浦(En) 箱根(V). 原因: 不明.

暖帯~亜熱帯性の常緑多年草.山地の湿り気の多い林下に生える.本州(北陸,関東地方南部以南西),伊豆諸島,四国,九州,琉球に分布する.本県では箱根山麓部の南足柄市2カ所,小田原市,三浦半島の逗子市の計4カ所が知られるだけで,稀である.1986年2月に青木清勝により発見された逗子市二子山周辺産は生育状況もよく,小群落をなしている.

文献: 神植誌1988 ZU;OD-3;MIA-3;+OD-2;+MIA-2.

その他の文献: 倉田・中池編(1983): 129; 田中(1987a); 青木(1988);青木(1990b): 10.

 

オニヒカゲワラビ Diplazium nipponicum Tagawa

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(En) 三浦(En) 箱根(V). 原因: 不明.

比較的温暖な地方のやや陰湿な山地林下に生える多年草.一般に常緑性であるが,分布域の北の方では夏緑になる.本州(秋田県・岩手県以南),四国,九州に分布する.本県では稀で,湯河原町や津久井,鎌倉などに自生の記録が見られる程度である.

文献: 神植誌1988 YU-1;+SH.

その他の文献: 大谷(1968a): 63; 大谷(1969a):78(アマギイノデの説明中); 大谷(1976c): 20; 倉田・中池編(1983): 149; 宮崎(1991): 8; 多摩丘陵植物調査会(1994): 113.

標本: TAM 川崎市多摩区桝形(やや人工的な環境に1株) 1991.07.28 宮崎卓・北川淑子・小崎昭則.

 

コクモウクジャク Diplazium virescens Kunze

総合評価: En-D. 地域評価: 三浦(En) 箱根(En) 原因: 不明.

暖帯性~亜熱帯性の常緑多年草.山地の林下に生える.本州(三浦半島,伊豆半島,東海地方,紀伊半島),四国南西部,九州,琉球に分布する.本県では三浦半島の逗子市桜山において1990年2月17日,青木清勝により1株が発見されたのが初めてである.またごく最近,田中一雄も南足柄市で見出したという.詳しい内容は近く報告されるものと思われるが,こちらが北限になるらしい(1995.2.13私信).

その他の文献: 青木(1990a); FK(33): 364.

標本: FLK-103400 ZU 桜山 1990.02.17 青木清勝.

 

ハチジョウベニシダ Dryopteris caudipinna Nakai

総合評価: V-G. 地域評価: 三浦(V). 原因: 産地局限.

暖帯性の常緑多年草.沿海地方の山地林下に生える.本州(三浦半島・伊豆半島・山口県・島根半島),伊豆諸島,九州霧島山麓など,ベニシダと比べるとずっと限られた地域で分布が確認されているだけである.本県でも逗子市神武寺の一部の谷で確認されているだけであるが,そこでの個体数は少なくない.外形だけでベニシダと区別するのは難しい.

文献: 神植誌1988 ZU.

その他の文献: 三浦半島、神武寺(記録標本なし)-増島・石渡(1950): 21; 宮本(1990); 山本・大森(1991): 86-87.

 

ツクシイワヘゴ Dryopteris commixta Tagawa

総合評価: Ex-A. 地域評価: 箱根(Ex). 原因: 不明.

暖帯性の常緑多年草.山地林下のやや湿った場所に生育する.本州(山形県以南,千葉県以西),四国,九州に分布する.本県の記録としては,牧野富太郎が相模箱根で採集したという標本(MAK 伊藤洋同定No.8390)が残されているようである.

その他の文献: 伊藤(1977); 中池(1992): 404,808.

 

ナチクジャク Dryopteris decipiens (Hook.) O.Kuntze var. decipiens

総合評価: Ex-A. 地域評価: 多摩(Ex). 原因: その他(崖崩れ,標本採取).

暖帯のやや乾き気味の林下や林縁に生える常緑多年草.本州(東京都・福井県以南),四国,九州に分布する.本県では,1952年に出口長男が発見した横浜市の上川井(現在の緑区三保町とみられる)が唯一の産地であるが,出口(1966)によれば,1954年頃の確認を最後に,自生地は崖崩れで埋没・消滅し,培養保存していた株も弱って新芽を出さなくなったという.そのため,多摩丘陵では長らく絶滅したものと考えられていたが,1992年,東京都側の稲城市で宮崎卓が1株の自生を確認し,写真を添えて報告(宮崎,1992)した.この証拠標本(宮崎卓 1992.9.5 宮崎No.999)はMAKに収められたはずである.

文献: 神植誌1958: 14 横浜(出口長男1953)稀; 神植誌1988 *AS(誤)→MI-1(絶滅).

その他の文献: 出口(1953): 19; 出口(1966): 6; 出口(1968): 30,62+写真; 大谷(1968a): 66; 西田(1971); 倉田・中池編(1979): 441; 宮崎(1992); 多摩丘陵植物調査会(1994): 82.

標本: KPM-75771 MI-1 上川井 1958.07.21 出口長男.

 

イヌナチクジャク Dryopteris decipiens (Hook.) O.Kuntze var. diplazioides (Christ) Ching

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(En). 原因: 不明.

暖帯のやや乾き気味の林下などに生える常緑多年草.葉身の形態は,ナチクジャクが少しマルバベニシダに近づいたような姿になる.分布は中部地方以西の本州,四国,九州に知られていたが,1992年6月14日,田中一雄により南足柄市塚原で1株発見された.県新産で,本種の東限産地にも当たるとみられる.なお,‘本分類群‘を変種レベルで区別せず,ナチクジャクに含める意見もある(田川,1949).

その他の文献: 田中(1992b).

 

ワカナシダ Dryopteris kuratae Nakaike nom. nud.

総合評価: En-D. 地域評価: 多摩(En) 箱根(En). 原因: その他(林床の水分減少,踏みつけ).

暖帯性の常緑多年草.主に山地の多湿の林床にやや稀に生える.本州(群馬県以南),四国,九州に分布する.本県では横浜市緑区三保町(岡武利1979.6.3YCM、県新産)と湯河原町広河原(田中一雄1982)で1カ所ずつ発見されているだけで,極めて稀である.緑区には1994年現在,発見当時の1株が現存する.岡(1990)によれば,1979年5月に1株を発見し,1982年8月には小株もすぐ横に見られたそうであるが,踏まれたりしたのか,その小株は現在見当たらない.同氏は,胞子繁殖を試みられ,多数の幼苗を得ることに成功しているが,現地では新たな子株を見出せない.

その他の文献: 大谷(1980): 4; 倉田・中池編(1985): 481; 岡(1990); 多摩丘陵植物調査会(1994): 73.

 

イヌイワイタチシダ Dryopteris saxifragi-varia Nakai

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(En). 原因: 森林伐採; 不明.

暖温帯の低山地~丘陵地の林下に生える常緑多年草.東北地方から関東地方にかけて分布することが知られるが,イワイタチシダとして誤認されたり,見過ごされたりしており,関東南部での詳しい状況は掴めていない.最近の東京都八王子市(多摩丘陵)での確認をきっかけに,本県側でも調査を始めたところ,横浜市緑区と旭区で計5株が見出された.ただし,この方面における分布量はかなり限られている(県下の評価は暫定的なもの).種生物学的研究の対象として,また地域史の解明とのからみで,非常に興味深い分類群の一つといえる.

その他の文献: 中池(1992): 811; 酒井・ほか(1994); 多摩丘陵植物調査会(1994): 86-87標本: MI-1 横浜市緑区三保町2カ所 1993.11.24および1994.01.02、各1株 小崎昭則; AS 横浜市旭区上白根町 1994.12.23 計3株 岡武利・小崎昭則・堀内洋(この産地のものは以前より岡氏が注意されていた由).

 

ナガサキシダ Dryopteris sieboldii (van Houtte ex Mett.) O. Kuntze

総合評価: En-E. 地域評価: 箱根(En) 丹沢(En). 原因: その他(標本採取); 不明.

暖帯性の常緑多年草.山地の湿り気の多い林下に生える.本州(新潟県以南),四国,九州に分布する.本県では箱根山麓部に当たる湯河原町と小田原市の数カ所と松田町で僅かな個体が記録されているだけで,稀な部類に入る.

文献: 神植誌1988 OD-1;YU-1.

その他の文献: 大谷(1960): 28“湯河原-泉の境(陣野一郎1958.03.12)”静岡県側?; 大谷(1968a): 74; 倉田・中池編(1979): 487; FK(27): 255; 田中(1992a): 99+写真6; 谷城(1988a): 3; 中池(1992): 446; 倉俣(1993).

 

ナガバノイタチシダ Dryopteris sparsa (Ham. ex Don) O. Kuntze

総合評価: V-G. 地域評価: 西湘(V) 丹沢(V) 三浦(V). 原因: 森林伐採; 不明.

亜熱帯~暖帯性の常緑多年草.一般には林下生であるが,暖地では林縁にもしばしば見られる.本州(千葉県下総台地以南西),四国,九州,琉球(やや稀)に分布する.本県では箱根山麓部や西湘地域,三浦半島に稀に生育する.小田原市では最近,田中一雄により100株ほどの県下最大の群生地が発見された.逗子市にも20株ほどの小群生地がある.

文献: 神植誌1958: 15 三浦(二子山 大谷茂1956)稀; 神植誌1988 MAT;OD-2;MAT;OIS;ZU.

その他の文献: 根本(1945); 奥山(1948a): 32; 増島・石渡(1950): 21; 倉田(1951): 16-17; 倉田(1953): 11; Ohtani(1956): 23; 大谷(1957): 5,9+Fig.3; 林・ほか(1961): 47; 西田・ほか(1962); 大谷(1968a): 75; 平塚市博物館(1987): 34; 逗子市(1987): 354; 田中(1988): 31-32,40,49+写真23; 平塚市博物館(1990): 14; 青木(1990a); 青木(1990b): 11; FK(33): 364; 田中(1992a): 99+写真5; 飯田(1990): 5.

 

タニヘゴ Dryopteris tokyoensis (Matsum. ex Makino) C. Chr.

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(Ex) 三浦(Ex) 箱根(V). 原因: 森林伐採; 湿地開発; 草地開発; ゴルフ場; 土地造成; その他(採取).

温帯域を中心に暖帯上部にかけての湿原やその周辺,沢筋の湿った林縁・疎林下などに生える夏緑の多年草.北海道から九州(大隅半島南部まで)に分布する.本県では箱根の仙石原に産することが早くから知られ,そこでは今日も小群をつくるなどして生育するが,1株しか見つかっていない三浦半島の葉山町や横浜市緑区では,開発の直接または間接の影響により消滅した.

文献: 神植誌1958: 15 箱根(仙石原); 神植誌1988 MI-1;HAK-1;*HAY.

その他の文献: 松浦(1952)“仙石原より(箱根権現神域へ)移植”; 松浦(1958): 4; 大谷(1968a): 75+Fig.2; 倉田・中池編(1979): 508; 平塚市博物館(1980): 39; 多摩丘陵植物調査会(1994): 75.

 

ナンカイイタチシダ Dryopteris varia (L.) O. Kuntze

総合評価: Ex-A. 地域評価: 西湘(Ex). 原因: 不明.

暖帯~亜熱帯のやや乾き気味の向陽の疎林下,林縁付近などに生える常緑多年草.本州(千葉県南部以南西)~琉球に分布する.本県における確実な記録は小田原市羽根尾に知られるだけであり,現状については不明である.

文献: 神植誌1958: 15 橘町(羽根尾 田代信二1957); 神植誌1988 *OD-3.

その他の文献: 宮代(1958): 100(本学名が見られるが,実体は別の近縁分類群と考えられる); 松浦(1958): 4; 大谷(1968a): 76; 倉田・中池編(1979): 515.

標本: KPM-4583 OD-3 橘町 1958.11.07 西尾和子.

 

ムクゲシケシダ Deparia kiusiana (Koidz.) M. Kato; Lunathyrium lasiopteris var. kiusianum (Koidz.) Nakaike

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(Ex)三浦(En)丹沢(En). 原因: 森林伐採; 踏みつけ; 不明.

暖帯性の夏緑の多年草.湿り気のある斜面下部の林床に生えることが多いといわれる.本州(山形県以南,関東地方以西.中国地方を除く),四国,九州に分布する.本県では横浜市緑区(県新産),逗子市,松田町,南足柄町などで記録されているが,稀である.県新産の記録は丹沢(札掛~諸戸-村瀬信義1957.8.4)にも見られるが,証拠標本が不明で実体が分からない.多摩丘陵で唯一の緑区産については,最近,関係者で自生地付近の精査を行っているが,再確認には至っていない.

文献: 神植誌1988 MAT.

その他の文献: 大谷(1969a): 69; 大谷(1980): 3; 田中(1988): 48; 倉田・中池編(1989): 783; FK(27): 255(後に訂正); 岡(1990); 青木(1990b): 11; 多摩丘陵植物調査会(1994): 105.

 

ミドリワラビ Deparia viridifrons (Makino) M. Kato; Lunathyrium viridifrons (Makino) Kurata

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(V). 原因: 不明.

暖帯上部~温帯下部辺りに本拠のある夏緑の多年草.山麓付近の湿り気のある斜面林下に生える.日本海側を除く本州,四国,九州に分布する.本県ではかなり稀で,湯河原や箱根に僅かな採集例が見られる程度である.近隣地域でも稀であるが,東京都奥多摩町のシダ関係者の間で知られた鳩ノ巣付近の自生地は近年,上部斜面一帯で造成工事が行われ,消滅した.

文献: 神植誌1988 YU-1;*HAK-1.

その他の文献: 大谷(1960): 28; 林・ほか(1961); 大谷(1969a): 72.

標本: FLK-54541 YU-1 天照山 1985.05.05 田中一雄; YCM-7104 HAK-1 台ケ岳 1958.08.12 大谷茂.

 

ホウノカワシダ Nothoperanema shikokiana (Makino) Ching; Dryopteris shikokiana (Makino) C. Chr.

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(V). 原因: 不明.

暖帯の陰湿な林下に生える常緑多年草.本州(伊豆半島・紀伊半島・福井県<北限>・山口県),四国,九州に分布することが知られていたが,1986年12月6日,志澤光朗により箱根の噴気孔でも発見された.東限,太平洋側の北限に当たる.志澤(1990a)によれば,1990年時点で300近い株が生育し,大部分は葉長10cm以下のものであったが,最大では長さ60cmに達し,30cm以上のものだけでも約30株見られたという.また,飯田(1990)は標高約1200m,洞窟内温15℃(1987.10.10),長さ70cmにも及ぶ葉が見られたことを報告している.志澤氏によれば,生育地は山頂付近のため,今も健在であろうとのことであった(1994.12.21,電話で確認).

文献: 神植誌1988 HAK-4(志澤光朗1986).

その他の文献: 志澤(1990a); 飯田(1990): 5-6.

標本: FLK-55598 HAK-4 神山 1987.06.01 守矢淳一.

 

ホソイノデ Polystichum braunii (Spenn.) Fee

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(En). 原因: 不明.

温帯~亜高山帯性の夏緑の多年草.北海道,本州に分布する.関東地方における分布はほぼすべてが北関東西部の山地で,平野部に近い丘陵部など(狭山丘陵,八王子市浅川町の南高尾,茨城県高萩市)では極めて稀に記録される程度である.本県ではこれまで知られていなかったが,最近,南足柄市において細倉哲穂が1株を発見した.この株については同氏の案内で田中一雄も確認している(1992.9.27).

その他の文献: 田中(1992b): 9.

 

ヤシャイノデ Polystichum neolobatum Nakai

総合評価: En-D. 地域評価: 丹沢(En). 原因: 森林伐採; 園芸採取; 産地局限; その他(採取,森林荒廃).

中国大陸と本州(神奈川県・山梨県・長野県)に隔離分布する,暖帯上部付近が本拠とみられる常緑多年草.山地の渓谷沿い斜面の林縁付近などに生える.本県では1958年8月18日に田代信二・飯田和・西尾和子により西丹沢で初めて発見され,信州遠山川上流に次ぐわが国第2の産地として,“シダ界”で一大ニュースとなった.その後,西丹沢では数カ所から見出されたが,過度の標本採取や園芸用採取の影響もあって,急速に減少したようである.飯田(1990)は1987年10月に志澤光朗・松岡輝宏と本種の生育地を訪れた際,幼苗を数十株確認したが,1988年7月,箱根の園芸店で西丹沢産ヤシャイノデのラベルのついた展示物を見て不吉な予感がしたため,再度生育地に赴いたところ,踏み荒らされた跡が痛々しく,ヤシャイノデは1片すら探し出すことができなかった旨,報告している.

文献: 神植誌1988 YA-5.

その他の文献: 田代(1959): 4-5; 大谷(1960): 28; 林・ほか(1961): 26,29,47+pl.8; 倉田(1964): 25,40+Fig.4; 大谷(1969a): 79-80+Fig.8; 大谷(1976c): 27; 大谷(1978): 56; 倉田・中池編(1983): 376-379; 飯田(1990): 1-2.

標本: FLK-54987 YA-5 西沢 1984.10.28 高橋秀男; KPM-5431 YA-6 箒沢 1959.11.23 西尾和子; KPM-5623 YA-5 大滝沢 1959.11.22 西尾和子.

 

シムライノデ Polystichum shimurae Serizawa

総合評価: Ex-A. 地域評価: 丹沢(Ex). 原因: 不明.

暖帯性の常緑多年草.低山の斜面林床に生育する.本州(関東地方・中部地方)にやや稀に分布する.本県では山北で記録されているだけである(相模山北町 古瀬義 1966.9.27 TOFO 県新産).初めて県下で見出された当時は,新種としてまだ発表されていなかった.その経緯については大谷(1969a)に記されている.現状不明.

文献: 神植誌1988 +YA-5(古瀬義).

その他の文献: 大谷(1969a): 86,88.

標本: TI 相模山北町 1966.09.27 古瀬義.

 

タチヒメワラビ Pseudophegopteris bukoensis (Tagawa) Holttum; Thelypteris bukoensis (Tagawa) Ching

総合評価: Ex-A. 地域評価: 丹沢(Ex). 原因: 不明.

温帯性の夏緑の多年草.山地の林縁や疎林下に見られ,根茎が長く這い,しばしば群生する.本州(中部・関東地方を中心に岩手県・新潟県など),四国(高知県),九州(熊本県)に分布する.本県では,丹沢の高所の一部に僅かな採集例が見られるだけで,1960年頃以降の消息はまったく掴めていない.

文献: 神植誌1958: 16 丹沢(不動の滝 倉田悟1956)稀; 神植誌1988 *YA-3.

その他の文献: 林・ほか(1961): 48; 西田・ほか(1964); 大谷(1970): 46; 倉田・中池編(1983): 517; 中池(1992): 545,816.

標本: KPM-6558 YA-3 不動ノ峰 1958.09.29 西尾和子.

 

イブキシダ Thelypteris esquirolii (Christ) Ching; Pseudocyclosorus esquirolii (Christ) Ching

総合評価: V-G. 地域評価: 西湘(Ex) 相模原(En) 箱根(V). 原因: 森林伐採; 河川開発; 土地造成; 道路工事; その他(標本採取); 不明.

亜熱帯~暖帯性の多年草.渓側,沢沿いなど湿り気の多い山地林下に生える.一般には常緑性を示すが,分布域の北寄りでは冬に葉が枯れる.本州(栃木県以南)から琉球に分布し,本県では西半部の地域でやや稀に見出される.

文献: 神植目1933: 109 箱根; 神植誌1958: 16 入生田(朝倉1953)・風祭・箱根・吉浜(田代・ほか1957); 神植誌1988 ZA;HAK-5;+YU-2;+OD-1.

その他の文献: 神奈川懸植物調査會編(1913): 149; 朝倉・飯田(1957); 宮代(1958): 100; 松浦(1958): 4; 大谷(1970): 52; 中池(1992): 817.

 

メニッコウシダ Thelypteris nipponica (Franch. et Sav.) Ching var. borealis (H.Hara) H.Hara; Parathelypteris nipponica (Franch. et Sav.) Ching var. borealis (H.Hara) Nakaike

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(En). 原因: ゴルフ場; 土地造成; 不明.

温帯性の夏緑の多年草.湿り気のある明るい草原や山地の疎林下,林縁などに生える.ニッコウシダに似て包膜に毛をもたないものをいうが,毛の量にはかなり変化がある(山本,1995).北海道,本州(中部地方以北)に分布し,本県では箱根に確実な記録があるが,現状は不明である.

その他の文献: 倉田・中池編(1983): 641; 中池(1992): 817; 山本(1995).

 

オオバショリマ Thelypteris quelpaertensis (Christ) Ching; Lastrea quelpaertensis (Christ) Copel.

総合評価: Ex-A. 地域評価: 丹沢(Ex). 原因: その他(シカの食害?,標本採取); 不明.

温帯~亜高山帯の山地疎林下や明るい沢沿いの斜面などに生える夏緑の多年草.北海道,本州,四国,屋久島に分布する.本県では丹沢の蛭ケ岳に記録が見られるが,証拠標本の所在,現状については不明である.

その他の文献: 林・ほか(1961): 24‘オオバショウマ’,48; 西田・ほか(1964); 大谷(1970): 50; 中池(1992): 817.

 

チャセンシダ科 ASPLENIACEAE

ヒメイワトラノオ Asplenium capillipes Makino

総合評価: V-G. 地域評価: 丹沢(En)小仏(En)箱根(En). 原因: 森林伐採; 河川開発; 道路工事.

暖帯~温帯性の常緑多年草.山地の湿り気の多い岩壁上に生育し,石灰岩地を好む傾向がある.北海道,本州(関東・中部地方,岡山県),四国(徳島県),九州(熊本県)に分布する.本県では津久井~箱根にかけての西部の山地の渓谷沿いにやや局所的に生育し,分布は稀である.丹沢では石灰岩地とは限らない(大谷,1972).

文献: 神植誌1988 +YA-7;+HAK-4;+KI-2.

その他の文献: 西田・ほか(1964): 178-180+183‘ヒメトラノオ’; 大谷(1972): 23-24+Fig.1,3; 倉田・中池編(1981): 29; 田中(1992b): 9.

標本: FLK-105809 YA-4 早戸川大滝 1993.09.26 酒井藤夫; KPM-28479 YA-3 丹沢山 1962.07.04 大場達之; YCM-8030 札掛タライゴヤ沢 1962.07.03 西田誠.

 

ホウビシダ Asplenium hondoense Murakami et Hatanaka; Hynenasplenium hondoense (Murakami et Hatanaka) Nakaike

総合評価: V-G. 地域評価: 三浦(En) 箱根(V). 原因: 森林伐採; 踏みつけ; その他(森林の荒廃,空中湿度の低下,土砂の崩落,崖崩れ,標本採取).

暖帯性の常緑多年草.山地のおもに沢沿いの林中の陰湿な岩壁や斜面の岩上,稀に地上に生える.本州(石川県以南・千葉県以西),四国,九州(東北部)に分布する.本県では,逗子市神武寺において牧野富太郎が1913年4月6日に採集しているが,この産地はひじょうによく知られるところとなり,その後の度重なる標本採取の影響もあって,減少が進んだようである.その他では小田原市風祭や湯河原に知られるが,近年,三浦市小網代においても青木清勝により2株見出された(山内,1989).

文献: 神植目1933: 107 神武寺; 神植誌1958: 20 三浦(神武寺 牧野富太郎1913)・風祭(飯田1957); 神植誌1988 OD-2;+OD-1;$KA-1;ZU;+YU-1.

その他の文献: 篠崎(1928): 95; 奥山(1948a): 32; 増島・石渡(1950): 23; 刈住(1951); Ohtani(1956): 16; 朝倉・飯田(1957); 宮代(1958): 99; 松浦(1958); 大谷(1972): 26+Fig.2; 平塚市博物館(1980): 50; 倉田・中池編(1981): 221; 逗子市(1987): 357; 田中(1988): 48; 山内(1989):11; 村上(1989); 中池(1992): 820.

 

ヌリトラノオ Asplenium normale Don

総合評価: En-E. 地域評価: 丹沢(Ex) 三浦(En)箱根(Ex). 原因: 森林伐採; 河川開発; 道路工事; 園芸採取; その他(崩壊,標本採取?).

亜熱帯~暖帯性の常緑多年草.山地林中のやや湿り気のある岩上,地上の根もとなどに生える.茨城県御前山村より南西の本州,伊豆諸島,四国,九州,琉球に分布する.本県では,神植目1933に載せられた大山・箱根・塔ケ岳・尊佛山・丹澤山,大谷(1972)の横浜、戸塚(村上司郎1964)などが知られるが,最近では確認情報が乏しく,青木(1989; 1990b)による三浦半島、逗子市二子渓谷(1カ所計5株.証拠標本はTNS?),田中(1992b)の南足柄市2カ所の記録が見られるくらいである.

文献: 神植目1933: 107 大山・箱根・塔ケ岳・尊仏山・丹沢山; 神植誌1958: 19 箱根(宮の下)・大山-丹沢?; 神植誌1988 記述なし.

その他の文献: 奥山(1948b): 53,54; 奥山(1948d): 132; 宮代(1958): 98; 林・ほか(1961): 24,49; 西田・ほか(1964); 大谷(1972): 24; 青木(1989); 青木(1990b): 11; FK(30): 333; 田中(1992b).

標本: YCM-16018 ZU 二子山 1990.01.14 山内好孝.

 

コタニワタリ Asplenium scolopendrium L.; Phyllitis scolopendrium (L.) Newm.

総合評価: En-D. 地域評価: 三浦(Ex?) 箱根(En). 原因: 森林伐採; 園芸採取; その他(標本採取?).

温帯性の常緑多年草.山地の林床や付近の岩上に生える.北海道,本州,四国,九州に分布し,日本海側にやや偏りを見せる.本県では三浦半島の田浦温泉谷戸,奥湯河原などに記録などが見られる程度で,かなり稀である.近隣地域では,1992年に酒井藤夫・啓子夫妻が東京都八王子市の多摩丘陵で現存を確認している.

文献: 神植誌1988 YU-1;+YO-1;+MIA-2.

その他の文献: 桧山(1959); 大谷(1972): 26-28+Fig.4; 大谷(1976c): 32; 倉田・中池編(1981): 179; 石渡(1984): 8; 大森(1988): 44; 中池(1992): 820; 酒井藤夫・酒井啓子(1992).

標本: FLK-57689 YU-1 奥湯河原 1985.12.22 高橋秀男; YCM-8136 YO-1 田浦泉町 1963.01.19?.

 

チャセンシダ Asplenium trichomanes L. subsp. quadrivalens Meyer

総合評価: En-E. 地域評価: 湘南(En) 丹沢(Ex) 三浦(Ex) 箱根(En). 原因: 森林伐採; 河川開発; 道路工事; 園芸採取; その他(標本採取?).

温帯~暖帯性の常緑多年草.岩の割れ目や石垣などに生える.北海道,本州,四国,九州に分布する.本県では鎌倉,大山,山北,奥湯河原などが産地として知られるが,比較的稀である.度重なる採取の影響からか,全体に減少が進んでいるようである.

文献: 神植目1933: 107 鎌倉・大山; 神植誌1958: 20 三浦(鷹取山. 久内清孝)鎌倉・山北(平山滝朝倉1955) 神植誌1988 HAK-1;$KA-1;+YU-1;+YA-8;+YO-1

その他の文献: Franch. et Sav.(1879): 219; Ohtani(1956): 25; 大谷(1957): 6; 宮代(1958): 98; 松浦(1958): 2; 大谷(1972): 26; 倉田・中池編(1981): 199; 逗子市(1987): 357; 中池(1992): 820.

標本: FLK-105395 KA-2 鶴ケ岡八幡宮 1993.08.11 山田文雄; FLK-105940 HAK-1 長尾峠 1982.05.22 田中一雄; YCM-8037 YA-8 酒水の滝 1961.11.12 石渡宏.

 

イヌチャセンシダ Asplenium tripteropus Nakai

総合評価: V-G. 地域評価: 丹沢(V) 箱根(V). 原因: 森林伐採; 河川開発; 道路工事; 園芸採取; その他(標本採取?).

暖帯性の常緑多年草.山地の岩壁上,ときに石垣などにも生える.本州(秋田県以南),四国,九州に分布する.本県では西部の山地渓谷沿いにほぼ限られ,大山,山北,箱根,奥湯河原などに局所的に分布する.なかでも山北の洒水の滝がよく知られている.

文献: 神植誌1958: 19 奥湯河原(田代信二1956); 神植誌1988 HAK-5;YU-1;+YA-8.

その他の文献: 松浦(1958); 田代・西尾(1962); 倉田(1963a): 99; 大谷(1972): 26; 平塚市博物館(1980): 50; 倉田・中池編(1981): 213; 井上・ほか(1991): 49.

 

アオガネシダ Asplenium wilfordii Mett. ex Kuhn

総合評価: Ex-A. 地域評価: 丹沢(Ex). 原因: 道路工事; その他(標本採取?); 不明.

亜熱帯~暖帯性の常緑多年草.山地林中の岩壁上や樹幹に着生する.本州(埼玉県以南,伊豆半島以西),四国,九州,琉球に分布する.本県では最も稀な部類に属し,山北町人遠(渡辺次雄1966.7.31渡辺標本No.1623)の記録が残るだけである.その後,確認の情報がまったく得られていないことから,本県では絶滅した可能性が高い.大谷(1972)には,この時の3点の標本のうち2点は国立科学博物館の第32回おし葉展(1968.3.1~3.24)に出品されたので,TNSに収められたと思うと記されている.そして,渡辺所蔵の1点も大谷茂が確認している(1968.3.31).

文献: 神植誌1988 +YA-8.

その他の文献: 大谷(1972): 27.

標本: YCM-8016 YA-8 市間 1966.07.31 渡辺次雄.

 

クルマシダ Asplenium wrightii Eat. ex Hook.

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(En)  原因: 不明.

亜熱帯~暖帯に本拠を置く常緑多年草.うす暗い谷間の斜面(地上)や付近の岩上に生える.本州(伊豆半島以南西),伊豆諸島,四国,九州,琉球に分布する.本県では箱根で極く稀に記録されているだけである.

その他の文献: 松浦(1958): 2.

 

ウラボシ科 POLYPODIACEAE

ミヤマウラボシ Crypsinus veitchii (Bak.) Copel.

総合評価: En-E. 地域評価: 丹沢(V). 原因: 森林伐採; その他(沢の荒廃,標本採取?); 不明.

温帯に本拠のある夏緑の多年草.深山の林中や沢筋の岩壁に着生する.北海道(大雪山),本州(山形県~福井県,

大峰山系),四国(徳島県)に分布する. 本県では西丹沢の比較的標高の高い沢筋の岩壁にやや稀に生育する.

文献: 神植目1933: 110 山北; 神植誌1958: 20 丹沢(檜洞丸 田代・ほか1957); 神植誌1988 *YA-3.

その他の文献: 神奈川懸植物調査會編(1913): 151; 宮代(1958): 98; 林・ほか(1961): 24,30,49+pl.9; 西田・ほか(1964): 181; 大谷(1976a): 12+Fig. 8; 倉田・中池編(1981): 325; FK(27): 236,256.

標本: FLK-102437 YA-6 ユーシン 1984.09.30 小崎昭則; KPM-60528 YA-3 熊木沢 1968.08.07 渡辺次雄; YCM-21186 YA-8 檜洞沢 1965.09.05 城川四郎; YCM-21189 YA-2 畦ケ丸 1960.06.12 大谷茂.

 

ホテイシダ Lepisorus annuifrons (Makino) Ching

総合評価: En-E. 地域評価: 丹沢(Ex) 箱根(En). 原因: 森林伐採; その他(森林の荒廃,標本採取?); 不明.

温帯~暖帯上部に見られる夏緑の多年草.ブナ林などの比較的明るい樹幹部や岩上に着生する.北海道,本州,四国,九州に分布し,本県では丹沢を中心に箱根を含む西部の山地で点々と記録されている.‘三浦半島’の記録(増島・石渡,1950)については,証拠標本などが不明であるため,確かめられない.

文献: 神植目1933: 109 箱根・塔ケ岳; 神植誌1958: 20 丹沢・箱根・大観山(朝倉修一1940); 神植誌1988 $HAK-5;+YA-5.

その他の文献: 奥山(1948d): 132; 増島・石渡(1950): 23; Ohtani(1956): 23; 松浦(1958); 林・ほか(1961): 14,49; 大谷(1976a): 4; 倉田・中池編(1981): 378; 井上・ほか(1991): 47(鞍掛沢),81.

標本: KPM-4952 YA-4 水の木沢 1962.09.16 西尾和子; KPM-10956 YA-1 切通峠 1962.09.16 西尾和子; KPM-4955 YA-2 白石沢 1958.08.20 西尾和子.

 

ヤノネシダ Leptochilus buergerianus (Miq.) Bosman; Neocheiropteris buergerianus (Miq.) Nakaike

総合評価: Ex-B. 地域評価: 箱根(Ex). 原因: 土地造成; 道路工事; 園芸採取; その他(採取).

暖帯性の常緑多年草.山麓近くのやや向陽の岩上,地上,低い樹幹部などに生える.本州(関東地方南部以南西),四国,九州に分布する.静岡県側に入れば珍しくはないが,県境辺りでは急に少なくなり,採集または観察者本人によって“神奈川県”とはっきり示された記録は限られる.

文献: 神植誌1958: 21 泉(田代・ほか1957); 神植誌1988 +YU-1;$MAN.

その他の文献: 奥山(1948b): 55; 倉田(1953): 17; 松浦(1958): 5; 大谷(1976a): 8-9; 中池(1992): 822.

標本: KPM-6429 YU-2 湯河原 1957.05.25 西尾和子; YCM-21246 YU-1 奥湯河原 1958.11.15 大谷茂; YCM-22396 YU-1 湯河原泉 1961.12.10 石渡宏; YCM-21249 日金山道 1956.06.10 長谷川義人; 東京薬科大学所蔵 足柄下郡箱根町 1932.3 採者不明.

 

ヒメサジラン Loxogramme grammitoides (Bak.) C. Chr.

総合評価: En-E. 地域評価: 丹沢(En) 箱根(En). 原因: 森林伐採; 河川開発; その他(沢の荒廃,空中湿度の低下,標本採取); 不明.

暖帯~温帯中部辺りに見られる常緑多年草.空中湿度の高い林中の苔むした岩上に生育する.北海道南部,本州,四国,九州,屋久島に分布する.本県では津久井,西丹沢,箱根,奥湯河原など西部の山地に生育する.昔は各地で記録されているが,最近ではなかなか見つからない.

文献: 神植誌1958: 20 箱根(小塚山 早川上流)・奥湯河原(田代・ほか1957); 神植誌1988 $FUJ-1;$KI-2;HAK-5;+YA-2;+YA-4;+HAK-1;+YU-1.

その他の文献: 宮代(1958): 98; 林・ほか(1961): 49; 西田・ほか(1964): 181; 大谷(1976a): 7; 倉田・中池編(1981): 471.

標本: FLK-106017 YA-4 大又沢 1994.07.02 勝山輝男; YCM-21222 YA-5 白石沢 1960.07.21 佐宗守; KPM-5009 HAK-1 箱根 1963.05.25 西尾和子; KPM-5007 HAK-6 小塚山 1957.08.16 西尾和子; KPM-5008 YU-1 奥湯河原 1959.02.01 西尾和子; YA-4 世附大又沢イデン沢 1994.07.02 勝山輝男.

 

イワヤナギシダ Loxogramme salicifolia (Makino) Makino

総合評価: En-E. 地域評価: 箱根(En) 丹沢(Ex) 原因: 森林伐採; 河川開発; その他(沢の荒廃,空中湿度の低下,標本採取); 不明.

亜熱帯~暖帯性の常緑多年草.空中湿度の比較的高い渓谷沿いの岩上や樹幹に生える.本州(山梨県南部以南,千葉県以西の太平洋側),四国,九州,小笠原,琉球に分布する.本県では西丹沢,箱根,湯河原に産することが知られる.

文献: 神植目1933: 110 箱根・湯河原; 神植誌1958: 20 箱根・奥湯河原・泉(静岡); 神植誌1988 +YU-1.

その他の文献: 神奈川懸植物調査會編(1913): 149; 澤田(1933a): 123; 奥山(1948d): 132; 宮代(1958): 98; 松浦(1958): 4; 林・ほか(1961): 19,24,49; 西田・ほか(1964); 大谷(1976a): 7-8; 平塚市博物館(1980): 53; 倉田・中池編(1981): 479.

標本: YCM-21227 HAK-5 須雲川 1956.05.03 小川里江; KPM-4996 YU-1 奥湯河原 1957.11.03 西尾和子; YCM-21228 YU-1 湯河原 1961.12.26 石渡宏.

 

アオネカズラ Goniophlebium niponicum (Mett.) Bedd.; Polypodium niponicum Mett.

総合評価: En-D. 地域評価: 丹沢(Ex) 箱根(En). 原因: 森林伐採; 道路工事; 園芸採取; その他(採取,空中湿度の低下).

暖帯性の冬緑の多年草.低山の岩上や樹幹などに着生する.本州(富山県・埼玉県以南),四国,九州に分布する.本県では静岡県側に近い箱根山麓に産することが早くから知られたが,この方面では度重なる採取によって昭和の初め頃から急速に減少したようである.

文献: 神植目1933: 110 山北・湯河原; 神植誌1958: 21 箱根(畑宿)・奥湯河原; 神植誌1988 HAK-5;YU-1.

その他の文献: 澤田(1933a): 121-123; 奥山(1948b): 55; 奥山(1948d): 132; 宮代(1958): 98; 松浦(1958): 5; 大谷(1976a): 13; 平塚市博物館(1980): 54; 倉田・中池編(1981): 567; 中池(1992): 822.

標本: FLK-57738 YU-1 奥湯河原 1986.01.03 守矢淳一; FLK-57739 HAK-5 須雲川 1985.12.31 守矢淳一; KPM-60477 HAK-5 畑宿 1964.12.29 渡辺次雄; KPM-5272 YU-1 奥湯河原 1959.02.01 西尾和子; YCM-21267 YU-1 湯河原 1961.12.26 石渡宏; 東京薬科大学所蔵 3点 YU-1 奥湯河原 1964.03.28 指田豊.

 

イワダレヒトツバ Pyrrosia davidii (Gies.) Ching

総合評価: Ex-A. 地域評価: 丹沢(Ex). 原因: 道路工事; 園芸採取;帰化競合; その他(採取,土埃?).

暖帯上部近くに本拠を置く常緑多年草.山地のやや乾いた岩上に着生する.中国大陸と日本に隔離分布するヒトツバ属の珍種とされ,本州(関東地方西部・中部地方・和歌山県),九州(熊本県)に分布する.外部形態や自生地付近における同属の出現状況などから,イワオモダカとビロウドシダの雑種ではないかとの見方もされるが,難しい.本県では山北町人遠(詳しくは2カ所らしい)で見出されているだけである.最初の発見地は,1969年12月2日に県の天然記念物に指定され,その一帯で有刺鉄線が張りめぐらされたが,5年後にはほとんど絶滅寸前の状態になり(山北町文化財保護委員、松川浩1974.7.3による),現在では絶滅したらしい.なお,松川氏が栽培増殖に成功しているようなので,自生地での復元に期待したい.

文献: 神植誌1988 +YA-8(山北町人遠・飯田和1958).

その他の文献: 倉田(1959): 16-18,37図; 大谷(1960): 29; 林・ほか(1961): 26,30,49+pl.8; 大谷(1976a): 15-16+Fig.4,5; 倉田・中池編(1981): 599.

標本: YCM-22175 YA-8 人遠 1962.05.06 朝倉修一.

 

シシラン科 VITTARIACEAE

タキミシダ Antrophyum obovatum Baker

総合評価: En-D. 地域評価: 三浦(Ex) 箱根(Ex). 原因: 森林伐採; 河川開発; その他(崖崩れ,標本採取).

亜熱帯~暖帯性の常緑多年草.谷沿いのやや陰湿な岩上などに生える.本州(富山県以南,千葉県以西),四国,九州に分布する.本県では奥湯河原に産することが割合早くから知られていたが,1988年には三浦半島の二子渓谷(葉山町)においても志澤光朗により1株が見出された(当日,多くのシダ関係者が確認している).ところがこの小さな株は長続きせず,生育基盤の岩の崩落とともに消え去ってしまったという(青木,1990b).

文献: 神植誌1988 *YU-1(守矢淳一1964.65)

その他の文献: 大谷(1960): 29(湯河原-泉の境<飯田和1958.11.12>)静岡県側?; 大谷(1976a): 17; 岩崎・中池(1988); FK(27): 256; 青木(1990b): 10.

標本: FLK-100853 HAY 森戸川 1988.02.28 青木清勝.

 

シシラン Vittaria flexuosa Fee

総合評価: Ex-B. 地域評価: 三浦(Ex) 箱根(Ex). 原因: 森林伐採; その他(標本採取); 不明.

亜熱帯~暖帯性の常緑多年草.山地林下の岩上や樹幹に着生する.茨城県以南の本州,四国,九州,沖縄に分布する.本県では丹沢・箱根に一部の記録がみられるが,近年はまったく確認されていない.近隣地方には,奥多摩などのように比較的ふつうに見られる地域もあるが,本県ではかなり稀な存在のようである.

文献: 神植誌1958: 21 丹沢・箱根.

その他の文献: 林・ほか(1961): 50; 西田・ほか(1964): 181; 大谷(1976a): 17.

 

デンジソウ科 MARSILEACEAE

デンジソウ Marsilea quadrifolia L.

総合評価: En-E. 地域評価: 三浦(Ex) 多摩(Ex) 湘南(Ex) 西湘(En). 原因: 土地造成(休耕田の埋め立て); 水質汚濁; 園芸採取; 管理放棄; その他(採取).

暖帯の水田や沼などに生える夏緑の多年草.北海道(極稀),本州,四国,九州,奄美大島に分布する.本県では,多摩,三浦,湘南,西湘南,小田原など低地部の各地域にかつては広く記録が見られたが,今日では秦野市や中井町の一部(稀)を残して,ほぼ消滅した.早くから都市化の進んだ横浜の金沢八景から金沢文庫,釜利谷にかけての一帯も,昔は群生が見られ,大正年間までは自生が確認されてきたが,三十余年前には絶滅状態に陥っていたようである(神植誌1958).現川崎区でも戦前には自生が記録されている.

文献: 神植目1933: 106 産地記載なし; 神植誌1958: 22 川崎(登戸)・橘町・横浜(金沢. 大正年間まで); 神植誌1988 HAT-5;NAI;*HI-1;*FU-3.

その他の文献: Franch. et Sav.(1879): 195; 帝國女子醫學藥學専門學校學友會(1932): 61; Ohtani(1956): 20;25; 宮代(1958): 96; 出口(1966): 10; 出口(1968): 69; 1970.5.17付神奈川新聞; 大谷(1976a): 18-19+Fig.1; 守矢(1980): 18; 倉田・中池編(1987): 781; 平塚市博物館(1987): 50; 平塚市博物館(1990): 20; 宮本・ほか(1991): 2; 多摩丘陵植物調査会(1994): 117.

標本: FLK-57755 HAT-5 尾尻 1980.10.15 高橋秀男; KPM-6654 OD-3 橘町 1960.07.26 西尾和子; YCM-8131 KAW 川崎 1925.11.10 Kinzo Kubota; HCM-16219 NAI 比奈窪 1984.Oct.25 山口育子; HCM-16220 HAT-5 尾尻 1980.Sep.29 住吉静子.

 

サンショウモ科 SALVINIACEAE

サンショウモ Salvinia natans (L.) All.

総合評価: V-H. 地域評価: 多摩(En) 湘南(En) 西湘(Ex) 三浦(En) 相模原(V). 原因: 土地造成(水田の埋め立て); 水質汚濁; 農薬汚染; その他(暗渠化,水質汚濁).

暖帯性の水生の夏型一年草.水田や池沼,ときにひじょうに緩やかな小さな流れなどでふつう浮漂生活する.本州(青森県以南),四国(瀬戸内側),九州(西部)に分布する.本県では丘陵谷戸や低地部を中心とする水田で広く記録されているが,急速に減少が進んでおり,見られなくなった地域も多い.

文献: 神植目1933: 106 産地記載なし; 神植誌1958: 22 川崎(登戸)・横浜・三浦・足柄; 神植誌1988 TAM;TAK;MI;SA;ZA;EB;AY;AT;ISE;FU;YO.

その他の文献: Franch. et Sav.(1879): 194; 帝國女子醫學藥學専門學校學友會(1932): 61; ; 原(1934): 24; 増島・石渡(1950): 23; 出口(1953): 21; Ohtani(1956): 20; 宮代(1958): 96; 松浦(1958): 7; 出口(1966): 10; 大谷(1976a): 19+Fig.6; 守矢(1980): 18,132; 倉田・中池編(1987): 800; 平塚市博物館(1987): 50; 平塚市博物館(1990): 20; FK(30): 322; 宮本・ほか(1991): 6,30; 大和市動植物総合調査会編(1991): 45,97; 多摩丘陵植物調査会(1994): 117.

 

アカウキクサ科 AZOLLACEAE

オオアカウキクサ Azolla japonica Franch. et Sav.

総合評価: V-H. 地域評価: 多摩(En) 湘南(V) 西湘(V) 三浦(V) 相模原(En). 原因: 土地造成(水田の埋め立て); その他(暗渠化).

暖帯に本拠のある水草.水田,流れの緩やかな水路,ため池などでふつう浮漂生活をする.本州(秋田県以南),四国(東部),九州に分布する.千葉県では水田を覆うように生育する光景をしばしば目にするが,本県における分布量は少ない.産地は低地部を中心に川崎(登戸),横浜,三浦,湘南,西湘,小田原,箱根と,広範囲で記録されてきたが,水田の埋め立てと同調するように,見られなくなった所も増えている.

文献: 神植目1933: 106 産地記載なし; 神植誌1958: 22 川崎(登戸)・横浜・三浦・その他各地; 神植誌1988 TAM;AI;MIA;湘南各地;三浦各地.

その他の文献: Franch. et Sav.(1879): 194; 帝國女子醫學藥學専門學校學友會(1932): 60(学名に基づき引用!); 増島・石渡(1950): 23; 出口(1953): 21; Ohtani(1956): 20; 宮代(1958): 96; 松浦(1958): 7-要検討の記録‘アカウキクサ Azolla imbricata Nakai’; 出口(1966): 10; 出口(1968): 69; 大谷(1976a): 20; 守矢(1980): 18; 倉田・中池編(1987): 793; 平塚市博物館(1987): 50; 田中(1988)43+写真32; 平塚市博物館(1990): 20; 宮本・ほか(1991): 2; FK(33): 364; 多摩丘陵植物調査会(1994): 118.

 

◇ 雑種

ワラビ科 PTERIDACEAE

クジャクフモトシダ Microlepia ×bipinnata (Makino) Shimura

総合評価: En-E. 地域評価: 原因: 森林伐採.

フモトシダとイシカグマの雑種.暖帯性の常緑多年草で,沿海地域の山地林下に生える.本州,四国,九州,琉球に分布し,本県では三浦半島や小田原・湯河原方面などで稀に記録される程度である. 秦野市にも記録がある.

文献: 神植目1933: 109 真鶴; 神植誌1958: 8 真鶴・伊豆山(本県隣接地); 神植誌1988 KAZ; HAT-3;OD-1,4;MAN.

その他の文献: 奥山(1948b): 55; 宮代(1958): 98; 松浦(1958): 5; 大谷(1961a): 32-33+36; 大谷(1961b): 41,43; 大谷(1966): 47; 平塚市博物館(1990): 8-9; 田中(1992b): 8; 中池(1992): 175,798.

 

オシダ科 ASPIDIACEAE

ホソコバカナワラビ Arachniodes ×intermedia Shimura nom. nud.

総合評価: En-D. 地域評価:  原因: 不明.

ホソバカナワラビとコバノカナワラビの雑種.暖帯性の常緑多年草で,両親の混生する山地の林下に生える.分布は本州(千葉県以西),四国,九州に知られる.倉田・中池編(1994)に神奈川県の分布点が見られる.

 

ジンムジカナワラビ Arachniodes ×jinmuziensis Nakaike nom. nud.; Arachniodes aristata × standishii

総合評価: Ex-A. 地域評価: 三浦(Ex). 原因: 森林伐採; 道路開発(参道工事?).

ホソバカナワラビとリョウメンシダとの雑種と推定されている.暖帯性の常緑多年草で,両親の混生する山地の林下に生える.本雑種は,逗子市神武寺で1個体発見されているだけの極めて稀なものである(中池敏之1975.5.18TNS).その一部は国立つくば実験植物園に移され,研究用に栽培されている.自生地ではその後,谷間が埋め立てられ,見ることができなくなったという(田中,1988).

文献: 神植誌1988 三浦(逗子市神武寺 中池敏之1975).

その他の文献: 中池(1975); 田中(1988): 48-49; 大谷(1976c): 16,倉田・中池編(1994): 257.

標本: YCM-17086 ZU 神武寺 1976.10.11 中池敏之.

 

カワズカナワラビ Arachniodes ×kenzo-satakei (Kurata) Kurata

総合評価: En-D. 地域評価:  原因: 不明.

リョウメンシダとコバノカナワラビの雑種.暖帯性の常緑多年草.関東地方南部以西に分布し,基準産地の伊豆半島のほか,紀州や遠州にも知られる.両親の混生地は本県南部にいくらでもあるが,本雑種は真鶴や奥湯河原などに僅かに知られる程度で,稀である.これには胞子の成熟期のずれが大きく関係しているものと考えられている.

その他の文献: 飯田(1962); 倉田(1962): 33; 大谷(1967a): 59; 大谷(1976c): 16; 倉俣(1993): 17; 倉田・中池編(1994): 40-44.

 

テンリュウカナワラビ Arachniodes ×kurosawae Shimura et Kurata

総合評価: En-D. 地域評価:  原因: 不明.

オオカナワラビとコバノカナワラビの雑種.暖帯性の常緑多年草.一般には両親の混生する林下に見られるが,オオカナワラビがひじょうに少なく,本雑種の繁茂が目立つような場所もある.本州(神奈川県以西?),四国,九州に分布する.本属の雑種としてはそう珍しいものではないが,本県においては1987年5月に田中一雄が大井町で発見している程度で,極めて稀な部類に入る.

その他の文献: 平塚市博物館(1990): 10; 中池(1992): 730.

 

ホソバハカタシダ Arachniodes ×respiciens Kurata; Arachniodes aristata × simplicior

総合評価: En-D. 地域評価:  原因: 不明.

ホソバカナワラビとハカタシダの雑種.暖帯性の常緑多年草で,神奈川県以西に分布する.本県では1994年に田中一雄が湯河原町で発見したのが初めてと思われる.

その他の文献: 倉田・中池編(1994): 53.

 

オオサトメシダ Athyrium ×multifidum Rosenst.

総合評価: V-G. 地域評価:  原因: 森林伐採; ゴルフ場; 土地造成.

サトメシダとヤマイヌワラビの雑種.温帯域を中心に暖帯上部にかけて見られる夏緑の多年草.北海道から九州北部に分布し,近畿以東の日本海寄りの地域に多い.両親が混生する湿った草原,林縁,疎林下に点々と生育する.本属の雑種としては珍しいものではないが,本県では片親のサトメシダが分布・量ともに限られるため,座間市の1例を除けば,残りはすべて箱根地域で記録されており,採集例も僅かな数に留まっている.

その他の文献: 倉田(1961a): 97,98,100; 大谷(1967a): 63+Fig.1; 倉田・中池編(1994): 77.

 

ヤマヒロハイヌワラビ Athyrium ×pseudowardii Serizawa

総合評価: En-D. 地域評価:  原因: 不明.

ヤマイヌワラビとヒロハイヌワラビの雑種.暖温帯性の夏緑多年草.両親の混生する山地林下に生える.本州(秋田県以南),四国で分布が記録されており,倉田・中池編(1994)には神奈川県の分布点も見られる.詳細不明.

その他の文献: 倉田・中池編(1994): 282.

 

マムシヤブソテツ Cyrtomium devexiscapulae × fortunei var. clivicola

総合評価: En-D. 地域評価:  原因: 不明.

ナガバヤブソテツとヤマヤブソテツの雑種.暖温帯性の常緑多年草で,両親の混生する山地林下に生える.本州(福井県・東京都・神奈川県・静岡県),四国(高知県)で分布が記録されている.本県に産することは倉田・中池編(1994)によって示された.片親ヤマヤブソテツが無融合生殖種であるだけに,一般にはできにくい組み合わせの雑種といえる.東京都の奥多摩では局所的ながらややまとまって見られるところもあるが,県下ではかなり稀と思われる.詳細については不明.

その他の文献: 倉田・中池編(1994): 299.

 

ビッチュウヒカゲワラビ(サイシュウヒカゲワラビ) Diplazium ×bittyuense Tagawa

総合評価: Ex-A. 地域評価: 箱根(Ex). 原因: 不明.

ヒカゲワラビとオニヒカゲワラビの中間的な性質を有し,両者の雑種と考えられている.暖帯の山地林下に生育し,本州(石川県・栃木県以南),四国(高知県)に分布することが判明している.本県では芹沢(1971)が報告した湯河原町奥湯河原(芹沢俊介1969.12TUE、県新産)が知られるだけである.現状については不明.

その他の文献: 芹沢(1971); 大谷(1976c): 20; 大谷(1978): 56; 倉田・中池編(1994): 311.

 

ミヤマキヨタキシダ Diplazium ×wakui Kurata nom. nud.

総合評価: V-G. 地域評価: 原因: 不明.

ミヤマシダとキヨタキシダの雑種.両親の分布が重なる温帯下部~暖温帯上部の山地林下に生育し,福井県以東の本州で分布が記録されている.東京都では奥多摩に産することが知られているが,多摩丘陵に近い八王子市の一部でも確認しており,本県に産することは十分に予想された.1994年に出版された倉田・中池編(1994)には,神奈川県の分布点が打たれている.混生地では比較的できやすい雑種であるが, 本県では片親のミヤマシダが分布・量ともに限られるため, 本雑種も少ないと考えられる.

その他の文献: 倉田・中池編(1994): 317.

 

ノコギリヘラシダ ×Depazium tomitaroanum (Masamune) Nakaike nom. nud.; Diplazium tomitaroanum Masamune

総合評価: Ex-A. 地域評価: 西湘(Ex) 三浦(Ex). 原因: 土地造成; その他(自然消滅,下刈り); 不明.

ヘラシダとナチシケシダとの交雑に由来すると思われる分類群で,雑種(両親を別属とみなせば属間雑種に当たる),あるいは1つの“種”として扱われる.暖帯性の常緑多年草で,林下や石垣などで稀に見出される.本州(千葉県以南西),伊豆諸島,四国,九州,琉球に分布する.本県では極めて稀で,1981年,田中一雄により大磯町の大磯丘陵南部で1カ所発見されているのと(田中一雄1981),逗子市に文献記録が見られるだけである.田中(1988)は,自然消滅や下刈りによって最初の5株が2株に減少,さらに1986年頃には宅地造成によって自生地に危険が迫ったため,それらを移植し,栽培保存している旨を報告,そして巻末にその写真を載せた.

文献: 神植誌1988 OIS.

その他の文献: 平塚市博物館(1987): 30; 田中(1988): 31,40,48-49+写真14; 平塚市博物館(1990): 12-13; 中池(1992): 807-808; 倉田・中池編(1994): 94-97.

標本: HCM-8878 OIS 大磯 1981.07.08 田中一雄.

 

フジクマワラビ Dryopteris ×fujipedis Kurata

総合評価: En-D. 地域評価: 多摩(En). 原因: 森林伐採.

オシダとクマワラビの雑種.温帯下部を中心に暖帯上部にかけて見られる常緑多年草.両親が混生するスギ人工林下などに稀に生育する.分布は本州(東北地方~近畿地方)に知られる.本県では,温帯に分布の本拠を置く片親オシダの分布量が少ないが,たいていその付近にはクマワラビを伴う.このような状況から見て,できにくい雑種なのであろう.県新産は1979年に岡武利が横浜市旭区都岡町で発見したもので,1981年には緑区三保町でも同じく1株を見出している.岡(1990)によれば,最初の株は造成による消滅の危険から,1987年7月に別の場所に避難させたという.もう1つの記録も同じ多摩丘陵のもので,川崎市麻生区の産として報告されている(宮本・ほか,1991).

その他の文献: 大谷茂(1980): 4; 岡(1990); 宮本・ほか(1991): 5,21; 多摩丘陵植物調査会(1994): 76; 倉田・中池編(1994): 102-105.

標本: YCM-3238 AS 川井宿→都岡町 1979.12.08 岡武利.

 

ハガネイワヘゴ Dryopteris ×haganecola Kurata

総合評価: En-D. 地域評価: 西湘(En).  原因: 不明.

イワヘゴとオクマワラビの雑種.暖帯性の常緑多年草で,両親の混生する湿り気の多い林下に生える.本州(神奈川県以南西),四国,九州北部で稀に見出される.本県では田中(1992a)が小田原市の‘2’カ所で記録しているが,うち1カ所は繁殖状況から別の分類群に含まれる可能性もあり,さらに研究を要するとした.片親イワヘゴが無融合生殖種であるだけに,一般にはかなりできにくい組み合わせの雑種といえる.

その他の文献: 田中(1992): 100; 倉田・中池編(1994): 320.

 

ハコネオオクジャク Dryopteris ×hakonecola Kurata

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(En) 湘南(En). 原因: 森林伐採; 土地造成; その他(採取).

オオクジャクシダとオクマワラビの雑種.暖帯の上部付近に本拠のある常緑多年草.両親の混生する水分の多い林下に生える.本州(秋田県以南),四国,九州に分布する.基準産地は箱根の道了山であるが,オオクジャクシダの分布が日本海側にやや偏り,本県では概ね箱根地域に点在する程度であることから,この雑種はかなりできにくいと思われる.箱根方面以外では平塚市大磯丘陵に知られるだけである.なお,1956年11月3日に行方沼東が道了山で発見した株は,持ち帰って研究用に栽培されていたようである.

文献: 神植誌1958: 14 道了山; 神植誌1988 分布図なし.

その他の文献: 倉田(1958); 大谷(1968a): 70; 中池・倉田(1969): 64+写真16; 平塚市博物館(1987): 35; 平塚市博物館(1990): 14; 倉田・中池編(1994): 108-109.

標本: TOFO 平塚市下吉沢字大山母 1972 守矢淳一; HCM-9002 平塚市下吉沢 1980.01.06浜口哲一.

 

ミヤマオクマワラビ Dryopteris ×pseudopolylepis Nakaike nom. nud.

総合評価: En-D. 地域評価: 丹沢(En).  原因: 不明.

ミヤマクマワラビとオクマワラビの雑種.温帯下部辺りに本拠がある常緑多年草.分布は本州(長野県・静岡県以東)に知られ,倉田・中池編(1994)に神奈川県の分布点が打たれている.本県では西部の山地の沢沿いで出現する可能性が高い,稀な部類に入るシダと思われる.

その他の文献: 倉田・中池編(1994): 328.

 

ナガサキシダモドキ Dryopteris ×toyamae Kurata

総合評価: Ex-A. 地域評価: 箱根(Ex). 原因: その他(標本採取); 不明.

暖帯上部の山地林下で稀に見出される雑種起源の常緑多年草.分布は本州(千葉県上総,神奈川県湯河原),四国,九州に知られる.外見がナガサキシダに似るところから,これとクマワラビとの雑種と推定されることがある.本県では極めて稀で,1960年頃に湯河原町で数例記録されているだけである.その後の消息は不明.

その他の文献: 大谷(1968a): 74; 大谷(1978): 56; 中池(1992): 832; 倉田・中池編(1994): 133.

 

ゴサクイノデ Polystichum ×gosakui Kurata nom. nud.

総合評価: En-D. 地域評価: 多摩(En) 相模原(En). 原因: 森林伐採; 踏みつけ; その他(採取).

アスカイノデとサカゲイノデの雑種.暖帯上部辺りを本拠とするほぼ常緑の多年草.両親の混生する沿海地方の低標高地の林床に稀に生える.本州(山形県,茨城~静岡の太平洋側各県)で見つかっているが,記録は少ない.本県では,横浜市旭区2カ所(計3株),緑区1カ所(2株),大和市(1株)の計4カ所に6株が自生するだけである.本県初産地として報告された旭区の1カ所では,当初4個体に株分かれしていた(岡,1990)が,関係者が一部を研究用に採取しており,現地には2株だけが残る.付近では近年,“サバイバルゲーム”やオートバイの乗り入れによる林床の荒廃が進み,最近さらに間伐や下刈りが行われたため,存続が危ぶまれる状況にある.また,旭区のもう1カ所の産地でも,人の踏みつけが目立っており,衰退が心配される.なお,県下で最も古い本雑種とみられる標本は‘三ツ境’で1956年に採集されている(小崎,1993a; 多摩丘陵植物調査会,1994).

その他の文献: FK(27): 236,255; 山本(1989): 12-13; 岡(1990); FK(30): 322; 大和市動植物総合調査会編(1991): 44-45,96; 小崎(1993a); 多摩丘陵植物調査会(1994): 56.

標本: FLK-100781 MI-1 三保町 1989.06.13 小崎昭則; FLK-101086 AS 川井宿町 1989.01.16 小崎昭則; FLK-103223 YAT 上和田上ノ原 1988.12.19 山本明; KPM-75950 三ツ境 1956.07.21 穴生寿孝; YCM-3206 AS 矢指町→上川井町 1980.06.01 岡武利.

 

ハコネイノデ Polystichum ×hakonense Kurata nom. nud.

総合評価: V-G. 地域評価: 箱根(V) 相模原(V).  原因: 森林伐採; 土地造成; その他(標本採取).

アイアスカイノデとサイゴクイノデの雑種.暖帯上~中部の両親の混生する林下に生える.本州(秋田県以南),四国,九州に分布する.基準産地は箱根.畑宿の須雲川の谷の一部では小群生地も記録されている(倉田,1961; 大谷,1969a)が,全体に減少傾向がうかがえる.この方面を除くと,県下では稀なものとなり,厚木市,平塚市,横浜市緑区の各1株が報告されているに過ぎない.ただし,イノデ類の雑種としてみた場合には,それほど珍しいものではない.

その他の文献: 倉田(1961a): 96,99; 倉田(1964): 31,32,40+Fig.12; 大谷(1969a): 76+Fig.9; 倉田(1975): 18; 大谷(1976c): 26; 平塚市博物館(1980): 43; FK(19): 138; (志澤1990b).

横浜市緑区長津田町(小崎昭則1993.1.17 小崎No.10543)-多摩丘陵植物調査会(1994): 57; 中池(1992): 834; 倉田・中池編(1994): 341.

 

ホクリクイノデ Polystichum ×hokurikuense Kurata

総合評価: En-D. 地域評価: 多摩(En)丹沢(En). 原因: 不明.

アイアスカイノデとサカゲイノデの雑種.温帯下部~暖帯上部辺りを本拠とするほぼ常緑の多年草.両親の混生する林床に生える.本州に広く分布し,日本海側の低山麓では比較的ふつうに見られるところもあるが,南関東では稀な部類に含まれ,本県では横浜市旭区と緑区,秦野市でほぼ確実なものが1株ずつ見つかっている程度である.なお,ゴテンバイノデを含むタカオイノデと紛らわしいものも横浜市保土ケ谷区から1株見出されている.

文献: 神植誌1988 HAT-3.

その他の文献: 平塚市博物館(1987): 43; 岡(1990); 平塚市博物館(1990): 17; FK(28): 284-285; 山本(1993): 6,8; 多摩丘陵植物調査会(1994): 58.

標本: FLK-101088 AS 川井宿町 1989.01.29 小崎昭則; HCM-15918 HAT-3 西田原 1979.06.2 秋山守.

 

アイカタイノデ Polystichum ×iidanum Kurata

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(En). 原因:森林伐採; 不明.

アイアスカイノデとカタイノデの雑種.暖帯性の常緑多年草.両親の混生する林下に稀に生える.分布は本州(東京都以南西),四国(高知県),九州(熊本県)に知られる.本県ではカタイノデの分布が小田原,湯河原方面にほぼ限られる上,産量も少ないことから,本雑種もその地域で極稀に見出される程度である.基準産地は湯河原.現状不明.

その他の文献: 倉田(1964): 33,41; 大谷(1969a): 76; 倉田・中池編(1994): 343; 多摩丘陵植物調査会(1994): 57.

 

フナコシイノデ Polystichum ×inadae Kurata

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(En). 原因: 森林伐採; 不明.

イノデとツヤナシイノデの雑種.暖帯上部付近に本拠のある常緑多年草.分布は本州(秋田県以南),四国,九州(熊本県以北)に知られる.本県では両親の混生地が西半部を中心にやや広く見られるが,本雑種の記録は湯河原町に知られるだけで,極めて稀である.湯河原付近で最初に知られた産地,伊豆湯ケ原(倉田,1962a)は静岡県側とみられる.

その他の文献: 倉田(1962a): 4,6,7; 倉田(1964): 37,38,41; 大谷(1969a): 77; 大谷(1976c): 26; 倉田・中池編(1994): 165.

 

カタイノデモドキ Polystichum ×izuense Kurata

総合評価: V-G. 地域評価: 箱根(V). 原因: 森林伐採;不明.

カタイノデとイノデモドキの雑種.暖帯性の常緑多年草で,両親の混生する林下に生える.分布は本州(埼玉県以南),四国,九州(宮崎県以北)に知られる.イノデ類の雑種としてはそう珍しいものではないが,本県ではカタイノデの分布が小田原,湯河原方面にほぼ限られる上,産量も少ないことから,本雑種も奥湯河原などで稀に記録される程度である.

その他の文献: 大谷(1960): 28; 大谷(1969a): 77; 大谷(1976c): 26; 中池(1992): 169-172; 倉田・中池編(1994): 171.

 

ジタロウイノデ Polystichum ×jitaroi Kurata

総合評価: En-D. 地域評価: 湘南(Ex) 多摩(En). 原因: 森林伐採; 土地造成.

アスカイノデとサイゴクイノデの雑種.暖帯性の常緑多年草で,両親の混生する林床に稀に生育する.本州(関東,中部地方<愛知県>)に分布が知られるが,記録はかなり少ない.関東では基準産地の千葉県で数株,東京都で1株が記録されていたが,本県でも1990年に平塚市で志澤光朗が1株を発見した.しかし,この株は自生地にすぐ隣接して建物ができたため,1年後には確認できなかったという(1994.12.21,電話で確認).これとは別に,1993年12月に横浜市緑区でも1株見つかった.こちらは1994年12月現在,無事である.

その他の文献: 倉田(1964): 33,40; 畔上・芹沢(1966); 芹沢(1969;1979a); 志澤(1990b): 3; 小崎(1994); 多摩丘陵植物調査会(1994): 59.(多摩丘陵ならびに横浜市新産に改める); 倉田・中池編(1994): 344.

 

キヨズミイノデ Polystichum ×kiyozumianum Kurata

総合評価: V-G. 地域評価: 箱根(V). 原因: 森林伐採;不明.

サイゴクイノデとイノデモドキの雑種.暖帯に本拠のある常緑多年草で,両親の混生する山地の林下に生える.本州(福井県・埼玉県以南),四国,九州に知られ,比較的ふつうに見られる地方もあるが,本県では湯河原町に知られるだけで,稀とみられる.現状もはっきりしない.

その他の文献: 湯河原町広河原(和久時昭1971)-倉田・中池編(1994): 177.

 

アカメイノデ Polystichum ×kurokawae Tagawa

総合評価: V-G. 地域評価: 箱根(V). 原因: 森林伐採; その他(標本採取); 不明.

カタイノデとツヤナシイノデの雑種.イノデ類の雑種としては最も古くから知られる.暖帯の上部辺りに本拠のある常緑多年草.両親の混生する山地林下に生える.本州(埼玉県以南),四国,九州(宮崎県以北)で分布が記録されている.隣接する東京都の奥多摩などでは局所的に多産する地域もあるが,本県では箱根の畑宿に少数の記録が見られる程度である.

その他の文献: 倉田(1954a): 63,65; 倉田(1957): 112; 林・ほか(1961): 24; 大谷(1969a): 77; 倉田・中池編(1994): 186(分布図).

 

アマギイノデ Polystichum ×mashikoi Kurata

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(En). 原因: 森林伐採; 不明.

イノデとイノデモドキの雑種.暖帯に本拠のある常緑多年草で,両親の混生する林下に稀に生育する.本州(千葉県以西),四国(高知県),九州南部に知られる.本県では奥湯河原で記録されている程度である.‘アマギイノデ’の記録については,過去にはハタジュクイノデが含まれていたり,また誤認のケースも見受けられ,再検が必要と思われる.“本物”は,両親の混生地が広く存在する割には,かなり稀にしか見出せない.

その他の文献: 大谷(1960): 28; 倉田(1964): 33,34,41; 大谷(1969a): 78-79; 大谷(1976c): 27; 岡(1990); 倉田・中池編(1994): 346.

 

ミドリイノデ Polystichum ×midoriense T.Oka et Ohtani

総合評価: Ex-A. 地域評価: 多摩(Ex). 原因: その他(採取?).

アスカイノデとツヤナシイノデの雑種.暖帯上部付近に本拠のある常緑多年草.イノデ属の雑種としては最も珍しい部類に入るもので,これまでに知られた個体は1978年に横浜市緑区(基準産地)で岡武利が発見した1株だけである.ところが,命名者の一人でもある岡氏によれば,1984年頃に突然姿を消してしまったという.その後,関係者によって近隣地域の精査が行われているが,再確認や新たな発見のニュースはない.確認地点付近の林床では当時と大きく変化している様子が見られないので,謎である.なお,基準標本は横須賀市自然博物館に収められている.

文献: 神植誌1988 MI-1(基準産地).

その他の文献: 大谷(1980): 4; 大谷・岡(1980); 岡(1990); 多摩丘陵植物調査会(1994): 60-61; 倉田・中池編(1994): 347.

標本: YCM-7882(基準標本) MI-1 三保町 1979.05.26 岡武利.

 

ミツイシイノデ Polystichum ×namegatae Kurata

総合評価: V-G. 地域評価: 箱根(En) 丹沢(En). 原因: 森林伐採; その他(標本採取); 不明.

カタイノデとサイゴクイノデの雑種.暖帯上~中部辺りに本拠のある常緑多年草で,両親の混生する山地林下に生える.本州(埼玉県以南),四国,九州(宮崎県以北)に分布する.イノデ属の雑種としては比較的生じやすく,地域によってはそう珍しくないが,本県では両親の分布状況も関係し,県下で最初に知られた箱根のほか,湯河原,丹沢で稀に記録される程度である.

文献: 神植誌1958: 17 丹沢(桧洞 田代・ほか1957)・箱根(須雲川 倉田1954).

その他の文献: 倉田(1957): 111-114; 大谷(1969a): 79; 倉田・中池編(1994): 203.

 

オンガタイノデ Polystichum ×ongataense Kurata

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(En). 原因: 森林伐採; その他(標本採取); 不明.

ツヤナシイノデとサイゴクイノデの雑種.暖帯上部付近に本拠のある常緑多年草で,両親の混生する山地林下に生える.関東地方以西の本州,四国,九州に分布する.両親の混生地ではよく見つかる雑種であるが,本県では箱根に少数の記録が見られるだけである.なお,KPMの標本中にイワシロイノデが片親と推定されるサイゴクイノデとの雑種(元箱根-西尾和子採)が含まれていたが,イワシロイノデがツヤナシイノデの種内分類群として位置づけられる上,ツヤナシイノデを片親とする雑種オンガタイノデが先に有効発表された関係で,国際植物命名規約上,学名は上記と同じに扱われる.

文献: 神植誌1958: 17 箱根(畑宿 倉田1954)・元箱根.

その他の文献: 倉田(1957): 112-114; 大谷(1969a): 81; 倉田(1975): 18; 倉田・中池編(1994): 219.

 

ツヤナシイノデモドキ Polystichum ×pseudoovato-paleaceum Akasawa

総合評価: V-G. 地域評価: 丹沢(V). 原因: 森林伐採; その他(標本採取); 不明.

ツヤナシイノデとイノデモドキの雑種.暖温帯上(~中)部辺りを本拠とするほぼ常緑の多年草.両親の混生する林下にやや稀に生育する.本州(栃木県以南),四国,九州(宮崎県以北)で分布が記録され,本県では丹沢などで稀に見出される.分類学上の経緯により‘ナメライノデ’として報告されたものも見られるが,本県産に関してはたいてい本種である.

その他の文献: 大谷(1960): 28-29‘ナメライノデ’; 林・ほか(1961): 47; 大谷(1969a): 80-81; 井上・ほか(1991): 47-48(須雲川流域); 倉田・中池編(1994): 184-188.

 

タカオイノデ Polystichum ×takaosanense Kurata

総合評価: En-D. 地域評価: 多摩(En) 丹沢(En) 箱根(V). 原因: 踏みつけ; その他(標本採取).

アイアスカイノデとツヤナシイノデの雑種.暖帯上部付近を本拠とする常緑多年草で,両親の混生する山地林下にやや稀に生える.本州(石川県・茨城県以南),九州(熊本県)に分布し,基準産地は東京都八王子市の高尾山である.本県ではかなり稀で,横浜市緑区に確実なものが1株現存するほかは,山北町の記録(田中, 1986bによる)が見られる程度である.なお,ツヤナシイノデの変種とされるイワシロイノデとの雑種“ゴテンバイノデ”や,別種サカゲイノデとの雑種ホクリクイノデとの区別にこまる個体も一部で見つかっている.

文献: 神植誌1988 YU-2;MAN.

その他の文献: 岡(1990); FK(27): 255; FK(28): 284; 山本(1993): 8; 多摩丘陵植物調査会(1994): 63; 倉田・中池編(1994): 354.

 

ヨコハマイノデPolystichum ×yokohamense T. Oka et S. Ohtani

総合評価: En-D. 地域評価: 多摩(En). 原因: 森林伐採; 河川開発; 土地造成; 踏みつけ; その他(空中湿度の低下,標本採取).

アスカイノデとイノデモドキの雑種.暖帯上~中部が本拠の常緑多年草で,両親の混生する丘陵地のスギ等人工林にやや稀に見出される.基準産地は横浜市旭区.これまでは本県の旭区と緑区にしか知られていなかったが,1993年に岡利雄により茨城県筑波山でも1株発見された(岡武利-多摩丘陵植物調査会(1994): 63).横浜市では4カ所計6~8株ほどが現存するが,産地の一部は横浜市の自然公園建設工事の犠牲となり,基準産地などでも隣接地における開発の進行,それに伴う乾燥化,踏みつけなどが起きており,楽観できない状況にある.

文献: 神植誌1988 MI-1(←MI-2);AS(基準産地).

その他の文献: 大谷(1980); 大谷・岡(1980); 岡(1990); 岡(1994); 多摩丘陵植物調査会(1994): 63-64; 倉田・中池編(1994): 353.

標本: YCM-7886 AS 都岡町 1979.05.26 岡武利; YCM-3207 AS 上川井 1980.06.07 岡武利;FLK-55357 AS 矢指町 1985.08.18 山本明; FLK-55330 MI-1 三保町 1986.02.11 小崎昭則.

 

チャセンシダ科 ASPLENIACEAE

アイトキワトラノオ Asplenium pekinense × sarelii

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(En). 原因: その他(空中湿度の低下,標本採取).

トキワトラノオとコバノヒノキシダの雑種.暖帯に本拠のある常緑多年草.両親の混生する古い石垣や岩上などに稀に生育する.本州(埼玉県以南),四国,九州西部(佐賀県・熊本県)で分布が確認されている.本県では小田原で記録されたが,局所的である.

その他の文献: 田中(1984a); 倉田・中池編(1994): 359.

 

ヤマドリトラノオ Asplenium × kobayashii Tagawa; ×Asplenosorus castaneo-viridis (Bak.) Nakaike

総合評価: En-D. 地域評価: 丹沢(En) 小仏(En). 原因: 森林伐採; 道路工事; その他(空中湿度の低下,採取,土埃).

トラノオシダとクモノスシダの“雑種”.暖帯上部~温帯下部辺りに本拠のある常緑多年草で,両親の混生する湿気のかかりやすい古い石垣や岩上などにやや稀に生育する.分布は群馬県以南,広島県以北の本州で記録されており,本県では山北町と藤野町で見つかっている.藤野町の自生地では,雑種として認識しやすい中間形を呈するもの(稀)ばかりでなく,葉身の切れ込み具合が異なる様々な形のものが多数見られたことから,戻し交雑を起こしているのかも知れない.

その他の文献: 中池(1992): 784,836; 倉田・中池編(1994): 241.

 

マツ科 PINACEAE

シラビソ Abies vetichii Lindl.

総合評価: Ex-A. 地域評価: 丹沢(Ex). 原因: 産地極限.

亜高山帯に生える常緑針葉樹.林・小林・小山・大河原(1961)には塔ヶ岳の一角に高さ50~60cmのものが数本生えていることを書いているが,現在は見あたらない.

 

ゴヨウマツ Pinus parviflora Sieb. et Zucc.

総合評価: V-G. 地域評価: 丹沢(V). 原因: 産地極限.

山地に生える常緑針葉樹.県下では大山の山頂に自生が知られているのみであるが,場所が場所だけに植栽の可能性もある(浜口, 1983ほか).しかし,神植目1933,神植誌1958,宮代(1958)には丹沢山・青根,林・小林・小山・大河原(1961)には風巻~原小屋・丹沢山・世附の記録がある.もともと亜高山性の種であり,神奈川県には少ない.

文献: 神植目1933 丹沢山・青根 神植誌1958 丹沢山・青根 神植誌1988 OY.

 

コメツガ Tsuga diversifolia (Maxim.) Masters

総合評価: V-G. 地域評価: 丹沢(V). 原因: 産地極限.

亜高山帯に生える常緑針葉樹.本州,四国,九州に分布するが,神奈川県では丹沢山塊の極めて一部にのみ分布する.神植誌1988では表丹沢の行者ヶ岳で採集されている.現在では神奈川県に亜高山帯は存在しないが,本種のように,わずかな分布が認められたり,過去に記録されている亜高山性の種がいくつかある.これらの種群の分布から,過去の寒冷な時期には,神奈川県にも亜高山帯が存在したのではないかと思われる.

文献: 神植目1933 丹沢山・青根・鳥屋・蛭ヶ岳 神植誌1958 丹沢山・青根・鳥屋 神植誌1988 FUJ-1;HAT-1.

 

ヒノキ科 CUPRESSACEAE

イブキ Juniperus chinensis L.

総合評価: V-G. 地域評価: 三浦(V). 原因: 産地極限.

海岸の断崖などに生える常緑小高木.本州(宮城県以南),四国,九州に分布する.もともと暖地性の種で,神奈川県では往々神社等に植栽されているが,葉山町森戸神社などに自生状態と思われるものが生育している.神植目1933や神植誌1958の箱根の記録は植栽のものと思われる.

文献: 神植目1933 箱根 神植誌1958 鎌倉・箱根(栽植) 神植誌1988 HAY.

 

ハイネズ Juniperus conferta Parlat.

総合評価: V-G. 地域評価: 三浦(V). 原因: 海岸開発.

産地極限

海浜を低く這って広がる常緑低木.北海道,本州,九州の海岸砂地に分布する.神植誌1988では,城ケ島で記録されているが,県博には1963年に毘沙門(KPM-28272),横須賀市博には1953年に野比(YCM-11012)で採集された標本がある.最近では砂浜の開発等により厳しい状況にある.

文献: 神植目1933 三崎 神植誌1958 三崎・三浦(松輪・野比) 神植誌1988 JO;+MIU.

 

ネズミサシ Juniperus rigida Sieb. et Zucc.

総合評価: V-G. 地域評価: 三浦(?Ex) 小仏(V). 原因: 産地極限.

雌雄異株の常緑小高木.本州(岩手県以南),四国,九州に分布する.神奈川県では津久井の藤野町に見られるのみで,神植誌1958による鎌倉や神武寺の記録は自生のものか不明である.

文献: 神植目1933 津久井(佐野川) 神植誌1958 津久井(佐野川)・鎌倉・神武寺 神植誌1988 FUJ-2.

 

ミクリ科 SPARGANIACEAE

ヤマトミクリ Sparganium fallax Graebn.

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(En). 原因: 産地極限.

池,沼,水路などに生える多年草.本州,四国,九州に分布する.西日本に多いが,低地の池や沼が埋め立てられ,減少が著しく,全国版のレッドデータブックでは危急種に選定されている.神奈川県では箱根仙石原の別荘地内を流れる水路に生えているのが採集された(勝山,1989).神奈川県の産地はこの一ヶ所に限られている.

標本: FLK-102572 HAK-1 仙石原 1989.08.06 北川淑子.

 

ナガエミクリ Sparganium japonicum Rothert

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(EX) 箱根(En). 原因: 池沼開発; 水質汚濁.

池,沼,水路などに生える多年草.日本全国に分布.神奈川県では箱根仙石原の水溜に生育しているだけである(勝山,1989).横浜市神奈川区三ツ沢池や川崎市多摩区生田付近で採集された標本があり,かつては多摩丘陵内のため池や水路に分布していたことがうかがえる.

標本: FLK-102611 HAK-1 仙石原 1989.09.09 勝山輝男; KPM-49820 TAM 西生田 1951.11.18 大場達之; TI 横浜三ッ沢池 1933.10.15 K.Hisauchi.

 

ヒメミクリ Sparganium stenophyllum Maxim.

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(Ex) 三浦(Ex) 箱根(En). 原因: 池沼開発; 水質汚濁.

池,沼,水路などに生える多年草.日本全国に分布.多摩丘陵や三浦半島にいくつかの記録があり,かつては丘陵地の水路やため池に分布していたと思われるがるが,最近の記録は箱根仙石原のものだけである.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし 神植誌1988 HAK-1.

標本: FLK-58990 HAK-1 仙石原 1983.08.23 苅部治紀; KPM-80294 AS 桐ヶ作 1952.08.25 出口長男; KPM-57788 MIU 小松ヶ池 1973.10.29 高橋秀男; KPM-49832 TAM 西生田 1952.07.29 大場達之; KPM-49830 TAM 登戸 1952.07.15 大場達之; TI 武蔵登戸 1942.06.03 山崎敬.

 

 

ミクリ Sparganium stoloniferum Hamilt.

総合評価: V-H. 地域評価: 多摩(En) 相模原(En) 湘南(En) 箱根(V). 原因: 池沼開発; 河川開発.

湖沼,ため池,河川などに生える多年草.日本全国に分布.かつては県内の低地に広く分布していたが,最近ではきわめて稀になってしまった.神植誌1988では相模川下流と箱根仙石原の早川で採集され,その後の調査で大和市上草柳の引地川と横浜市鶴見区の鶴見川で採集されている.

文献: 神植目1933 大船・寒川・平塚・箱根 神植誌1958 産地記載なし 神植誌1988 HAK-1;HI-2;EB;SAM;ZA;*TAM.

 

ヒルムシロ科 POTAMOGETONACEAE

ササエビモ Potamogeton gramineus L.

総合評価: V-G. 地域評価: 箱根(V). 原因: 産地極限; 水質汚濁.

湖沼や河川に稀に見られる沈水性の多年草.北海道,青森県,栃木県,神奈川県に分布.神奈川県では箱根芦ノ湖だけに見られる.いまのところ生育状況に異常はないが,水草は水環境の変化に敏感なので,注意を要する.

文献: 神植目1933 箱根 神植誌1958 箱根 神植誌1988 HAK-3.

 

センニンモ Potamogeton maackianus Miq.

総合評価: V-G. 地域評価: 相模原(En) 箱根(S). 原因: 河川開発; 水質汚濁.

湖沼や河川に生える沈水性の多年草.日本全国に分布.神奈川県では箱根芦ノ湖,愛川町の中津川才土橋付近,伊勢原市下粕谷の3ヶ所に知られている.箱根芦ノ湖では多産し,環境も安定していて問題ないが,他の2ヶ所は絶滅が心配される.

文献: 神植目1933 箱根 神植誌1958 箱根 神植誌1988 AI;ISE-3.

 

ササバモ Potamogeton malaianus Miq.

総合評価: V-H. 地域評価: 多摩(En) 三浦(Ex) 相模原(En) 湘南(En) 西湘(V). 原因: 河川開発.

湖沼や河川に生える沈水性の多年草.本州,四国,九州に分布.神奈川県では相模川,多摩川,酒匂川などで採集されているが,河川環境の変化は激しく,注意を要する.過去の記録としては三浦半島(増島・石渡,1958)がある.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし 神植誌1988 TAM;OD-3;HI-2;HI-3;SAM;AT-5;EB.

 

ホソバミズヒキモ Potamogeton octandrus Poiret

総合評価: Ex-B. 地域評価: 多摩(Ex) 相模原(Ex) 湘南(Ex) 箱根(Ex). 原因: 池沼開発; 河川開発.

ため池や水路に生える浮葉性の多年草.日本全国に分布.河川や水路に生えるもので,沈水葉だけで浮葉を出さないものが知られている.角野(1994)はこれをナガレミズヒキモと新称している.植物誌1988で得られたFLK-59047の標本はこのようなタイプのものである.神植目1933,神植誌1958,松浦(1958)などの記録がホソバミズヒキモ,ミズヒキモ,ナガレミズヒキモのいずれであるかは標本が残されていないのでわからない.

文献: 神植目1933 ミズヒキモとして横浜・登戸・高座(海老名) 神植誌1958 ミズヒキモとして産地記載なし 神植誌1988 TAM(要検討標本).

標本: FLK-59047 TAM 宿河原 1980.08.18 森茂弥.

 

リュウノヒゲモ Potamogeton pectinatus L.

総合評価: V-G. 地域評価: 三浦(En) 相模原(V) 湘南(V). 原因: 河川開発.

沿海地の湖沼,河川,水路などに生える沈水性の多年草.日本全国に分布.神奈川県では相模川(座間市より下流),寒川町や茅ヶ崎市内の水路,久里浜などで採集されている.神植誌1988の箱根(HAK-5)は標本がなく,データミスと思われる.河川改修や水路の埋め立てで失われる恐れがあり,注意を要する.

文献: 神植誌1988 HAK-5;ZA;EB;AT-5;SAM;CH-1;CH-2;YO-3.

 

ヒロハノエビモ Potamogeton perfoliatus L.

総合評価: Ex-A. 地域評価: 三浦(Ex) 箱根(Ex). 原因: 不明.

湖や沼などに生える沈水性の多年草.自然の池に生え,水位変動のある溜め池には生じない.日本全国に分布.箱根芦ノ湖で採集された古い標本が残されているが,神植誌1988の調査では発見されなかった.1990年に箱根町の石原龍雄氏の協力を得て,芦ノ湖に船を出し水草を採集したが,その際にも見出されなかった.現在の芦ノ湖の状況ならば十分に生育が可能と思われる.今後の再発見を期待したい.また,神植目1933,神植誌1958には産地として鎌倉が記録されているが,標本の確認はできなかった.

文献: 神植目1933 鎌倉・箱根 神植誌1958 鎌倉・箱根.

標本: KPM-52118 HAK-2 芦ノ湖 1926.08.21.

 

イトモ Potamogeton pusillus L.

総合評価: En-F. 地域評価: 多摩(Ex) 相模原(En) 箱根(En). 原因: 池沼開発.

池,沼,水路などに生える沈水性の多年草.日本全国に分布.神植誌1988の調査ではアイノコイトモばかりで,イトモは発見されなかった.神植誌以前のイトモの記録はアイノコイトモを考慮していないので,標本が残されていないものは,イトモの記録として取り扱うことはできない.神奈川県ではアイノコイトモは水路や河川に普通に見られるが,イトモはきわめて稀である.現存する産地は箱根仙石原内の水溜(勝山,1990a)と厚木市荻野の弁天池(吉田・高橋,1994)の2ヶ所だけである.過去の標本では川崎市多摩区登戸で採集されたものがある.水草の標本は良い状態のものがあまり残されておらず,過去の標本については十分な調査ができなかった.

文献: 神植目1933 横浜・大船・戸塚・厚木・小田原 神植誌1958 各地 神植誌1988 アイノコイトモのみでイトモと思われるものはない.

標本: FLK-102809 HAK-1 仙石原 1989.09.09 勝山輝男; FLK-105569 AT-2 萩野弁天の池 1993.07.22 高橋秀男; KPM-49879 TAM 登戸 1950.07.15 大場達之.

 

カワツルモ Ruppia rostellata Koch

総合評価: Ex-B. 地域評価: 多摩(Ex)相模原(Ex)湘南(Ex). 原因: 河川開発;海岸開発.

海岸近くの湖沼や河口付近に生える沈水生の多年草.日本全国に分布するが,水質の悪化や自然海岸の消失に伴い,急速に減少している.自然保護協会版レッドデータブック(1989)では危急種に選定されている.神植目1933,神植誌1958の記載をみると,神奈川県でもかつては海岸付近に点々と分布していたと思われるが,現在生き残っている可能性はほとんどない.出口(1968)も「海辺地域淡水域の環境悪化で生育はほとんどむづかしいものと思われる」と書いている.神植誌1988でも確認できなかった.

文献: 神植目1933 川崎・横浜・平塚・厚木 神植誌1958 川崎・横浜・平塚・厚木.

標本: TI 武州川崎大師河原 1881.05.27.

 

イトクズモ科 ZANICHELLIACEAE

イトクズモ Zanichellia palustris L. var. indica Graebner

総合評価: Ex-A. 地域評価: 三浦(Ex). 原因: 海岸開発; 水質汚濁.

河口や内湾などの塩湿地に生える沈水性の多年草.世界に広く分布する.日本でも全国に分布するが,沿海地の開発や水質汚染により急速に減少している.自然保護協会版レッドデータブック(1989)では危急種に選定されている.神奈川県では1968年に三浦半島の江奈で採集された標本が残されているが,その後確認されていない.江奈湾の干潟は健在であり,再発見の可能性はある.

文献: 神植誌1988 *MIU.

標本: YCM-7767 MIU 江奈 1968.04.21 小板橋八千代.

 

アマモ科 ZOSTERACEAE

エビアマモ Phyllospadix japonica Makino

総合評価: En-D. 地域評価: 三浦(En). 原因: 海岸開発.

太平洋岸における分布記録は,茨城県から三重県までだが,潮下帯に見られることが多く,陸上からは目に付かないため,分布調査は不十分である.しかし,少なくとも神奈川県では,護岸などのため近年生育地が減少したと推定され,現在は鎌倉市稲村ヶ崎で見られるが,これまで記録された城ヶ島(1950年,TI),名越-小坪(1966年,MAK),片瀬(1938年,TI),久里浜(増島・石渡,1950)では見つかっていない.

文献: 神植目1933 久里浜 神植誌1958 久里浜 神植誌1988 +KA-1.

標本: YCM-21339 KA-1 稲村が崎 1992.03.08 大森雄治.

 

イバラモ科

ムサシモ Najas anchistrocarpa A.Br.

総合評価: Ex-A. 地域評価: 多摩(Ex). 原因: 池沼開発; 水質汚濁; 農薬汚染.

池,沼,水田などに生える沈水性の一年草.本州(関東以西)と四国に分布.低湿地の市街化により,全国的に稀な植物になっている.自然保護協会版レッドデータブック(1989)では危急種に選定されている.横浜を基準産地として記載されたが,最近,採集された記録はない.

 

ホッスモ Najas graminea Delile

総合評価: En-D. 地域評価: 多摩(En) 箱根(?Ex). 原因: 土地造成; 水質汚濁; 農薬汚染.

貧栄養な池,沼,山間の水田などに生える沈水性の一年草.北海道(南部),本州,四国,九州に分布する.神奈川県では多摩丘陵の谷戸田に稀に生じる.神植誌1988の調査では川崎市麻生区の栗木と黒川で採集されただけである.栗木の水田はすでに宅地造成で失われた.黒川も約半分の地域が宅地造成により失われており,絶滅が心配される.松浦(1958)にも記録があるが,証拠標本は見出せなかった.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし 神植誌1988 TAM.

標本: FLK-59247 TAM 黒川 1987.10.05 浜中義治; FLK-59248 TAM 栗木 1981.09.06 勝山輝男.

 

サガミトリゲモ Najas indica Cham.

総合評価: V-G. 地域評価: 三浦(?Ex)相模原(En)箱根(V). 原因: 土地造成; 農薬汚染.

ため池や水田に生える沈水性の一年草.本州,四国,九州に分布.神奈川県では稀で,神植誌1988では海老名市や座間市の水田で,その後の調査では箱根芦ノ湖で採集されている.海老名市や座間市周辺の水田は宅地造成により急速に減少している.

文献: 神植目1933 横須賀 神植誌1958 横須賀 神植誌1988 ZA;EB.

 

イトトリゲモ Najas japonica Nakai

総合評価: V-H. 地域評価: 多摩(En) 相模原(En) 湘南(V) 西湘(V). 原因: 土地造成; 農薬汚染.

ため池や水田に生える沈水性の一年草.北海道(南部),本州,四国,九州に分布.神奈川県では丘陵地の比較的水のきれいな水田に見られる.県内産のイバラモ科水草ではもっと普通に見られるが,谷戸田の減少,除草剤などにより減少が著しい.

文献: 神植誌1988 TAM;AT-5;MI-1;MI-2;OD-3;SAM;FU-2.

 

イバラモ Najas marina L.

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(En). 原因: 産地極限.

池,沼,水路などに生える沈水性の一年草.日本全国に分布する.神奈川県では箱根芦ノ湖で採集された(勝山,1990a).芦ノ湖では北部の早川口付近で多くの個体が観察された.神植目1933,神植誌1958に名前は出ているが,産地や産量は記載がなく,過去の分布状況は不明である.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし.

標本: FLK-106218 HAK-3 芦ノ湖 1990.09.25 勝山輝男ほか.

 

トリゲモ Najas minor All.

総合評価: En-D. 地域評価: 多摩(?Ex) 湘南(En). 原因: 土地造成; 水質汚濁; 農薬汚染.

池,沼,水田などに生える沈水性の一年草.本州(関東以西),四国,九州に分布.角野(1994)によると,オオトリゲモ N. oguraensis Miki との区別は微妙で,トリゲモとされているものにオオトリゲモがかなり含まれているようである.神植誌1988の調査では平塚市北豊田で採集されている.神植目1933,神植誌1958に川崎・横浜が,宮代(1958)には横浜・川崎・登戸の産地が記されているが,標本は確認できなかった.

文献: 神植目1933 川崎・横浜 神植誌1958 川崎・横浜 神植誌1988 HI-2.

標本: HCM-33964 HI-2 北豊田 1982.09.07 浜口哲一.

 

シバナ科 JUNCAGINACEAE

シバナ Triglochin maritimum L. var. asiaticum Ohwi

総合評価: Ex-A. 地域評価: 多摩(Ex) 箱根(?Ex). 原因: 海岸開発.

河口や内湾などの塩湿地に生える多年草.北半球の温帯に広く分布.日本でも全国に広く分布するが,北海道や東北地方を除いて産地,個体数ともに少ない.自然保護協会版レッドデータブック(1989)では危急種に選定されている.神奈川県ではかつて横浜の平沼が干潟だった頃の標本が残されているが,1915年(大正4年)に埋め立てにより絶滅した(牧野,1917).松浦(1958)に芦ノ湖とあるが標本は確認していない.1980年頃,一時的に川崎市川崎区の東扇島に生じたことがある(小崎私信).

文献: 神植目1933 横浜 神植誌1958 横浜 絶滅 神植誌1988 *KAN;+NIS.

標本: TI 横浜市平沼 1920.08.10 K.Hisauchi; TI 武蔵横浜 1912.08.20 久内清孝; MAK-226663 武蔵横浜平沼 1913年9月21日 牧野富太郎; MAK-194633 武蔵平沼 1888.08.26 牧野富太郎; MAK-194634 武蔵神奈川附近 1893.10 牧野富太郎; MAK-194632 武蔵神奈川浦島山 1904 牧野富太郎.

 

オモダカ科 ALISMATACEAE

トウゴクヘラオモダカ Alisma rariflorum Sam.

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(V) 相模原(En) 箱根(Ex). 原因: 草地開発; 土地造成.

池,沼,湿地などに生える多年草.本州,九州?に分布.近縁のヘラオモダカよりも水が冷たく貧栄養な所に生える.神奈川県では古いものも含めて川崎市多摩区,横浜市旭区,保土ヶ谷区,城山町,箱根仙石原に記録がある(勝山,1990b).最近では川崎市多摩区生田緑地,横浜市旭区川井宿町,城山町穴川の3ヶ所で採集されているが,川井宿町の産地は都筑自然公園整備地内であり,保存しながらの造成が望まれる.

文献: 神植誌1958 産地記載なし 神植誌1988 補遺で訂正 AS;SH;*HAK-1.

 

サジオモダカ Alisma plantago-aquatica L.

総合評価: Ex-B. 地域評価: 多摩 (Ex) 湘南(Ex) 箱根(Ex).原因: 池沼開発.

池や沼に生える多年草.北海道,本州,四国に分布するが北日本に多い.今回の標本調査により,牧野富太郎が横浜と平塚で採集した古い標本が都立大に残されているのを見出した.横浜の標本は採集年月日が1911年9月24日になっている.同日に牧野富太郎が神奈川区の三ツ沢池(今はない)で採集したヒナザサとヤナギヌカボの標本があるので,この産地は三ツ沢池と想像される.松浦(1958)に箱根の記録があるが具体的な産地の引用はない.川崎市多摩区登戸付近の記録もある(東京女子医学薬学専門学校,1932).その後,神奈川県内から採集された記録はない.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし.

標本: MAK-176081 武蔵横浜 1911.9.24 牧野富太郎; MAK-176080 Hiraduka Sagami 1895.8.4 牧野富太郎.

 

アギナシ Sagittaria aginashi Makino

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(En) 西湘(Ex) 箱根(Ex). 原因: 池沼開発; 水質汚濁.

水田やため池に生える多年草.日本全国に分布.類似するオモダカが水田雑草であるのに対し,本種はより自然度の高い湿地に生える.神植誌1958には産地は記されていないが,産量は普通とある.松浦(1958)には箱根仙石原,小田原,出口(1968)には上白根池,桐ヶ作池の記録がある.神植誌1988では多摩区黒川で採集されただけである.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし 普通 神植誌1988 TAM.

標本: FLK-59163 TAM 黒川 1987.09.18 小崎昭則; KPM-15938 TAM 登戸 1951.08.26 大場達之.

 

トチカガミ科 HYDROCHARITACEAE

ヤナギスブタ Blyxa japonica Maxim.

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(En) 湘南(V) 箱根(Ex). 原因: 土地造成; 農薬汚染.

水田やため池に生える沈水性の一年草.本州,四国,九州に分布.かつては神奈川県各地に見られた水田雑草であるが,除草剤の使用により急速に減少してしまった.神植誌1988の調査では川崎市多摩区の黒川と栗木,横浜市緑区寺家,平塚市名古木の4ヶ所で採集されただけである.このうち川崎市多摩区の2ヶ所は1990年頃宅地造成により失われた.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし 普通 神植誌1988 TAM;MI-1;HAT-3.

 

ミカワスブタ Blyxa leiosperma Koidz.

総合評価: En-D. 地域評価: 相模原(En). 原因: 土地造成; 水質汚濁; 農薬汚染.

水田やため池に生える沈水性の一年草.角野(1994)によると,ミカワスブタはスブタの一形またはヤナギスブタの茎の発達の悪いものの可能性があるという.神奈川県では神植誌1988の調査で厚木市上荻野で採集されただけである.

文献: 神植誌1988 AT-1.

標本: FLK-59206 AT-1 上荻野 1983.08.02 諏訪哲夫.

 

ウミヒルモ Halophila ovalis Hook.f.

総合評価: V-G. 地域評価: 三浦(V). 原因: 海岸開発; 草地開発.

太平洋岸における分布の北限にあたり,横浜市金沢と三崎の記録がある.最近,城ヶ島だけでなく小田和湾でも採集された(YCM).海底の砂泥地に生育するため,調査は不十分である.地下茎が砂泥地をはい,小型の葉が海底に展開するので,海底が移動し易かったり,海の透明度が悪くなれば姿を消すと考えられる.金沢は人工の海浜地として改変されたので,期待できないし,小田和湾では海水の汚染が進んでおり,生育環境の悪化が危惧される.本種以外の海草,アマモ科のタチアマモ,アマモ,コアマモも内湾の砂泥地に生育し,埋め立てや護岸,水質の悪化などの影響を受けやすい.いずれも全国的に減少しており,今後の環境変化に注意を要する.

文献: 神植目1933 金沢・三崎 神植誌1958 金沢・三崎 神植誌1988 +JO;+MIU.

 

クロモ Hydrilla verticillata Royle

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(Ex) 箱根(En). 原因: 池沼開発; 水質汚濁; 帰化競合.

湖沼や河川に生える沈水性の多年草.日本全国に分布.神植目1933をはじめ多くの文献に名前がでているが,神植誌1988では採集されなかった.その後,箱根芦ノ湖には多数が現存することを確認した(勝山,1990a).かつては平地の水路やため池などに普通にみられたのであろうが,水質の悪化や,競合するコカナダモやオオカナダモの侵入により,急速に失われたのだろうか.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし 神植誌1988 記述があるが分布図なし.

標本: FLK-106215 HAK-3 芦ノ湖 1990.09.25 勝山輝男ほか.

 

トチカガミ Hydrocharis dubia Backer

総合評価: En-F. 地域評価: 多摩(Ex) 湘南(En) 箱根(Ex). 原因: 池沼開発.

湖沼や水路などに生える浮遊性の多年草.本州,四国,九州に分布.箱根(松浦,1958)や川崎市登戸付近(東京女子医学薬学専門学校,1932)に記録があるが,神植誌1988の調査では茅ヶ崎市堤の休耕田に一時的に発生したのが採集されただけだある.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし 普通 神植誌1988 CH-1.

標本: HCM-33931 CH-1 堤 1983.05.31 三輪徳子.

 

ミズオオバコ Ottelia alismoides Pers.

総合評価: V-H. 地域評価: 多摩(Ex) 三浦(En) 相模原(V) 湘南(En) 西湘(V). 原因: 農薬汚染.

溜め池,水路,水田などに生える沈水性の1年草.日本全国に分布.かつては水田雑草として普通に見られたと考えられるが,農薬の使用により急速に減少してしまった.神奈川県では県央の水田に稀に発生するのみ.多摩丘陵では植物誌1988の調査の際,川崎市麻生区黒川や栗木の水田に多数見られたが,いずれも宅地造成で失われてしまった.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし 神植誌1988 TAM;KA-1;TO-2;TO-3;AT-1;AT-5;ZA;EB;ISE-2;HI-2;NAI.

 

セキショウモ Vallisneria asiatica Miki

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(En) 箱根(V). 原因: 池沼開発; 動物食害.

湖沼,ため池,河川などに生える沈水性の多年草.日本全国に分布.神奈川県ではかつてはため池に普通にみられた(神植誌1958)が,神植誌1988の調査では箱根芦ノ湖と横浜市鶴見区の三ツ池の2ヶ所で採集されただけである.三ツ池ではコイが繁殖し,水草を食べており,絶滅が心配される.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし 普通 神植誌1988 HAK-2;HAK-3;TSR.

 

コウガイモ Vallisneria denseserrulata Makino

総合評価: En-D. 地域評価: 多摩(En). 原因: 河川開発; 水質汚濁.

池や河川の水底に生える沈水性の多年草.本州,九州に分布.神奈川県では川崎市多摩区宿河原付近の多摩川で採集されただけである.採集当時と川の状態は大きく変わってはいないが,その後,調査はしていない.

文献: 神植誌1988 TAM.

標本: FLK-59207 TAM 宿河原 1980.08.18 森茂弥.

 

イネ科 POACEAE

ヒメコヌカグサ Agrostis nipponensis Honda

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(Ex) 箱根(V). 原因: 草地開発; 自然遷移.

山地の湿った場所に生える多年草.関東以西の本州,四国,九州に分布する.日本固有の植物.神奈川県内だけでなく,全国的にも生育地が減少しており自然保護協会版レッドデータブック(1989)でも「絶滅寸前」と扱われている.神奈川県では箱根に産し,かつては川崎市多摩区登戸付近にも記録がある(奥山,1948a).

文献: 神植誌1988 HAK-1.

 

ヒナザサ Coelachine japonica Hack.

総合評価: Ex-B. 地域評価: 多摩(Ex) 箱根(Ex). 原因: 草地開発.

水位の変化の大きい溜池の縁の裸地などに生える1年草.本州,四国,九州に分布する.日本固有の植物.牧野富太郎が箱根で1886年に,横浜三ッ沢で1911年に採集した標本が都立大学牧野標本館に収蔵されていた.その後,神奈川県内から採集された記録はない.

文献: 神植目1933 横浜・箱根 神植誌1958 横浜・箱根 稀.

標本: MAK-8114 神奈川三ッ沢 1911.09.24 牧野富太郎; MAK-158690 箱根 1886.09.15 牧野富太郎.

 

ハマニンニク Elymus mollis Trin.

総合評価: V-G. 地域評価: 三浦(V) 湘南(V). 原因: 産地極限.

砂浜に生える大型の多年草.北海道から九州に分布する.日本海側ではふつうに見られる.湘南のものは植栽,三浦のものは自生と思われる.

文献: 神植誌1988 MIU;FU-3;CH-2;HI-3.

 

ヒメウキガヤ Glyceria depauperata Ohwi var. depauperata Ohwi

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(En) 相模原(En). 原因: 池沼開発.

低地の水辺に生える多年草.本州,北海道に分布する.外穎が長いものを変種ウキガヤとして区別することもある.ここではウキガヤも含めて評価した.神植誌1988の産地の他に,ウキガヤが1994年夏に茅ヶ崎市の水田脇の水辺で確認された(小崎私信).

文献: 神植誌1958 産地記載なし 稀 神植誌1988 SA-2;TO-3.

標本: ヒメウキガヤ FLK-62763 TO-3 瀬上市民の森 1983.04.30 高橋秀男; FLK-62764 SA-2 当麻 1986.05.15 高橋秀男; ウキガヤ FLK-62765 SA-2 勝坂 1985.06.07 高橋秀男.

 

ハイチゴザサ Isachne nipponensis Ohwi

総合評価: V-G. 地域評価: 相模原(V). 原因: 自然遷移.

暖地の林床や湿地に生える多年草.本州の南西部から沖縄に分布する.神植誌1988の調査の際に津久井町,厚木市,愛川町で採集されたが,その後,愛川町では生き続けていることが今回の調査で確認された.

文献: 神植誌1988 TS-5;AI;AT-1.

 

ミノボロ Koeleria cristata Pers.

総合評価: V-H. 地域評価: 多摩(En) 西湘(V) 箱根(En). 原因: 草地開発.

低地から丘陵地の明るい草原に生える多年草.北海道から九州に分布する.神植誌1958では普通にあるとされているが,神植誌1988では,川崎市多摩区,高津区,横浜市緑区や秦野市で採集され,その後湯河原町でも記録されている.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし 普通 神植誌1988 TAM;TAK;MI-1;HAT-5.

 

キダチネズミガヤ Muhlenbergia ramosa Makino

総合評価: V-H. 地域評価: 多摩(Ex) 三浦(Ex) 西湘(V) 丹沢(Ex) 箱根(Ex). 原因: 河川開発; 土地造成.

林中に生える多年草.本州中部以西に分布する.神植誌1988の産地のうち,川崎市多摩区黒川のものは宅地造成のために,緑区新治町のものは河川改修のために失われてしまった.過去の記録では逗子の二子の谷(神植目1933),箱根(松浦,1958),丹沢ユーシンと津久井(林・小林・小山・大河原,1961)があるが今はない.

文献: 神植目1933 横浜・三浦(二子山の谷)・箱根 神植誌1988 TAM;MI-1;HAT-4.

 

アイアシ Phacelurus latifolius Ohwi

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(V) 三浦(V). 原因: 産地極限; 海岸開発.

海辺の湿地に生える大型の多年草.北海道から九州に見られる.県内は多摩川の河口,三浦の内湾の波食台上の汐だまりに見られる.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1988 KAW;KA-1;MIU;YO-1;YO-2;YO-4.

 

セイコノヨシ Phragmites karka Trin.

総合評価: Ex-A. 地域評価: 三浦(Ex). 原因: 産地極限; 湿地開発.

河口に近い水辺に生える大型の多年草.本州から沖縄に分布する.セイタカヨシともいう.横浜市南区中里の産地は失われた.鎌倉で採集された標本が残されているが,最近,鎌倉周辺からの報告はない.

文献: 神植誌1988 MIN.

標本: FLK-101280 MIN 中里町 1979.10.17 長谷川義人; YCM-11448 KA-1 深沢 1964.09.20 間瀬美保子.

 

オニシバ Zoysia macrostachya Franch. et Sav.

総合評価: En-E. 地域評価: 湘南(En) 三浦(En). 原因: 海岸開発; 踏みつけ.

海辺の砂地に生える多年草.本州から沖縄に分布する.砂浜の過剰な利用のために生育地が減っている.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし 普通 神植誌1988 FU-3;*KA-1.

標本: YCM-5629 JO 1983.11.28 浜中義治; YCM-5630 YO-2 走水 1983.08.10 浜中義治; YCM-21466 MIU 上宮田 1983.05.31 鈴木一喜; HCM-33547 FU-3 辻堂海岸 1984.07.3 斎藤溢子.

 

ナガミノオニシバ Zoysia sinica Hance var. nipponica Ohwi

総合評価: V-G. 地域評価: 三浦(V). 原因: 海岸開発; 踏みつけ.

海辺の砂地に生える多年草.関東以西の本州,四国,九州に分布する.砂浜の過剰な利用のために生育地が失われている.

文献: 神植誌1988 YO-4;MIU.

 

スナシバ Zoysia x hondana Ohwi

総合評価: En-D. 地域評価: 湘南(En). 原因: 海岸開発; 踏みつけ.

海岸に生える多年草.砂浜の過剰な利用のために生育地が失われている.神植誌1988では採集できなかったが,その後,茅ヶ崎市柳島で見つかった(勝山1990a).大井は本種をシバとオニシバの雑種と推定している.しかし,結実するので分類学的な検討が必要である.それ以前に絶滅させないようにしたいものである.平塚が基準産地.

標本: FLK-102804 CH-2 柳島 1989.05.02 勝山輝男.

 

タケ科 BAMBUSACEAE

ヨコハマダケ Pleioblastus matsunoi Nakai

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(En) 湘南(S). 原因: 不明.

1925年に横浜市西区西戸部町で発見,命名された.西区西戸部町周辺には今も健在で,広範囲に点々と小群落がある.戸塚区, 横須賀市, 小田原市などにもあるという.

文献: 神植目1933 横浜 神植誌1958 産地記載なし 神植誌1988 NIS;TO-2;YO-4;小田原市入生田.

 

カヤツリグサ科 CYPERACEAE

クロカワズスゲ Carex arenicola Fr.Schm.

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(Ex) 三浦(V) 湘南(V) 箱根(En). 原因: 草地開発.

砂質の湿地に生える多年草で沿海地に多い.日本全国に分布.神奈川県では湘南,三浦,箱根に分布する.神植誌1988の調査では湘南で4ヶ所から採集されているが,これらの地域では市街地化が激しく,絶滅が心配される.過去の記録には川崎市多摩区登戸(帝国女子医学薬学専門学校,1932; ; 宮代,1958)がある.

文献: 神植目1933 横須賀・横浜・鎌倉・鵠沼・茅ヶ崎 神植誌1958 横須賀・横浜・鎌倉・鵠沼・茅ヶ崎 やや稀 神植誌1988 YO-5;FU-3;CH-1;CH-2;HI-3;HAK-4.

 

オオタマツリスゲ Carex filipes Franch. et Sav. var. rouyana (Franch.) Kukenth.

総合評価: Ex-B. 地域評価: 多摩(Ex) 丹沢(Ex) 小仏(Ex). 原因: 不明.

樹林内に生える多年草.本州(関東,中部,近畿),四国に分布する.奥多摩方面には多産するが,神奈川県内の記録は少ない.神植誌1988の緑区の記録はきわめて貧弱な個体ですでにない.今後,小仏山地から丹沢の北面にかけて発見される可能性はある.

文献: 神植誌1958 産地記載なし 稀 神植誌1988 MI-1.

標本: FLK-73968 MI-1 長津田 1986.04.27 勝山輝男; KPM-13039 SH 城山 1955.05.03 大場達之; TI 相州大山 1884.06 ?.

 

ウマスゲ Carex idzuroei Franch. et Sav.

総合評価: Ex-B. 地域評価: 多摩(Ex) 相模原(?Ex) 箱根(?Ex). 原因: 湿地開発.

湿地に生える多年草.本州から九州に分布.神植目1933や神植誌1958にいくつかの産地が書かれているが,いずれも証拠標本は見出せなかった.多摩川,鶴見川,境川などの氾濫原に生えていたものと想像される.箱根の仙石原も環境的には生育の可能性はあるが,かなり重点的に調べたが見出すことはできなかった.神植誌1988の高津区平の産地は開発が進んでおり,再発見は難しいと思われる.

文献: 神植目1933 横浜・高座・大山・箱根 神植誌1958 横浜・高座・大山・箱根 やや稀 神植誌1988 TAK.

標本: FLK-74105 TAK 平 1979.05.25 黒沢一之.

 

センダイスゲ Carex lenta D.Don var. sendaica (Franch.) T.Koyama

総合評価: En-D. 地域評価: 三浦(En). 原因: 海岸開発; 自然遷移.

芝地や岩場に生える多年草.本州,四国,九州に分布.神奈川県では三浦半島の海岸芝地に稀に生える.

文献: 神植誌1988 YO-4.

標本: FLK-102317 MIU 黒崎 1989.10.07 勝山輝男; FLK-74647 YO-4 長浜 1983.10.22 高橋秀男.

 

ヤガミスゲ Carex maackii Maxim.

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(Ex) 三浦(En). 原因: 河川開発.

河川敷などの湿った草地に生える多年草.北海道,本州,九州に分布.神植目1933や宮代(1958)では横浜・橘樹・鎌倉・登戸を,神植誌1958では横浜と鎌倉をあげ,やや普通としている.東京大学総合研究資料館には多摩川の東京都側で採集された標本が残されており,神奈川県側にも生育していたと推定される.河川改修により本種の生えるような環境は急減し,神植誌1988の調査ではついに採集されなかった.1992年に金沢区富岡で採集されたのが,最近の随一の記録である(勝山1993a).

文献: 神植目1933 横浜・橘樹・鎌倉 神植誌1958 横浜・鎌倉 やや普通.

標本: FLK-104552 KAZ 富岡東 1992.05.17 浜中義治; TI 武蔵調布多摩川 1933.05.07 伊澤一男.

 

タチスゲ Carex maculata Boott

総合評価: Ex-A. 地域評価: 多摩(Ex). 原因: 草地開発.

湿地に生える多年草.本州(宮城県以南),四国,九州に分布.神奈川県では川崎市多摩区登戸で採集された標本があるが,現在は見られない.神植目1933,神植誌1958に横浜とあるが,標本を確認することはできなかった.静岡県西部には多産し,関東平野にも見られるが,富士・箱根地域には欠ける.今後,県北部から多摩丘陵方面で再発見される可能性はある.

文献: 神植目1933 横浜 神植誌1958 横浜 稀.

標本: KPM-12577 TAM 登戸 1953.04.15 大場達之.

 

マメスゲ Carex pudica Honda

総合評価: Ex-A. 地域評価: 箱根(Ex). 原因: 土地造成.

湿った樹林内に生える多年草.本州に分布.神奈川県では箱根仙石原の住宅地に隣接する林縁で採集された(勝山1993a).この場所は1994年に造成により失われた.

標本: FLK-104546 HAK-1 仙石原 1992.05.19 勝山輝男.

 

サドスゲ Carex sadoensis Franch.

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(En). 原因: 産地極限.

湿地に生える多年草.北海道,本州(主に日本海側)に分布.神奈川県では神植誌1988の調査で箱根町二の平の須沢の堰堤内の湿地で採集された.サドスゲは日本海側の植物で,箱根のものは水鳥により偶然運ばれたものであろうか.

文献: 神植誌1988 HAK-6.

標本: FLK-75129 HAK-6 須沢 1985.05.30 勝山輝男.

 

カンエンガヤツリ Cyperus exaltatus Retz. var. iwasakii (Makino) T.Koyama

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(V). 原因: 池沼開発; 河川開発.

河川や湖沼に生える1年草.本州(関東,東北)に分布.神植誌1988では川崎市多摩区,高津区,中原区の多摩川で採集されていた.その後,1989年に横浜市緑区や港北区の鶴見川でも採集された.いずれも散発的に出現し,個体数は少ない.鶴見川では堤防内の高水敷を工事することが多く,絶滅が心配される.

文献: 神植誌1988 TAM;TAK;NAH.

 

オニガヤツリ Cyperus pilosus Vahl

総合評価: Ex-A. 地域評価: 三浦(Ex). 原因: 不明.

湿地や水田に生える多年草.関東以南の本州,四国,九州,東南アジアからアフリカに分布する.熱帯系のカヤツリグサで西南日本に多い.神植目1933に三浦の記録があり,神植誌1958や大谷(1959)もこれを引用しているものと思われが,標本の確認はできなかった.

文献: 神植目1933 三浦 神植誌1958 三浦 神植誌1988 +MIU.

 

ミズハナビ Cyperus tenuispica Steud.

総合評価: En-E. 地域評価: 西湘(En)小仏(Ex). 原因:不明.

水田畦などに生える一年草.本州(福島県以南),九州,四国に分布.ミズハナビとして同定されているものにはツルナシコアゼガヤツリ(Cyperus halpan)が紛れていることが多く,ミズハナビそのものは比較的稀な植物である(北川・勝山,1994).したがって,標本を確認しないと,確かな分布とはしがたい.神植誌1988の調査では南足柄市関本付近の水田畦で採集されただけである.

文献: 神植誌1988 MIA-3.

標本: FLK-76308 MIA-3 関本 1983.08.14 勝山輝男; KPM-79390 SAG 相模湖 1951.09.30 武井尚.

 

ヤリハリイ Eleocharis congesta D.Don var. subvivipara (Boecklr.) T.Koyama

総合評価: Ex-A. 地域評価: 箱根(Ex). 原因: 不明.

湿地に生える一年草.本州,四国,九州に分布する.シノニムの E. nipponica Makino の基準産地は箱根芦ノ湖になっている(Makino,1904)が,今回の標本調査では確認できなかった.一般にハリイ属では雑種の小穂は細長くなる.ヤリハリイはハリイとエゾハリイの雑種との説もある.尚,エゾハリイは神奈川県に分布の可能性があるが,これまでに神奈川県で採集された標本は見ていない.

文献: 神植誌1988 +HAK-5.

 

イヌクログワイ Eleocharis dulcis (Burm.f.) Trin.

総合評価: Ex-A. 地域評価: 三浦(Ex). 原因: 草地開発.

水田や池に生える多年草.本州,四国,九州,アジア~アフリカの熱帯に広く分布する.本州では近畿以西生え,三浦半島に離れて記録がある(大谷・小山1961).大谷が1959年に久里浜で採集したものを大谷・小山(1961)がイヌクログワイとした.その後, 採集された記録はない.

文献: 神植目1933  神植誌1988 *MIU.

標本: YCM-11330 YO-2 吉井 1959.11.10 大谷 茂.

 

ヒメハリイ Eleocharis kamtschatica (C.A.Mey.) Komar.

総合評価: Ex-A. 地域評価: 三浦(Ex). 原因: 草地開発.

湿地に生える多年草.北海道,本州,九州北部に分布する.北日本には多いが,神奈川県では三浦半島に記録があるだけである.三浦市下宮田には現在見あたらない.

文献: 神植誌1988 *MIU.

標本: TI 三浦半島下宮田 1929.6.16 籾山泰一.

 

コツブヌマハリイ Eleocharis parvinux Ohwi

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(En) 西湘(En) 箱根(S). 原因: 草地開発.

湖沼や湿地に生える多年草.本州(関東,中部,東北)に分布.神植誌1988の調査で箱根のお玉ヶ池に群生しているのが確認された.その後,横浜市緑区の鶴見川(勝山,1990a)や大和市泉の森の水源でも採集された.お玉ヶ池以外の産地は個体数が少なく,安定した産地とはいえない.

文献: 神植誌1988 HAK-5.

 

スジヌマハリイ Eleocharis valleculosa Ohwi

総合評価: Ex-A. 地域評価: 多摩(Ex). 原因: 河川開発.

湿地に生える多年草.本州(東北,関東,中部)と九州に分布.分布の把握が不十分なので今後産地は増える可能性がある.自然保護協会版レッドデータブック(1989)では危急種に選定されている.神奈川県では川崎市多摩区登戸と横浜市港北区に記録がある.登戸の産地の詳細は不明であるが,多摩川の河畔と想像される.帝国女子医学薬学専門学校(1932)にも登戸の記録として,ヌマハリイが出ているが,これはスジヌマハリイの可能性がある.港北区の産地はニュータウン内の宅地造成地内にできた湿地で,水鳥が運んできたものと考える.いずれも現在は失われた.

標本: FLK-100609 KOH 牛久保 1988.08.14 小崎昭則; KPM-31558 TAM 登戸 1951.05.06 大場達之.

 

サギスゲ Eriophorum gracile Koch

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(En). 原因: 産地極限; 自然遷移.

湿地に生える多年草.北海道,本州(中部以北)に分布する.神奈川県ではかつて箱根仙石原に生えていたが,絶滅したものと考えられていた(神植誌1988).その後,1989年に生育が再確認された.生育地は保護されているが,個体数が少ないので注意が必要である.

文献: 神植誌1988 +HAK-1.

標本: FLK-100393 HAK-1 仙石原湿原 1989.06.12 井上香世子.

 

ノテンツキ Fimbristylis complanata (Retz.) Link.

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(Ex?) 箱根(En). 原因: 不明.

湿った草地に生える多年草.本州,四国,九州に分布.神植誌1958には産量やや普通とあるが,神植誌1988の調査では保土ヶ谷区花見台1ヶ所で採集されただけである.現在,花見台には見られないので,県内の産地は箱根仙石原に限られる.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし やや普通 神植誌1988 HO.

標本: FLK-76482 HO 花見台 1986.07.17 吉川アサ子; FLK-105277 HAK-1 仙石原 1991.06.18 小崎昭則.

 

ナガボテンツキ Fimbristylis longispica Steud.

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(Ex) 三浦(En). 原因: 海岸開発.

沿海地の湿った草地に生える.本州,四国,九州に分布.神奈川県では三浦半島に見られるが,年々減少している.かつては東京湾沿岸にも分布していたと思われるが,今は見るかげもない.

文献: 神植誌1958 横浜・金沢・三浦 稀 神植誌1988 MIU.

標本: FLK-104098 MIU 毘沙門 1991.08.26 勝山輝男; YCM-11338 MIU 引橋 1960.09.11 大谷 茂.

 

ヤリテンツキ Fimbristylis monostachya (L.) Hassk.

総合評価: En-D. 地域評価: 三浦(En). 原因: 産地極限; 踏みつけ.

芝地に生える多年草.本州(神奈川,和歌山),九州,琉球に分布.琉球では海岸付近に普通に見られるが,他では稀.神奈川県では三浦半島黒崎の鼻付近の芝地に生える.最近,この付近の芝地にオフロードのオートバイが乗り入れ,裸地化が進み個体数が減少している.

文献: 神植誌1988 +MIU.

標本: FLK-100538 MIU 黒崎の鼻 1987.10.11 酒井藤夫.

 

ビロードテンツキ Fimbristylis sericea (Poir.) R.Br.

総合評価: V-G. 地域評価: 三浦(En) 湘南(V) 西湘(V). 原因: 海岸開発; 踏みつけ.

海岸の砂浜に生える多年草.本州,四国,九州に分布.神奈川県では湘南海岸と三浦海岸に分布する.湘南海岸では海浜植物群落が衰退しつつあり,本種も減少が著しく絶滅が心配される.

文献: 神植目1933 三浦・鎌倉・鵠沼・茅ヶ崎・平塚・大磯 神植誌1958 三浦・鎌倉・鵠沼・茅ヶ崎・平塚・大磯 やや稀 神植誌1988 OIS;CH-2;FU-3;YO-5;MIU.

 

アオテンツキ Fimbristylis verrucifera Makino

総合評価: Ex-A. 地域評価: 多摩(Ex). 原因: 池沼開発.

池や河畔の水が引いた跡に生える一年草.本州以南に分布.神植目1933に横浜とあるが,標本は確認できなかった.神植誌1958,奥山(1948a)は神植目1933を引用したものであろう.

文献: 神植目1933 横浜 神植誌1958 横浜 稀.

 

コイヌノハナヒゲ Rhynchospora fujiiana Makino

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(En). 原因: 草地開発; 自然遷移.

湿地に生える多年草.日本全国に分布.神奈川県では箱根にのみ産し,仙石原や湯河原方面の湿地に生える.仙石原では天然記念物保護地付近や早川に沿った別荘地内などに出現する.別荘地の開発や仙石原湿地の遷移で近年減少しつつある.

文献: 神植誌1988 *HAK-1.

標本: FLK-102185 HAK-1 仙石原 1989.08.07 小崎昭則.

 

コマツカサススキ Scirpus fuirenoides Maxim.

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(En) 湘南(Ex) 箱根(Ex). 原因: 草地開発.

湿地に生える多年草.本州,四国,九州に分布.神植誌1988では瀬谷区東野と鶴見区大黒埠頭で採集されたが,このうち大黒埠頭は埋立地に一時的に生じたもので,現在では埠頭そのものがコンクリートでかためられてしまった.過去の標本のうち旭区上白根は上白根大池で採集されたものと思われるが,池は埋め立てられ公園になってしまった.桐ヶ作の大池は池そのものは残っているが,公園として整備されており,本種の生える環境ではなくなった.神植目1933,神植誌1958,松浦(1958)などに箱根の記録があるが今はない.散発的に出現する種類なので,今後も発見されるであろうが,安定して生える環境は県内にはなくなってしまった.

文献: 神植目1933 横浜・平塚・箱根 神植誌1958 横浜・平塚・箱根 稀 神植誌1988 SE;TSR.

標本: FLK-76699 SE 東野 1981.10.04 鮒橋郁夫; FLK-76700 TSR 大黒埠頭 1980.08.18 森茂弥; KPM-78707 AS 桐ヶ作 1952.08.25 出口長男; KPM-78706 AS 上白根町 1952.09.13 出口長男.

 

ヒメホタルイ Scirpus lineolatus Franch. et Sav.

総合評価: V-G. 地域評価: 三浦(Ex) 箱根(S). 原因: 池沼開発.

湖沼や湿地に群生する多年草.日本全国に分布.神奈川県では三浦半島と箱根に記録があるが,神植誌1988の調査では三浦半島からは発見できなかった.箱根ではお玉ヶ池,精進池に群生している.

文献: 神植目1933 三浦・箱根 神植誌1958 三浦・箱根 普通 神植誌1988 HAK-4;HAK-5.

 

シズイ Scirpus nipponicus Makino

総合評価: Ex-A. 地域評価: 多摩(Ex). 原因: 池沼開発.

池の周辺などの湿地に生える多年草.日本全国に分布.久内(1934)は横浜市神奈川区三ツ沢池で採集し,神奈川県からは初記録としている.三ツ沢池からはシズイの他にサジオモダカ,ナガエミクリ,ヒナザサ,ヤナギヌカボなどの湿地性の植物が採集されており,横浜の好植物採集地であったと想像される.今回の標本調査により1905年に採集された武蔵都筑郡白根の標本が見出された.かつての上白根大池あたりにあったものと考えられる.原(1936)には川崎市生田緑地付近「字初山の池」に1935年頃まであったという.現在の宮前区初山付近に該当する池はない.

文献: 神植誌1958 産地記載なし 極めて稀 神植誌1988 +KAN.

標本: TI Mitsuzawa Yokohama 1933.10.15 K.Hisauchi; MAK-228335 武蔵都筑郡白根 1905.08 ?.

 

イセウキヤガラ Scirpus planiculmis Fr.Schm.

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(V) 三浦(V). 原因: 海岸開発.

河口や内湾などの塩湿地に生える.北海道,本州に分布.神植誌1988の調査では多摩川河口に群生しているのが確認できた.その後,1990年に三浦半島南部と緑区佐江戸の鶴見川河川敷で採集された.鶴見川の産地は一時的な発生と思われ,1992年頃にはメリケンガヤツリの繁茂と河川敷工事のための撹乱で失われてしまった.

文献: 神植誌1988 KAW.

 

ハタベカンガレイ Scirpus sp.

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(En). 原因: 産地極限.

湿地に生える多年草.1989年に箱根仙石原で見つかり,ハコネカンガレイと仮称された.後に小崎(1992a)はこれが熊本県の阿蘇端辺原野で採集されハタベカンガレイ(仮称)と同一のものとした.まだ記載はされていない.仙石原湿原内を流れる小さな流れの中に数株が確認されただけである.今後,分類学的に検討がなされる前に絶滅しないよう注意を要する.

標本: FLK-105273 HAK-1 仙石原 1992.09.02 小崎昭則.

 

タイワンヤマイ Scirpus wallichii Nees

総合評価: En-D. 地域評価: 丹沢(En). 原因: 不明.

水田や湿地に生える多年草.本州,四国,九州に分布.神奈川県では山北町谷ヶ付近で採集されたのが随一の記録である.谷ヶに現存するかどうかは不明である.

文献: 神植誌1988 YA-7.

標本: FLK-76840 YA-7 谷ケ 1984.09.15 勝山輝男.

 

コシンジュガヤ Scleria parvula Steud.

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(Ex) 箱根(V). 原因: 土地造成; 自然遷移.

湿地に生える多年草.本州,四国,九州に分布.神奈川県では箱根仙石原に安定して見られるが,最近やや減少気味である.かつては横浜市旭区の上白根大池にあった(KPM-81248 1952.9.21 出口長男)が,池は埋め立てられ公園になってしまった.

文献: 神植目1933 箱根 神植誌1958 箱根 普通 神植誌1988 HAK-1;*AS.

 

ウキクサ科 LEMNACEAE

ヒンジモ Lemna trisulca L.

総合評価: Ex-B. 地域評価: 湘南(Ex) 箱根(?Ex). 原因: 池沼開発; 水質汚濁; 農薬汚染.

湖沼や湧水地に生える沈水性の浮遊植物.北海道と本州に分布する.湖沼の埋め立てや水質汚染により減少が著しく,日本自然保護協会(1989)では危急種に選定されている.神奈川県では鎌倉今泉の古い記録があるが,今はない.松浦(1958)には産地が引用されていないため,箱根方面か,足柄平野か判断がつかない.

文献: 神植目1933 鎌倉 神植誌1958 鎌倉 稀.

標本: TI 相模(鎌倉~大船) 1923.02.25 M.Honda; MAK-28070 相模今泉 1940.03.24 ; MAK-28068 相模今泉山 1921 牧野富太郎; MAK-28069 相模鎌倉 1927.03 牧野富太郎.

 

ホシクサ科 ERIOCAULACEAE

ホシクサ Eriocaulon cinereum R.Br. var. sieboldianum Murata

総合評価: V-H. 地域評価: 多摩(En) 相模原(V) 湘南(En) 丹沢(En) 小仏(V). 原因: 農薬汚染.

水田に生える一年草.本州,四国,九州に分布.かつては神奈川県の低地から丘陵にかけての水田に普通に見られたものと推定されるが,最近では稀な植物になってしまった.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし 神植誌1988 FUJ-1; TAM; MI-1; AT-1; AT-2; EB;HI-2; YA-7.

 

ニッポンイヌノヒゲ Eriocaulon hondoense Satake

総合評価: Ex-A. 地域評価: 多摩(Ex). 原因: 草地開発.

湿地に生える一年草.日本全国に分布.神植誌1958に名前は出ているが産地の記載はない.川崎市多摩区登戸付近で採集された標本が残されているだけである.かつては広く分布していたのかもしれないが,確かめることはできない.

文献: 神植誌1958 産地記載なし 神植誌1988 *TAM.

標本: KPM-15998 TAM 登戸 1951.08.26 大場達之; KPM-16001 TAM 登戸向ヶ丘 1953.09.06 大場達之.

 

イヌノヒゲ Eriocaulon miquelianum Koern.

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(Ex) 箱根(V). 原因: 草地開発; 自然遷移.

湿地に生える1年草.本州,四国,九州に分布.神奈川県では箱根仙石原に見られるが,湿原の遷移により減少しつつある.旭区二俣川大池で採集された古い標本(KPM-80172 1952.8.25 出口長男)があるが,絶滅した.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし 神植誌1988 HAK-1.

 

クロヒロハイヌノヒゲ Eriocaulon robustius (Maxim.) Makino var. nigrum Satake

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(En). 原因: 産地極限.

池や沼の水が引いた後の湿地に生える.神植誌1988の調査で箱根精進池から採集された.ヒロハイヌノヒゲの変種クロヒロハイヌノヒゲと同定されたが,分類学的な検討が必要な植物である.ヒロハイヌノヒゲに比べて全体に著しく小型で,一個の頭花に含まれる花数も少ない.花苞と萼の上部が黒色の他は,花苞,萼,花弁などの性質はヒロハイヌノヒゲとほとんど変わらない.分類学的な検討が行なわれる前に絶滅しないよう注意を要する.

文献: 神植誌1988 HAK-4.

標本: FLK-68157 HAK-4 精進池 1984.09.02 勝山輝男.

 

シロイヌノヒゲ Eriocaulon sikokianum Maxim.

総合評価: Ex-B. 地域評価: 多摩(Ex) 箱根(Ex). 原因: 自然遷移.

湿地に生える一年草.本州,四国,九州に分布する.箱根(松浦1958)や川崎市多摩区登戸付近(原,1936)の記録があるが,最近の報告はない.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし.

標本: TI Hakone 1883.09.02 Yatabe.

 

ミズアオイ科 PONTEDERIACEAE

ミズアオイ Monochoria korsakowii Regel et Maack

総合評価: Ex-B. 地域評価: 多摩(Ex) 湘南(Ex) 西湘(Ex). 原因: 池沼開発; 土地造成; 農薬汚染.

湖沼,水路,休耕田などに生える一年草.日本全国に分布する.日本自然保護協会(1989)では危急種に選定されている.神奈川県では相模川や酒匂川の下流低地に広く分布していたと思われる(神植目1933,神植誌1958,松浦1958など).最近の記録としては,守矢が1979年に平塚市四之宮の湿地に一時的に発生したのを確認している(神植誌1988)だけである.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし 稀 神植誌1988 *HI-3.

標本: TI 武蔵鶴見 1926.09.26 久内清孝.

 

イグサ科 JUNCACEAE

ヒメコウガイゼキショウ Juncus bufonius L.

総合評価: En-D. 地域評価: 湘南(En). 原因: 不明.

湿った畑地や砂地などに生える一年草.日本全国に分布.神植目1933,神植誌1958に名前は出ているが産地は記されていない.神植誌1988の調査では茅ヶ崎市で採集されただけである.全国的に珍しい植物ではないが,東京湾や湘南の沿海地が徹底的に開発されつくされた現在,本種の生えるような砂質の湿地がなくなってしまったのだろう.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし 神植誌1988 CH-2.

標本: HCM-31379 CH-2 本村 1979.05.12 斎木操.

 

ドロイ Juncus gracillimus (Buchen.) V.Krecz.

総合評価: Ex-A. 地域評価: 多摩(Ex). 原因: 海岸開発.

湿地に生える多年草.北海道から九州に分布.神植目1933や神植誌1958に名前がでているが,具体的な産地は記されていない.今回の標本調査により,牧野富太郎が川崎付近で採集した古い標本が都立大で見出された.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし 稀.

標本: MAK-116631 武蔵川崎 1915.6.27 牧野富太郎.

 

ニッコウコウガイゼキショウ Juncus nikkoensis Satake

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(En). 原因: 産地極限.

湿地に生える多年草.神植誌1958には箱根の産地をあげているが,神植誌1988では発見できなかった.その後,箱根お玉ヶ池で採集された(勝山1993b, 1993d).

標本: FLK-105203 HAK-5 お玉ヶ池 1992.10.09 勝山輝男.

 

イヌイ Juncus yokoscensis Satake

総合評価: Ex-A. 地域評価: 多摩(Ex) 湘南(Ex). 原因: 海岸開発.

海岸近くの湿った砂地に生える多年草.北海道,本州,四国に分布する.神植誌1958には産地は記されていないが,産量が普通とある.川崎市多摩区登戸付近の記録もある(東京女子医学薬学専門学校,1932).現在の神奈川県にはまったく見られない.今回,標本調査により藤沢市鵠沼で採集された標本を確認することができた.林・小林・小山・大河原(1961)には「大山,丹沢山,蛭ヶ岳,世附」とあるが,本種は山地性のものではなく,なにかの間違いと思われる.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし 普通.

標本: TI 相模鵠沼 1929.06.09 籾山泰一.

 

ユリ科 LILIACEAE

ソクシンラン Aletris spicata Franch.

総合評価: V-G. 地域評価: 三浦(En) 箱根(V). 原因: 草地開発.

草地に生える多年草.本州(関東以西),四国,九州に分布する.神奈川県では湯河原町と三浦半島に生える.自然の芝地の減少は著しく,絶滅が心配される.

文献: 神植誌1988 YU-2;MIU.

 

ヒメニラ Allium monanthum Maxim.

総合評価: En-D. 地域評価: 丹沢(En). 原因: 産地極限.

落葉樹林やスギ植林に生える多年草.北海道,本州,四国に分布する.神植誌1988の調査で神奈川県の分布が明かになった.県内の産地は津久井町稲生に限られる.

文献: 神植誌1988 TS-5.

標本: FLK-69109 TS-5 稲生 1986.04.14 高橋秀男; FLK-106027 TS-5 稲生 1994.04.17 勝山輝男.

 

イズアサツキ Allium schoenoprasum L. var. idzuensis (H.Hara) H.Hara

総合評価: En-D. 地域評価: 三浦(En). 原因: 海岸開発;産地極限.

海岸の草地に生える多年草.伊豆半島と三浦半島に分布.海岸の芝地が減少しており,絶滅が心配される.

文献: 神植誌1988 MIU.

 

アマナ Amana edulis Honda

総合評価: V-H. 地域評価: 多摩(En) 三浦(En) 相模原(En) 湘南(En) 西湘(V) 丹沢(V) 小仏(V) 箱根(Ex). 原因: 土地造成.

畑の畦や疎林内に生える多年草.本州,四国,九州に分布.神奈川県では丘陵から山地にかけて広く分布するが,多摩丘陵,湘南,三浦半島では減少しつつある.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし 普通 神植誌1988 各地.

 

キジカクシ Asparagus schoberioides Kunth

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(En) 丹沢(S). 原因: 土地造成; 管理放棄.

山地の草地や明るい樹林内に生える多年草.日本全国に分布.神奈川県では丘陵から山地にかけて散発的に見られるが,きわめて稀である.神植誌1988の産地の他に横浜市緑区新治町で見つかっている.丘陵地では宅地造成だけでなく,クヌギ・コナラ林の遷移で林床が暗くなり,減少が著しい.

文献: 神植誌1988 HAT-4;OD-1.

 

カタクリ Erythronium japonicum Decne.

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(En) 相模原(V) 小仏(V). 原因: 土地造成; 園芸採取; 管理放棄.

落葉樹林内に生える多年草.北海道,本州,四国に分布.神奈川県では小仏山地から厚木市北部にかけてと多摩丘陵に分布する.花がきれいなので開花すると掘り取られやすいことと,雑木林の遷移が進み林床が暗くなり減少が著しい.横浜市緑区三保町から長津田町にかけて,4ヶ所の生育地があったが,1ヶ所は土地造成により失われ,2ヶ所は樹林が暗くなりすぎて消滅,残り1ヶ所も衰退が著しく,ほぼ絶滅状態である.

文献: 神植目1933 津久井・都筑 神植誌1958 津久井・都筑 稀 神植誌1988 MI-1;TS-5;AI;AT-4;$FUJ-1;$SAG;$SH.

 

キバナアマナ Gagea lutea Ker.-Gawl.

総合評価: Ex-A. 地域評価: 丹沢(Ex). 原因: 土地造成.

落葉樹林内に生える多年草.北海道,本州に分布.神奈川県では,神植誌1988の調査の際に津久井町稲生で採集されたのがはじめての記録であった.この産地は1994年春に再度調査したが,キバナアマナの生えていたあたりの林が伐採されており再発見することはできなかった.

文献: 神植誌1988 TS-5.

標本: FLK-69529 TS-5 稲生 1986.04.06 高橋秀男.

 

キヨスミギボウシ Hosta kiyosumiensis F.Maek.

総合評価: En-E. 地域評価: 三浦(Ex) 箱根(V). 原因: 産地極限.

山地の湿った岩場に生える多年草.関東,東海,紀伊に分布する.逗子二子の谷に記録があるが,神植誌1988の調査では発見できなかった.その後,箱根町湯本の早川の渓岩に生育しているのが確認された.

文献: 神植誌1988 MIU?.

標本: FLK-105346 HAK-5 湯本 1993.07.07 中村和義.

 

クルマユリ Lilium medeoloidea A.Gray

総合評価: En-E. 地域評価: 丹沢(En) 箱根(Ex). 原因: 動物食害.

ブナ帯の林内や草地に生える多年草.北海道,本州(中部以北)に分布する.神奈川県では丹沢の主稜線に分布するが,年々減少している.特に最近ではシカの食害により絶滅が心配される.かつては箱根にも分布していたが絶滅した.

文献: 神植目1933 大山・丹沢山・尊仏山・塔ヶ岳・丹沢山・煤ヶ谷 神植誌1958 大山・丹沢 やや稀 神植誌1988 YA-2;YA-3;*HAK-4.

標本: FLK-70033 YA-2 加入道 1987.06.25 城川四郎; FLK-70035 YA-3 蛭ヶ岳 1983.06.12 勝山輝男; KPM-80244 YA-3 塔ヶ岳 1951.07.22 出口長男; KPM-733 YA-3 檜洞丸 1959.07.24 西尾和子.

 

ホソバアマナ Lloydia triflora Bak.

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(En). 原因: 産地極限.

草地や明るい落葉樹林内に生える多年草.日本全国に分布.神植誌1958や宮代(1958)に記録があったが,神植誌1988では確認できなかった.その後,箱根駒ヶ岳で再確認された(FLORA KANAGAWA No.29 表紙).

 

クルマバツクバネソウ Paris verticillata M.v.Bied.

総合評価: V-G. 地域評価: 丹沢(V) 相模原(V) 箱根(V). 原因: 動物食害.

ブナ帯の林内に生える多年草.日本全国に分布.神奈川県では丹沢や箱根の高地と相模原市東橋本のモウソウチク林で採集されている.丹沢では蛭ヶ岳や丹沢山で記録されているが,シカの食害による林床の荒廃が進み,絶滅が心配される.箱根でも稀であるが,最近,屏風山や大観山で発見されている(井上・中村・高橋 1991).

文献: 神植誌1988 TS-1;SA-3;*HAK-4;$HAK-5.

 

ハルナユキザサ Smilacina robusta Makino et Honda

総合評価: En-E. 地域評価: 丹沢(V). 原因: 動物食害.

樹林内に生える多年草.関東,中部地方に分布.神奈川県では丹沢の高所に分布するが,シカの食害,ブナを中心とした樹木の立ち枯れなど,環境の変化が激しく絶滅が心配される.

文献: 神植誌1988 YA-3;TS-1.

標本: FLK-71054 YA-3 桧洞丸 1982.07.04 勝山輝男; FLK-71055 TS-1 大室山 1979.06.17 城川四郎.

 

ヒガンバナ科 AMARYLLIDACEAE

オオキツネノカミソリ Lycoris sanguinea Maxim. var. kiusiana Makino

総合評価: Ex-A. 地域評価: 丹沢(Ex). 原因: 不明.

山野に生える多年草.本州(関東以西)から九州に分布.神奈川県では西丹沢世附の水の木で採集された標本が随一の記録であり,その後も発見されていない.

標本: KPM-56501 YA-4 水ノ木 1974.08.17 吉川代之助.

 

アヤメ科 IRIDACEAE

ノハナショウブ Iris ensata Thunb. var. spontanea Nakai

総合評価: V-H. 地域評価: 多摩(En) 相模原(En) 丹沢(V) 箱根(V). 原因: 草地開発; 草地開発.

丘陵から山地にかけての湿地や湿った草地に生える多年草.日本全国に分布.丹沢や箱根には個体数が多く,特に絶滅の心配はない.しかし,箱根仙石原でもかつての見事な群落は見られない.多摩丘陵では谷戸奥の湿地によく見られたが,その多くは宅地造成で失われ絶滅寸前である.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし やや普通 神植誌1988 TAM;AS;SA-2;YA-1;TS-4;HAK-1;KI-2;HO.

 

ヒメシャガ Iris gracilipes A.Gray

総合評価: V-G. 地域評価: 丹沢(V) 箱根(En). 原因: 園芸採取.

山地のやや乾いた林内や岩場に生える多年草.日本全国に分布.神奈川県では箱根金時山や西丹沢の沢筋に見られる.花が美しいので,園芸用に採取されやすく,減少しつつある.

文献: 神植目1933 箱根 神植誌1958 箱根 稀産 神植誌1988 YA-5;YA-6;HAK-1;HAK-2;HAK-4;MIA-1.

 

カキツバタ Iris laevigata Fisch.

総合評価: Ex-B. 地域評価: 多摩(Ex). 原因: 不明.

池,沼,湿地に生える多年草.北海道から九州まで分布する.神奈川県では神植目1933や神植誌1958に記録があるが,神植誌1988の調査では発見されなかった.神植誌1958では産量普通となっている.かつては県内に普通に見られたのであろうか.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし 普通.

標本: KPM-31481 TAM 登戸 1940.07.20 大場達之.

 

アヤメ Iris nertchinskia Loddiges

総合評価: Ex-B. 地域評価: 丹沢(Ex)箱根(Ex). 原因:不明.

神植誌1988では平野部に点々と記録があるが,いずれも自生のものか疑わしい.神植誌1958では「山地の日当たりの良い草地に普通」とある.確実に自生と思われる産地の標本がなかったので,絶滅として扱った.今後の調査で箱根外輪山や西丹沢の三国峠方面で自生のものが見つる可能性はある.

 

ヒナノシャクジョウ科 BURMANNIACEAE

ヒナノシャクジョウ Burmannia championi Thw.

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(Ex) 箱根(Ex). 原因: 不明.

神植目1933,神植誌1958,宮代(1958),松浦(1958)に箱根の記録があるが,標本は残されていないようである. 最近, 川崎市多摩区生田緑地で見つかった(吉田, 1991b, 1992).

 

ラン科 ORCHIDACEAE

シラン Bletila striata Reichb.fil

総合評価: En-E. 地域評価: 三浦(En) 箱根(Ex). 原因: 園芸採取.

日当たりの良い湿った草地や斜面に生える夏緑性の多年草.本州・福島県以南,四国,九州,沖縄県に分布.神植誌1988の調査の時,横浜・金沢,栄区,箱根・塔之沢には群落で自生していたが,花がきれいなため,営利目的に採取されて激減している.既に箱根・塔之沢産は失われてしまった.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし 神植誌1988 HAK-5;TO-2;TO-3;KAZ.

標本: FLK-72502 HAK-5 塔之沢 1986.06.14 高橋秀男; FLK-72503 TO-2 東俣野 1987.05.26 斎藤溢子; FLK-72504 TO-3 上郷町 1986.05.25 高橋秀男; FLK-72505 KAZ 金沢市民の森 1985.07.09 武井尚; FLK-72506 KAZ 六浦町 1981.05.16 内藤美知子; FLK-72507 KAZ 高舟台 1984.06.15 山田文雄.

 

ムギラン Bulbophyllum inconspicuum Maxim.

総合評価: V-G. 地域評価: 三浦(En) 西湘(En) 丹沢(En) 箱根(Ex). 原因: 森林伐採; 園芸採取.

山地,山麓の常緑樹の樹幹や岩石上に着生する常緑の多年草.本州・関東以西,四国,九州に分布.県内では主にクスノキ・イヌマキ・カヤ・ビャクシンなどの巨木の人の手の届かないところに,群落で着生している地域もある.神植目1933,神植誌1958には箱根が産地として記録されているが,神植誌1988の調査の時には採集されなかった.人の手の届くところのものは園芸目的の採取により消滅し,全体的に減少している.

文献: 神植目1933 鎌倉・箱根・道了山・玄倉 神植誌1958 鎌倉・道了山・箱根 やや稀 神植誌1988 YA-3;YA-8;*MIA-2;*MIA-3;*KA-1.

 

エビネ Calanthe discolor Lindl.

総合評価: V-H. 地域評価: 多摩(V) 三浦(En) 相模原(V) 湘南(V) 西湘(V) 丹沢(V) 小仏(V) 箱根(V). 原因: 土地造成; 園芸採取.

雑木林,スギ林,竹林の林床に生える常緑性の多年草.北海道西南部以南,本州,四国,九州,沖縄県に分布.県内に広く分布するが,土地開発による自生地の破壊,最近のエビネブームで乱獲され,著しく激減.かつてのような群生地は見られない.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし 普通 神植誌1988 各地.

 

ナツエビネ Calanthe reflexa Maxim.

総合評価: En-E. 地域評価: 丹沢(En) 三浦(Ex) 箱根(En). 原因: 園芸採取.

山地の夏緑広葉樹林に生える常緑性の多年草.本州,四国,九州に分布.県博には丹沢・神ノ川で採集された標本が残されている.また,産地として神植目1933,神植誌1958には横須賀,塔ヶ岳,津久井,林・小林・小山・大河原(1961)には塔ヶ岳,犬越路,津久井,松浦(1958)には箱根・神山の記録がある.神植誌1988の調査の時は見出すことができなかったが、1993年に西丹沢で発見された.園芸目的の採取によって個体数が激減し,地域によっては絶滅,または絶滅寸前である.

文献: 神植目1933 横須賀・塔ヶ岳・津久井 神植誌1958 横須賀・津久井・塔ヶ岳 稀 神植誌1988 *YA-4;*YA-5;*YA-6.

標本: KPM-80255 TS-1 神ノ川 1952.08.18 出口長男.

 

キソエビネ Calanthe schlechteri H.Hara

総合評価: En-E. 地域評価: 丹沢(Ex) 箱根(En). 原因: 園芸採取; 産地極限.

ブナ帯のやや湿り気のある腐植に富む林床に生える常緑性の多年草.本州中部と四国の深山に隔離分布する.県博には丹沢や箱根で採集された標本が残されている.神植誌1988の調査の時は見出すことができず,すでに絶滅したかと思われたが,1994年に箱根で発見された(勝山・田中,1994).もともと自生地と個体数の限られた種類であるが,園芸目的の採取により絶滅寸前である.

文献: 神植誌1988 *HAK-4.

標本: FLK-106131 HAK-4 1994.07.12 勝山輝男ほか; KPM-20207 HAK-4 1965.07.31 大場達之; KPM-20371 YA-3 1962.07.03 大場達之.

 

ユウシュンラン Cephalanthera erecta Bl. var. subaphylla Ohwi

総合評価: En-D. 地域評価: 丹沢(En). 原因: 園芸採取.

ブナ帯の夏緑樹林下の腐植土の多い斜面に生える夏緑性の多年草.日本全国に分布.神植誌1988の調査の時,丹沢物見峠,志田峠で採集された.また,津久井の青根で採集された古い標本がある.県内ではもともと個体数の少ない稀少種.園芸目的の採取により絶滅の危機に瀕している.

文献: 神植誌1988 KI-3;AI.

標本: FLK-72570 KI-3 1980.05.11 高橋秀男; FLK-72571 TS-5 1983.04.29 山口勇一; KPM-96640 TS-3 青根 1955.04.30 城川四郎.

 

クゲヌマラン Cephalanthera shizuoi F.Maek.

総合評価: En-D. 地域評価: 湘南(En). 原因: 海岸開発; 園芸採取.

海岸のクロマツ林内の砂地に生える夏緑性の多年草.本州・青森県から和歌山県,四国・香川県の主に太平洋側に分布.藤沢市鵠沼が基準産地.かつては湘南海岸地帯のクロマツ林内に普通に見られたが,海岸地帯の開発,クロマツ林の伐採,園芸目的の採取によって,一時絶滅したかと思われたが,1985年に100株ほどの生育地が人家の庭先に発見され保護されている.

文献: 神植誌1958 産地記載なし 稀 神植誌1988 FU-3;$CH-2;$HI-1.

標本: FLK-100096 CH-2 1988.09.09 高橋秀男; FLK-72670 FU-3 1985.04.28 塩沢努.

 

ヒメノヤガラ Chamaegastrodia shikokiana Makino et F.Maek.

総合評価: En-D. 地域評価: 三浦(En) 湘南(En). 原因: 不明.

常緑広葉樹林下に生える無葉の腐生ラン.本州・岩手県以南,四国,九州に分布.神植誌1988の調査の時は見出されなかったが,その後,1989年に横須賀市(大森,1989)で,1994年に鎌倉と平塚(城川,1994b)で発見された.菌根の発育と開花の関係は周期性があるためか,毎年,発生開花するとは限らない.発生機構のよく分かっていない珍稀種である.

 

アオチドリ Coeloglossum viride Hartm. var. bracteatum Richter

総合評価: En-E. 地域評価: 丹沢(En). 原因: 産地極限.

ブナ帯のやや湿気のあるところに生える夏緑性の多年草.北海道,本州中部以北,四国に分布.植物誌1988の調査では鍋割山で採集された.県博には丹沢山で採集された標本が収められている.県内ではもともと個体数の少ない稀少種である.

文献: 神植誌1988 HAT-1.

標本: KPM-40605 KI-1 1961.05.29 大場達之; HCM-32702 HAT-1 1984.06.06 浜口哲一.

 

ナギラン Cymbidium lancifolium Hook.

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(Ex) 三浦(En) 箱根(En). 原因: 森林伐採; 産地極限.

常緑広葉樹林の林床に生える常緑性の多年草.本州関東南部以西,四国,九州,沖縄県に分布.県内では森林の伐採と園芸目的の採取により減少し,三浦半島と真鶴半島に僅かに自生している.

文献: 神植誌1988 YO-2;MAN;*YO-4.

標本: FLK-102198 YO-2 1989.07.27 高橋秀男; FLK-72778 MAN 1984.05.27 吉川アサ子; KPM-31066 TAM 西生田 1952.06.29 大場達之; YCM-2288 YO-2 1981.12.23 大森雄治; YCM-11770 YO-4 1976.10.16 内田健治; YCM-11596 ZU 桜山神明社 1953.07.15 大谷茂.

 

コアツモリソウ Cypripedium debile Reichb.f.

総合評価: V-G. 地域評価: 丹沢(V) 箱根(Ex). 原因: 園芸採取.

主に針葉樹林の林床に生える夏緑性の多年草.北海道西南部,本州中部以北,四国,九州(熊本県)に分布.県内ではブナ帯のスギ,モミ林下の腐植土のところに見出されることが多い.1960年代までは丹沢の広い範囲に自生していたが,園芸目的の採取によって減少も著しく,消滅した自生地が多い.松浦(1958)には箱根・金時山の記録があるが,神植誌1988の調査の時には見出すことはできなかった.

文献: 神植誌1988 KI-1;*YA-4;*YA-6;*MAT;*KI-2;*OY.

 

クマガイソウ Cypripedium japonicum Thunb.

総合評価: V-H. 地域評価: 多摩(En) 三浦(En) 相模原(En) 西湘(En) 丹沢(V) 小仏(V) 箱根(En). 原因: 草地開発; 土地造成; 園芸採取; 管理放棄.

低山地の樹林下や竹林下に群生する夏緑性の多年草.北海道南部以南,本州,四国,九州に分布.県内ではスギ林, 竹林, 雑木林, ススキ草原に, かつては大群生地があったが,土地開発の煽りを受けて自生地の破壊,竹林の枯死,雑木林の管理放棄による環境変化,園芸目的の乱獲により減少が著しく,細々と生えている自生地が多い.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし やや稀 神植誌1988 各地.

 

アツモリソウ Cypripedium macranthum Sw. var. speciosum Koidz.

総合評価: Ex-B. 地域評価: 丹沢(Ex) 箱根(Ex). 原因: 園芸採取.

シイ・カシ帯上部からブナ帯の草原,日のさす疎林に生える夏緑性の多年草.北海道南部,本州中部以北に分布.県博には丹沢・鍋割山(1960),箱根・神山(1937),宮城野(1927),科博には丹沢・大山(1884),箱根・神山(1948)で採集された古い標本が残されている.神植誌1988の調査では見出されなかったし,その後も発見されていない.日本の野生ランの中では最も派手なランであるため園芸目的の乱獲により絶滅してしまった.

文献: 神植目1933 大山・津久井・箱根 神植誌1958 大山・津久井・箱根 稀 神植誌1988 *HAK-1;*HAK-4;*YA-3;*TS-2;*MAT;*HAT-2;*HAT-4.

標本: KPM-101 MAT 鍋割山 1960.06.05 西尾和子; KPM-96628 TS-1 姫次 1954.06.10 城川四郎; KPM-81396 HAK-6 宮城野 1927.05.19 沢田武太郎; KPM-81397 HAK-4 神山 1937.06.14 沢田武太郎; TNS-4394 大山 1884.06.20 杉山文?; TNS-80241 箱根神山 1948.05.30 伊達健夫.

 

イチヨウラン Dactylostalix ringens Rchb.f.

総合評価: Ex-A. 地域評価: 箱根(Ex). 原因: 産地極限.

亜高山帯の針葉樹林のコケのある林床に生える多年草.北海道,本州,四国に分布.県博には箱根・大湧谷,神山山麓で採集された古い標本が残されている.また,松浦(1958)には産地として箱根・神山,双子山が記録されているが,神植誌1988の調査では見出されなかったし,その後も発見されていない.県内では水平分布的にもともと個体数の少ない稀少種である.

文献: 神植目1933 箱根 神植誌1958 箱根 稀.

標本: KPM-81404 HAK-4 神山山麓 1936.05.25 沢田武太郎; KPM-81405 HAK-4 大涌谷 1930.05.29 沢田武太郎.

 

セッコク Dendrobium moniliforme Sw.

総合評価: V-G. 地域評価: 相模原(Ex) 西湘(Ex) 丹沢(V) 箱根(En). 原因: 園芸採取.

山地の常緑樹の樹幹や岩石上に着生する常緑性の多年草.本州・東北以南,四国,九州に分布.県内では丹沢,箱根の山地,山麓のスギ・カヤ・モミ・アカガシなどの大木の樹幹に見られ,大株で着生している場所もある.しかし,営利目的の採取により最近は減少が著しく,消滅した自生地もある.

文献: 神植目1933 大山・箱根・道了山・塔ヶ岳・丹沢山・蛭ヶ岳・青根 神植誌1958 大山・丹沢・塔ヶ岳・蛭ヶ岳・青根・道了山・箱根 神植誌1988 *YA-5;*MAT;*MIA-2;*OD-3;$HAK-5.

 

ハコネラン Ephippianthus sawadanus Ohwi

総合評価: V-G. 地域評価: 丹沢(V) 箱根(En). 原因: 動物食害.

ブナ帯の粗腐植土の上に生える多年草.本州・箱根,丹沢,富士山,秩父,隔離分布として大和が知られている.県内では丹沢,箱根のブナ帯のアセビやスズタケの生えている環境を好んで自生し,丹沢では広く点々と分布する.しかし,最近は大気汚染によるブナの立枯れ,鹿の食害による林床の植生破壊が進み, 減少気味である.

文献: 神植誌1988 YA-2;YA-3;YA-5;KI-1;*YA-6;*HAK-4;$HAK-5.

 

エゾスズラン Epipactis papillosa Franch. et Sav.

総合評価: V-G. 地域評価: 丹沢(V) 箱根(Ex). 原因: 産地極限.

高地の夏緑広葉樹林の林床に生える夏緑性の多年草.日本全国に分布.県内では丹沢のブナ帯に稀に自生.神植目1933,神植誌1958には産地として箱根の記録があるが,神植誌1988の調査では見出されなかったし,その後も発見されていない.もともと個体数の少ない稀少種である.

文献: 神植目1933 塔ヶ岳・箱根 神植誌1958 塔ヶ岳・箱根 稀 神植誌1988 YA-2;TS-1;*YA-3.

 

カキラン Epipactis thunbergii A.Gray

総合評価: V-H. 地域評価: 多摩(Ex) 三浦(Ex) 丹沢(V) 箱根(V). 原因: 池沼開発; 河川開発; 草地開発; 土地造成; 園芸採取.

日当たりの良い湿地に生える夏緑性の多年草.日本全国に分布.県内ではシイ・カシ帯からブナ帯に,かつては広く分布していたが,土地開発による環境変化や園芸目的の採取によって激減し,現在は丹沢,箱根に自生するのみである.相模原,多摩,三浦地域では,すでに絶滅し,見出すことはできない.

文献: 神植目1933 横浜・都筑・登戸・大山・箱根・矢倉沢 神植誌1958 横浜・都筑・登戸・大山・箱根・矢倉沢 やや普通 神植誌1988 MI-1;YA-2;TS-1;TS-2;HAT-1;HAK-1;HAK-6;YU-2など.

 

カモメラン Galeorchis cyclochila Nevski

総合評価: Ex-B. 地域評価: 丹沢(Ex) 箱根(Ex). 原因: 産地極限.

冷温帯から亜寒帯の夏緑広葉樹,針葉樹の林床や林縁に生える夏緑性の多年草.北海道,本州中部以北,稀に紀伊半島,四国に分布.県博には丹沢山,箱根・神山で採集された標本が残っている.県内ではもともと個体数の少ない稀少種で,神植誌1988の調査では見出されなかったし,その後も発見されていない.

文献: 神植目1933 箱根・矢倉沢・玄倉 神植誌1958 箱根・矢倉沢・玄倉.

標本: KPM-81433 HAK-4 神山 1929.07.26 沢田武太郎; KPM-96637 YA-3 丹沢 1955.06.20 城川四郎.

 

ベニカヤラン Gastrochilus matsuran Schltr.

総合評価: En-E. 地域評価: 丹沢(En) 三浦(Ex) 箱根(En). 原因: 園芸採取.

常緑広葉樹や針葉樹の樹幹に着生する常緑性の多年草.本州宮城県以南,四国,九州,屋久島まで分布.神植目1933,神植誌1958には鎌倉,箱根,松浦(1958)には元箱根が産地として記録がある.もともと個体数の少ない稀少種で,園芸目的の採取により失われつつある.かつて自生していた鎌倉は消滅し,現在,丹沢・塩水川上流と道了山が唯一の自生地である.

文献: 神植目1933 鎌倉(今泉)・箱根・道了山 神植誌1958 鎌倉(今泉)・箱根・道了山 稀 神植誌1988 *KI-2.

標本: FLK-105227 MIA-2 1979.02.25 山内好孝.

 

アケボノシュスラン Goodyera foliosa Benth. et Hook.f. var. maximowicziana F.Maek.

総合評価: En-E. 地域評価: 三浦(En) 箱根(En). 原因: 不明.

常緑広葉樹林の林床に生える常緑性の多年草.日本全国に分布.神植誌1988の調査の時,見出すことができなかったが,その後,箱根や横須賀市(1990)で発見された.県内ではもともと個体数の少ない稀少種である.

文献: 神植誌1988 +YU-1.

標本: TNS-59446 湯ヶ原~日金山 1939.11.12 奥山春季.

 

ベニシュスラン Goodyera macrantha Maxim.

総合評価: V-G. 地域評価: 西湘(En) 丹沢(V). 原因: 園芸採取.

常緑広葉樹林から夏緑広葉樹林の林床に生える常緑性の多年草.本州,四国,九州に分布.県内ではシイ・タブ帯からブナ帯まで分布し,林道の水の滴る岸壁や林縁に生えていることが多い.神植目1933や神植誌1958の他に,鎌倉で1962年に採集された記録(小林,1966)がある.現在は丹沢,箱根に自生地がある.葉が暗紫緑色で脈に沿って白い淡い斑が入る美しい種類で目につきやすく,園芸目的の採取により減少している.

文献: 神植目1933 煤ヶ谷・塔ヶ岳 神植誌1958 煤ヶ谷・塔ヶ岳 稀 神植誌1988 OD-1;*YA-6;*KI-3.

 

ヒメミヤマウズラ Goodyera repens R.Br.

総合評価: Ex-A. 地域評価: 箱根(Ex). 原因: 産地極限.

亜高山帯の針葉樹林内の林床に生える常緑性の多年草.北海道,本州中部以北に分布.神植目1933,神植誌1958には産地として箱根の記録があるが,標本の保管はない.神植誌1988の調査では見出されなかったし,その後も発見されていない.亜高山的環境に生える種類で,県内ではもともと個体数の少ない稀少種.ミヤマウズラの生育不良品をヒメミヤマウズラに誤認されやすいが,唇弁に毛のないことで識別できる.

文献: 神植目1933 箱根 神植誌1958 箱根 稀.

 

シュスラン Goodyera velutina Maxim.

総合評価: V-G. 地域評価: 三浦(En) 丹沢(En) 箱根(En). 原因: 不明.

常緑広葉樹林の林床に生える常緑性の多年草.本州・関東以西,四国,九州に分布.県内では山北・塩沢,南足柄・地蔵堂,逗子・池子,横須賀・久里浜が自生地として知られているが,もともと個体数の少ない稀少種である.

文献: 神植目1933 逗子・箱根・玄倉 神植誌1958 逗子・箱根・玄倉 稀 神植誌1988 MIA-1.

 

ノビネチドリ Gymnadenia camtschatica Miyabe et Kudo

総合評価: Ex-A. 地域評価: 丹沢(Ex). 原因: 産地極限.

ブナ帯から亜高山帯の湿り気のある草原,林縁,沢沿いに生える夏緑性の多年草.北海道,本州中部以北,四国の高地に分布.県博には丹沢で採集された標本が残されているが,その後発見された記録はない.県内では水平分布的にみて,もともと個体数の少ない稀少種である.

文献: 神植目1933 丹沢山 神植誌1958 丹沢 稀.

標本: KPM-96639 YA-3 丹沢 1957.06.04 城川四郎.

 

ダイサギソウ Habenaria miersiana Champ.

総合評価: Ex-B. 地域評価: 多摩(Ex) 丹沢(Ex). 原因: 園芸採取; 産地極限.

日当たりのよいやや湿った草原や林縁に生える夏緑性の多年草.本州・関東南部,四国,九州までの太平洋側と沖縄県に分布.神植目1933,神植誌1958には産地として横浜,煤ヶ谷,丹沢山,林・小林・小山・大河原(1961)には丹沢山が記録されているが,標本は残されていない.神植誌1988の調査では見出されなかったし,その後も発見されていない.南方分布型の種類で,県内ではもともと個体数の少ない稀少種のうえ,園芸目的の採取により絶滅してしまった.

文献: 神植目1933 横浜・煤ヶ谷・丹沢山 神植誌1958 横浜・煤ヶ谷・丹沢.

 

ミズトンボ Habenaria sagittifera Reichb.f.

総合評価: V-G. 地域評価: 箱根(V) 三浦(Ex). 原因: 自然遷移.

日当たりの良い湿地に生える夏緑性の多年草.北海道西南部,本州,四国,九州に分布.県内では箱根・仙石原が産地として有名であるが,湿原の乾燥化が進み減少著しい.県博には真鶴で採集された標本があるが,今はない.また,神植目1933には産地として鎌倉の記録があるが,神植誌1988の調査では見出すことができなかった.その後も発見されていない.

文献: 神植目1933 鎌倉・箱根 神植誌1988 HAK-1.

 

ムカゴソウ Herminium lanceum J.Vuijk. var. longicrure H.Hara

総合評価: En-B. 地域評価: 丹沢(Ex)箱根(En). 原因: 不明.

多少の湿り気のある草原に生える夏緑性の多年草.北海道西南部から沖縄県まで分布.箱根金時山,神山,仙石原,大沢,丹沢山で採集された古い標本が残されている.県内ではもともと個体数の少ない稀少種で,神植誌1988の調査では見出されなかったが,最近,箱根で生育が確認された.

文献: 神植目1933 大山・箱根 神植誌1958 大山・箱根 神植誌1988 *KI-2.

標本: KPM-23000 KI-1 丹沢山 1966.09.07 大場達之; KPM-81414 HAK-1 仙石原 1930.08.04 沢田武太郎; KPM-81415 HAK-4 神山 1928.09.13 沢田武太郎; KPM-81416 HAK-5 大沢 1928.09.21 沢田武太郎; KPM-81417 HAK-2 金時山 1927.08.16 沢田武太郎; TNS-87417 金時山 1937.08.29 檜山庫三.

 

ギボウシラン Liparis auriculata Blume

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(En). 原因: 園芸採取.

常緑広葉樹林中のやや湿った林下に生える夏緑性の多年草.北海道西南部から九州,屋久島まで分布.県内では真鶴岬に自生する稀少種.園芸目的の採取により絶滅の危機に瀕している.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1988 MAN.

標本: FLK-72855 MAN 1982.08.18 高橋秀男.

 

フガクスズムシ Liparis fujisanensis F.Maek.

総合評価: En-D. 地域評価: 丹沢(En). 原因: 園芸採取; その他.

ブナ帯のコケむした樹幹に着生する夏緑性の多年草.本州・青森県津軽,下北半島以南から奈良県の大台ヶ原までの範囲に隔離分布する.かつては,丹沢の大石山,同角山,檜洞丸,犬越路,大室山,畦ヶ丸,織戸峠と広く自生していたが,ブナ林の衰退と園芸目的の採取により絶滅したかと思われた種類である.神植誌1988の調査の際も見出すことができなかったが,1994年に西丹沢で採集された(勝山・田中,1994).著しく個体数が減少し,絶滅寸前である.

文献: 神植誌1988 *YA-1;*YA-2;*YA-3;*YA-4;*YA-5.

標本: FLK-(未登録) YA-4 1994.7.2 勝山&木場; KPM-13 YA-2 犬越路 1960.07.17 西尾和子.

 

セイタカスズムシソウ Liparis japonica Maxim.

総合評価: En-D. 地域評価: 丹沢(En). 原因: 園芸採取.

深山の樹林内の林床や岩上に生える夏緑性の多年草.日本全国に分布.神植誌1988の調査の時,丹沢の檜洞丸で見出すことができたが,県内ではもともと個体数の少ない稀少種.園芸目的の採取によって絶滅の危機に瀕している.

文献: 神植誌1988 TS-1;*YA-4;*MAT;*OY.

標本: FLK-72856 TS-1 1983.07.23 城川四郎.

 

ジガバチソウ Liparis krameri Franch. et Sav.

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(?Ex) 三浦(Ex) 丹沢(V) 箱根(En). 原因: 園芸採取.

山地の疎林の林床や岩上に生える夏緑性の多年草.日本全国に分布.県内では丹沢,箱根のブナ帯に稀に自生する.神植目1933には産地として横浜の記録がある.横須賀博には神武寺で採集された標本(YCM-1054 1963.6.26 大谷茂)が残されているが,神植誌1988の調査では見出されなかったし,その後も発見されていない.園芸目的の採取により個体数は減少している.

文献: 神植目1933 横浜・神武寺・箱根 神植誌1958 神武寺・箱根 やや稀 神植誌1988 YA-1;YA-2;YA-3;*MAT;*ZU.

 

スズムシソウ Liparis makinoana Schltr.

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(?Ex) 丹沢(V) 箱根(En). 原因: 園芸採取.

山地の疎林の林床や岩上に生える夏緑性の多年草.日本全国に分布.県内では丹沢,箱根のブナ帯に稀に自生する.神植目1933には産地として横浜・都筑の記録がある.もともと個体数が少なく,園芸目的の採取によって減少が著しい.

文献: 神植目1933 都筑・丹沢山・箱根・塔ヶ岳 神植誌1958 丹沢・箱根 稀 神植誌1988 YA-1;YA-2;HAT-1;HAK-2;HAK-4;*HAK-5.

 

コフタバラン Listera cordata R.Br. var. japonica H.Hara

総合評価: Ex-B. 地域評価: 箱根(Ex). 原因: 産地極限.

亜高山帯の針葉樹林内に生える小形の夏緑性の多年草.北海道,本州中北部,四国の高地に分布.県博には箱根・大湧谷や神山で採集された古い標本が残されている.神植誌1988の調査では見出されなかったし,その後も発見されていない.県内ではもともと個体数の少ない稀少種である.

文献: 神植目1933 箱根 神植誌1958 箱根 神植誌1988 *HAK-4.

標本: KPM-11573 HAK-4 神山 1963.06.27 大場達之; KPM-81426 HAK-4 大涌谷 1936.05.25 沢田武太郎.

 

ヒメフタバラン Listera japonica Bl.

総合評価: Ex-B. 地域評価: 丹沢(Ex)箱根(Ex). 原因: 不明.

主として常緑性広葉樹の林床に自生するが,沖縄県では竹林に生える.フタバランの仲間では唯一の暖地性種で多年草.本州・宮城県,山形県以南,四国,九州,沖縄県に分布.県博には箱根神山で採集された標本が残されている.また,東薬大植研(1983)には産地として愛川町三増峠が記録されているが,神植誌1988の調査では見出されなかった.

文献: 神植誌1988 +AI.

標本: KPM-31470 HAK-4 神山 1953.05.03 大場達之.

 

アオフタバラン Listera makinoana Ohwi

総合評価: V-G. 地域評価: 丹沢(V) 箱根(V). 原因: 産地極限.

山地樹林下に生える夏緑性の多年草.本州,四国,九州に分布.県内では丹沢,箱根のブナ,モミ,スギ林の林床に自生する.もともと個体数の少ない稀少種である.

文献: 神植目1933 箱根 神植誌1958 産地記載なし 稀 神植誌1988 HAK-2;HAK-5;$OD-4;*OY;$KI-1;$KI-2.

 

ホザキイチヨウラン Malaxis monophyllos Sw.

総合評価: V-G. 地域評価: 丹沢(V) 箱根(Ex). 原因: その他.

ブナ帯の林床や林縁に生える夏緑性の多年草.北海道,本州・近畿以北,四国(剣山,石槌山)に分布.県内では丹沢のブナ林の林床や谷沿いの湿った岩上に自生する.箱根神山で採集された古い標本(KPM-81428 1928.7.27 沢田武太郎)が県博に残されている.神植誌1988の調査の時,箱根では見出されなかったし,その後も発見されていない.

文献: 神植目1933 箱根 神植誌1958 箱根 稀 神植誌1988 YA-2;*YA-3;*YA-5;*TS-1.

 

アリドオシラン Myrmechis japonica Rolfe

総合評価: Ex-B. 地域評価: 丹沢(Ex) 箱根(Ex). 原因: その他.

夏緑広葉樹,針葉樹林下のコケの間などに生える常緑性の多年草.北海道,本州近畿以北,四国に分布.県博には箱根神山で採集された古い標本が残されている.また,神植目1933,神植誌1958,林・小林・小山・大河原(1961)には産地として丹沢・塔ヶ岳,丹沢山が記録されている.県内ではもともと個体数が少ない稀少種で,神植誌1988の調査では見出されなかったし,その後も発見されていない.

文献: 神植目1933 箱根・塔ヶ岳・丹沢山 神植誌1958 箱根・塔ヶ岳・丹沢山 極めて稀 神植誌1988 $HAK-4.

標本: KPM-81429 HAK-4 神山 1937.07.21 沢田武太郎.

 

フウラン Neofinetia falcata Hu

総合評価: En-E. 地域評価: 三浦(En) 箱根(Ex). 原因: 園芸採取.

暖温帯の常緑広葉樹林の樹幹に着生する常緑性の多年草.本州・関東以西,四国,九州,沖縄県に分布.県内では古くから横浜・金沢,鎌倉,逗子・神武寺,葉山,南足柄・大雄山が産地として知られていたが,営利目的の乱獲によって,最近は人目のつかない限られた地域や社寺林の保護されている樹幹にしか見ることができない.昭和30年代までは神武寺のイヌマキに数100株と着生していたが,現在は見る影もない.大雄山産は絶滅してしまった.

文献: 神植目1933 金沢・三浦・箱根 神植誌1958 金沢・三浦・箱根 稀 神植誌1988 HAY;$KA-1;$KAZ.

標本: YCM-6474 HAY 1985.06.06 西山清治.

 

ヒメムヨウラン Neottia asiatica Ohwi

総合評価: En-E. 地域評価: 相模原(Ex) 西湘(Ex) 丹沢(En). 原因: 不明.

主に針葉樹林内の腐植土に生える腐生ランで多年草.北海道,本州中部以北に分布.神植目1933,神植誌1958,宮代(1958)には海老名,中郡鷹取山の丘陵地が産地として記録されている.県内ではもともと個体数の少ない珍稀種で,神植誌1988の調査の時,表丹沢で1株採集されたのみである.

文献: 神植目1933 高座・中郡 神植誌1958 高座・中郡 神植誌1988 HAT-2.

標本: FLK-73058 HAT-2 1985.06.02 内藤美知子.

 

サカネラン Neottia nidus-avis Richard var. manshurica Komar

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(Ex) 丹沢(En) 箱根(Ex). 原因: 産地極限.

明るい落葉樹林内の腐植土に生える腐生ランで多年草.北海道,本州中部以北,四国,九州(高隈山)に分布.県博には箱根浅間山で採集された古い標本が残されている.また,神植目1933,神植誌1958,宮代(1958)には産地として箱根と橘樹(登戸)の記録がある.神植誌1988の調査では,表丹沢のみに見出された.もともと個体数の少ない稀少種である.

文献: 神植目1933 橘樹・箱根 神植誌1958 橘樹・箱根 神植誌1988 HAT-1;HAT-2;*KI-2;*TS-1.

標本: KPM-81432 HAK-5 浅間山 1929.05.17 沢田武太郎; KPM-96635 TS-1 風巻 1959.06.13 城川四郎; HCM-32769 HAT-1 1979.05.27 城川四郎; TNS-0 丹沢山 1951.07.23 奥山春季; TNS-137354 清川村札掛 1958.05.03 吉川代之助.

 

ミヤマモジズリ Neottianthe cucullata Schltr.

総合評価: Ex-B. 地域評価: 丹沢(Ex) 箱根(Ex). 原因: 園芸採取.

深山のやや湿り気の多い樹林下の岩場や林縁に生える夏緑性の多年草.北海道,本州中部以北,稀に四国の高地に分布.神植目1933,神植誌1958には箱根,松浦(1958)には箱根台ヶ岳,神山が産地として記録がある.城川は1964年に丹沢原小屋で採集している.県内ではもともと個体数の少ない稀少種で,神植誌1988の調査で見出されなかったし,その後も発見されていない.園芸目的の採取により絶滅してしまった.

文献: 神植目1933 箱根 神植誌1958 箱根 稀.

標本: KPM-96618 TS-2 原小屋沢 1964.07.15 城川四郎.

 

フジチドリ Neottianthe fujisanensis F.Maek.

総合評価: Ex-A. 地域評価: 丹沢(Ex). 原因: 園芸採取; その他.

ブナやカエデ類の夏緑広葉樹の樹幹に着生する夏緑性の多年草.本州青森県の八甲田・十和田山系,岩手県和賀岳,静岡県富士山,愛鷹山と分布域の限られた種類で,生育環境が特殊なため,いずれも個体数が少なく,珍稀種である.1960年代までは丹沢山塊に点在していたが,神植誌1988の調査では見出されなかったし,その後も発見されていない.大気汚染によるブナ林の立ち枯れと園芸目的の採取によって絶滅してしまった.

文献: 神植誌1988 *YA-3;*TS-1.

標本: KPM-18510 YA-2 犬越路~大室山 1966.07.13 大場達之; KPM-104 TS-1 大室山 1961.08.15 西尾和子; KPM-96629 YA-3 大笄 1964.07.12 城川四郎; TI 丹沢塔ヶ岳 1928.08.14 久内清孝; TNS-86785 丹沢山 1951.07.23 奥山春季; TNS-106720 丹沢山 1954.07.17 林弥栄.

 

ムカゴサイシン Nervilia nipponica Makino

総合評価: En-D. 地域評価: 三浦(En). 原因: 森林伐採.

常緑広葉樹林の腐植された林床に生える多年草.本州・関東南部以南,四国,九州,沖縄県に分布.珍稀種で日本では数ヶ所しか発見されていない.県内では1990年に横須賀市のマテバシイ林内で初めて見出され(星・勝山,1992),県博に証拠標本として収められている.もともと極めて稀な種類である上,宅地造成により周囲の森林が伐採され絶滅寸前である.

標本: FLK-103268 YO-5 1990.08.25 星寛治ほか.

 

ヨウラクラン Oberonia japonica Makino

総合評価: V-H. 地域評価: 多摩(Ex) 三浦(En) 相模原(En) 西湘(Ex) 丹沢(En) 箱根(En). 原因: 森林伐採; 土地造成; 園芸採取.

暖地の樹幹または岩上に着生する常緑性の多年草.本州・東北中部以南,四国,九州,沖縄県に分布.県内ではシイ・カシ帯からクリ帯に点々と分布するが,土地開発による樹木伐採や園芸目的の採取により消滅した地域もある.現在は社寺林の古木に僅かに生きながらえている現状である.

文献: 神植目1933 横浜・登戸・鎌倉・山北・煤ヶ谷・道了山 神植誌1958 鎌倉・山北・丹沢・道了山 やや稀 神植誌1988 SA-2;*HAK-5;*YA-8;*KI-3;*KA-1;*HAY;*YO-1;*YO-5.

 

コケイラン Oreorchis patens Lindl.

総合評価: V-G. 地域評価: 丹沢(V) 三浦(En) 箱根(En). 原因: 園芸採取.

海岸の雑木林からブナ帯の湿ったところに生える半常緑性の多年草.日本全国に分布.シイ・カシ帯からブナ帯に生え,特にブナ帯の渓谷の湿潤な斜面や林床の腐植質なところを適地としている.県内では丹沢,箱根,逗子の二子山に分布.神植誌1988の調査では箱根からは見つからなかったが,1990年に箱根仙石原で確認された.また,1994年に横浜市緑区に隣接する町田市で発見されている(飯沼聡,1994).

文献: 神植誌1988 YA-1;YA-2;YA-3;YA-5;HAT-1;ZU.

 

ジンバイソウ Platanthera florenti Franch. et Sav.

総合評価: V-G. 地域評価: 丹沢(V) 箱根(Ex). 原因: 園芸採取.

ブナ帯の林床に生える夏緑性の多年草.日本全国に分布.県内では丹沢のブナ林下の湿った林床,尾根沿い,沢沿いに小群落を見ることができる.神植目1933,神植誌1958には横浜・金沢,箱根,松浦(1958)には箱根・元箱根,双子山,仙石原が産地として記録がある.神植誌1988の調査では,金沢,箱根地域から見出すことができなかったし,その後も発見されていない.園芸目的の採取により減少している.

文献: 神植目1933 金沢・箱根・塔ヶ岳 神植誌1958 金沢・塔ヶ岳・箱根 神植誌1988 YA-3;KI-1.

 

ミズチドリ Platanthera hologlottis Maxim.

総合評価: V-G. 地域評価: 丹沢(Ex) 箱根(V). 原因: 草地開発; 園芸採取.

低地湿原から山地の冷湿地やブナ帯上部の草地に生える夏緑性の多年草.日本全国に分布.県内では箱根・仙石原湿原が産地として有名であるが,湿原の乾燥化による自然遷移が進み減少が著しい.また,園芸目的の採取も減少に拍車をかけている.なお,1950年代に丹沢の風巻,原小屋,丹沢山で採集された標本が残されているが,神植誌1988の調査の時は,丹沢で見出すことができず,その後も発見されていない.

文献: 神植目1933 箱根 神植誌1958 箱根 神植誌1988 HAK-1.

 

ツレサギソウ Platanthera japonica Lindl.

総合評価: En-E. 地域評価: 丹沢(En) 箱根(Ex). 原因: 産地極限.

湿り気のある明るい林内や草地に生える夏緑性の多年草.北海道南部,本州,四国,九州に分布.県博には箱根金時山で採集された古い標本と神植誌1988の調査の時,丹沢風巻尾根で採集された標本が収められている.もともと個体数の少ない稀少種である.

文献: 神植目1933 丹沢山・箱根 神植誌1958 丹沢・箱根 神植誌1988 TS-1;*HAK-1.

標本: FLK-72906 TS-1 1985.09.16 勝山輝男; KPM-81443 HAK-1 金時山 1924.06.16 沢田武太郎; KPM-96633 TS-3 青根 1962.05.20 城川四郎.

 

ヤマサギソウ Platanthera mandarinorum Rchb.f. var. brachycentron (Franch. et Sav.) Koidz.

総合評価: Ex-B. 地域評価: 多摩(Ex) 箱根(Ex). 原因: 園芸採取.

日当たりの良い草原,疎林,時には湿地にも生える夏緑性の多年草.日本全国に分布.県内の産地として神植目1933には横浜,箱根,神植誌1958には丹沢,箱根,松浦(1958)には箱根仙石原,林・小林・小山・大河原(1961)には丹沢山,出口(1968)には横浜の記録がある.神植誌1988の調査では見出されなかったし,その後も発見されていない.園芸目的の採取により絶滅してしまった.

文献: 神植目1933 横浜・箱根 神植誌1958 丹沢・箱根 神植誌1988 丹沢ブナ帯に稀産.

 

マイサギソウ Platanthera mandarinorum Reichb.f. var. neglecta F.Maek.

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(En). 原因: 不明.

日当たりの良い草地に生える夏緑性の多年草.北海道南部から本州中北部に分布.神植誌1988,井上・中村・高橋(1991)に箱根の記録がある.県内ではもともと個体数の少ない稀少種である.

文献: 神植誌1988 箱根(中村和義).

 

コバノトンボソウ Platanthera nipponica Makino

総合評価: Ex-B. 地域評価: 三浦(Ex) 箱根(Ex). 原因: その他.

高層湿原から低地の日当たりの良い湿った草原に生える夏緑性の多年草.日本全国に分布.県博には箱根仙石原,横須賀博には横須賀市大津で採集された標本が残されている.松浦(1958)には産地として箱根双子山の記録がある.県内ではもともと個体数の少ない稀少種.神植誌1988の調査では見出されなかったし,その後も発見されていない.

文献: 神植誌1988 箱根仙石原の古い標本(KPM).

標本: KPM-81445 HAK-1 仙石原 1930.08.04 沢田武太郎; YCM-1087 YO-2 大津 1951.07.02 山田友久.

 

キソチドリ Platanthera ophrydioides Fr.Schm.

総合評価: Ex-A. 地域評価: 丹沢(Ex). 原因: 産地極限.

ブナ帯上部から亜高山帯樹林の林床に生える夏緑性の多年草.日本全国に分布.西尾(1962)には丹沢袖平の頭,林・小林・小山・大河原(1961)には大山,丹沢山が産地として記録されている.秋山は1959年に丹沢畦ヶ丸で採集した標本を所蔵している.県内ではもともと個体数が少なく,神植誌1988の調査では見出されなかったし,その後も発見されていない.

文献: 神植誌1988 *YA-1.

 

ナガバノキソチドリ Platanthera ophrydioides Fr.Schm. var. australis Ohwi

総合評価: V-G. 地域評価: 丹沢(V) 箱根(Ex). 原因: 動物食害; その他.

ブナ帯から針葉樹林帯の林床に生える夏緑性の多年草.本州・関東南部以西,四国,九州に分布.県内では丹沢のブナ林の林下や尾根沿いに点々と自生していたが,ブナ林の衰退と,シカの食害による林床植生の破壊が進み激減している.ホソバキソチドリが神植目1933,神植誌1958,松浦(1958)には箱根・駒ケ岳が産地として記録されている.ホソバキソチドリはコバノトンボソウに近い種類で北方型,ナガバノキソチドリはキソチドリに近い種類で西南型である.箱根産ホソバキソチドリはもしかすると本種かもしれない.標本が残されていないのでよく判らない.神植誌1988の調査の時,箱根では見出すことができなかった.

文献: 神植誌1988 YA-2;YA-3;HAT-2;*YA-4;*KI-1.

 

オオヤマサギソウ Platanthera sachalinensis Fr.Schm.

総合評価: V-G. 地域評価: 丹沢(V) 箱根(Ex). 原因: 園芸採取.

山地の樹林下に生える夏緑性の多年草.日本全国に分布.県内では丹沢のブナ林下に点々と自生するが,個体数は少ない.神植目1933,神植誌1958には産地として箱根の記録があり,標本(KPM-81446 深良~三国林道 1930.8.12 沢田武太郎)も残されているが,神植誌1988の調査では,箱根からは見出すことはできなかった.園芸目的の採取により減少している.

文献: 神植目1933 箱根 神植誌1958 箱根 神植誌1988 TS-1;TS-2;YA-1;YA-2.

 

トキソウ Pogonia japonica Reichb.f.

総合評価: En-D. 地域評価: 多摩(Ex) 箱根(En). 原因: 森林伐採; 草地開発.

日当たりの良い酸性湿原に生える夏緑性の多年草.日本全国に分布.古より箱根仙石原湿原は自生地として知られている.神植誌1988の調査の時は見出すことができなかったが,その後の調査で湿原内に細々と自生していることが確認された.仙石原湿原は外輪山に囲まれたすり鉢の底にある湿原で,周囲の森林伐採やリゾート開発により湿原の後退が進み,減少の一途をたどっている.原(1936)によるとかつては川崎市多摩区向丘付近の記録がある.県博にもそれと思われる標本が残されている.

文献: 神植目1933 塔ヶ岳・箱根 神植誌1958 塔ヶ岳・箱根 神植誌1988 *HAK-1.

標本: KPM-30 HAK-1 仙石原 1958.06.26 西尾和子; KPM-81448 HAK-1 仙石原 1930.06.08 沢田武太郎; KPM-34412 TAM 登戸 1951.08.26 大場達之.

 

ヤマトキソウ Pogonia minor Makino

総合評価: En-E. 地域評価: 丹沢(Ex) 箱根(En). 原因: 草地開発; 産地極限.

日当たりの良い山地のやや乾き気味の草地に生える夏緑性の多年草.日本全国に分布.県博に箱根,丹沢,川崎市多摩区で採集された標本が残されているが,神植誌1988の調査の時は見出すことはできなかった.その後,湯河原町で採集されている(長谷川,1992).もともと個体数の少ない稀少種である.

文献: 神植目1933 箱根 神植誌1958 箱根 神植誌1988 *TS-1;*HAK-1;*HAK-4;*TAM.

標本: FLK-104359 YU-2 1991.11.04 長谷川義人; KPM-81450 HAK-1 仙石原 1929.07.02 沢田武太郎; KPM-81451 HAK-4 早雲山 1930.07.13 沢田武太郎; KPM-96634 TS-1 風巻 1954.07.07 城川四郎.

 

ヒナチドリ Poneorchis chidori Ohwi

総合評価: Ex-A. 地域評価: 丹沢(Ex). 原因: 産地極限.

ブナ,ミズナラなどの樹幹に着生する夏緑性の多年草.北海道・日高地方,本州,四国に分布.林・小林・小山・大河原(1961)に塔ヶ岳,ユーシンの記録と写真が載っている,ユーシンで採集された標本は科博に残されている.県内ではもともと個体数の少ない珍奇種である.

標本: TNS-110763 丹沢山 1954.07.13 林弥栄.

 

ウチョウラン Poneorchis graminifolia Reichb.f.

総合評価: V-G. 地域評価: 丹沢(V) 箱根(En). 原因: 園芸採取.

山地のやや湿った岩壁に生える夏緑性の多年草.本州,四国,九州に分布.県内ではブナ帯の岩壁,岩上,岩の割れ目に生え,1970年代までは群生地も何ヶ所かあったが,ウチョウラン栽培ブームで山草愛好家や山草業者の乱獲によってすっかり失われてしまった.

文献: 神植目1933 塔ヶ岳・山北・箱根 神植誌1958 塔ヶ岳・山北・箱根 稀 神植誌1988 YA-3;YA-6;KI-2;*YA-5;*MAT;*HAT-2;$HAK-1;$HAK-5.

 

カヤラン Sarcochilus japonica Miq.

総合評価: V-H. 地域評価: 多摩(Ex) 三浦(En) 相模原(En) 丹沢(En) 箱根(En). 原因: 森林伐採; 園芸採取.

常緑樹林内の樹幹に着生する常緑性の多年草.本州・東北部以南,四国,九州に分布.県内ではスギ,カヤなどの針葉樹から川沿いのサクラ,ウメなどの落葉樹に着性.特に社寺林や庭園の保護されている古木に,大きな群落が現存するところもある.しかし,神植目1933,神植誌1958には横浜,登戸が産地として記録されているが,神植誌1988の調査の時は見出されず,その後も発見されていない.絶滅したところもある.樹木の伐採や園芸目的の採取により減少している.

文献: 神植目1933 金沢・横浜・鎌倉・登戸・津久井・箱根 神植誌1958 金沢・横浜・鎌倉・登戸・津久井・箱根 神植誌1988 HAK-4;SA-3;*YA-3. 8;*KI-3;*MIA-2;*YU-1

 

クモラン Taeniophyllum glandulosum Blume

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(Ex) 三浦(Ex) 丹沢(En) 箱根(Ex). 原因: その他.

日当たりの良い樹幹に着生する無葉の多年草.本州・関東以西,四国,九州,沖縄県に分布.神植目1933,神植誌1958には鎌倉と登戸の記録がある.原(1936)は武州向丘村植物誌で公園地帯のモミに着生していたことを記している.松浦(1958)には小田原,箱根仙石原,東薬大植物研究部(1983)には津久井町が産地として記録されている.神植誌1988の調査の時は見出すことはできなかったが,その後,山北町で発見された(長谷川,1994).着生樹木が古木の桜,梅が多いため古木の枯死や農地転用による伐採によって減少し,絶滅か絶滅寸前の自生地が多い.

文献: 神植目1933 鎌倉・登戸 神植誌1958 鎌倉・登戸 神植誌1988 *KA-1;*YA-8;$TAM;+TS-5.

標本: YCM-1095 KA-2 北鎌倉円覚寺 1961.03.18 大谷 茂.

 

ヒトツボクロ Tipularia japonica Matsum.

総合評価: En-E. 地域評価: 丹沢(En) 箱根(En). 原因: その他.

ブナ帯の樹林下に生える夏緑性の多年草.本州,四国,九州に分布.神植誌1988の調査では,津久井町城山(1978年採集,城川所蔵)と箱根で見出された.その後,西丹沢でも発見されている.また,井上・中村・高橋(1991)は箱根の大沢川流域で記録している.いずれの産地も個体数は少ない.

文献: 神植誌1988 HAK-4;$OD-4.

標本: FLK-73017 HAK-4 1984.06.28 山内好美; FLK-106003 YA-4 1994.06.26 勝山輝男.

 

イイヌマムカゴ Tulotis iinumae H.Hara

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(Ex) 丹沢(En) 箱根(Ex). 原因: 園芸採取.

山地の林床に生える夏緑性の多年草.北海道南部,本州,四国,九州(霧島山)に分布.県博には箱根乙女峠で1936年に採集された古い標本が残されている.神植目1933,神植誌1958には大山,道了山,箱根,原(1936)には川崎市登戸,松浦(1958)には箱根姥子,林・小林・小山・大河原(1961)には大山,塔ヶ岳が産地として記録されている.神植誌1988の調査では丹沢で採集されたのみである.個体数の少ない稀少種.園芸目的の採取により絶滅寸前である.

文献: 神植目1933 大山・道了山・箱根 神植誌1958 大山・道了山・箱根 神植誌1988 YA-2.

標本: FLK-73018 YA-2 1982.08.26 勝山輝男; KPM-81455 HAK-1 乙女峠 1936.07.14 沢田武太郎; KPM-96632 YA-3 丹沢 1953.08.19 城川四郎.

 

オオハクウンラン Vexillabium fissum F.Maek.

総合評価: V-G. 地域評価: 丹沢(V) 三浦(En) 湘南(En) 箱根(Ex). 原因: 産地極限.

常緑広葉樹林下に生える常緑性の多年草.本州・伊豆七島に分布.県内では常緑広葉樹と夏緑広葉樹の混交林内に自生する個体数少ない稀少種.

文献: 神植誌1988 KI-2;AT-4;HI-1;ZU;*YU-1.

 

ハクウンラン Vexillabium nakaianum F.Maek.

総合評価: V-G. 地域評価: 丹沢(V) 箱根(V). 原因: その他.

常緑広葉樹と夏緑広葉樹の混交林下に生える常緑性の多年草.本州,四国,九州に分布.神植誌1988の調査では丹沢大石山,大山,箱根白銀山で採集されている.また,井上・中村・高橋(1991)は箱根の大沢川流域で記録している.いずれの産地も個体数の少ない稀少種である.

文献: 神植誌1988 YA-3;OY;HAK-4;$HAK-5.

 

センリョウ科 CHLORANTHACEAE

センリョウ Chloranthus glaber (Thunb.) Makino

総合評価: En-E. 地域評価: 三浦(En) 箱根(Ex). 原因: 産地極限.

常緑樹林林床に生える.箱根,鷹取山,三浦で記録があるが,現在はほとんど見られない.関東南部が分布の北限にあたり,房総半島(清澄山)や伊豆半島でも自生するが少ない(杉本,1984).神植誌1988の調査では見出されなかったが,その後,三浦半島小網代の谷で発見された(大森,1989).三浦海岸付近ではかつて盛んに栽培されていた記録があるので,現在見られるものはその逸出の可能性もある.

文献: 神植目1933 逗子・関本・横須賀・鷹取山・湯本 神植誌1958 逗子・関本・横須賀・鷹取山・湯本.

 

ヤナギ科 SALICACEAE

ミヤマヤナギ Salix reinii Franch. et Sav.

総合評価: V-G. 地域評価: 丹沢(V). 原因: 不明.

高山,亜高山や山地の高い陽性の砂礫地や岩石地に生える落葉低木.富士山の五合目には大変多い.神奈川県では西部丹沢や三国峠方面にあるが,これらは種子が富士山方面から飛散し分布したものと考えられる.ヤナギ科のものは雌雄異株であるから近くに株が接してないと結実せず,そのために繁殖が制限されていると考える.神植目1933,神植誌1958にあるヤマヤナギ S. Saidaeana Seemen はミヤマヤナギを誤って指したものである.本州(中部以北),北海道に分布.鳥取県大山に産するかどうかはダイセンヤナギとの関連があって未解決である.白山がタイプ・ロカリティ.

文献: 神植誌1988 YA-1.

 

カバノキ科 BETULACEAE

ヤハズハンノキ Alnus matsumurae Callier

総合評価: Ex-A. 地域評価: 丹沢(Ex). 原因: 不明.

神植目1933と神植誌1958に都筑,宮代(1958)に都筑(久保)を記録しているが,これは分布的にみてヤマハンノキの誤認と思われる.林・小林・小山・大河原(1961)は檜洞丸,姫次,丹沢山(龍ヶ馬場)を記録し,分類地理上注目すべき種類としてコメントしている.しかし,神植誌1988の調査では確認できなかった.

文献: 神植目1933 都筑 神植誌1958 都筑.

 

ブナ科 FAGACEAE

ウバメガシ Quercus phyllyraeoides A.Gray

総合評価: En-D. 地域評価: 三浦(En). 原因: 産地極限.

関東南部以南に分布し,神奈川県は分布の北限に当たる.現在自生と考えられるのは城ケ島だけで,東浦賀の社叢林中にある株は植栽されたものと考えられる.材が堅いので,かつて和船のロベソに用いられた.また,最近は公園などにしばしば植栽される.伊豆半島の海岸には多く(杉本,1984),房総では清澄山と安房に分布している.

文献: 神植誌1958 三浦 神植誌1988 YO-2;YO-5;MIU;JO.

標本: KPM-63168 FU-3 鵠沼海岸 1965.05.09 渡辺次雄; KPM-27072 TAM 西生田 1952.06.29 大場達之; KPM-27099 YO-2 観音崎 1950.02.15 大場達之; YCM-3696 YO-2 浦賀東 1964.11.01 ; YCM-3698 YO-4 武山岩崎山 1966.10.11 大谷 茂; YCM-3699 YO-1 根岸町 1983.11.21 浜中義治; YCM-3700 YO-5 長沢公園 1979.05.26 西山清治; YCM-3701 JO 城ヶ島 1979.12.17 鈴木一喜; YCM-3702 MIU 上宮田 1983.06.01 鈴木一喜.

 

イラクサ科 URTICACEAE

トキホコリ Elatostema denciflorum Franch. et Sav.

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(En) 三浦(En) 湘南(En). 原因: 森林伐採; 草地開発?.

路傍の湿った日陰に生える一年草.神植誌1988の調査では綾瀬と鎌倉二階堂から記録され,その後,川崎市生田緑地からも報告がある(吉田多美江,1994).かつて横浜で採集され(Franch. et Sav. 1875),昭和初期には東京の住宅の庭で普通に見られたが,現在ほとんど見られない.静岡県が分布の南限と推定される(杉本,1984).減少や絶滅の原因は生育環境の変化によると考えらるが,よくわからない.

文献: 神植誌1988 AY.

標本: FLK-81900 AY 中村 1979.09.02 秋山守; YCM-10459 KA-2 二階堂 1988.10.16 山内好孝.

 

ミヤマミズ Pilea petiolaris (Sieb. et Zucc.) Bl.

総合評価: Ex-A. 地域評価: 箱根(Ex). 原因: 産地極限.

山地の湿ったところに生える.静岡県でも伊豆でまれに見られる(杉本,1984)程度である.神植誌1958や松浦(1958)に湯河原の記録があり,県博にも1957-58年に採集された湯河原または奥湯河原の標本が残されている.湯河原は分布の東限に当たり,もともと個体数は少なかったと考えられる.久内(1940)には伊豆日金峠の沢の記録があり,前述の産地は静岡県側かもしれない.

文献: 神植誌1958 湯河原 神植誌1988 +YU-1.

標本: KPM-3507 YU-1 湯河原 1957.11.17 西尾和子; KPM-3505 YU-1 奥湯河原 1958.08.04 西尾和子.

 

ホソバイラクサ Urtica angustifolia Fisch.

総合評価: Ex-A. 地域評価: 箱根(Ex). 原因: 産地極限.

山地に生える.箱根の記録があるだけである.千葉県や静岡県の目録中にも見られず,神奈川県周辺は分布の周縁であり,もともと少なかったと考えられる.

文献: 神植目1933 箱根 神植誌1958 箱根.

標本: MAK-119390 相模箱根山 1900.06.08 名倉聞一郎?; MAK-119389 相模箱根 1920 牧野富太郎; TNS 5042 相模箱根.

 

ヤドリキ科 LORANTHACEAE

オオバヤドリギ Schurula yadoriki (Sieb.)Danear

総合評価: En-E. 地域評価: 西湘(En) 箱根(En). 原因: 産地極限.

関東地方南部以南に分布し,常緑樹に寄生する.小田原市城山,湯河原などで見られるが,本県は分布の北限に当たり,少ない.伊豆ではまれでなく(杉本,1984),房総では上総で見られる.

文献: 神植目1933 箱根 神植誌1958 箱根 神植誌1988 *OD-2;$YU-2.

標本: FLK-103460 OD-2 城山 1991.02.18 山内好孝; FLK-105207 YU-2 鍛冶屋五郎神社 1992.11.23 篠田朗彦ほか.

 

マツグミ Taxillus kaempferi (DC.) Danser

総合評価: V-G. 地域評価: 丹沢(V) 相模原(En) 箱根(Ex). 原因: 産地極限.

関東以西に分布し,針葉樹(モミ,ツガ,アカマツなど)に寄生する.丹沢に見られ,低地では大和市だけで記録されている(大和市教育委員会,1989).松浦(1958)に道了尊の記録があるが,神植誌1988の調査では見つからなかった.静岡県ではそれほどまれではなく(杉本,1984),房総では上総で見られる.神奈川県は分布の周縁に当たる.

文献: 神植目1933 箱根 神植誌1958 箱根 神植誌1988 YAT;KI-3;TS-3.

 

ウマノスズクサ科 ARISTOLOCHIACEAE

ウスバサイシン Asiasarum sieboldii (Miq.) F.Maek.

総合評価: Ex-D. 地域評価: 丹沢(Ex). 原因: 産地極限.

山地の湿った林床に生える.丹沢山で1956年に採集された標本だけである.静岡県でも北部に少しあるだけで(杉本,1984),本県は分布の周縁に当たる.

文献: 神植誌1988 TS-2(城川).

標本: FLK-105941 TS-2 丹沢山 1956.05.31 城川四郎.

 

タマノカンアオイ Heterotropa muramatsui (Makino) F.Maek. var. tamaensis (Makino) F.Maek.

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(V). 原因: 産地極限.

丘陵地の林床に生える.分布域は関東南西部で,県内でも川崎市多摩区,麻生区,横浜市青葉区ときわめて限られている.多摩丘陵は大規模な宅地開発などにより近年著しい影響を受けており,生育環境の減少に伴い絶滅が危惧される.

文献: 神植目1933 橘樹 神植誌1958 登戸・菅 神植誌1988 TAM;TAK;MI-1;+MI-2;KOH.

 

ツチトリモチ科 BALANOPHORACEAE

ミヤマツチトリモチ Balanophora nipponica Makino

総合評価: V-G. 地域評価: 丹沢(V) 箱根(Ex). 原因: 不明.

主にカエデ類の根に寄生する.箱根金時山南面で採集された古い標本が強羅公園博物館にあり,丹沢袖平の頭で1959年に記録されている(西尾,1962)が,神植誌1988では発見できなかった.しかし,1993年に丹沢熊木沢~蛭ヶ岳,弁当沢の頭~棚沢の頭,甲相国境尾根西の丸,厚木の鐘ヶ岳などで相次いで発見された(勝山,1994; 城川,1994a).

文献: 神植誌1988 *HAK-1.

 

タデ科 POLYGONACEAE

クリンユキフデ Bistorta suffulta (Maxim.) Greene

総合評価: Ex-B. 地域評価: 丹沢(Ex)箱根(Ex). 原因:不明.

ブナ帯の林内に生える多年草.本州から九州に分布する.神奈川県では丹沢と箱根に記録があるが,神植誌1988の調査では採集されていない.

文献: 神植目1933 箱根・塔ヶ岳 神植誌1958 箱根・塔ヶ岳 神植誌1988 *KI-2.

標本: KPM-15381 KI-2 中津川 1953.05.31 大場達之.

 

ヒメタデ Persicaria erecto-minor (Makino) Nakai

総合評価: V-G. 地域評価: 湘南(V) 西湘(V). 原因: 草地開発.

湿地に生える一年草.日本全国に分布.神植誌1988の調査では小田原市坊所,秦野市鶴巻,平塚市ふじみ野で採集されただけである.東京大学に藤沢市鵠沼で採集された古い標本(TI 相模鵠沼 1929 籾山泰一)もあり,かつては沿海地の湿地に広く分布していたことが窺える.

文献: 神植目1933 鵠沼 神植誌1958 鵠沼・辻堂・等 神植誌1988 OD-2;HAT-5;HI-2.

 

ヤナギヌカボ Persicaria foliosa (H.Lindb.) Kitagawa var. paludicola (Makino) H.Hara

総合評価: Ex-A. 地域評価: 多摩(Ex) 湘南(Ex). 原因: 草地開発.

湿地に生える一年草.日本全国に分布する.神奈川県では片瀬・鵠沼に記録がある.かつての鵠沼付近にはミミカキグサの生えるような湿地があり,おそらく同じような所に生えていたものと考えられる.1932年にはすでにこれらの湿地は失われていたようである(久内,1932).また,今回の標本調査により武蔵三ツ沢池(横浜市神奈川区)で採集された標本が都立大学に残されているのを見出した.

文献: 神植目1933 片瀬・鵠沼 神植誌1958 片瀬・鵠沼 神植誌1988 +FU-3.

標本: MAK-13682 武蔵三ッ沢池畔 1911.09.24 牧野富太郎.

 

ナガバノウナギツカミ Persicaria hastato-sagittata (Makino) Nakai

総合評価: Ex-B. 地域評価: 多摩(Ex) 箱根(Ex). 原因: 池沼開発.

湿地に生える一年草.本州から九州に分布する.横浜市旭区にあった上白根大池で採集された記録がある(出口,1968).上白根大池は埋め立てられて公園になってしまった.神植目1933,神植誌1958,松浦(1958)ともに具体的な産地は記されていない.東大に横浜で採集された古い標本が残されている.かつては谷戸の湿地に生えていたと想像される.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし.

標本: KPM-80967 AS 上白根大池 1952.09.13 出口長男; TI 横浜 1910.09.04 S.Tamaki.

 

サデクサ Persicaria maackiana (Regel) Nakai

総合評価: Ex-C. 地域評価: 多摩(Ex) 湘南(Ex) 箱根(Ex). 原因: 池沼開発.

湿地に生える一年草.本州から九州に分布する.神植目1933,神植誌1958,松浦(1958)に記録があり,かつては低地から箱根まで広く分布していたと思われるが,今ではまったく見られなくなってしまった.

文献: 神植目1933 横浜・川崎・金沢・鵠沼 神植誌1958 横浜・川崎・金沢・鵠沼.

標本: TI 相模茅ケ崎 1914.10.11 久内清孝; MAK-14977 茅ケ崎 1915 牧野富太郎.

 

ヌカボタデ Persicaria taquetii (Lev.) Koidz.

総合評価: Ex-B. 地域評価: 三浦(Ex) 箱根(Ex). 原因: 池沼開発.

湿地に生える一年草.日本全国に分布する.神植目1933,神植誌1958,松浦(1958)に出ているが,具体的な産地は記されていない.東大に逗子産の古い標本が残されていた.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし 稀.

標本: TI 相州逗子 1918.09.22 S.S.

 

ホソバイヌタデ Persicaria trigonocarpum (Makino) Nakai

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(Ex) 相模原(En). 原因: 河川開発; 草地開発.

湿地に生える一年草.北海道,本州(関東以北)に分布する.神植目1933,神植誌1958には出ていない.宮代(1958)には大磯の記録がある.神植誌1988の調査では相模川新昭和橋の相模原市側で採集された.変化の激しい河川敷なので,現在も生き残っているか不明である.東京大学には片瀬川で採集された古い標本が残されている.

文献: 神植誌1988 SA-2.

標本: FLK-1428 SA-2 新昭和橋 1983.10.22 早川亮太; TI 相模片瀬片瀬川ノ畔 1931.10.11 籾山泰一.

 

ノダイオウ Rumex longifolius DC

総合評価: Ex-B. 地域評価: 多摩(Ex)箱根(Ex). 原因: 不明.

草地に生える多年草.北海道,本州(中部以北)に分布.神奈川県では横浜(出口,1968など)と箱根(松浦,1958)に記録があるが,神植誌1988の調査では採集されていない.今回の標本調査では神奈川県産の標本は見つからなかった.

文献: 神植目1933 横浜 神植誌1958 横浜.

 

マダイオウ Rumex madaio Makino

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(Ex) 丹沢(En) 箱根(Ex). 原因: ダム建設; その他.

山地の湿地に生える多年草.本州,四国,九州に分布.神植誌1988の調査では清川村宮ヶ瀬で採集されたが,宮ヶ瀬付近は宮ヶ瀬ダムにより水没する予定になっており,絶滅が心配される.神植目1933,神植誌1958に横浜,箱根の記録があるが,神植誌1988の調査では確認できなかった.箱根仙石原あたりに現存する可能性は大きいと思われる.

文献: 神植目1933 横浜・箱根 神植誌1958 横浜・箱根 神植誌1988 KI-2.

標本: FLK-34015 KI-2 宮ヶ瀬 1987.06.21 高橋秀男.

 

アカザ科 CHENOPODIACEAE

カワラアカザ Chenopodium virgatum Thunb.

総合評価: V-H. 地域評価: 三浦(En) 相模原(V) 湘南(Ex) 西湘(Ex) 丹沢(Ex) 箱根(V). 原因: 河川開発; 海岸開発.

川原や海岸に生える.神植誌1958ではマルバアカザと一緒にされているので,かつての分布は不明.丹沢,箱根,相模でまれに見られる.生育に適した環境は減少している.

文献: 神植目1933 足柄下(久野)・玄倉・与瀬 神植誌1958 鎌倉・鵠沼・平塚・久野・玄倉・与瀬 普通 神植誌1988 AT-2;ZA;EB;YO-1;MIU;JO;MAN;YO-3;YO-4;$AY;$SA-2.

 

ハママツナ Suaeda maritima (L.) Dumort.

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(Ex) 三浦(V) 湘南(Ex). 原因: 海岸開発.

内湾の塩沼地や砂浜に生える.神奈川県では三浦の塩沼地だけで見られる.ハママツナの生育に適した干潟や遠浅の砂浜などは最初に埋め立てられ,さらに護岸などにより生育環境が減少したと考えられる.房総では東京湾側だけで見られる.静岡県の三保では絶滅した(杉本,1984).

文献: 神植目1933 横浜・三崎・久里浜・鎌倉・茅ヶ崎 神植誌1958 横浜・三崎・松輪・天神島・下浦・久里浜・鎌倉・茅ヶ崎 神植誌1988 YO-4;MIU.

 

ヒユ科 AMARANTHACEAE

ヤナギイノコヅチ Achyranthes longifolia (Makino) Makino

総合評価: V-G. 地域評価: 相模原(V)箱根(Ex). 原因: 不明.

山地林床に生える.関東地方以西に分布するが,個体数はそれほど多くないようである.神植誌1988では相模原市,大和市,厚木市で記録された.箱根の記録(松浦,1958)もあるが,今は見あたらない.過去の記録が少なく,県内の動向は不明.

文献: 神植誌1988 SA-1;SA-2;AT-2;YAT.

 

ナデシコ科 CARYOPHYLLACEAE

ワダソウ Pseudostellaria heterophylla (Miq.) Pax

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(En)相模原(En) 小仏(V). 原因: 産地極限.

本州中部以北の山地に生える.神植誌1988では相模原市,大和市,横浜市緑区等で記録された.その後,相模湖町でも採集されている.山地生のため神奈川県は分布の周縁に当たり,個体数はもともと少ないと推測される.

文献: 神植目1933 都筑・橘樹 神植誌1958 都筑(久保)・橘樹(野川)・横浜 神植誌1988 MI-1;AS;SE;YAT;SA-4;ZA;AT-2.

 

スイレン科 NYMPHAEACEAE

ジュンサイ Brasenia schreberi G.F.Gmelin

総合評価: Ex-B. 地域評価: 多摩(Ex) 箱根(Ex). 原因: 池沼開発.

やや酸性の池沼に生える.出口(1968)によると1940年頃まで上白根大池に生育していたという.また,松浦(1958)は箱根仙石原を記録している.県内には適した環境はもともと少なかったと考えられる.生育環境(池沼)の消滅が,絶滅の主要因せあろう.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし 神植誌1988 多摩丘陵絶滅(上白根大池).

 

ヒメコウホネ Nuphar japonica DC.

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(Ex) 相模原(En) 箱根(Ex). 原因: 池沼開発.

本州・四国の池沼に生える.松浦(1958)には箱根芦の湯の記録があるが,現在の芦の湯には池がない.神植誌1988の標本産地のうち川崎市黒川と登戸では絶え,わずかに海老名市中新田で見られるだけである.生育環境(池沼)の減少が絶滅の原因であろう.

文献: 神植誌1988 TAM.

標本: FLK-100278 EB 中新田 1988.06.15 高橋秀男; FLK-36542 TAM 黒川 1981.08.14 森茂弥; KPM-16957 TAM 登戸 1950.03.15 大場達之.

 

ヒツジグサ Nymphaea tetragona Georgi

総合評価: Ex-B. 地域評価: 多摩(Ex) 箱根(Ex). 原因: 池沼開発.

低地の池沼に生える.出口(1968)は上白根大池(横浜市旭区)を,原(1936)には字初山の池(現川崎市宮前区),松浦(1958)には箱根仙石原の記録があるが,いずれも絶滅.ジュンサイ同様,生育に適した環境があまりなかったのであろう.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし.

標本: KPM-79953 AS 上白根 採集年月日不明 高橋不石.

 

マツモ科 CERATOPHYLLACEAE

マツモ Ceratophyllum demersum L.

総合評価: En-E. 地域評価: 三浦(En) 西湘(Ex). 原因: 池沼開発.

池沼や緩やかな河川に生える.神植誌1988では横須賀市で記録されただけである.小田原橘町で採集された古い標本が残っているが,すでに絶滅した.世界中に分布し,キンギョモの別名もあるほど身近な植物であるが,生育環境(池沼)の消滅で,なくなったと考えられる.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし 神植誌1988 YO-4.

標本: KPM-6777 OD-2 橘町 1959.10.25 西尾和子.

 

キンポウゲ科 RANUNCULACEAE

ミチノクフクジュソウ Adonis multiflora Nishikawa et Ko. Ito

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(Ex) 丹沢(En). 原因: 土地造成; 園芸採取.

温帯落葉樹林下に生える.出口(1968)は中沢(横浜市旭区)に数10株の群生地,白根に少数あったが,1949年に中沢町の産地は宅地造成により失われたと記している.現在は丹沢北麓から東麓にかけて見られるだけである.最近,Nishikawa (1989)は日本産のフクジュソウ類をキタミフクジュソウA. amulensis Regel et Radde,ミチノクフクジュソウ,フクジュソウA. ramosa Franch.の3種に分けた.県内産のものは1茎あたりの花数が多いので,ミチノクフクジュソウにあたると思われる.

文献: 神植目1933 横浜・都築 神植誌1958 横浜・都筑(本郷) 神植誌1988 TS-5.

標本: FLK-101606 KI-2 宮ヶ瀬 1987.05.19 高橋秀男; FLK-36771 TS-5 鳥屋 1980.03.16 ; FLK-106026 TS-5 稲生 1994.04.17 勝山輝男; TI 横浜 1916.05.25 K. Hisauchi.

 

スハマソウ Anemone hepatica L. var. japonica (Nakai) Ohwi f. variegata (Makino) H.Hara

総合評価: V-H. 地域評価: 多摩(Ex) 三浦(En) 相模原(Ex) 丹沢(S) 小仏(En). 原因: 土地造成; 管理放棄.

本州・四国の落葉広葉樹林床に生える.かつては県西の山地から多摩丘陵を経て三浦半島まで分布していたが,今では,相模原や多摩で絶え,丹沢,小仏,鎌倉でまれに見られるにすぎない.緑地そのものが減少している他に,雑木林の遷移が進んでいること,園芸用の採取などが原因で減少している.

文献: 神植目1933 鎌倉・大山 神植誌1958 鎌倉・大山・神武寺 神植誌1988 FUJ-2;YA-5;ISE-1;KA-1;+ZU.

 

アズマイチゲ Anemone raddeana Regel

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(En)相模原(En)小仏(En). 原因: 産地極限.

温帯落葉樹林の林床に生える.県内では小仏山地から相模原台地周辺を経て横浜市緑区まで稀に見られる.静岡県東部(杉本,1984)や房総でまれである.

文献: 神植目1933 津久井 神植誌1958 津久井 神植誌1988 FUJ-1;TS-5;SA-4;EB;MI-1.

 

カザグルマ Clematis patens Morreu et Decne.

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(En) 相模原(En) 箱根(En). 原因: 園芸採取.

本州以南の日当たりのよい山野に生える.神植誌1988とそれ以降の調査では横浜市保土ヶ谷区と相模原市で採集されただけである.神植誌1988の南足柄市の記録は標本が残されておらず,データミスと思われる.尚,松浦(1958)に記録があり,かつては箱根方面にも分布していたと考えられる.静岡県西部ではまれではないが近年著しく減少した(杉本,1984).園芸的な価値もあり,採集も減少の一因か.

文献: 神植目1933 横浜 神植誌1958 産地記載なし 神植誌1988 MIA-3;HO.

標本: FLK-101944 HO 川島町 1989.05.13 吉川アサ子; FLK-37427 HO 上星川町 1980.05.25 高橋秀男; FLK-104530 SA-1 望地 1992.05.19 宮崎卓.

 

ベニバナヤマシャクヤク Paeonia obovata Maxim.

総合評価: En-D. 地域評価: 丹沢(Ex) 小仏(En). 原因: 産地極限; 園芸採取.

北海道・本州・九州の落葉樹林に生える.本県は分布の周縁に当たり稀.静岡県でもまれである(杉本,1984).林(1968)に札掛,塔ヶ岳,世附の地名が出ているが,神植誌1988の調査では発見されなかった.最近,石老山で見つかり,FLORA KANAGAWA No.38 の表紙に写真が掲載されている.花が美しいので見つかるとすぐに採取されてしまい絶滅が危惧される.

 

オキナグサ Pulsatilla cernua (Thunb.) Spreng.

総合評価: En-F. 地域評価: 多摩(Ex) 三浦(Ex) 相模原(Ex) 丹沢(En) 小仏(En) 箱根(Ex). 原因: 草地開発; 園芸採取.

山地の明るい草原に生える.県内各地で記録され,標本も多数残されているが,そのほとんどの産地が失われてしまった.現在は丹沢と小仏山地にわずかに見られるだけである.山が放置され,適した環境がなくなったことと,園芸用に採取されたことが原因であろう..

文献: 神植目1933 横浜・鎌倉・愛甲・都筑・橘樹・津久井・等 神植誌1958 横浜・三浦・鎌倉・愛甲・都筑・橘樹・山北 神植誌1988 YA-1;YA-3;HAT-1.

標本: FLK-37786 YA-1 1985.05.26 内藤美知子; FLK-37787 YA-3 1983.05.08 勝山輝男; KPM-11498 HAT-4 大倉尾根 大場達之; KPM-18306 HAK-4 神山 1953.05.03 大場達之; KPM-6298 YA-8 大野山 1962.04.22 中村武久; KPM-79935 AS 上白根 1953.04.29 出口長男; HCM-15134 HAT-1 三ノ塔 1981.05.29 金子順三; TI 津久井郡日蓮村新倉 1952.04.13 金井弘夫; TI 相州大山 1925.04.11 T.Sato; TI 南足柄町最乗寺 alt.700m 1958.05.23 金井弘夫; TI 丹沢主脈 風巻の頭 1952.05.04 金井弘夫; TI 鎌倉今泉 1932.04.03 籾山泰一.

 

コキツネノボタン Ranunculus chinensis Bunge

総合評価: Ex-B. 地域評価: 湘南(Ex) 箱根(Ex). 原因: 草地開発.

日当たりのよい湿地に生える.神植目1933や神植誌1958に茅ヶ崎の記録があり,東京大学や都立大学に平塚で採集された標本が多数残されている.かつて,湘南の海岸近くの湿地に生えていたのであろう.松浦(1958)に箱根の記録もあるが,標本は確認できなかった.神植誌1988では確認されなかったが,その後,奥山(1989)は横浜市瀬谷区から報告している.近隣の都県でもあまり記録はなく,もともと個体数は少ない種と考えられる.

文献: 神植目1933 茅ヶ崎 神植誌1958 茅ヶ崎(相模川河原か?).

標本: TI Hiratsuka 1924.05 Y.Yamamoto; TI 相州平塚海岸 1923.05 Y.Yamamoto; TI 相模平塚 1922.05.28 S.Hattori; MAK-206767 相模平塚 1924.05 牧野富太郎; MAK-206766 相模平塚 1930.05.25 牧野富太郎; MAK-204353 相模平塚 1928 牧野富太郎; MAK-204352 相模平塚 1905.05.29 牧野富太郎; MAK-204351 相模平塚 1928.05 牧野富太郎.

 

バイカモ Ranunculus nipponicus (Makino) Nakai var. submersus H.Hara

総合評価: En-D. 地域評価: 多摩(Ex) 西湘(En) 箱根(Ex). 原因: 池沼開発.

北海道・本州の河川や湧水池などに生える.かつては川崎市多摩区菅,箱根芦ノ湖(松浦,1958)で記録されたが,現在はわずかに小田原市曽比で見られるだけである.原(1936)は武州向丘村植物誌の中で多摩川と新川とに大株をなして水流にたなびいていたと書いている.湧水池がなくなり,水質が悪化するなどの環境変化が減少の要因と考えられる.

文献: 神植目1933 橘樹(菅) 神植誌1958 川崎(菅) 神植誌1988 OD-2.

標本: FLK-37954 OD-2 曽比 1985.05.17 一寸木肇.

 

オトコゼリ Ranunculus tachiroei Franch. et Sav.

総合評価: Ex-B. 地域評価: 西湘(Ex) 箱根(Ex). 原因: 草地開発.

日当たりのよい湿地に生える.神植目1933では山北町谷我の記録があり,宮代(1958)はこの他に大船の地名をあげている.また,県博には箱根お玉ヶ池産の標本も残されている.いずれの産地も絶滅.原記載では江戸付近とあるが(Franch. et Sav. 1878),房総では記録がなく,静岡県でも少ない(杉本,1984).生育に適した環境(湿地)がなくなったためと考えられる.

文献: 神植目1933 足柄上(谷我) 神植誌1958 足柄上 稀.

標本: KPM-11182 HAK-5 お玉ヶ池 1965.06.26 大場達之.

 

ヒキノカサ Ranunculus ternatus Thunb.

総合評価: Ex-B. 地域評価: 多摩(Ex) 三浦(Ex). 原因: 草地開発.

関東以西の日当たりのよい湿地に生える.横浜市港北区樽町と三浦の記録があるが,絶滅.近隣諸県でも記録はあるが,絶滅しているところが多い(杉本,1984).生育に適した環境(湿地)がなくなったためであろう.

文献: 神植目1933 横浜(樽) 神植誌1958 横浜・三浦.

 

シギンカラマツ Thalictrum actaefolium Sieb. et Zucc.

総合評価: V-G. 地域評価: 相模原(En) 小仏(S) 箱根(Ex). 原因: 産地極限.

関東南部以西の礫地,乾いた林地に生える.神植誌1988の調査では石老山,小仏,相模原市当麻で採集された.その後,相模湖北岸や津久井湖北岸(長谷川,1991)でも確認されている.静岡県東部で少なく(杉本,1984),房総にはない.神奈川県は分布の周縁に当たり,もともと個体数が少ないと考えられる.

文献: 神植目1933 箱根・愛甲・津久井 神植誌1958 箱根・愛甲・津久井 神植誌1988 SAG;SA-2.

 

ノカラマツ Thalictrum simplex L. var. brevipes H.Hara

総合評価: Ex-A. 地域評価: 多摩(Ex). 原因: 草地開発.

本州・九州の野原に生える.神植目1933に横浜市港北区樽町の記録があり,都立大学に神奈川付近で採集された古い標本が残されている.また,林(1968)には大山,塔ヶ岳,丹沢山とある.いずれもその後確認されていない.全国的に見ても個体数が多い種とはいえない.

文献: 神植目1933 横浜(樽) 神植誌1958 産地記載なし.

標本: MAK-4140 神奈川附近 1904.07.27 小泉秋雄.

 

メギ科 BERBERIDACEAE

ルイヨウボタン Caulophyllum robustum Maxim.

総合評価: En-D. 地域評価: 丹沢(En). 原因: 不明.

北海道から九州の落葉広葉樹林林床に生える.丹沢で見られる.本県は分布の周縁部に当たり,静岡県東部でも少ない(杉本,1984).

文献: 神植目1933 丹沢山・蛭ヶ岳・津久井(底沢) 神植誌1958 丹沢山・蛭ヶ岳・津久井 神植誌1988 TS-1.

標本: FLK-38633 TS-1 蛭ヶ岳 1989.06.15 城川四郎.

 

ケシ科 PAPAVERACEAE

ヤマブキソウ Chelidonium Japonicum Thunb.

総合評価: V-G. 地域評価: 相模原(En) 丹沢(S) 小仏(S). 原因: 産地極限; 園芸採取.

本州以南の低地の樹林に生える.津久井町,愛川町から相模原台地周辺まで分布している.相模原台地では境川沿いの段丘崖下に見られる.静岡県では記録がなく(杉本,1984),房総でもまれである.

文献: 神植誌1988 TS-4;TS-5;AI;SA-3;YAT.

 

アブラナ科 CRUCIFERAE

ハクサンハタザオ Arabis gemmifera (Matum.) Makino

総合評価: Ex-A. 地域評価: 三浦(Ex). 原因: 産地極限.

山地に生える多年草で,1961年5月3日大楠山山麓で採取され(YCM-9960~1)大谷(1962)が報告している.その後の記録はない.静岡県でも西北部に報告があるだけである(杉本,1984).

 

ハマハタザオ Arabis stelleri DC. var. japonica (A. Gray) Fr. Schm.

総合評価: En-E. 地域評価: 湘南(Ex) 西湘(En) 三浦(Ex). 原因: 海岸開発.

海岸の岩上などに生える.三浦に記録があり,標本も残されているが,今は見あたらない.1965年に高橋秀男が平塚市で撮影した写真が残っているが,今はない.最近の記録としては神植誌1988に小田原で目撃とあるが,現存しているかどうかは不明である.伊豆(杉本,1984)や房総半島ではやや普通に見られる.

文献: 神植目1933 葉山・三崎 神植誌1958 葉山・三崎・下浦・久里浜・等 神植誌1988 小田原目撃.

標本: YCM-9963 KA-1 七里ヶ浜 1960.06.05 間瀬美保子.

 

コンロンソウ Cardamine leucantha (Tausch) O. E. Schulz

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(Ex) 丹沢(V). 原因:不明.

山の木陰に生える.出口(1968)に緑区寺山町の記録があるが今はない.丹沢ではヒロハコンロウソウは普通に見られるが,本種は稀である.静岡県では東部で稀に見られ(杉本,1984),房総半島にはない.

 

ハナハタザオ Dontostemon dentatus (Bunge) Ledeb.

総合評価: Ex-A. 地域評価: 湘南(Ex). 原因: 海岸開発.

神植誌1988の調査では見出されなかった.今回の標本調査で東京大学と都立大学に牧野富太郎らが平塚や茅ヶ崎で採集した古い標本が残されており,かつては湘南海岸に分布していたことが明かになった.現在は見るかげもない.

文献: 神植目1933 三浦(葉山)・辻堂・茅ヶ崎・今宿・宮山・東秦野 神植誌1958 産地記載なし 稀.

 

モウセンゴケ科 DROSERACEAE

イシモチソウ Drosera peltata Smith var. nipponica (Maxim.) Ohwi

総合評価: Ex-A. 地域評価: 箱根(Ex). 原因: 産地極限.

関東以西の酸性湿地に生える.松浦(1958)に箱根仙石原の記録があるが,すでに絶滅した.湿原のゴルフ場造成または乾燥化など環境変化により絶えたと考えれる.隣接する静岡県では,中部で稀だが,南西部では多い(杉本,1984).

文献: 神植誌1988 仙石原,今は絶滅.

 

モウセンゴケ Drosera rotundifolia L.

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(Ex) 箱根(En). 原因: 草地開発.

日当たりのよい酸性湿地に生える.現在は箱根仙石原で見られるだけである.伊豆や静岡県東部でも絶えたところが多い(杉本,1984).原(1936)は武州向丘村植物誌で字西山を記している.

文献: 神植目1933 箱根 神植誌1958 箱根 神植誌1988 HAK-1;+HAK-2(箱根峠海の平).

標本: FLK-41725 HAK-1 仙石原 1986.09.07 高橋秀男.

 

コモウセンゴケ Drosera spathulata Labill.

総合評価: Ex-A. 地域評価: 三浦(Ex). 原因: 草地開発.

宮城県以南の日当たりのよい酸性湿地に生える.神奈川県では鎌倉(俣野)と登戸(宮代,1958)の記録がある.静岡県では東部で絶滅,中部でまれ,西部では各地に多い(杉本,1984).

文献: 神植目1933 鎌倉 神植誌1958 鎌倉.

 

ベンケイソウ科 CRASSULACEAE

イワレンゲ Orostachys iwarenge (Makino) H.Hara

総合評価: Ex-B. 地域評価: 多摩(Ex) 丹沢(Ex). 原因: 産地極限.

関東以西の岩上などに生える.神植目1933や神植誌1958では津久井の山地を記録している.出口(1968)は池辺町(現横浜市都筑区)の茅葺き屋根上に生えていたが,1965年にふきかえのために失われたと書いている.また,保土ヶ谷宿の屋根に1955年頃まであった(長谷川).観賞用としてよく栽培され,多数の園芸品種がある.静岡県では本来の自生か否か不明である(杉本,1984).

文献: 神植目1933 津久井の山地 神植誌1958 津久井の山地.

 

ホソバキリンソウ Sedum aizoon L.

総合評価: Ex-A. 地域評価: 丹沢(Ex). 原因: 不明.

林・小林・小山・大河原(1961)には塔ヶ岳,焼山,大室山の記録があるが,神植誌1988ではキリンソウの誤認と解釈した.しかし,東京大学総合研究資料館に丹沢表尾根で採集された標本が残されているのを見出した.

標本: TI 丹沢山塊表尾根大日岳~塔ヶ岳 1952.8.12 金井弘夫; TI Mt.Tanzawa(Fudakake-Togatake-Shibusawa) Y.Asai 1955.7.28-29.

 

メノマンネングサ Sedum japonicum L.

総合評価: En-E. 地域評価: 三浦(Ex) 箱根(En). 原因: 産地極限.

低山地の岩上に生える.日向薬師と真鶴で見られるだけである.

文献: 神植目1933 塔ヶ岳 神植誌1958 塔ヶ岳・三浦 普通 神植誌1988 MAN.

標本: FLK-41765 MAN 真鶴岬 1987.06.26 城川四郎; YCM-10209 ISE-1 日向薬師 1961.04.20 逸見操.

 

ミツバベンケイソウ Sedum verticillatum L.

総合評価: En-E. 地域評価: 三浦(En) 小仏(Ex). 原因: 産地極限.

渓流沿いの岩上や川原に生える.藤野町牧野の記録があるが,現在は,三浦半島の森戸川流域のみに産する.静岡県北部ではまれではない(杉本,1984).隣接する山中湖忍野のハリモミ林内にもたくさんある.森戸川は横断道路の建設が計画されており,生育環境の悪化が懸念される.

文献: 神植目1933 津久井 神植誌1958 津久井 神植誌1988 YA-3;HAY; かつて津久井牧野.

標本: YCM-10155 HAY 二子山 1985.09.18 鈴木美恵子; YCM-10156 HAY 長柄 1985.03.12 山内好孝.

 

アズマツメクサ Tillaea aquatica L.

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(Ex) 湘南(V) 西湘(En) 箱根(V). 原因: 不明.

水田,海浜泥地に生える.神植誌1988の調査では茅ヶ崎(室田),小田原(坊所),箱根(お玉ヶ池)で採集された.多摩丘陵地域では,神植目1933などに登戸,都筑(現横浜市青葉区都筑区あたり),出口(1968)に下谷本(横浜市青葉区)をあげている.これらの産地は,今では絶えた.静岡県中部でもまれである(杉本,1984).生育に適した環境はますます減少する傾向にある.

文献: 神植目1933 登戸・都築・平塚 神植誌1958 登戸・都築・平塚 神植誌1988 HAK-5;OD-1;CH-2.

 

ユキノシタ科 SAXIFRAGACEAE

ウメバチソウ Parnassia palustris L. var. mulutiseta Ledeb.

総合評価: V-H. 地域評価: 多摩(Ex) 三浦(Ex) 丹沢(S) 箱根(V). 原因: 草地開発.

日当たりのよい湿地に生える.丹沢,箱根では普通に見られるが,神奈川県内の低地からは絶滅した.宅地造成などにより生育に適した環境がなくなったのであろう.

文献: 神植目1933 横浜・大船・箱根・塔ヶ岳・その他 神植誌1958 横浜・大船・箱根・塔ヶ岳・等 神植誌1988 箱根,丹沢各地;*TO-3.

 

ヤシャビシャク Ribes ambiguum Maxim.

総合評価: V-G. 地域評価: 丹沢(S) 箱根(Ex). 原因: 産地極限; その他.

温帯林の老木上に生える.箱根で絶え,丹沢で稀に見られる.静岡県東部では少ない(杉本,1984).全国的にも少ない.薬用,観賞用として栽培される.

文献: 神植目1933 箱根・塔ヶ岳・丹沢山・蛭ヶ岳 神植誌1958 箱根・塔ヶ岳・丹沢山・蛭ヶ岳 稀 神植誌1988 YA-2;YA-3;TS-2;KI-1.

 

ヤブサンザシ Ribes fasciculatum Sieb. et Zucc.

総合評価: En-E. 地域評価: 西湘(En) 箱根(Ex). 原因: 産地極限.

温帯の山野にまれに生える.神奈川県では秦野市周辺で見られるだけである.神植誌1988の横浜市港北区(KOH)の分布点は標本が残されておらず,データミスであろう.静岡県東部でもまれである(杉本,1984).観賞用に栽培される.

文献: 神植目1933 箱根 神植誌1958 箱根 稀 神植誌1988 HAT-3;HAT-5;KOH.

標本: FLK-5893 HAT-3 落合 1982.04.23 高橋秀男; HCM-6419 HAT-5 権現山 1984.05.07 住吉静子.

 

イワユキノシタ Tanakaea radicans Franch. et Sav.

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(En). 原因: 不明.

神奈川,山梨,静岡,高知県の山地岩壁に生える.神奈川県では箱根大沢川流域に群落がある(中村・中村,1982; 井上・中村・高橋,1991).松浦(1958)には元箱根とあるが,これは栽培のものといわれる.宮代(1958)には金時山を産地にあげているが,その後確認されていない.伊豆(飯沼・牧野,1910)や静岡県中部山地に多い(杉本,1984).

文献: 神植目1933 箱根 神植誌1958 箱根 稀 神植誌1988 HAK-5.

標本: FLK-102097 HAK-5 大沢 1983.05.31 中村和義.

 

バラ科 ROSACEAE

チョウセンキンミズヒキ Agrimonia coreana Nakai

総合評価: V-G. 地域評価: 小仏(Ex) 箱根(V). 原因: 草地開発; 産地極限.

山地や草原に生える.北海道西南部,本州,四国,九州に分布するが,神奈川県では少ない.神植誌1988の調査で箱根に分布することが初めて確認された.横須賀市博に陣馬山で採集された標本がある.もともと分布の少ない種であるが,草原環境の減少の影響も大きい.

文献: 神植誌1988 HAK-1.

 

ザイフリボク Amelanchier asiatica (Sieb. et Zucc.) Endl.

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(Ex) 丹沢(En) 小仏(En). 原因: 産地極限.

山地に生育する落葉低木または高木.本州(岩手県以南),四国,九州に分布する.本州中部以西には多産するが,関東では稀である.富士の裏側から多摩,秩父の山地へかけて点生する.しかし,神植目1933,神植誌1958には,横浜,鎌倉にも記録があり,奥山(1948a)にも横浜で記録されている.神植誌1988では,藤野町で採集されている.愛川町(AI)の分布点は標本がなく,データミスの可能性がある.神奈川県での分布はもともと少ない.

文献: 神植目1933 横浜・鎌倉・大山・箱根・等 神植誌1958 横浜・鎌倉・大山・箱根 神植誌1988 FUJ-2;AI.

標本: FLK-100013 FUJ-1 小淵 1988.04.30 浜中義治.

 

ヒロハノカワラサイコ Potentilla nipponica Th. Wolf

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(En) 湘南(En) 丹沢(Ex) 三浦(En) 相模原(En). 原因: 河川開発; 草地開発; 産地極限.

河原など明るい草原,芝地などに生育する多年草.北海道,本州(北部,中部)に分布する.近似種のカワラサイコより稀で,神奈川県での産地は少ない.河原環境の減少が大きな影響を与えている.神植誌1988の産地の他に横浜市中区,緑区(小崎,1993b),大和市で確認されている.

文献: 神植目1933 逗子・大磯・伊勢原 神植誌1958 逗子・大磯・伊勢原等で採集の記録あるも要再検討 神植誌1988 SE;MIU;AT-2;SAM;HI-1.

 

ヒメツルキジムシロ Potentilla stolonifera Lehm. var. yamanakae Naruhashi

総合評価: En-E. 地域評価: 丹沢(En) 箱根(En). 原因: 産地極限.

山地生の多年草.北海道,本州,九州??などに広く分布する.神奈川県では丹沢や箱根のブナ帯の林縁にまとまって見られる.神奈川県産のものは,以前はツルキジムシロとされていたが,本種である.文献を引用; 分類地理(1968); 地理分類; 25巻; 最新のもの不明

文献: 神植目1933 箱根 神植誌1958 箱根 神植誌1988 YA-1;HAK-1.

標本: FLK-44714 YA-1 三国峠~切通峠 1987.5.25 高橋秀男; FLK-44715 HAK-1 金時山 1984.6.9 吉川アサ子; FLK-44716 HAK-1 仙石原~金時山 森茂弥; FLK-44717~8 金時山 1987.7.5 城川四郎.

 

ヤブザクラ Prunus hisauchiana Hisauchi

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(Ex) 相模原(En)小仏(V). 原因: 森林伐採; 土地造成.

関東地方に分布するが,図鑑等の不備から一般の認識が定まっておらず,その分布域については詳細に検討する必要がある.県博にある神植誌1988の標本については小崎(1991a)が同定しなおした結果,大和市,海老名市,厚木市,愛川町,相模湖町,藤野町の分布が明かになった.神植目1933,神植誌1958などには,産地として横浜が記録されているが,これは久内(1937)の影響であろう.林・小林・小山・大河原(1961)にも丹沢の記録がある.

文献: 神植目1933 横浜 神植誌1958 横浜 神植誌1988 分布再検討.

標本: FLK-103143 EB 国分 1989.03.21 森百合子; FLK-104923 AI 半原 1992.07.27 諏訪哲夫; FLK-102677 YAT 西鶴間 1989.6.4 武井尚; FLK-45142 FUJ-1 和田 1982.8.18 森茂弥; FLK-45141 景信 1982.8.18 森茂弥; FLK-45407 AT-2 上依知 1984.6.5 高橋秀男; FLK-45133 EB 海老名市 1979.4.22 山内好孝.

 

リンボク Prunus spinulosa Sieb. et Zucc.

総合評価: V-G. 地域評価: 三浦(Ex) 箱根(V). 原因: 森林伐採; 産地極限.

暖地の谷間などの湿り気の多い所に好んで生える常緑小低木.本州(関東以西),四国,九州,琉球に分布する.イヌガシ,バリバリノキと同様,神奈川県では湯河原など,伊豆との隣接地域だけにある.神奈川県では,もともと少ないが,神植目1933,神植誌1958によると逗子にも産したようであり,照葉樹林の開発の影響により消滅した可能性もある.隣接地では高尾山・元八王子城址にもある.

文献: 神植目1933 逗子・湯河原 神植誌1958 逗子・湯河原 神植誌1988 YU-1;+ZU.

 

シウリザクラ Prunus ssiroi Fr.Schm.

総合評価: Ex-A. 地域評価: 丹沢(Ex). 原因: 産地極限.

水分に恵まれた肥沃地に多い落葉高木.北海道,本州(中北部)の温帯北部から亜寒帯に分布する.神植誌1958には,丹沢山の記録があるが,神植誌1988の調査では記録されていない.県博に丹沢山で採集された標本があり,林・小林・小山・大河原(1961)にも記録があるので,過去には分布していたものと思われる.現存の可能性もあるが,神植誌1988の調査開始後は発見されていない.

文献: 神植誌1958 丹沢山.

標本: KPM-27414 TS-2 丹沢山 1962.09.22 大場達之.

 

マメ科 LEGUMINOSAE

ハマナタマメ Canavallia lineata (Thunb.) DC.

総合評価: En-E. 地域評価: 西湘(Ex) 三浦(En). 原因: 海岸開発.

海岸の砂浜に生えるつる性の多年草.本州中南部,四国,九州,琉球に分布し,本県では三浦半島の毘沙門に自生する.松浦(1958)には真鶴の記録がある.湘南海岸にも昔はあったかもしれないが,記録は見当たらない.砂浜環境の悪化が影響していると思われる.県博には横浜市保土ケ谷区西久保町で採集された標本があるが,これは国内帰化したものであろう.

文献: 神植誌1958 三浦半島(松輪) 神植誌1988 MIU.

標本: FLK-47374 HO 西久保町 1987.09.23 吉川アサ子; YCM-11940 MIU 毘沙門 1979.07.15 鈴木一喜.

 

ミソナオシ Desmodium caudatum (Thunb.) DC.

総合評価: Ex-B. 地域評価: 多摩(Ex) 箱根(Ex). 原因:不明.

低山地の林縁や道端に生小低木.本州(関東以西)~琉球に分布する.神植目1933,神植誌1958には記録がないが,松浦(1958)と出口(1968)に記録がある.神植誌1988のための調査では確認されなかった.神奈川県にはもともと少ないが,出口(1968)の緑区恩田の産地は開発などのため絶滅したものと思われる.

 

ミヤマトベラ Euchresta japonica Hook. f.

総合評価: En-D. 地域評価: 西湘(En). 原因: 産地極限.

暖帯林の林床に生える常緑小低木.茨城県以西の本州,四国,九州に分布する.神奈川県からは未記録であったが,神植誌1988の調査で,小田原市風祭で発見された.神奈川県での分布はもともと少ない.

文献: 神植誌1988 OD-1(飯田 和,風祭).

 

イタチササゲ Lathyrus davidii Hance

総合評価: V-G. 地域評価: 西湘(V). 原因: 森林伐採; 管理放棄; 産地極限.

山地の明るい林内に生える多年草.北海道,本州,九州に分布し,神奈川県では丹沢東部山麓の一部にのみ分布する.神奈川県にはもともと少ないが,雑木林等の管理があまり行われなくなった影響も大きい.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし 神植誌1988 HAT-2;HAT-3;HAT-4;HAT-5.

 

レンリソウ Lathyrus quinquenervius (Miq.) Litv.

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(Ex) 湘南(En) 西湘(Ex).

原因: 池沼開発 河川開発 土地造成.

川岸や田の畦のような湿った草地に生える多年草.本州,九州に分布し,神奈川県では多摩丘陵から高座丘陵にかけて稀に見られ,松浦(1958)には小田原の記録がある.神植誌1988には,大和市や横浜市旭区などでも記録されているが,これらの産地では失われたと思われる.西湘や多摩丘陵では,宅地開発によって絶滅したようである.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし 神植誌1988 MI-1;AS;YAT;FU-1;CH-1;AT-1.

標本: FLK-48314 YAT つきみ野 1987.05.29 武井尚; FLK-48315 AS 上白根町 1980.05.27 内田光雄; FLK-48316 AT-1 市島 1985.06.02 諏訪哲夫; FLK-48317 MI-1 長津田 1981.05.26 勝山輝男; KPM-79009 AS 上川井 1953.06.14 出口長男; YCM-12249 TO-2 戸塚 1960.05.18 大谷茂; YCM-26615 MI-2 市ヶ尾 1966.00.00 加藤喜重; HCM-8068 CH-1 行ヶ谷 1979.05.16 三輪徳子; HCM-8069 FU-1 遠藤 1979.04.13 根本平.

 

フウロソウ科 GERANIACEAE

タチフウロ Geranium krameri Franch. et Sav.

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(En) 丹沢(V) 小仏(V) 箱根(V).

原因: 草地開発 土地造成.

丘陵地から山地の草原に生える多年草.本州~九州に分布する.神奈川県では湯河原,箱根,山北,藤野等に局地的に分布する.松浦(1958)や林・小林・小山・大河原(1961)にも記録がある.神奈川県では,もともと少ないが,宅地造成等により失われた産地も多い.

文献: 神植目1933 横浜・大山・箱根・矢倉沢・三国山 神植誌1958 横浜・大山・箱根・矢倉沢・三国山 神植誌1988 TAM;MI-1;ISE-2;YA-1;YA-8;YU-2;FUJ-1;HAK-4.

 

ミツバフウロ Geranium wilfordii Maxim.

総合評価: En-D. 地域評価: 小仏(En). 原因: 草地開発.

山地の草原に生える多年草.北海道~九州に分布する.神奈川県では小仏山地に僅かに見られるだけである.東京都高尾山からは萼片外面に開出毛のあるタカオフウロ var. chinense (Migo) H.Hara が記録されているが,神奈川県からの報告はない.

文献: 神植誌1958 相模湖 神植誌1988 FUJ-1.

標本: FLK-101294 FUJ-1 佐野川~生藤山 1987.10.14 高橋秀男ほか; FLK-6442 FUJ-1 陣馬山 1984.09.22 平松俊子.

 

トウダイグサ科 EUPHORBIACEAE

ノウルシ Euphorbia adenochlora Morren et Decne

総合評価: Ex-B.  地域評価: 多摩(Ex) 丹沢(Ex) 箱根(Ex).

原因: 池沼開発 河川開発.

河岸などの湿った草地に生える多年草.北海道,本州,四国,九州に分布する.箱根(松浦,1958),登戸(帝国女子医学薬学専門学校,1932),鶴見川河畔(出口,1968)の記録がある.また,東京大学には箱根で,県博には中津川(清川村)で採集された標本がある.神植誌1988の調査では横浜市港北区樽町で採集されたが,今はない.神奈川県ではもともと稀であったが,河川改修等によって絶滅したものと思われる.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 横浜(鶴見川河畔) 普通 神植誌1988 KOH;$TS-5.

標本: FLK-3674 KOH 樽町 1981.04.18 川合友理枝; KPM-21258 KI-2 中津川 1953.05.31 大場達之; TI 相州箱根山 S. Tamaki.

 

イワタイゲキ Euphorbia jolkinii Boiss.

総合評価: Ex-A. 地域評価: 三浦(Ex). 原因: その他.

海岸の岩地に生える多年草.千葉県以西の本州,四国,九州,沖縄に分布する.県立博物館と横須賀市自然博物館に1968年に三浦半島の毘沙門で採集された標本(KPM-92671,YCM-16004)があるが,神植誌1988の調査では見つかっていない.崖地等に生育するため,崩壊等により絶滅したものと思われる.

文献: 神植誌1988 *MIU.

標本: KPM-92671 MIU 毘沙門 1968.06.15 高橋秀男.

 

ミヤマクマヤナギ Berchemia pauciflora Maxim.

総合評価: Ex-A. 地域評価:  原因: 産地極限.

山地の岩場に生ずる落葉のややつる性の低木.本州(関東,山梨,長野県南部)にやや稀に分布する.横須賀市自然博物館に丹沢で採集された標本があり,大谷(1961)に記録があるが,神植誌1988の調査では記録されなかった.山梨県南都留郡,三ツ峠などに分布しているので,甲相国境の山地などから発見される可能性もある.

標本: YCM-13041 KI-2 落合 1956.08.01 逸見操; YCM-13042 TS-1 蛭ヶ岳 1960.07.07 城川四郎.

 

ネコノチチ Rhamnella franguloides (Maxim.) Weberb.

総合評価: En-D. 地域評価: 多摩(En). 原因: 土地造成; 産地極限.

丘陵の斜面や川岸に生える.本州(神奈川県,近畿以西),四国,九州.朝鮮南部に分布する.神奈川県の本種については,長谷川・浜中(1986)に詳細な報告がある.神奈川県においてはもともと少なかったが,宅地造成等によりいくつかの産地が失われた.

文献: 神植目1933 鎌倉(本郷村) 神植誌1958 横浜(保土ヶ谷)・鎌倉 神植誌1988 TO-1;TO-3.

標本: FLK-7914 TO-1 上矢部町 1985.11.20 浜中義治; FLK-7915 TO-3 平戸町 1985.10.07 浜中義治; FLK-7917 TO-3 品濃町 1985.10.03 浜中義治; YCM-13087 TO-3 芹が谷 1956.09.04 長谷川義人; YCM-13090 KON 下永谷 1956.09.04 長谷川義人.

 

シナノキ科 TILIACEAE

ラセンソウ Triumphetta japonica Makino

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(En). 原因: 産地極限.

道端や畑に多い1年草.本州(関東以西)~琉球に分布する.井上・中村・高橋(1991)に湯本の記録があるが,神植目1933,神植誌1958,神植誌1988などには記録されていない.伊豆に見られるので,隣接する地域にはさらに産する可能性もある.

 

アオイ科 MALVACEAE

ハマボウ Hibiscus hamabo Sieb. et Zucc.

総合評価: En-D. 地域評価: 三浦(En). 原因: 産地極限.

三浦半島の天神島にのみ野生する.現在,天然記念物に指定されているが,生育範囲は狭く,注意を要する.

文献: 神植誌1958 三浦(天神ヶ島) 神植誌1988 YO-4.

 

オトギリソウ科 HYPERICACEAE

アゼオトギリ Hypericum oliganthum Franch. et Sav.

総合評価: Ex-B. 地域評価: 多摩(Ex) 三浦(Ex). 原因: 池沼開発; 海岸開発; 草地開発.

低地の田の畦やヨシ湿原中などに生育する.本州(関東以西),四国,九州に分布する.神植誌1988によると,その調査では記録されていないが,かって鶴見川で観察されたようである.河川改修により絶滅したものと思われる.三浦半島の記録は増島・石渡(1950)による.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし 神植誌1988 かつて鶴見川で見た.

 

ミズオトギリ Triadenum japonicum (Blume) Makino

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(Ex) 箱根(S). 原因: 草地開発; 土地造成.

低地の湿地や山地の高層湿原に生育する.北海道,本州,四国,九州に分布する.神植誌1958によると,横浜(保土ヶ谷ー上白根,二俣川池),登戸が産地として記録されており,出口(1968)にも上白根大池や桐ヶ作大池が産地としてあげられている.また,原(1936)にも字初山の池(現在の川崎市宮前区あたりの記録がある.県博にも登戸(KPM-41533 1951.5.6 大場達之)や上白根(KPM-80029 1952.8.24 出口長男)の標本が残されている.しかし,神植誌1988では,箱根で記録されたのみである.なお,箱根については,松浦(1958)にも仙石原が記録されている.横浜や登戸の産地は,宅地開発等により失われた.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 横浜(保土ヶ谷-上白根 二俣川池)・登戸 神植誌1988 HAK-1.

 

スミレ科 VIOLACEAE

エゾノタチツボスミレ Viola acuminata Ledeb.

総合評価: En-D. 地域評価: 丹沢(En). 原因: 不明.

林縁や草原に生える多年草.北海道,本州(中部以北)に分布.県内で最初の記録は,丹沢札掛の一の沢考証林(大谷,1963b)と,西丹沢水の木(吉川,1962)である.神植誌1988の調査では丹沢西端の三国峠から切通峠へ至る道端の林縁で採集された.そこは個体数が少なく,遷移が進む過程で絶滅が憂慮される.

文献: 神植誌1988 YA-1.

標本: FLK-9522 YA-1 三国峠~切通峠 1987.05.25 高橋秀男; YCM-13421 札掛一の沢考証林 1962.05.20 大谷 茂.

 

マキノスミレ Viola violacea Mak. var. makino Hiyama

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(En) 小仏(V). 原因: 不明.

草原や林縁に生える多年草.近畿以東の本州に分布し,基本種のシハイスミレは近畿,中国,四国,九州の西南日本に分布の中心があって,中部から関東地方にも所々に分布する.マキノスミレは,葉は披針形または狭披針形で鋭尖頭であるのに対し,シハイスミレは葉は,狭卵状披針形,長卵形などで幅が広く鈍頭である.マキノスミレは県内では小仏山地の生藤山や多摩丘陵の生田緑地に僅かに見られる(神植誌1988)だけで,神植目1933,宮代(1958)神植誌1958にはリストアップされていなかった.松浦(1958)のシハイスミレとしてリストアップされているものは,マキノスミレかシハイスミレかのいずれであるか,標本が検討できないので明かでない.生田緑地の生育地は,吉田多美枝ら(1994)によれば「局所的ではあるが,よく笹刈された傾斜地の一部に見られる」という.この生育地は牧野富太郎が発見された由緒ある場所でもある.

文献: 神植誌1988 FUJ-1;FUJ-2;TAM.

 

ミソハギ科 LYTHRACEAE

ミズキカシグサ Rotala rosea C. D. Cook. ex H.Hara

総合評価: Ex-C. 地域評価: 多摩(Ex) 三浦(Ex) 湘南(Ex) 箱根(Ex). 原因: 草地開発; 土地造成.

水田や湿地に多い1年草.本州~琉球に分布する.神植目1933,神植誌1958には横浜,川崎,藤沢,鎌倉の記録,出口(1968)には特に産地はあげていない,松浦(1958)には箱根仙石原の記録がある.また,東京都立大学牧野標本館には,都筑郡白根(現横浜市旭区)で採集された標本が残されている.

文献: 神植目1933 横浜・川崎・藤沢・鎌倉 神植誌1958 横浜・川崎・藤沢・鎌倉.

標本: MAK-121146 都筑郡白根 1905.09 牧野富太郎.

 

アカバナ科 ONAGRACEAE

ウシタキソウ Circaea cordata Royle

総合評価: En-D. 地域評価: 丹沢(En). 原因: 産地極限.

山地の湿った林下に生え,北海道~九州に分布する.神植目1933,神植誌1958には,山北,津久井の記録があるが,神植誌1988では記録されなかった.しかし,その後,長谷川・小崎(1990),長谷川(1991)において,津久井,山北での現存が確認された.

文献: 神植目1933 山北・津久井 神植誌1958 山北・津久井.

 

ミズユキノシタ Ludwigia ovalis Miq.

総合評価: Ex-B. 地域評価: 多摩(Ex) 湘南(Ex). 原因: 池沼開発; 草地開発.

水辺に生える多年草.本州~琉球に分布する.神植目1933,神植誌1958には,横浜,鎌倉,茅ヶ崎,平塚,厚木の記録がある.神植誌1988では,横浜市三渓園で採集されたが,移入されたものであろう.出口(1968)によると,上白根大池,桐ケ作の大池に生育していたようである.

文献: 神植目1933 横浜・鎌倉・茅ヶ崎・平塚・厚木 神植誌1958 横浜・鎌倉・茅ヶ崎・平塚・厚木 神植誌1988 NAK.

標本: FLK-11679 NAK 本牧 1987.06.08 浜中義治.

 

ミズキンバイ Ludwigia stipulacea (Ohwi) Ohwi

総合評価: En-D. 地域評価: 三浦(En) 箱根(Ex). 原因: 池沼開発; 水質汚濁.

沼沢地に生える多年草.北海道~九州に分布する.神奈川県では稀.宮代(1958)には三浦(松輪),金沢の記録があるが,金沢の産地はすでに失われた.また,松浦(1958)にも記録がある.神植誌1988では,三浦半島の毘沙門で記録されたが現状は不明である.文献: 神植誌1958 三浦 神植誌1988 MIU

標本: YCM-13669 MIU 毘沙門 1979.07.05 鈴木一喜.

 

ヒシ Trapa bispinosa Roxb. var. iinumai Nakano

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(En) 西湘(En) 三浦(En). 原因: 池沼開発; 水質汚濁.

池に生える1年草.日本全土に分布する.神奈川県では少ない.川崎市麻生区早野の五郎池,大磯町生沢の池,横須賀市津久井谷戸作堰の3ヶ所が県内で現存する産地である.神植誌1958に登戸,三浦(久里浜),鎌倉の記録があり,その他,出口(1968)には鶴見二ッ池,金沢称名寺,帝国女子医学薬学専門学校(1932)に登戸付近,松浦(1958)に小田原の記録などがある,いずれも失われた.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 登戸・三浦(久里浜)・鎌倉 神植誌1988 TAM;OIS;YO-3.

標本: FLK-104985 TAM 早野 1992.10.01 勝山輝男; FLK-未登録 横須賀市津久井谷戸作堰 1994.12.14 苅部治紀; KPM-6907 NIN 二宮 1957.05.22 西尾和子; HCM-11238 OIS 生沢 1981.06.22 守矢淳一.

 

アリノトウグサ科 HALORAGIDACEAE

タチモ Myriophyllum ussuriense (Regel) Maxim.

総合評価: Ex-C. 地域評価: 多摩(Ex) 相模原(Ex) 湘南(Ex) 箱根(Ex). 原因: 池沼開発; 土地造成.

沼や湿地に生える多年草.北海道~九州に分布する.神植目1933,神植誌1958には横浜,茅ヶ崎,厚木,国府,箱根の記録があるが,神植誌1988の調査では確認されなかった.宅地開発等により生育地が失われたものと思われる.

文献: 神植目1933 横浜・茅ヶ崎・厚木・国府・箱根 神植誌1958 横浜・茅ヶ崎・厚木・国府・箱根.

 

フサモ Myriophyllum verticillatum L.

総合評価: Ex-C. 地域評価: 三浦(Ex) 湘南(Ex) 西湘(Ex) 箱根(Ex). 原因: 池沼開発; 土地造成; 水質汚濁.

池沼に生える沈水植物.世界に広く分布し,日本全土にみられる.神植誌1958には三浦,松浦(1958)には足柄が産地として記録され,県博に箱根町,小田原市,寒川町,藤沢市で採集された標本があるが,現在ではすべて失われたようである.宅地造成による産地の消失と,水質の悪化が原因と思われる.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 三浦.

標本: KPM-2208 OD-3 酒匂川 1932.06.18 西尾和子; KPM-52255 HAK-5 芦ノ湖 1926.08.21 不明; KPM-2206 SAM 寒川町 1961.06.16 西尾和子; KPM-19724 FU-2 六会 1963.05.05 大場達之.

 

ウコギ科 ARALIACEAE

タカノツメ Evodiopanax innovans (Sieb. et Zucc.) Nakai

総合評価: Ex-A. 地域評価: 丹沢(Ex). 原因: 産地極限.

尾根や山腹に生育する落葉高木.北海道,本州,四国,九州に分布する.神植目1933には,鳥屋,三国山に記録があるが,神植誌1988の調査では採集されなかった.横須賀市自然博物館に丹沢蛭ヶ岳で採集された標本がある.

文献: 神植目1933 鳥屋・三国山 神植誌1958 鳥屋・三国山.

標本: YCM-13848 TS-1 蛭ヶ岳 1962.09.24 小粥康治.

 

セリ科 APIACEAE

ハナビゼリ Angelica inaequalis Maxim.

総合評価: Ex-B. 地域評価: 丹沢(Ex) 箱根(Ex). 原因: 不明.

山地の谷間に生える多年草.本州,四国,九州に分布する.神植目1933,神植誌1958に山北,丹沢の記録があるが,神植誌1988のための調査では記録されなかった.また,林・小林・小山・大河原(1961)にも丹沢山・世附の記録がある.今回の標本調査で都立大学と東京大学研究資料館から神奈川県産と思われる古い標本が見出された.

文献: 神植目1933 山北・丹沢山 神植誌1958 山北・丹沢山.

標本: MAK-121146 箱根宮下 1907.6 沢野永太郎; TI 大山 1931.11.1 津山尚(大山が相模の大山かどうかは不明).

 

セリモドキ Dystaenia ibukiensis (Yabe) Kitagawa

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(En) 丹沢(En). 原因: 土地造成; 産地極限.

山地に生える.本州(中部,関東,東北)に分布する.神植誌1958には,鶴間,横浜(保土ケ谷-上川井)の記録がある.神植誌1988では,横浜の保土ヶ谷区と緑区,西丹沢三国山で記録され,その後,大和市(大和市教育委員会,1991)からも報告されている.神奈川県ではもともと少ない.

文献: 神植誌1958 鶴間・横浜(保土ヶ谷-上川井) 神植誌1988 MI-1;HO;YA-1;*AS.

標本: FLK-13255 HO 川島町 1983.07.30 吉川アサ子; FLK-13256 MI-1 長津田町岡部谷戸 1981.08.25 勝山輝男; FLK-13258 YA-1 三国峠 1987.09.15 高橋秀男; KPM-79507 AS 上川井 1952.11.14 出口長男.

 

ムカゴニンジン Sium ninsi L.

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(Ex) 箱根(V). 原因: 草地開発; 土地造成.

湿地に生える.北海道~九州,朝鮮,中国に分布する.神植誌1988では箱根で記録されたのみであるが,神植誌1958には,横浜(保土ヶ谷ー上白根,二俣川,花見台),出口(1968)には元石川(横浜市青葉区)を記録している.また,神奈川県立博物館には,登戸(KPM-23191 1951.8.26 大場達之),西生田(KPM-23192 1951.11.18 Y.Yabe),旭区桐ヶ作大池(KPM-79526 1952.8.25 出口長男)で採集された標本がある.しかし,横浜や川崎の産地はすべて開発等により失われた.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 横浜(保土ヶ谷-上白根.

二俣川

花見台) 神植誌1988 HAK-2

 

ツツジ科 ERICACEAE

チチブドウダン Enkianthus cernuus (Sieb. et Zucc.) Makino f. rubens (Maxim.) Ohwi

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(En). 原因: 園芸採取.

チチブドウダンは秩父大日向の寺院内に栽培されたものに学名がついたが,後に四国,九州に多いシロドウダンと同種となった.本州のものは紅花でシロドウダンに対しベニドウダンと呼ばれる.箱根,奥秩父,恵那山などに分布し,種としては本州(関東南部から中部地方南部,近畿,福井,広島),四国,九州に分布.神植誌1988では箱根双子山で記録されたが,その後,弁天山,大観山(井上・中村・高橋,1991)でも見つかっている.

文献: 神植目1933 箱根 神植誌1958 箱根・等 神植誌1988 HAK-5;$YU-1.

標本: FLK-14844 HAK-5 二子山 1985.07.14 長谷川義人.

 

ムラサキツリガネツツジ Menziesia lasiophylla Nakai

総合評価: En-E. 地域評価: 丹沢(V) 箱根(En). 原因: 園芸採取.

山地の明るい樹下や岩石地に生える落葉低木.箱根山,丹沢山,愛鷹山,富士山,三ツ峠の各山に分布.ウラジロヨウラク M. multiflora Maxim.の変種とされることがある.var.purpurea (Makino) Ohwiとなる.purpureaのepithetは九州にある.M.purpurea Maxim.ヨウラクツツジに先行名があって種名には使用できず,種で論ずる場合にはM. lasiophylla Nakaiとなる.学名に混乱をしないよう蛇足と思うが追記した.ハコネツリガネツツジは f. bicolor (Makino) Hiyama (桧山庫三,1964).

文献: 神植目1933 箱根 神植誌1958 箱根 TS-2;HAK-4;HAK-5.

標本: FLK-14903 TS-2 鬼ヶ岩 1982.06.13 城川四郎; FLK-14904 HAK-4 駒ヶ岳 1983.06.04 長谷川義人; FLK-14905 HAK-5 二子山 1985.07.14 長谷川義人; KPM-1935 HAK-4 神山 1957.06.02 西尾和子; KPM-52129 HAK-4 早雲山 1924.07.20 沢田武太郎.

 

サツキ Rhododendron indicum (L.) Sweet

総合評価: V-G. 地域評価: 丹沢(En) 小仏(V). 原因: ダム建設.

渓谷岩上に生える常緑低木.神奈川県では相模川本流とその支流の中津川,道志川以外からは見つかっていない.中津川渓谷は分布の東限として知られ,中川(1982)によると石小屋から落合までの間に約1500個体が生育していた.中津川渓谷石小屋から上流は宮ヶ瀬ダム建設により水没する予定である.道志川では鮑子取水堰より上流に点々と分布し,相模川本流では相模湖直下の弁天橋付近にわずかに残っている(勝山・高橋,1991).

文献: 神植目1933 箱根・半原・津久井 神植誌1958 箱根・半原・津久井・等 神植誌1988 SAG;FUJ-2;TS-3;TS-5;AI;KI-2;HAK-5?.

 

レンゲツツジ Rhododendron japonicum (A. Gray) Sering.

総合評価: Ex-B. 地域評価: 多摩(Ex) 丹沢(Ex) 箱根(Ex). 原因: 産地局限.

山地,高原の冷涼な陽地を好む落葉の低木.神奈川県では珍しく,丹沢の姫次に少数生育していたが,絶えたようだ.文献では箱根の他に,宮代(1958)に藤野町佐野川と川崎市登戸,出口(1968)に横浜市青葉区奈良町と旭区今宿がある.よく栽培されるので逸出品の記録もあると考えられる.北海道(西南部),本州,四国,九州に分布する.

文献: 神植目1933 箱根・津久井 神植誌1958 箱根・津久井・等 神植誌1988 TS-1.

標本: FLK-15006 TS-1 姫次 1984.06.08 城川四郎.

 

ヒカゲツツジ Rhododendron keiskei Miq.

総合評価: En-D. 地域評価: 三浦(Ex) 丹沢(En) 箱根(Ex). 原因: 産地局限.

山地の岩石地,尾根筋などに生える常緑低木.和名に反して比較的向陽地を好む.本州(東北南部以西),四国,九州(屋久島まで)に分布する.北限は福島県東白川郡矢祭町で,次いで茨城県久慈郡大子町で隣接している.千葉県でも房総地域には普通でないが広く産する.神奈川県では林・小林・小山・大河原(1961)に丹沢ユーシンの記録がある.神植誌1988では採集されていなかったが,今も健在である(勝山,1991).大谷(1957b)にかつて逗子の二子山で原寛氏が採集したことを記している.

文献: 神植誌1958 箱根・丹沢山・等 神植誌1988 *YA-6.

標本: FLK-103621 YA-6 玄倉林道 1991.04.29 勝山輝男; YCM-14250 YA-6 ユーシン 1960.04.24 大谷茂.

 

コバノミツバツツジ Rhododendron reticulatum D.Don

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(En). 原因: 産地局限.

井上・中村・高橋(1992)により,箱根弁天山で見出された.神奈川県新産である.

 

オオヤマツツジ Rhododendron transiens Nakai

総合評価: Ex-A. 地域評価: 多摩(Ex) 小仏(Ex) 箱根(Ex). 原因: 不明.

ヤマツツジと同様の向陽の山地斜面に生育する.中井(1927)によれば武蔵,伊豆,備中,周防などに産する.栽培の飛鳥川・三河紫・白滝系統のものは本種より出たと言われる.神植目1933では都筑川和・石川(現横浜市青葉区あたり)に記録があるが,これについては出口(1968)は横浜植物誌のなかで疑問としている.また,故林弥栄氏によると小仏山地から相模湖への斜面にあったという.今回の標本調査では相模湖町と真鶴で採集された標本が見出された.いずれも最近の報告はない.

文献: 神植目1933 都筑(川和,石川) 神植誌1958 産地記載なし.

標本: TI 相州真鶴岬入口 1949.05.02 原寛; MAK-24461 相模津久井郡与瀬町見浜(a.220-50m) 1959.05.26 水島正美.

 

シャシャンボ Vaccinium bracteatum Thunb.

総合評価: En-D. 地域評価: 三浦(En). 原因: 産地局限.

神奈川県では三浦市松輪で採集されただけである.隣の伊豆や房総には多産するので,真鶴や湯河原あたりでも見つかる可能性がある.

文献: 神植誌1988 MIU.

標本: FLK-15289 MIU 松輪 1985.02.10 篠田朗彦.

 

ナツハゼ Vaccinium oldhamii Miq.

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(En) 丹沢(?) 小仏(V). 原因: 土地造成; その他.

神植誌1988の調査では藤野町,横浜市青葉区,川崎市多摩区で採集されている.神植目1933,神植誌1958,宮代(1958),林・小林・小山・大河原(1961)に丹沢の記録があるが,丹沢産の本種の標本は見たことがない.

文献: 神植目1933 塔ヶ岳・登戸 神植誌1958 丹沢山・登戸 神植誌1988 FUJ-1;MI-2;TAM.

 

ヤブコウジ科 MYRSINACEAE

タイミンタチバナ Myrsine seguinii Lev.

総合評価: Ex-B. 地域評価: 三浦(Ex) 箱根(Ex). 原因:不明.

大谷(1960)はかつて神武寺で久内清孝氏が採集された(1913.1.11)が絶えたと記している.また,県博には真鶴岬で採られた標本が残されている.神植誌1988の調査ではいずれの産地でも見出されなかったが,隣接する伊豆には多産するので,真鶴や湯河原で見つかる可能性がある.

文献: 神植誌1958 逗子(神武寺)等.

標本: KPM-16393 MAN 真鶴岬 1950.01.10 石川洋右.

 

サクラソウ科 PRIMULACEAE

ノジトラノオ Lysimachia barystachys Bunge

総合評価: V-H. 地域評価: 多摩(Ex) 三浦(En) 相模原(V) 箱根(Ex). 原因: 土地造成; 草地開発.

神植誌1988の調査では相模原市,大和市,横浜市戸塚区,鎌倉市で採集されている.神植目1933,神植誌1958,宮代(1958),松浦(1958)に記録があり,かつては県内各地に分布していたことが窺える.

文献: 神植目1933 横浜・川崎・登戸・都築・高座 神植誌1958 各地 神植誌1988 SA-4;YAT;KA-1;$ZA.

標本: FLK-103437 TO-3 横浜自然観察の森 1990.07.17 林辰雄; FLK-15572 KA-2 十二所 1987.07.05 高橋秀男; FLK-15573 SA-4 大野台 1980.07.05 高橋秀男; FLK-15574 YAT つきみ野 1983.07.13 武井尚.

 

クリンソウ Primula japonica A. Gray

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(En). 原因: 不明.

過去の植物誌では「栽培」とされているが,井上・中村・高橋(1991)に箱根大沢川鞍掛沢の記録がある.これが神奈川県で唯一の記録である.

文献: 神植目1933 栽 神植誌1988 +HAK-5.

 

サクラソウ Primula sieboldii E. Morren

総合評価: Ex-B. 地域評価: 多摩(Ex) 原因: 不明.

神植目1933の他に奥山(1948a)に横浜,宮代(1958)に駒岡と中山の記録があり,鶴見川沿いの低湿地に生えていたと思われる.今は見るかげもない.県博に旭区上川井で採集された標本が残されているが,自生のものか不明.

文献: 神植目1933 横浜・都築 神植誌1988 +KOH.

標本: KPM-79756 AS 上川井 1928.05.05 出口長男.

 

エゴノキ科 STYRACACEAE

コハクウンボク Styrax shiraiana Makino

総合評価: Ex-B. 地域評価: 丹沢(Ex). 原因: 不明.

神植誌1958には取り上げていないが,大谷(1960)が増補すべき種とし,丹沢(松野重太郎,久内清孝)と牧野富太郎が寄で採集されたことを記している.林・小林・小山・大河原(1961)には津久井をあげている.

 

リンドウ科 GENTIANACEAE

ガガブタ Nymphoides indica (L.) O.Kuntze

総合評価: Ex-G. 地域評価: 多摩(Ex) 相模原(Ex). 原因: 池沼開発.

池沼に生える多年生の水草.本州,四国,九州に分布.神植目1933,宮代(1958)は川崎,厚木の産地をあげ,神植誌1958は産地を特定せず,稀とだけ記している.神植誌1988の調査期間中も見いだされず,他の水生植物同様に池沼がなくなるにとともに自然消滅したものと考えられる.

文献: 神植目1933 川崎・厚木 神植誌1958 産地記載なし 稀.

 

アサザ Nymphoides peltata (Gmelin) O.Kuntze

総合評価: Ex-B. 地域評価: 多摩(Ex) 湘南(Ex). 原因: 池沼開発.

池沼に生える多年生の水草.本州,四国,九州に分布.神植目1933は産地として登戸と平塚をあげ,神植誌1958は産量は稀と記し,とくに場所は特定していない.かつては県内に散在する池沼に生育していたと想像されるが,池沼や水田の減少と区画整理,農薬の使用などで水田地帯が改変,縮小され,今は絶滅したと考えられる.

文献: 神植目1933 登戸・平塚 神植誌1958 産地記載なし 稀.

 

イヌセンブリ Swertia diluta (Turcz.) Benth. et Hook. var. tosaensis (Makino) H.Hara

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(Ex) 三浦(En) 湘南(Ex) 箱根(En). 原因: 湿地開発.

湿地に生える1~越年草.本州,四国,九州に分布.神植目1933は鵠沼を産地としてあげ,神植誌1958は(絶滅)と記した.この25年間の間に鵠沼からは本種が消滅したことになる.川崎市塩浜で1957年に採集された標本が横須賀市自然博物館に保管されているが,今は消息不明である.松浦(1950)は仙石原を産地としてあげてある.神植誌1988の調査期間中に同所で1985年に採集され,証拠標本が得られた.最近,横浜市栄区自然観察の森で,僅か1個体の生育が確認された(林,1994).今のところ,県内の低地や丘陵地では横浜市の1個体を残すのみであろうか.

文献: 神植目1933 鵠沼 神植誌1958 鵠沼(絶滅)・等 神植誌1988 HAK-1.

標本: FLK-17063 HAK-1 仙石原 1985.09.30 勝山輝男; FLK-106338 TO-3 横浜自然観察の森 1994.10.13 林辰雄; YCM-14463 KAW 塩浜 1957.11.02 ?.

 

ムラサキセンブリ Swertia pseudo-chinensis H.Hara

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(Ex) 三浦(En) 箱根(Ex). 原因: 不明.

ササ草原や道端の草地に生える1~越年草.本州,四国,九州に分布.神植目1933は産地として都筑,宮代(1958)はそれに箱根を追加,神植誌1958では和名をリストアップし稀とだけ記してある.最近の調査では三浦半島の黒崎で1981年,長浜で1984年に採集された.同じ三浦市では鈴木一喜が生態写真を撮り,1981年12月発行のFLORA KANAGAWAの表紙に掲載した.しかし,三浦半島の自生地の一部は撹乱され消滅してしまったという.また箱根の生育状況は不明である.

文献: 神植目1933 都築 神植誌1958 産地記載なし 稀 神植誌1988 YO-4;MIU.

標本: FLK-17096 YO-4 長浜海岸 1984.11.10 永田芳男; YCM-2265 MIU 黒崎 1981.11.11 大森雄治ほか.

 

ミツガシワ科 MENYANTHACEAE

ミツガシワ Menyanthes trifoliata L.

総合評価: Ex-A. 地域評価: 多摩(Ex). 原因: 池沼開発.

湿地や池畔に生える水生の多年草.北海道,本州,九州に分布し,本来の生育地は本州中部以北の日本海側にあり,ほかに西南日本や太平洋側にも点々と生育地がある.関東地方には6ヶ所ほどの産地が知られるが,なかでも東京都練馬区石神井公園の三宝寺池は古くから有名で,天然記念物に指定されている.県内に自生の記録は,神植目1933,神植誌1958,奥山(1948a),宮代(1958)では登戸をあげている.ここは絶滅してしまい,今は見られない.横浜市の三渓園の池畔に小数の個体が生育しているが,この池は人工の池で,後に栽植されたものであろう.

文献: 神植目1933 橘樹(登戸) 神植誌1958 登戸等 稀 神植誌1988 NAK(三渓園).

標本: FLK-17138 NAK 三渓園 1984.11.08 高橋秀男.

 

キョウチクトウ科 APOCYNACEAE

チョウジソウ Amsonia elliptica (Thunb.) Roem. et Schult.

総合評価: Ex-A. 地域評価: 多摩(Ex). 原因: 河川開発.

池畔や川岸,湿り気のある草原に生える多年草.本州,九州に分布.神植目1933や宮代(1958)は橘樹(長尾)を産地としあげ,神植誌1958は横浜(鶴見)をあげて絶滅としている.すでに1950年に絶滅したものと推定できる.河川や湖沼の護岸整備により,自然消滅したものと思われる.

文献: 神植目1933 橘樹 神植誌1958 横浜(鶴見絶滅)等 稀.

 

ガガイモ科 ASCLEPIADACEAE

クサタチバナ Cynanchum ascyrifolium (Franch. et Sav.) Matsum.

総合評価: Ex-A. 地域評価: 多摩(Ex). 原因: 不明.

草原に生える多年草.本州(関東以西),四国に分布.神植目1933は都筑と津久井を産地としてあげ,神植誌1958は津久井のみをあげている.生育していた当時の標本はなく,またその後の情報もなく,1958年頃にはすでに絶滅していたことが推定できる.草原生の種類であり,森林がおい茂って樹陰になれば自然に消滅してゆく運命にある.

文献: 神植目1933 都築・津久井 神植誌1958 津久井・等 稀.

 

フナバラソウ Cynanchum atratum Bunge

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(Ex) 湘南(Ex) 小仏(V) 箱根(V). 原因: 不明.

山地の草原に生える多年草.北海道,本州,四国,九州に分布.県内では丘陵地から山地まで点々と分布が知られ,1950年代には多数の記録が見られる(中郡鷹取山,宮代,1958; 姫次・津久井,林ほか,1961; 恩田,上白根,市沢,出口,1968など).しかし,その後は情報も少なく,神植誌1988の調査期間中は,湯河原と津久井町で標本が取られているだけである.草原生で遷移の過程で自然消滅した生育地が多く,現在の確かな生育地は不明である.

文献: 神植目1933 横浜・金沢・鎌倉・藤沢・箱根・愛甲・津久井 神植誌1958 横浜・箱根・津久井・鎌倉等 神植誌1988 TS-5;YU-2.

 

ムラサキ科 BORAGINACEAE

ムラサキ Lithospermum officinalis L. ssp. erythrorhizon (Sieb. et Zucc.) Hand.-Mazz.

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(Ex) 丹沢(V) 小仏(V) 相模原(Ex) 箱根(En). 原因: 自然遷移; 薬用採取; 園芸採取.

山地の草原に生える多年草.北海道,本州,四国,九州に分布.かつては丹沢や箱根山地の草原に多く点在し(松浦,1958; 林,1961),山麓や丘陵地にもあった(出口,1968).1972年5月17日に鎌倉の六国峠北麓で御所見直好によってカラー写真が撮影され,1980年に写真集として出版されたが,1972年には開発で埋没したという(御所見,1980).本種は染色に用いられた由緒ある植物で,マニアに採集されることが多かった.乱獲と環境の変化で今は著しく減少し,県西山地のごく一部に稀に見られるだけであり,放置すると絶滅の恐れがある.

文献: 神植目1933 大山・丹沢山・塔ヶ岳・箱根・津久井 神植誌1958 大山・丹沢山・塔ヶ岳・箱根・津久井・等 神植誌1988 YA-1;TS-5;MIA-1.

 

スナビキソウ Messerschmidia sibirica L.

総合評価: V-G. 地域評価: 湘南(En) 三浦(V). 原因: 海岸開発; 踏みつけ.

海岸の砂池に生える多年草.北海道,本州,四国,九州に分布.県内では湘南海岸と三浦半島に見られる.しかし,最近は海岸の整備と砂浜の冨栄養化や撹乱により,自生地は著しく減少した.比較的良い状態の毘沙門の生育地でさえハイカーや釣り人の通路の近くにあり,絶滅が危倶される.

文献: 神植目1933 三浦・高座・鎌倉 神植誌1958 三浦半島(葉山等)・横浜・鎌倉 稀 神植誌1988 CH-2;FU-3;YO-4;MIU.

 

クマツヅラ科 VERBENACEAE

カリガネソウ Caryopteris divaricata Maxim.

総合評価: En-D. 地域評価: 多摩(Ex) 三浦(En) 相模原(Ex) 丹沢(Ex). 原因: 不明.

林縁や草原に生える多年草.北海道,本州,四国,九州に分布.神植目1933や宮代(1958)は橘樹,都筑,鎌倉,三浦,厚木,金沢を,神植誌1958は鎌倉,逗子等と産地をあげている.1941年に横須賀の森崎で,小板橋八千代が採集した標本がもっとも古く,ほかに標本は鎌倉,神武寺,金沢区などで採集されたものがある.生育地は三浦半島に集中しているが,かけ離れた丹沢の大山でも採集されている.大山の自生地はまだ確認されていない.神植誌1988の調査期間中には,三浦半島の森戸川上流で採集されたのみで,産地は著しく減少していると思われる.

文献: 神植目1933 鎌倉・橘樹・三浦・厚木 神植誌1958 鎌倉・逗子・等 神植誌1988 MIU.

標本: FLK-100639 ZU 森戸川上流 1988.10.10 長谷川義人; KPM-61838 HAY 二子谷 1965.08.22 渡辺次雄; YCM-353 OY 大山 1958.11.09 逸見操; YCM-355 KA-1 鎌倉 1956.10.20 鈴木重隆; YCM-14835 ZU 神武寺裏参道 1959.09.24 ?; YCM-15237 YO-3 森崎 1941.08.00 小板橋八千代; YCM-15424 KAZ 白山道奥~金沢 1964.11.23 長谷川義人.

 

シソ科 LABIATAE

カイジンドウ Ajuga ciliata Bunge var. villosior A. Gray ex Nakai

総合評価: Ex-B. 地域評価: 多摩(Ex) 相模原(Ex)箱根(Ex). 原因: 園芸採取; 自然遷移; 土地造成.

やや乾いた夏緑樹林に生える多年草.北海道,本州,九州に分布.神植目1933は産地として横浜,橘樹,都筑,金沢,高座(大沢),伊勢原をあげ,神植誌1958は横浜,伊勢原,箱根と記しているところみると,かつては県内に広く点在していたように思われるが,個体数は多くなかったようだ.県立博物館には横浜市旭区上川井,川島町,鶴見区二ツ池の標本があるが,今ここは生育していない.花が美しいので山草として採集されたり,土地開発や林床がブッシュ化して生育環境がなくなったため,完全に絶滅したと思われる.

文献: 神植目1933 横浜・橘樹・都築・金沢・高座(大沢)・伊勢原 神植誌1958 横浜・伊勢原・箱根・等.

標本: KPM-80718 AS 上川井 1953.04.26 出口長男; KPM-80711 TSR 二ツ池 1948.05.05 米田定弘; KPM-80712 AS 川島町 1924.04.24 下山アイ.

 

ツルカコソウ Ajuga shikotanensis Miyabe et Tatewaki

総合評価: En-F. 地域評価: 多摩(Ex)相模原(Ex)湘南(En). 原因: 自然遷移; 土地造成.

草原に生える多年草.本州に分布.丘陵地から丹沢の山麓にかけて,各地に点在していたものと思われ,古い神奈川県植物誌には多くの産地がリストアップされている.しかし,最近は草原がなくなり,ブッシュが生い茂り,一部の草原は林に置き替わり,本種の好適な生育環境は失われ,絶滅したと思われる.1951年に横浜市鶴見区三ツ池で,1954年には旭区上川井で取られた標本が県立博物館に保存されている.この2カ所の生育地は今は見られない.神植誌1988では平塚市と藤沢市で採集され,その後,横浜市瀬谷区でも採集された(奥山,1989).

文献: 神植目1933 横浜・津久井・金沢・高座(橋本・相原)・松田 神植誌1958 横浜・津久井・等 神植誌1988 HI-1;FU-1;FU-2.

標本: KPM-26943 TSR 三ツ池 1951.05.20 大場達之; KPM-80717 AS 上川井 1954.05.16 出口長男.

 

ミズネコノオ Dysophylla varticillata (Roxb.) Benth.

総合評価: Ex-B. 地域評価: 多摩(Ex?) 三浦(Ex) 湘南(Ex). 原因: 湿地開発.

水辺や湿地に生える1年草.本州,四国,九州に分布.神植目1933は横浜,戸塚(汲沢),神植誌1958は横浜,鎌倉,平塚等として生育地を列挙している.標本調査では牧野富太郎,久内清孝等が平塚,茅ヶ崎,戸塚などで,1905~1915年にかけて採集された標本が牧野標本館,東大,科博に保存されている.この頃を境に生育環境が失われたものと思われ,現在まで同地では全く採集されていない.最近(1991)西区の浅間町で採集されたが,これは国内帰化ではないかと推定されている.

文献: 神植目1933 横浜・鎌倉(汲沢) 神植誌1958 横浜・鎌倉・平塚・等 神植誌1988 NIS(新港埠頭,国内帰化の可能性).

標本: FLK-104148 NIS 浅間町 1991.09.20 吉川アサ子; TI Hiratsuka City Kanagawa Pref. 1905.09 牧野富太郎; TI Totuka Prov.Sagami 1914.10.11 K.Hisauchi; TNS-44461 武蔵戸塚 1914.10.11 左右田; MAK-38646 相模茅ケ崎 1915 牧野富太郎; MAK-38647 相模戸塚 1915 牧野富太郎; MAK-36025 相模平塚 1905.09 牧野富太郎.

 

マネキグサ Loxocalyx ambiguum (Makino) Makino

総合評価: En-D. 地域評価: 三浦(En). 原因: 不明.

山地の草原や林縁に生える多年草.本州(神奈川県以西),四国,九州に分布.東限は静岡県といわれてきたが,1951年に籾山泰一が三浦半島で発見し,分布域は神奈川県まで広がった.1955年に畠山,1960年に二子山,新しいところでは田浦温泉谷戸で採集された標本が横須賀市自然博物館に保存されている. 1992年10月に田浦温泉谷戸に健在を確認した(鈴木,1993).本種は山地生の植物であるにもかかわらず,丹沢や箱根にはなく,三浦半島にのみ分布する興味深い種類である.

文献: 神植目1933 三浦(二子ノ谷)・橘樹 神植誌1958 三浦半島等 稀 神植誌1988 YO-1.

標本: KPM-56596 YO-1 田浦温泉谷戸 1973.09.16 渡辺次雄; YCM-14900 HAY 畠山 1955.07.28 石渡治一; YCM-14919 ZU 二子山 1960.09.03 大谷茂.

 

シロネ Lycopus lucidus Turcz.

総合評価: Ex-B. 地域評価: 多摩(Ex) 三浦(Ex) 箱根(Ex). 原因: 不明.

湿地に群生する多年草.北海道,本州,四国,九州に分布.古い植物誌は和名のみをあげ,具体的な場所や産量は記述していないので,もっとも普通に見られたのか,生育地が特定できなかったのか明かでない.長谷川は1950年頃に川崎市向丘で多数見ているという.松浦(1958)は箱根の仙石原で記録し,ケシロネと同定している.シロネは無毛であるが,ケシロネは茎と葉の裏面に毛があるものをいい,かつては箱根に分布していたことは容易に想像されるが,その標本は見ることができない.横須賀市の阿部倉町で1966年に採集された標本が横須賀市自然博物館に収蔵されている.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし.

標本: YCM-15234 YO-1 阿部倉町 1966.07.21 小板橋八千代.

 

ヒメハッカ Mentha japonica (Miq.) Makino

総合評価: Ex-B. 地域評価: 多摩(Ex) 箱根(Ex). 原因: 湿地開発.

湿地に生える多年草.北海道,本州に分布.神植目1933,松浦(1950),神植誌1958,宮代(1958)等はリストに和名のみを記している.今回の標本調査で東京大学に横浜で採集された標本が見出された.神植誌1988の調査期間中も確認できなかった.

標本: TI Yokohama 1904.09.14 K.Hisauchi.

 

カメバヒキオコシ Rabdosia umbrosa (Maxim.) H.Hara var. leucantha (Murai) H.Hara f. kameba (Okuyama ex Ohwi) H.Hara

総合評価: En-D. 地域評価: 小仏(En). 原因: 不明.

山地の草原や林縁に生える多年草.本州中部に分布.県内では藤野町の和田で,1982年5月30日に採集された標本があるのみである.日本海側に分布する種類で,藤野町はその南端に近い生育地である.生育状況の追跡調査はできなかったが,神奈川県下唯一の生育地であり,保護の必要があろう.

文献: 神植誌1988 FUJ-1.

標本: FLK-20404 FUJ-1 和田 1982.05.30 森茂弥.

 

ヒメナミキ Scutellaria dependens Maxim.

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(Ex) 相模原(Ex) 湘南(Ex) 箱根(S). 原因: 湿地開発; 土地造成.

湿地に生える多年草.北海道,本州,四国,九州に分布.かつては県内の丘陵地の谷戸から箱根の湿地にかけて広く分布していたようだ.県立博物館にも旭区上白根池(KPM-80501 1952.8.24 出口長男)と桐ヶ作大池(KPM-80502 1952.8.25 出口長男)で採集された標本が残されている.土地開発により丘陵地のものは絶滅した.もっとも早く絶滅が確認されたのは,藤沢の鵠沼で神植誌1958で,すでに絶滅宣言をしている.現在分布している地域は箱根山地の湿地のみである.

文献: 神植目1933 横浜・川崎・鵠沼・箱根 神植誌1958 横浜・川崎・鵠沼(絶滅)・箱根・各地 神植誌1988 HAK-1;HAK-4;EB.

 

ゴマノハグサ科 SCROPHULARIACEAE

ゴマクサ Centranthera cochinchinensis (Lour.) Merrill var. lutea H.Hara

総合評価: Ex-A. 地域評価: 湘南(Ex). 原因: 湿地開発.

湿地に生える1年草.本州,四国,九州に分布.神植目1933は片瀬と江ノ島を,神植誌1958は「本種はかつて,藤沢市(片瀬,鵠沼)の海岸付近の湿地に産したが土地の開発によって,完全に絶滅した(久内氏)」と記している.鵠沼で1911年に採集された標本が東京大学資料館に保存されている.神植誌1988の調査でも発見はなく,神奈川県からは絶滅した.

文献: 神植目1933 片瀬・鵠沼 神植誌1958 藤沢(絶滅).

標本: TI 相模鵠沼 1911.10.01 S.Shimazu.

 

サワトウガラシ Deinostema violacea (Maxim.) T.Yamaz.

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(En) 箱根(Ex). 原因: 湿地開発; 土地造成.

水辺や湿地に生える一年草.本州,四国,九州に分布.県内では各地に生育していたと神植誌1958は記している.最後まで残存していた箱根を最近調査したところでは発見できなかった.多摩丘陵では個体数が著しく減少し,絶滅寸前の状態にある.川崎市麻生区黒川や横浜市旭区矢指町は神植誌1988では確認できたが,まだ生き残っているだろうか.絶滅が危惧される.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 各地 神植誌1988 TAM;AS.

標本: FLK-21679 TAM 黒川 1987.09.18 小崎昭則; FLK-21680 AS 矢指 1985.09.08 勝山輝男.

 

シソクサ Limnophila aromatica (Lam.) Merrill

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(En) 箱根(Ex). 原因: 湿地開発; 土地造成.

湿地や水田の溝等に生える多年草.本州,四国,九州,琉球に分布.県内各地に点在していたと思われるが,今は多摩丘陵の山間の谷戸に僅かに生育しているに過ぎない.古くから産地として知られていた箱根(松浦,1958)はすでに姿を消した.神植誌1988では旭区矢指,上白根,緑区長津田で採集されたが,土地造成で失われた可能性が高い.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし 神植誌1988 MI-1;AS.

標本: FLK-21708 AS 矢指 1984.09.24 山内好孝; FLK-21709 AS 上白根 1984.11.03 勝山輝男; FLK-21710 MI-1 長津田道正 1980.09.29 勝山輝男; KPM-35193 TAK 向ヶ丘 1953.09.06 大場達之; YCM-15425 MIN 中里 1956.09.24 長谷川義人.

 

ウンラン Linaria japonica Miq.

総合評価: En-D. 地域評価: 三浦(En). 原因: 不明.

砂浜に生える多年草.北海道,本州,四国に分布.神植目1933も神植誌1958も県内に分布しているとして,リストアップされているが,産地を特定できる古い標本は見ていない.マニアの乱獲と生育環境の撹乱で消失してしまったものと思われる.1989年に三浦市の初声で確認された(MIU 初声 1989.7.22 山内好孝)のが唯一の現存の産地である.最近,湘南海岸でも採集されているが,この方はハマニンニクの植栽に混ざって移入したものと推定されている.

 

ママコナ Melampyrum roseum Maxim. var. japonicum Franch. et Sav.

総合評価: Ex-B. 地域評価: 丹沢(Ex) 箱根(Ex). 原因:不明.

林内や林縁に生える半寄生の一年草.北海道西南部,本州,四国,九州に分布.神植誌1958は箱根,塔ケ岳,林・小林・小山・大河原(1961)は塔ケ岳,ユーシン,世附で,松浦(1958)も箱根を記録している.神植誌1988の調査期間中は発見されず,環境の変化で絶滅したらしい.再発見は期待できる.

文献: 神植目1933 箱根・塔ヶ岳・三国山 神植誌1958 箱根・塔ヶ岳・等.

 

クチナシグサ Monochasma sheareri (Moore) Maxim.

総合評価: Ex-B. 地域評価: 多摩(Ex?) 相模原(Ex) 箱根(Ex). 原因: 湿地開発; 土地造成.

夏緑林に生える越年草.本州(福島県以西),四国,九州に分布.神奈川県にはかつては所々に生育地があった.神植目1933は高座を産地としてあげ,宮代(1958)は高座(大沢,田名),松浦(1958)に箱根の記録がある.もともと生育地は限られ,個体数は少なかったものと思われる.川崎市多摩区登戸で牧野富太郎が1940年に採集された標本が,東京大学と都立大学にそれぞれ保存されている.神奈川県からは絶滅した.

文献: 神植目1933 高座 神植誌1958 産地記載なし 稀.

標本: TI 川崎市登戸 1940.04.26 牧野富太郎; MAK-79718 武蔵稲田登戸 1940.04.26 牧野富太郎.

 

サツキヒナノウスツボ Scrophularia musashiensis Bonati

総合評価: En-D. 地域評価: 小仏(En). 原因: 不明.

沢沿いや湿った林内に生える多年草.関東地方では栃木県,群馬県,東京都,埼玉県,神奈川県,かけ離れて滋賀県,福井県に分布する.長野県産は,変種・イナサツキヒナノウスツボとして区別された.本県では高尾山の産地に隣接した藤野町に分布する.生育環境は特殊な渓畔で,しかも個体数が少ないので充分な保護の手だてが必要である.花期は5~6月.近縁のヒナノウスツボの花期は7~9月,箱根や丹沢の高地に分布する.

文献: 神植誌1988 FUJ-1.

標本: FLK-22288 FUJ-1 1979.06.20 大場達之.

 

ヒメトラノオ Veronica rotunda Nakai var. subintegra T.Yamaz. f. petiolatum T.Yamaz.

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(Ex) 丹沢(En) 箱根(S). 原因: 動物食害; 土地造成.

ススキ草原に生える多年草.本州,四国,九州に分布.現在は箱根と丹沢の甲駿相国境付近に分布するのみ.林・小林・小山・大河原(1961)は丹沢山や姫次に分布を記しているがシカの食害で失われたようである.出口(1968)は上川井を産地としてあげ,その標本は県博に保存されている(KPM-80580 1953.8.18 出口長男).また,帝国女子医学薬学専門学校(1932)に登戸付近の記録もある.多摩丘陵域のこれらの産地は絶滅した.

文献: 神植目1933 蛭ヶ岳・丹沢山 神植誌1958 箱根・丹沢山・等 神植誌1988 YA-1;HAK-1.

 

クガイソウ Veronicastrum sibiricum (L.) Pennell ssp. japonicum (Nakai) T.Yamaz.

総合評価: Ex-A. 地域評価: 丹沢(Ex). 原因: シカの食害.

山地の草原や岩礫地に生える多年草.本州(近畿地方以北)に分布.神植目1933や宮代(1958)は丹沢山,蛭ケ岳をあげ,神植誌1958は丹沢山等と記し,林・小林・小山・大河原(1961)は塔ケ岳ー丹沢山ー蛭ケ岳,丹沢山,大室山と産地をあげている.蛭ケ岳で1960年と1985年に採集された標本がある.山荘の管理人や城川四郎が,かつて山小屋の周辺にも生育していたと言うので,1994年夏の蛭ケ岳調査の際,かつて生育していた現地を見たが,今はシカの食害で影も形もなかった.

文献: 神植目1933 丹沢山・蛭ヶ岳 神植誌1958 丹沢山・等 神植誌1988 TS-1.

標本: FLK-22632 TS-1 蛭ヶ岳 1985.07.17 城川四郎.

 

ハマウツボ科 OROBANCHACEAE

ハマウツボ Orobanche coerulescens Stephan ex Willd.

オカウツボ f. nipponica Kitam.

総合評価: En-E. 地域評価: 三浦(Ex) 相模原(Ex) 湘南(En) 西湘(Ex) 箱根(Ex). 原因: 海岸開発; 河川開発.

ハマウツボは海岸や河原のカワラヨモギ,オカウツボは河原や草原のオトコヨモギに寄生する,ともに一年草.北海道,本州,四国,九州,琉球に分布.過去に,ハマウツボは久里浜,須賀,七里ヶ浜,茅ヶ崎,辻堂,平塚,大磯,山北町深沢で,オカウツボは厚木市七沢の県林業試験場や横浜市などで採集された記録があり,その一部は標本や写真が残されている.そのなかでも平塚が格好の採集地であったらしく,牧野富太郎(1901,1928,1937),原寛(1914),服部静夫(1923),亘理順次(1930),T.Yamamoto(1924),小倉謙(1921),戸樫誠(1938),本多正次(1924),籾山泰一(1930),Y.Komori(1930),久内清孝(1932)等の研究者が採集に訪れ,東大,科博,牧野標本館には33点の標本が収蔵されている.このように数多くあった生育地も,今は失われ見る影もない.その要因は研究用に採集されたものではなく,湘南海岸の著しい変貌によるもので,今それを列挙すれば(1)海浜道路の建設,(2)飛砂防止林と砂防用の草本類の植栽,(3)海水浴客の増加,釣り人,地引き網等による海浜の過剰利用,(4)車の進入による海浜の撹乱, (5)海浜の公園化等が考えられ,寄主であるカワラヨミギが駆除されたため,それに寄生するハマウツボが絶滅したのであろう.カワラヨモギばかりでなく,多くの海浜植物が失われ,植生は単純化し,変わって帰化植物が増えているのが現状である.神植誌1988の調査期間には証拠標本が得られなかったが,1992年に平塚市で再確認された(城川,1992).

文献: 神植目1933 ハマウツボとして久里ヶ浜・須賀・茅ヶ崎・平塚,オカウツボとして箱根 神植誌1958 ハマウツボとして三浦・七里ヶ浜・辻堂・茅ヶ崎・平塚・等 オカウツボとして箱根 神植誌1988 オカウツボはかつて県林業試験場内にあった.

標本: ハマウツボとして FLK-104939 HI-2 岡崎 1992.06.05 山口義夫; KPM-61424 KA-1 七里ヶ浜 1967.06.11 渡辺次雄; ハマウツボとして YCM-619 KA-1 七里ヶ浜 1960.08.22 間瀬美保子.

 

タヌキモ科 LENTIBULARIACEAE

ミミカキグサ Utricularia bifida L.

総合評価: Ex-A. 地域評価: 湘南(Ex) 箱根(Ex). 原因: 湿地開発.

文献: 神植目1933 片瀬・鵠沼・高座 神植誌1958 箱根・鵠沼(絶滅)・等.

ホザキノミミカキグサ Utricularia coerulea L.

総合評価: Ex-A. 地域評価: 湘南(Ex). 原因: 湿地開発.

文献: 神植目1933 片瀬・鵠沼 神植誌1958 鵠沼(絶滅)・等.

ムラサキミミカキグサ Utricularia uliginora Vahl

総合評価: En-E. 地域評価: 湘南(Ex) 箱根(En). 原因: 湿地開発.

文献: 神植目1933 片瀬・鵠沼 神植誌1958 箱根・鵠沼(絶滅)等 神植誌1988 HAK-1.

標本: YCM-636 HAK-1 仙石原 1954.08.11 大谷 茂.

ミミカキグサ類3種はいずれも湿地や泥土に生える多年草で,北海道(ミミカキグサは分布しない),本州,四国,九州に分布.本県では久内清孝(1932)が植物研究雑誌に「亡ビ行ク湘南ノ鵠沼片瀬ヲ弔ウ」の表題で,植物の好適地であった湿砂原が,鉄道の建設とそれに伴う邸宅や別荘の造営などの土地開発が進み,貴重な植物が失われたことを嘆いている.鵠沼・片瀬には砂質の湿原や池があり,ミミカキグサ,ムラサキミミカキグサ,ホザキノミミカキグサ,イヌセンブリ,ゴマクサ,ヒメタデ,ヤナギヌカボなどの稀産種が生育していたが,すべて絶滅したと昭和6年12月に記している.ミミカキグサは,鵠沼のほかに箱根の記録があるが,ホザキノミミカキグサは,鵠沼以外に分布の記録はない.ミミカキグサ,ホザキノミミカキグサは完全に絶滅した.ムラサキミミカキグサは,鵠沼では失われたが,ほかに箱根仙石原湿原の天然記念物指定地域内に健在である.

 

タヌキモ Utricularia japonica Makino

総合評価: En-D. 地域評価: 小仏(En) 箱根(Ex). 原因: 池沼開発; 土地造成; 農薬汚染.

イヌタヌキモ var. tenuicaulis (Miki) H.Hara

総合評価: V-H. 地域評価: 多摩(Ex) 相模原(En). 原因: 池沼開発; 土地造成; 農薬汚染.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 各地 神植誌1988 TAM;AT-1;+SAG.

池に生える多年草.タヌキモは北海道,本州に,イヌタヌキモは全国に分布する.角野(1994)によれば,日本でタヌキモと同定されてきたものの多くはイヌタヌキモでタヌキモの生育地の方が少ないという.イヌタヌキモとタヌキモの検索表を示すと次のようである.

○越冬芽(殖芽)は長だ円形で,長さ4~10mm,主軸の先端または水中葉の腋の枝軸の先端に生じ,褐色である.………イヌタヌキモ

○越冬芽(殖芽)は球形で,径1~2cm,主軸の先端に生じ,暗緑色である.………タヌキモ

神植目1933や神植誌1958にはタヌキモとイヌタヌキモがリストアップされているが,具体的に産地は記されていない.神植誌1988ではタヌキモのみを記載し,川崎市黒川と厚木市中荻野の産地を分布図にプロット,相模湖町の産地を苅部(1987)より引用した.後に厚木荻野の弁天の池でイヌタヌキモが採集された(吉田・高橋,1994).

そこで今までに収集されていた標本を検討したところ,川崎市黒川(1984),上荻野(不明),川崎市登戸(1953)はすべてイヌタヌキモであった.苅部(1987)の相模湖町産の標本が入手されたので調べたところ,これはタヌキモであった.箱根の仙石原湿原の東北の一画に1988年に作られた実験区にはタヌキモの花が見られるという.また仙石原には町指定の天然記念物として自生地が保護されていたが,今はない.箱根産については,いずれもまだ同定していないので,イヌかタヌキか明かでない.また,帝国女子医学薬学専門学校(1932),原(1936),出口(1968)にタヌキモが出てくるが,過去の記録についても標本が残されていなければイヌかタヌキか確かめることができない.

現在,厚木市上荻野,登戸は絶滅して見られない.厚木市中荻野の弁天山の池はイヌタヌキモの発見で保全策が検討されていたが,地権者からの池の買い上げを断念した.まもなく池の埋立が行われ,イヌタヌキモやこの池に生育するイトモとともに絶滅するが,厚木市は県内数カ所(箱根湿生花園,県立自然保護センター,藤沢市,清川村など)にイヌタヌキモの移植を始めているという(神奈川新聞1994 12.1付).川崎市多摩区黒川の産地は住宅公団による宅地造成が行なわれている.そのアセスの手続きの際の調査報告にタヌキモが入っていないことを自然保護団体が指摘し,問題になったいわくつきの産地である.その経緯については小崎(1992b)にくわしい.現在,造成地へは関係者以外立ち入ることができないが,おそらく絶滅したものと思われる.

タヌキモは相模湖町に産地があり,ここは健在である.県内唯一の確実な生育地であり,何とか保護する方法を検討したい.

 

アカネ科 RUBIACEAE

ウスユキムグラ Asperula trifida Makino

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(En). 原因: 不明.

林内や林縁に生える多年草.本州(福島県以西の太平洋側),四国,九州に分布.神植目1933,神植誌1958ともに箱根を産地にあげている.箱根の神山や双子山で採集された標本が東大や科博,牧野標本館に収蔵されている.本種はアカネ科のクルマバソウ属に属する小形な草本で,花冠は杯状で3裂し,葉は4枚,果実は平滑である.神植誌1988の調査期間中には見つからなかったが,1979年に採集された標本が東京大学にあり,今も生育している可能性が高い.

文献: 神植誌1958 箱根.

標本: TI 箱根双子山下双子 1979.07.03 佐藤仁; TI 箱根神山 1932.10.10 中村守一; TI 箱根双子山 1951.09.08 水島正美; TNS-9466 相模箱根上双子山 1940.08.07 鈴木泰; MAK-3042 箱根町 1919.04.01 牧野富太郎.

 

ハナムグラ Galium tokyoense Makino

総合評価: Ex-B. 地域評価: 多摩(Ex) 湘南(Ex) 箱根(Ex). 原因: 河川開発.

湿地や川岸に群がって生える多年草.本州(中部以北)に分布.神植目1933や神植誌1958はリストのみであるが,宮代(1958)は横浜,鎌倉,茅ヶ崎,平塚に,松浦(1958)は箱根にあると記している.当時の標本はなく,その後に採集した記録はなく,絶滅種と考えられる.関東地方では利根川等に健在であるが,都市近郊の多くの自生地は河川の整備で消失してしまった.

神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし

 

オオバノヨツバムグラ Galium kamtschaticum Steller var. acutifolium H.Hara

総合評価: Ex-A. 地域評価: 丹沢(Ex). 原因: 不明.

亜高山の草原や岩場に生える多年草.北海道,本州,四国に分布するが,中部以北に多く見られる種類である.したがって本県ではきわめて珍しい存在になる.1962年に大谷茂が丹沢札掛の一の沢考証林のモミ林で採集した(大谷茂,1963b)標本が横須賀市自然博物館にあり,その図が勝山によりスケッチされ,神植誌1988に掲載されている.その後は採集された標本や報告もなく,絶滅したと考えられる.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1988 *KI-2.

 

ヤブムグラ Galium nieworthii Franch. et Sav.

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(V) 相模原(En) 丹沢(En). 原因: 土地造成.

丘陵地の疎林内や草地に生える多年草.東京,神奈川,埼玉,千葉,茨城に分布が局限される希少種.日本自然保護協会版のレッドデータブックでも絶滅危惧種として扱われている.神奈川県以外ではほとんど絶滅状態である.横浜市緑区,青葉区,保土ヶ谷区,旭区や大和市,津久井町等に分布が偏っている.なかでも産量の多い地域は緑区だが,個体数はそれほど多くない.当面は産地も多く,絶滅の心配はないが,今のうちに生育環境を守る手だてを考えなければ,近い内に絶滅の危機が到来するであろう.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 各地 神植誌1988 MI-1;MI-2;YAT;TS-5;HO.

 

ホソバノヨツバムグラ Galium trifidum L. var. brevipedunculatum Regel

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(Ex) 三浦(Ex) 湘南(Ex) 箱根(S). 原因: 土地造成; 湿地開発.

湿地に生える多年草.本州,四国,九州に分布.内陸の湿原にはヒメナミキ等と一緒に生える普通種であるが,神奈川県では箱根仙石原に残されるだけである.箱根以外では横浜市旭区桐ヶ作(KPM)で採集された標本が残されている.文献では出口(1968)に旭区桐ヶ作,帝国女子医学薬学専門学校(1932)に登戸付近がある.箱根以外の産地はいずれも,湿地が埋め立てられ失われた.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし 神植誌1988 HAK-1;HAK-2;HAK-4;HAK-5.

 

イナモリソウ Pseudopyxis depressa Miq.

総合評価: En-D. 地域評価: 丹沢(En)小仏(En). 原因: 不明.

山地の樹陰に生える多年草.本州(関東以西),四国,九州に分布,高尾山あたりが分布の東限.県内では丹沢山地や小仏山地に多く,箱根山地には分布しない.古くは,神植目1933や宮代(1958)は津久井(与瀬),石老山をあげ,神植誌1958は津久井の山地をあげ,フイリイナモリソウとしている.葉に淡色の模様が入るものをフイリイナモリソウと呼び,県内産は大部分がこの斑入りに該当する.丹沢山地では生育地が少ないうえ,個体数も少なく,絶滅寸前である.またシカの食害も危倶される.

文献: 神植目1933 津久井(与瀬・石老山) 神植誌1958フイリイナモリソウとして津久井の山地をあげている 神植誌1988 SAG;TS-5;KI-2;AT-4.

標本: FLK-24158 SAG 石老山 1987.10.22 高橋秀男他; FLK-24159 AT-4 谷太郎林道~大山 1984.07.01 高橋秀男; FLK-24160 TS-5 城山 1986.10.05 吉川アサ子; FLK-24163 KI-2 宮ヶ瀬 1986.07.11 高橋秀男; YCM-691 OY 大山 1956.07.26 逸見操.

 

オオキヌタソウ Rubia chinensis Regel et Maack. var. pedicellata H.Hara

総合評価: V-G. 地域評価: 丹沢(En) 箱根(V). 原因: 不明.

山地の林内に生える多年草.北海道,本州,四国,九州に分布.県内では丹沢山地と箱根山地に見られる稀な種類である.神植目1933,神植誌1958は箱根,丹沢山,塔ケ岳を産地としてあげている.しかし,丹沢山や塔ケ岳はシカの食害で今は見られない.生育地と個体数が少ないので,保護の手だてが必要である.丹沢ではシカの食害が危惧される.

文献: 神植目1933 箱根・丹沢山・塔ヶ岳 神植誌1958 箱根・丹沢山・等 神植誌1988 HAT-3;HAK-2.

 

スイカズラ科 CAPRIFOLIACEAE

ニッコウヒョウタンボク Lonicera mochidzukiana Makino

総合評価: Ex-A. 地域評価: 丹沢(Ex). 原因: 不明.

陽地の低木林内や草原に点在する夏緑の低木.本州中部関東地方に分布の限られる種類で,本県に最も近い生育地は山梨県三ツ峠になり,丹沢は分布の南端に当たる貴重な存在である.城川四郎が1960年に丹沢姫次からコエド沢尾根の間で採集された標本が横須賀市自然博物館に保存されている.その後の調査では,以前に採集した株も見あたらず,伐採もしくは枯死の可能性があり,絶滅種と考えられる.

標本: YCM-15968 TS-2 姫次~コエド沢尾根 1960.06.05 城川四郎.

 

オミナエシ科 VALERIANACEAE

カノコソウ Valeriana fauriei Briq.

総合評価: Ex-B. 地域評価: 多摩(Ex) 箱根(Ex). 原因:不明.

山地,北地では海岸の草原に生える多年草.北海道,本州,四国,九州に分布.神奈川県では出口(1968)は横浜市青葉区元石川町を,松浦(1958)はハルオミナエシの名で箱根の畑宿を,それぞれ産地として記録している.出口(1968)の横浜植物誌(P157)には「元石川町の雑木林側及び林下湿潤地に散生するのみである」とある.箱根の畑宿とともに,今は絶滅した.

 

マツムシソウ科 DIPSACACEAE

ナベナ Dipsacus japonica Miq.

総合評価: En-E. 地域評価: 丹沢(En) 箱根(En). 原因: 自然遷移; その他.

山地の草地や道端の砂礫地に生える越年草.本州,四国,九州に分布.かつては県内各地の山道や林道に入れば道端に普通に見られた.古い植物誌もそれを裏ずけるように多くの分布域をあげている.しかし,最近は道路の舗装と法面の整備等ですっかり見られなくなった.神植誌1988の調査では湯河原と秦野(菩提)で,その後の調査では丹沢神の川で発見されたのみである.本種は偶発的な発生が見られるので,まだ再発見の可能性はあろう.

文献: 神植目1933 箱根・丹沢山・塔ヶ岳・津久井 神植誌1958 箱根・丹沢山・塔ヶ岳・津久井・等 神植誌1988 YU-1;HAT-2.

標本: FLK-105795 TS-3 神ノ川キョウタ橋~エビラ沢橋 1993.10.16 酒井藤夫; KPM-79545 HAT-3 春岳林道 1950.10.16 出口長男; YCM-787 YA-3 神の川 1961.09.04 大谷 茂; YCM-788 KI-3 土山峠 1956.10.10 逸見操; YCM-16070 YU-1 奥湯河原 1987.09.24 ?.

 

マツムシソウ Scabiosa japonica Miq.

総合評価: V-H. 地域評価: 多摩(Ex) 三浦(Ex) 相模原(Ex) 西湘(En) 丹沢(V) 箱根(S). 原因: 土地造成; 自然遷移.

沿海地から山地の草原に生える越年草.本州,四国,九州に分布.かつては鎌倉にもあり,御所見(1980)によって1974年10月23日に鎌倉大平山西北麓で撮影されたカラー写真が残されている.この写真を出版した1980年当時,すでに自然消滅に近い状態にあったという.丘陵地の生育地は環境が失われ,絶滅してしまった.箱根山地にはまだ普通に見られる.

 

ソナレマツムシソウ Scabiosa japonica Miq. f. littoralis Nakai

総合評価: En-D. 地域評価: 三浦(En). 原因: 海岸開発.

海岸の草地に生える越年草.本州に分布.マツムシソウの海岸型で,県内では三浦半島の海岸に分布は限られている.生育環境は日当たりの良い草地斜面で,海水浴にきた人々が立ち入るような場所ではないが,生育地が少ないうえ,個体数が少ないので,マニアの採集による絶滅を危惧する.

文献: 神植誌1958 三浦 神植誌1988 HAY;YO-4;MIU.

標本: FLK-25823 YO-4 長浜 1983.10.22 高橋秀男; FLK-25824 YO-4 荒崎海岸 1983.10.22 高橋秀男; KPM-22440 MIU 毘沙門 1964.11.08 大場達之; YCM-3126 MIU 剣崎 1967.10.20 小板橋八千代; YCM-3127 YO-4 長井 1983.09.21 石渡治一; YCM-3128 YO-4 荒崎 1983.12.08 山内好孝.

 

キキョウ科 CAMPANULACEAE

ハマシャジン Adenophora triphylla (Thunb.) A. DC. var. japonica (Regel) H.Hara f. glabra (Makino) Kitam.

総合評価: En-D. 地域評価: 三浦(En). 原因: 海岸開発.

海岸の草地に生える多年草.本州,伊豆諸島に分布.県内では横須賀市や三浦市の相模湾沿岸に分布する.かつてはあまり注目されていなかったらしく,神植誌1958にリストアップされている.三浦半島では生育地は限定され,個体数も少ないので,生育環境が撹乱されると,直ちに絶滅につながる恐れがある.

文献: 神植誌1958 産地記載なし 神植誌1988 YO-4.

標本: FLK-103195 MIU 黒崎の鼻 1990.10.04 勝山輝男; FLK-26370 YO-4 長浜海岸 1984.11.10 永田芳男; KPM-60953 MIU 剣崎 1967.09.17 渡辺次男.

 

シデシャジン Asyneuma japonicum (Miq.) Briquet

総合評価: Ex-B. 地域評価: 多摩(Ex). 原因: 不明.

草原,林縁,土手などに生える多年草.本州,九州に分布.長野県や山梨県あたりではやや普通に見られる種類であるが,本県では稀なもので,過去の記録を見ても,神植目1933,神植誌1958もリストアップされていない.松浦(1958)は箱根,出口(1968)は横浜市旭区二股川,中尾,東希望ヶ丘,今宿に散生すると記録し,口絵にはカラー写真を掲載している.この地域を重点的に調査したが発見はできなかった.再発見は期待できる.

 

バアソブ Codonopsis ussuriensis (Rupr. et Maxim.) Hemsl.

総合評価: En-F. 地域評価: 多摩(En) 西湘(Ex) 小仏(En) 箱根(Ex). 原因: 土地造成.

林縁や薮に絡まるつる性の多年草.北海道,本州,四国,九州に分布.古い文献では林・小林・小山・大河原(1961)は長者舎ー犬越路,松浦(1958)は箱根で記録している.神植誌1988では横浜市緑区と小仏山地で標本が取られた.神植誌1988が始まる1979年以前の標本は,二宮,箱根神山,港北区,保土ヶ谷区の標本がある.神植目1933も神植誌1958もリストアップされていないが,当時は気ずかれていなかったらしい.個体数は少ないうえ,生育環境が減少する一方で,箱根,西湘,多摩丘陵ではすでに絶滅し, 小仏山地に僅かに見られるに過ぎない.

文献: 神植誌1988 MI-1;SAG.

標本: FLK-101199 MI-1 寺家町 1988.08.17 高橋秀男; FLK-26652 MI-1 奈良町 1979.08.25 勝山輝男; FLK-26651 SAG 景信 1982.08.18 森茂弥; KPM-1186 NIN 二宮 1959.07.10 西尾和子; KPM-44814 HAK-4 神山 1963.09.15 大場達之; KPM-79432 KOH 篠原 1960.08.21 下山アイ; KPM-79433 HO 星川 1947.08.29 出口長男; KPM-79467 HO 三反田 1958.08.15 内田光雄.

 

サワギキョウ Lobelia sessilifolia Lambert

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(Ex) 箱根(S). 原因: 湿地開発.

湿地に生える多年草.北海道,本州,四国,九州に分布.もともと寒い地方の湿原に生える植物で,県内では箱根山地に多く,丘陵地には残存的に分布していたものと思われる.現在も箱根の仙石原には健在である.かつて横浜市旭区の上白根(文献: 出口,1968 標本: KPM-79463 1952.8.24 出口長男)や川崎市登戸(帝国女子医学薬学専門学校,1932)などに生育していたものは,今は絶滅して見られない.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 各地 神植誌1988 HAK-1;MIA-3.

 

キキョウ Platycodon grandiflorum (Jacq.) A. DC.

総合評価: En-F. 地域評価: 多摩(En) 三浦(En) 相模原(Ex) 湘南(Ex) 丹沢(Ex) 箱根(Ex) 小仏(En). 原因: 自然遷移; 土地造成.

草原に生える多年草.北海道,本州,四国,九州に分布.かつて盆花として採取してきて精霊棚に飾るほど,各地に見られた本種も希少種となった.神植目1933を見ても,大山,箱根,都築,高座,三国山,横浜など,分布の広いことを伺わせる記載になっている.神植誌1988では,横浜市緑区,金沢区,瀬谷区,藤野町で採集されたが,いずれの生育地も個体数が少なく,標本はほんの一部分の採集にとどめたほどであった.鎌倉では戦前に採りつくされたという(御所見,1980).

文献: 神植目1933 大山・箱根・都築・高座・三国山・横浜 神植誌1958 大山・箱根・等 神植誌1988 FUJ-1;MI-1;KAN;MIU.

標本: FLK-26738 MI-1 寺家町 1987.08.11 勝山輝男; FLK-26741 MI-1 奈良町 1979.08.02 勝山輝男; FLK-26742 KAN 菅田町 1985.08.29 吉川アサ子; FLK-26743 SE 二ツ橋 1984.09.02 鮒橋郁夫; FLK-26739 FUJ-1 陣馬山 1984.09.22 長谷川義人.

 

キク科 COMPOSITAE

ノコギリソウ Achillea alpina L.

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(Ex) 三浦(En). 原因: 海岸開発.

海岸から山地の草原に生える多年草.北海道,本州に分布.県内では三浦市,横須賀市の海岸に見られるのみである.かつては横浜市三渓園の海岸にも生育していたが現在は消滅した.神植誌1958では三浦半島産はキタノコギリソウ A. sibirica subsp. japonica ,宮代(1958)はノコギリソウA. sibiricaとされたが,神植誌1988ではノコギリソウ A. alpinaと同定された.ほかに県内にはヤマノコギリソウも分布するので,これらの違いを検索表で示すと次のようになる.

○葉は幅15~20mm,深~中裂し,裂片は鋸歯があり,幅は3mm.総苞は幅7~10mm.全体に壮大.北海道に多く,本州北部の海岸に分布………キタノコギリソウ

○葉は幅8~12mm,中~深裂し,裂片は幅1.5~2mm.総苞は幅4.5~5mm,全体にずんぐりした感じ.本州の海岸~山地に分布………ノコギリソウ

○葉は幅8mm内外,深裂し,裂片は幅1mm.総苞は幅3.5~4mm.全体に痩せた感じ,本州の山地に分布………ヤマノコギリソウ

神奈川県下は山地にヤマノコギリソウ,三浦半島の海岸にノコギリソウが分布する.ノコギリソウは生育地が限られるうえ,しだいに環境が失われつつあり,個体数も少ないので絶滅が危惧される.本種は神植誌1988の分布図で内陸や山地に分布のプロットがあるものは,誤同定であるので改訂のときに訂正したい.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1988 MIU;他に各地にプロットされているが,誤同定の可能性がある.

標本: FLK-26766 MIU 毘沙門 ???? 高橋秀男; YCM-1575 MUI 浜諸磯 1982.11.16 鈴木美恵子; YCM-16237 YO-4 秋谷 1983.06.10 石渡治一; YCM-16238 MIU 三崎町白石 1980.09.08 鈴木一喜; YCM-16239 千代ヶ崎 YO-3 1979.07.02 山本久子.

 

ユキヨモギ Artemisia momiyamae Kitam.

総合評価: En-E. 地域評価: 三浦(En). 原因: 海岸開発.

海岸の崖に生える多年草.三浦半島,伊豆半島,伊豆諸島に分布し,稀である.基準標本は籾山泰一が鎌倉市稲村ケ崎で採集したもので,北村四郎(1933)が雑誌「植物分類地理」に発表した.ほかに県内で池子,披露山に分布が知られる.稲村ケ崎周辺の山を切り崩した斜面には逸出が見られ,そこではヨモギとの雑種が多数できている.この雑種をイナムラヨモギと呼んでいる.

文献: 神植誌1958 鎌倉 神植誌1988 KA-1;ZU;MIU;FU-3.

標本: FLK-27354 KA-1 稲村ヶ崎 1983.10.18 高橋秀男; YCM-920 KA-1 鎌倉 1962.09.20 間瀬美保子; YCM-16287 ZU 池子 1983.07.11 石井藤太郎; YCM-16288 ZU 披露山公園 1981.06.21 浜中義治; YCM-16289 ZU 池子 1983.07.11 浜中義治.

 

カワラノギク Aster kantoensis Kitam.

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(Ex) 相模原(V) 湘南(En) 丹沢(Ex). 原因: 河川開発;ダム建設; 水質汚濁; 踏みつけ.

河川の中流域の砂礫地に生える越年草または短命な多年草.多摩川(東京都側で基準標本の産地),相模川,静岡県の黄瀬川,安倍川(静岡県植物誌),栃木県の大谷川,箒川に分布するが,多摩川,相模川を除く他の河川では現在の生育状態は不明である.相模川では上大島,高田橋付近,昭和橋付近,座架依橋,中新田,寒川で記録され,中津川では平山橋(1964)で採集された標本がある.中津川の平山橋付近は今は生育していないが,今回の調査で新たに中津川の八菅橋上流,馬渡橋下流で自生が確認された.多摩川,相模川も上流にダムができ,礫の移動が少なくなったため,河床が冨栄養化され,替わって帰化植物が繁茂し,次第に少なくなってきている.さらに河川敷は車の進入が著しく,遊園地化,運動場となり,生育環境は減少の一途を辿っている.

文献: 神植誌1958 馬入・津久井・戸塚・等 神植誌1988 SA-1;SA-2;ZA;EB;SAM;*YA-5;*HI-1.

 

サワシロギク Aster rugulosus Maxim.

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(En) 箱根(S). 原因: 土地造成.

湿地に生える多年草.本州,四国,九州に分布.横浜市が基準標本の産地であるが,その場所は明かでなく,現在は自生地は消滅してない.かつては多摩丘陵の谷戸に自生があり,古くは横浜市の上白根町,寺山,川崎市登戸で,最近では川井宿町で採集されたが,都筑自然公園の造成地内で,絶滅させないよう配慮が望まれる.箱根仙石原には多産する.

文献: 神植目1933 箱根・道了山・矢倉沢・塔ヶ岳 神植誌1958 箱根・塔ヶ岳・横浜・等 神植誌1988 HAK-1;AS.

 

カニコウモリ Cacalia adenostyloides (Franch. et Sav.) Matsum.

総合評価: En-E. 地域評価:丹沢(En)箱根(Ex). 原因:不明.

ブナ林からシラビソ帯の針葉樹林の下に生える多年草.本州(奈良県,中部以北),四国に分布.現在,生育が確認されているのは,津久井町青根だけである(長谷川・小崎,1990).神植目1933は県内の産地として,箱根,丹沢山,塔ケ岳と低い所では津久井の鳥屋にも分布していたように記載している.標本は1962年に丹沢の蛭ケ岳で採集されている.その後も丹沢山の調査を進めているが,塔ヶ岳~檜洞丸の稜線では全く姿を見ることができない.その要因は地球の温暖化による後退現象か,シカの食害か,引き続き調査を継続してゆきたい.箱根の記録もあるが,イズカニコウモリの可能性があり,標本を確認したいところである.

文献: 神植目1933 箱根・丹沢山・塔ヶ岳・津久井(鳥屋) 神植誌1958 箱根・丹沢山・塔ヶ岳・津久井・等.

標本: KPM-14396 YA-3 蛭ヶ岳 1962.09.23 大場達之.

 

オオガンクビソウ Carpesium macrocephalum Franch. et Sav.

総合評価: En-E. 地域評価: 小仏(En)箱根(Ex). 原因:不明.

やや湿り気のある沢筋に生える多年草.本州(関東,中部以北)に分布.もともと個体数の少ない種類で県内の分布も限られていた.神植目1933は津久井(佐野川,底沢),神植誌1958はリストに種名のみを記載,標本では1955年に道了尊と明神ケ岳の間で取られている.神植誌1988では1984年に陣馬山で採集されたのみであった.県内の現況は,明神ケ岳の産地は絶滅し,陣馬山に稀に残っているだけである.

文献: 神植目1933 津久井(佐野川・底沢) 神植誌1958 津久井等 神植誌1988 FUJ-1.

標本: FLK-29183 FUJ-1 陣馬山 1984.09.22 吉川アサ子; KPM-18010 MIA-2 道了尊~明神ヶ岳 1955.09.09 大場達之.

 

モリアザミ Cirsium dipsacolepis (Maxim.) Matsum.

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(Ex) 湘南(Ex) 小仏(En). 原因: 不明.

草原に生える多年草.本州,四国,九州に分布.小仏山地の生藤山に3株ほどの生育している草地がある.いずれ樹陰になることが予想され,絶滅一歩手前にあると言えよう.神植目1933によると,横浜,高座(寒川,中和田)に分布していたようであるが,今は全く見られない.

文献: 神植目1933 横浜・高座(寒川・中和田) 神植誌1958 産地記載なし 神植誌1988 FUJ-1 古くは横浜で久内清孝氏が採集.

標本: FLK-29329 FUJ-1 佐野川~生藤山 1987.10.14 高橋秀男他.

 

ハマアザミ Cirsium maritimum Makino

総合評価: En-E. 地域評価: 三浦(En). 原因: 海岸開発.

海岸の礫地や草地に生える多年草.本州(千葉県以西),四国,九州に分布.三浦半島に2カ所の生育地があるのみ,個体数も少ない.したがって,生育地が撹乱されると,直ちに絶滅へとつながる.

文献: 神植誌1958 三浦 稀 神植誌1988 YO-4.

標本: YCM-16459 YO-4 長浜海岸 1986.10.04 山内好孝; YCM-16460 YO-4 荒崎 1985.10.20 浜中義治.

 

マアザミ Cirsium sieboldii Miq.

総合評価: V-G. 地域評価: 多摩(Ex) 箱根(S). 原因: 湿地開発.

湿地に生える多年草.本州,四国,九州に分布.県内では丘陵地と箱根仙石原に分布していた.丘陵地では川崎市の向ケ丘にはかつて自生していた報告がある(原,1936)が,このあたりの湿地は,土地開発によって早くに絶滅している.箱根仙石原のものは健在であり,いまは保護された地域に生育しているので,絶滅することはないと思われる.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし 神植誌1988 HAK-1.

 

イズハハコ Conyza japonica (Thunb.) Less.

総合評価: En-F. 地域評価: 多摩(Ex) 湘南(Ex) 丹沢(Ex) 箱根(En). 原因: 不明.

道端の崖や岩場に生える多年草.本州(千葉県以西),四国,九州に分布.県内には多くの産地があげられているが,産量は稀であったようだ.湯河原に僅かな生育地があるほかは,全ての自生地は失われた.藤沢市片瀬のものは1958年に,すでに絶滅したと記されている.今後再発見は期待できる.

文献: 神植目1933 横浜・金沢・江ノ島・松田・箱根・津久井(与瀬) 神植誌1958 横浜・鎌倉・片瀬(絶滅)・箱根・津久井等 稀 神植誌1988 YU-1.

標本: FLK-29805 YU-1 1982.08.18 ; KPM-79303 HAK-5 塔ノ沢 1947.07.13 出口長男.

 

クサヤツデ Diaspanthus uniflorus (Schultz-Bipontinus) Kitam.

総合評価: Ex-A. 地域評価: 丹沢(Ex). 原因: 不明.

林縁や林内に生える多年草.本州(関東南部以西)四国,九州に分布.本県が分布の東限産地である.林弥栄が1954年10月16日に足柄下郡三保村(現山北町)の世附国有林(明神峠の北方)の1カ所で10本ばかりの小群落を発見した(林,1955; 林・小林・小山・大河原,1961).その証拠標本は三保村(1954),山北町(1959)のラベルで国立科学博物館に保存され,写真は「丹沢山塊の植物調査報告書」に掲載した.発見者の林弥栄は1954年と1959年の2回に渡って調査と採集を行っているようであるが,その後に植物誌調査会では何回か重点的に調査を行ったがついに発見できなかった.今は自生地は謎に包まれている.

文献: 神植誌1958 丹沢山 神植誌1988 +YA-4.

標本: TNS-110581 足柄上郡三保村 1954.10.16 林弥栄; TNS-142230 足柄上郡山北町 1959.10.15 林弥栄.

 

アズマギク Erigeron thunbergii A.Gray

総合評価: En-F. 地域評価: 多摩(Ex) 三浦(Ex) 相模原(Ex) 湘南(Ex) 丹沢(Ex) 箱根(En). 原因: 自然遷移.

草原に生える多年草.本州(中部,関東以北)に分布.かつては県内各地にやや普通に見られたらしく,多数の記録がある,神植誌1988の調査中は全く生育が確認できず,1979年以前に丹沢,相模原台地,多摩丘陵,三浦半島などは絶滅したらしい.科博主催の第27回おしば展(1963年)に丹沢ヤビツ峠産(斉藤照一採集)の標本が出品された.最近,箱根に僅かに生育していることが報告された(井上・中村・高橋,1991)が,貴重な存在と言えよう.

文献: 神植目1933 橘樹・都築・高座・中・箱根・矢倉沢 神植誌1958 箱根・三浦・各地 神植誌1988 *AS;*HAT-2;*TS-2;*YA-5;*HAK-5.

標本: FLK-103770 HAK-5 恩賜箱根公園 1954.05.20 武井尚; KPM-79297 YA-3 丹沢 1952.05.26 出口長男; KPM-79296 MIA-2 明神ヶ岳 1947.04.27 出口長男; KPM-79298 HAK-4 元箱根 1947.05.10 出口長男; KPM-17529 KI-2 中津渓谷 1953.05.31 大場達之; KPM-17527 HAT-2 水無川 1955.05.05 大場達之; KPM-17519 HAK-1 金時山 1957.05.14 大場達之.

 

ヤナギタンポポ Hieracium umbellatum L.

総合評価: En-D. 地域評価: 丹沢(En). 原因: 不明.

草原に生える多年草.北海道,本州,四国,九州に分布.北地や高原には普通に見られる種類であるが,西日本の山地では稀な種類である.県下も元来稀な種類であり,神植目1933や神植誌1958にもリストアップされていない.神植誌1988で,山北町高指で採集されているのみである.生育地は1個所であり,個体数も少なく,絶滅が危惧される.

文献: 神植誌1988 YA-1.

標本: FLK-78545 YA-1 高指 1984.09.23 勝山輝男.

 

タカサゴソウ Ixeris chinensis (Thunb.) Nakai var. strigosa (Lev. et Van.) Ohwi

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(Ex) 西湘(Ex) 丹沢(Ex) 小仏(En). 原因: 不明.

草地や礫地に生える多年草.本州,四国,九州に分布.県内では丘陵地から山地にかけて点々と生育していた.神植目1933,神植誌1958,宮代(1958),出口(1968)などにも和名が見られる.古い標本では中津渓谷(1953),小田原市橘町(1958)等があり,神植誌1988では藤野町で採集されているのみである.小田原や多摩丘陵では絶滅,小仏山地は絶滅寸前である.

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし 神植誌1988 FUJ-2.

標本: FLK-78621 FUJ-2 日向 1982.05.02 森茂弥; FLK-78622 FUJ-2 篠原 1986.05.05 高橋秀男; KPM-16552 KI-2 中津渓谷 1953.05.31 大場達之; KPM-1026 OD-3 橘町 1958.04.27 西尾和子.

 

ヤマタバコ Ligularia angusta (Nakai) Kitam.

総合評価: En-E. 地域評価: 西湘(Ex) 三浦(En) 箱根(En). 原因: 自然遷移.

草地や礫地に生える多年草.本州(関東,中部)に分布.県内の産地は少なく,中郡(鷹取山),真鶴,葉山町長柄,小田原市橘町に知られるのみであった.これらのうち中郡(鷹取山),小田原市橘町の産地は消滅し,真鶴と葉山町長柄の産地に少数の個体が生育しているが,真鶴は林が茂り,葉山町長柄はブッシュ化が進み絶滅が危倶される状態にある.

文献: 神植目1933 真鶴・中(鷹取山) 神植誌1958 真鶴・鷹取山・等 神植誌1988 *ZU;*MAN.

標本: FLK-104942 MAN 真鶴半島 1981.05.20 秋山守; FLK-104941 HAY 長柄 1988.06.12 秋山守; KPM-6922 OD-3 橘町 1958.05.22 西尾和子; KPM-7069 MAN 真鶴 1958.05.22 西尾和子.

 

オオモミジガサ Miricacalia makineana (Yatabe) Kitam.

総合評価: En-E. 地域評価: 丹沢(En). 原因: 動物食害.

ブナ林に生える多年草.本州(福島県以西),四国,九州に分布.丹沢の尾根筋の平坦なブナ林に多い.シカの食害により,個体数の減少とともに,開花する個体も少なくなっている.1992~1994年の調査では開花するのは大室山だけである.

文献: 神植目1933 丹沢山・蛭ヶ岳 神植誌1958 丹沢山・等 神植誌1988 HAT-1;YA-2;OY.

標本: FLK-79784 YA-2 大室山 1982.06.27 勝山輝男; KPM-19496 YA-3 丹沢山 1962.09.22 大場達之; KPM-1246 YA-2 加入道 1960.09.24 西尾和子; KPM-1189 YA-3 檜洞丸 1959.07.24 西尾和子; KPM-79304 YA-3 塔ヶ岳 1947.04.24 出口長男.

 

オオニガナ Prenanthes tanakae (Franch. et Sav.) Koidz.

総合評価: Ex-B. 地域評価: 多摩(Ex) 箱根(Ex). 原因: 湿地開発; 土地造成.

湿原に生える多年草.近畿地方以北の本州に分布する.本県にはかつて箱根や多摩丘陵に自生していた.神植目1933は横浜,神植誌1958は登戸等として産地をあげている.原(1936)は武州向丘村植物誌で枡形山から公園の方の湿地に見られたことを記している.その他,奥山(1948a),帝国女子医学薬学専門学校(1932),宮代(1958)の文献にも出てくる.その裏付けとなる標本は,登戸で1924~1938年にかけて採集された標本が東大,科博,牧野標本館に7点保存されている.箱根では1924年に採集されているが,松浦(1968)のリストにはなく,この時点ですでに消滅していたらしい.神植誌1988の調査中も発見されず,1930年代に土地開発や環境の変化により絶滅したものと推定される.

文献: 神植目1933 横浜 神植誌1958 横浜・登戸・等 稀.

標本: TI 相州箱根 1924.10.19 久内清孝; TI 武蔵稲田登戸 1937.10.12 M.Togashi; TNS-72802 武州登戸 1936.10.17 西原礼之助; TNS-304553 稲田登戸 1937.10.13 Makoto Togashi; MAK-198029 武蔵登戸 1938 牧野富太郎.

 

サワオグルマ Senecio pierotii Miq.

総合評価: En-E. 地域評価: 多摩(Ex) 相模原(En) 箱根(Ex). 原因: 湿地開発; 土地造成.

湿原や水辺に生える多年草.本州,四国,九州に分布.かつては県内の丘陵地から山地にかけて,湿地に広く分布していたものと思われる.低地では登戸周辺,山地では箱根の仙石原などが格好の生育地として知られていていた.したがって古い植物誌である神植目1933,神植誌1958,宮代(1958),松浦(1958)などは和名のみリストで,特定な生育地を記す必要がなかったのではないか.ただ横浜市だけは少なかったようで,出口(1968)は産地として柚ノ木をあげている.神植誌1988では未確認であったが,1992年に相模原市田名で採集された(神植誌1988補遺).

文献: 神植目1933 産地記載なし 神植誌1958 産地記載なし 神植誌1988 SA-1(補遺).

標本: FLK-104528 SA-1 田名 1992.05.17 宮崎卓; KPM-19618 TAM 登戸 1952.04.26 大場達之.

 

キツネタンポポ Taraxacum variabile Kitam.

総合評価: En-D. 地域評価: 箱根(En). 原因: 不明.

草原や礫地に生える多年草.基準標本の産地は箱根明神ケ岳で,その周辺に分布するが.現在は明神ケ岳には見られず,神植誌1988の調査期間中も発見されなかった.標本では箱根神山周辺のものが残されている.カントウタンポポに比べ頭花は小形である.再発見が期待される.

文献: 神植誌1958 箱根.

標本: KPM-16663 HAK-4 神山 1963.07.27 大場達之; KPM-16708 HAK-4 箱根山 1953.05.03 大場達之; KPM-16667 HAK-4 駒ヶ岳~神山 1961.06.01 大場達之.

 

◎稀産種

調査中にリストアップしたもののうち,今のところすぐに絶滅が心配されるわけではないが,産地や産量が少ないものには次のようなものがある.大部分は園芸用に採取されることのない種類で,国立公園や国定公園内に産しているものである.しかし,条件が変われば絶滅危惧種になる可能性もあり,今後も監視を怠ってはならない.

 

ヒメスギラン Lycopodium chinense Christ 箱根(S).

エゾノヒメクラマゴケ Selaginella helvetica (L.) Link 丹沢 津久井.

シラネワラビ Dryopteris expansa (Pr.) Fraser-Jenkins et Jermy 丹沢 箱根.

フトヒルムシロ Potamogeton freyeri A.Benn 箱根.

コミヤマヌカボ Agrostis borealis Hartman 丹沢 箱根.

タカネコウボウ Anthoxanthum japonicum Hack. 丹沢.

コウヤザサ Brachyelytrum japonicum Hack. 箱根.

ヒロハノハネガヤ Stipa coreana Honda 西湘 丹沢 箱根.

ヒダノミヤマクマザサ Sasa nagasei S.Suzuki 小仏.

ミヤコザサ Sasa nipponica Makino et Shibata 小仏.

ヒメスズタケ Sasaella hisauchii (Makino) Makino 丹沢(?) 箱根.

ミヤマジュズスゲ Carex dissitiflora Franch. 丹沢.

サナギスゲ Carex grallatoria Maxim. var. heteroclita (Franch.) Kukenth. 箱根.

オオヌマハリイ Eleocharis mamillata Lindb.f. 箱根.

オカスズメノヒエ Luzula pallescens Bess. 丹沢.

サガミジョウロウホトトギス Tricyrtis ishiiana Ohwi et Okuyama 丹沢.

オノエラン Chondradenia fauriei Sawada ex F.Maek. 丹沢 箱根.

マヤラン Cymbidium macrorhizon Lindl. 多摩 三浦 相模原 湘南 西湘.

ハマカキラン Epipactis papillosa Franch. et Sav. var. sayekiana Koyama et Asai 湘南.

タシロラン Epipogium roseum Lindl. 三浦 西湘.

ツリシュスラン Goodyera pendula Maxim. 丹沢.

キバナノショウキラン Yoania amagiensis Nakai et F.Maek. 丹沢 箱根 小仏.

ヤエガワカンバ Betula davurica Pall. 小仏.

アズマレイジンソウ Aconitum pterocaule Koidz. 小仏.

ルイヨウショウマ Actaea asiatica Hara 丹沢.

リュウキンカ Caltha palustris L. var. nipponica H.Hara 箱根.

バイカオウレン Coptis quinquefolia Miq. 箱根.

ハコネシロカネソウ Dichocarpum hakonense (F.Maek. et Tuyama) W.T.Wang et Hsiao 箱根.

カナクギノキ Lindera erythrocarpa Makino 箱根.

バリバリノキ Litsea acuminata (Bl.) Kurata 箱根.

ミヤマハタザオ Arabio lyrata L. var. kamtschatica Fisch. 丹沢.

ツメレンゲ Orostachys erubescens Ohwi 丹沢 小仏.

アオベンケイ Sedum viride Makino 丹沢.

コガネネコノメソウ Chrysosplenium pilosum Maxim. var. sphaerospermum (Maxim.) H.Hara 丹沢 箱根.

ウメウツギ Deutzia uniflora Shirai 丹沢.

ザリコミ Ribes moximowiczianum Komarov 丹沢 箱根.

ヒメバライチゴ Rubus minusculus Lev. et Vaniot 箱根.

サナギイチゴ Rubus pungens Camb. var. oldhami (Miq.) Maxim. 丹沢.

フウリンウメモドキ Ilex geniculata Maxim. 箱根.

ヨコグラノキ Berchemia berchemiaefolia (Makino) Koidz. 丹沢.

エゾアオイスミレ Viola teshioensis Miy. et Tatew. 小仏.

ゲンジスミレ Viola variegata Fisch. ex Gingius 小仏.

ヒメアカバナ Epilobium fauriei Lev. 丹沢.

トダイアカバナ Epilobium formosanum Masam. 丹沢.

アマニュウ Angelica edulis Miyabe ex Yabe 丹沢.

ヒカゲミツバ Spuriopimpinella nikoensis (Yabe) Kitagawa 丹沢.

ハコネコメツツジ Rhododendron tanakae (Maxim.) Ohwi 丹沢 箱根.

ミヤマアオダモ Fraxinus apertisquamifera H.Hara 丹沢.

ホソバツルリンドウ Pterygocalyx volubilis Maxim. 丹沢.

ツルガシワ Cynanchum grandifolium Hemsley var. nikoense (Maxim.) Ohwi 丹沢.

サワルリソウ Ancystrocarya japonica Maxim. 丹沢 箱根.

ミズタビラコ Trigonotis brevipes (Maxim.) Maxim. 箱根.

エゾシロネ Lycopus uniflorus Michaux 箱根.

タカクマヒキオコシ Rabdosia shikokiana (Makino) H.Hara var. intermedia (Kudo) Hara 箱根.

ダンドタムラソウ Salvia lutescens Koidz. var. stolonifera G. Nakai 箱根.

イズコゴメグサ Euphrasia insignis Wettst. ssp. iinumai (Takeda) T.Yamaz. var. idzuensis (Takeda) T.Yamaz. 箱根.

カギカズラ Uncaria rhynchophylla Miq. 箱根.

イズカニコウモリ Cacalia amagiensis Kitam. 箱根.

オタカラコウ Ligularia fischeri (Ledeb.) Turcz. 箱根.

 

◎消息不明種

神植目1933,神植誌1958,宮代(1958),松浦(1958),林・小林・小山・大河原(1961)などに記録があり,その後の調査で見つかっていない種類が多数ある.これらの中には周辺都県での分布状況から判断して,本当に分布していたのか疑わしいものも多く,標本が残されていなければ確かめることはできない.誤認した記録を引用し続ける恐れもあるので,標本の裏付けのない記録を消息不明種として以下にまとめた.

 

オニゼンマイ Osmunda claytoniana L.

本州中部から東北地方南部にかけて分布する.本県産の確かな報告は見られないが,横浜市緑区新治町杉沢付近で採ったという戦前の標本を見た(稲毛ひさ氏による).ラベルがなく,記録には不安が残るが,東京都の近隣地域で最近,現存が確認されたことなども考え合わせると,まったく無視するわけにはいかない.県下での再発見が望まれる.文献(多摩丘陵植物調査会,1994).

 

ミヤマメシダ Athyrium melanolepis (Franch. et Sav.) Christ

横須賀付近が基準産地とされる(Franch. et Sav., 1879)が,三浦半島にはほとんど期待できないことから,産地の誤りと考えられている(倉田,1953; 大谷,1967a; 大谷,1978a).

 

ミヤマヘビノネゴザ Athyrium rupestre Kodama

神植目1933に箱根と塔ケ岳の名が見られる.大谷茂は疑問を持ちつつも,丹沢山塊源次郎沢(大谷茂 1961.7.28 YCM)に産する旨を報告した(大谷,1967a).また,本種の異名とされることの多いタカネヘビノネゴサ Athyrium yokoscense var. alpicola についても箱根二子山に産する形で報告した.

 

ヤブシダ(ヤリノホシケシダ) Deparia conilii (Franch. et Sav.) M. Kato var. angustata (Nakai) M. Kato

基準品種のホソバシケシダと比べると,小羽片の先端が尖り気味で,羽片がやや斜上する傾向がある.胞子は正常.本変種は,シケシダとホソバシケシダとの雑種であるオオホソバシケシダとよく似ており,胞子の状態などを丁寧に観察する必要がある.葉はホソバシケシダと比較すると,2形性がやや弱い.本県では,西田ほか(1964)が“丹沢山塊新産のシダ”として報告したが,胞子の状態について言及していないこと,説明中に“実葉・裸葉の区別がなく”という部分が見られること,オオホソバシケシダ(芹沢,1973)が当時はまだ発表されていなかったことなどから,胞子観察が可能と思われるその証拠標本の再検が切望される.

 

ハチジョウカグマ Woodwardia prolifera Hook. et Arn.

神繩~玄倉,小田原、塔の峰コースの2つの記録が見られるが,証拠標本の所在などが全く分からない.本種の一般的な生育地から考えると,外れた印象がないわけではないが,否定もできないので,今後の“再発見”を願うものである.

文献(神植誌1958, 林ほか, 1961; 西田ほか, 1964; 大谷, 1971).

 

イワヒトデ Colysis elliptica (Thunb. ex Murray) Ching

本県では,(Franch. et Sav.1879)に,Savatierが‘横須賀’で採ったという(No.1538)の記録が見られるが,その後確認した者はなく,疑問視する向きが強い(倉田,1953; 大谷,1978a; 中池,1992).

 

クラガリシダ Drymotaenium miyoshianum (Makino) Makino

神植目1933に丹沢、塔ケ岳が産地としてあげられたが,証拠標本がない上,その後誰も確認していないことから,疑問視されている.

文献(神植誌1958; 倉田,1954b; 奥山,1948b; 宮代,1958; 大谷,1978a).

 

ナカミシシラン Vittaria fudzinoi Makino

神植目1933に産地として塔ケ岳が載せられたが,証拠標本が確認できないこと,1956年頃には知られていた本種の確実な分布がまだ中部地方以西であったこと,さらに同じ丹沢地域に産する同属のシシランがその目録中に見出せないことなどから,疑問視せざるを得なかった.しかし,1964年11月,岡田稔により東京都奥多摩でも発見されたことから,本県でも過去の記録に対する評価を見直す必要が出てきた.

文献(倉田,1954b; 奥山,1948b; 羽田,1957; 宮代,1958; 大谷,1976a).

 

クロガネシダ(神奈川県植物調査会1913-箱根の旧道調査の部,湯本発電所付近の記載中)-大谷(1978a),タカノハウラボシ(「箱根の羊歯一班」に山北の平山滝-神奈川県植物調査会1913)-大谷(1978a).また,Franch. et Sav.(1879)の中にもエゾメシダ近縁種(p.226‘横須賀付近’),シマヤワラシダ(p.236-237‘横須賀付近’),ヒトツバコウモリシダ(p.249‘横浜付近’),リュウキュウマメヅタ(p.250‘横浜・横須賀’)をはじめ,疑問種・不明種が多々見られるが,多くは何らかの誤りによると判断されるものである.

 

コバノヒルムシロ Potamogeton cristatus Regel et Maack

神植目1933,神植誌1958,宮代(1958)に横須賀・鎌倉・厚木とある.

 

エゾノヒルムシロ Potamogeton heterophyllus Schreber

松浦(1958)に仙石原とあるが,これはフトヒルムシロの誤認と考える.

 

マルバオモダカ Caldasia parnassifolia (Bassi ex L.) Parlat.

神植目1933には産地の引用なしに出ている.神植誌1958には湿地絶滅?とある.

 

トダスゲ Carex aequialata Kukenth.

神植誌1958と宮代(1958)に箱根とある.

 

アズマスゲ Carex lasiolepis Franch.

神植誌1988で東丹沢一の沢峠モミ林内で採集された記録?としたが疑わしい.

 

キシュウナキリスゲ Carex nachiana Ohwi

自然保護協会レッドデータブックに真鶴の記録を載せている.この出典が何かは不明.東大,科博,都立大に該当する標本はなかった.

 

オニナルコスゲ Carex vesicaria L.

帝國女子醫學藥學専門學校學友會(1932)にでている。神植目1933,神植誌1958は産地を引用せずに,名前のみをあげている.

 

ギョウジャニンニク Allium victorialis L. var. platyphyllum (Hulten) Makino

神植誌1958に大山とある.林・小林・小山・大河原(1961)には記録されていない.

 

ツバメオモト Clintonia udensis Tr. et Mey.

神植目1933と神植誌1958に丹沢とある.林・小林・小山・大河原(1961)には記録されていない.

 

ヒメイズイ Polygonatum humile Fisch.

神植目1933,神植誌1958に産地の引用がなく出ている.

 

ウチワドコロ Dioscorea nipponica Makino

神植目1933や神植誌1958に横浜,大山,津久井(石老山),玄倉,湯河原,箱根の記録があるが,キクバドコロの誤認の可能性がある. 

 

コキンバイザサ Hypoxis aurea Lout.

神植目1933,神植誌1958,宮代(1958)に箱根の記録がある.

 

イワチドリ Amitostigma keiskei Schltr.

神植目1933,神植誌1958に丹沢山の記録,林・小林・小山・大河原(1961)には丹沢山~蛭ヶ岳とある.

 

カシノキラン Gastrochilus japonicus Schltr.

奥山(1948a)に記録がある.

 

ムヨウラン Lecanorchis japonica Blume

林・小林・小山・大河原(1961)に簔毛(柳川)とある.

 

ショウキラン Yoania japonica Maxim.

林・小林・小山・大河原(1961)に津久井とあるが,分布的に本種が神奈川県にあるとは思えない.

 

シライヤナギ Salix shiraii Seem.

林・小林・小山・大河原(1961)に登載あり,木村博士同定とのことであるが,多分sterileの標本でなされたと思う.本種の分布は確実には不明(現在も)であるので同定品はシバヤナギの崖地生態形のf. pygmaeaチャボシバヤナギやf. faurieiキヌゲシバヤナギに関連する異常形を提出したものと思う.本種は福島県南部,栃木,群馬,埼玉,長野東部,東京北西部が分布域であって,神奈川県には産しないと思う.よく似たチチブヤナギS. kenoensis Koizumiはさらに分布が狭い.両種とも山地の岩石地や岩尾根に生える落葉低木.キヌゲシバヤナギS. ja-ponica Thunb. f. fauriei (Seemen) Kimuraは県西山北がタイプロカリティであって,丹沢・箱根(金時山など)の岩稜上や岩石地にある.

 

ミヤマハンノキ Alnus maximowiczii Callier

神植目1933,神植誌1958,宮代(1958)に蛭ヶ岳,: 林・小林・小山・大河原(1961)に丹沢山~蛭ヶ岳とある.

 

ネコシデ Betula corylifolia Regel et Maxim.

神植目1933,神植誌1958,宮代(1958)に蛭ヶ岳,林・小林・小山・大河原(1961)に丹沢山~蛭ヶ岳とある.

 

ホソバノウナギツカミ Persicaria hastato-auriculata (Makino) Nakai

松浦(1958)に産地を引用せず記録されている.

 

ミヤマハンショウヅル Clematis ochotensis (Pall.) Poiret

神植目1933と宮代(1958)に箱根とある.林・小林・小山・大河原(1961)にもヤビツ峠,塔ヶ岳を記録している.

 

カラマツソウ Thalictrum aquilegifolium L.

松浦(1958)に産地を引用せずに出ている.

 

シキンカラマツ Thalictrum rochebrunianum Franch. et Sav.

林・小林・小山・大河原(1961)に宮ヶ瀬,津久井とあるが,本種は長野県,群馬県,福島県などに産するもので神奈川県の分布は疑わしい.

 

ヤマキケマン Corydalis ophiocarpa Hook. f. et Thoms.

神植目1933に津久井,神植誌1958に三浦・津久井・大磯,宮代(1958)に津久井の山地・三浦(二子谷)・今泉,林・小林・小山・大河原(1961)に長者舎・世附とあるがミヤマキケマンの一型を誤認したのであろう.

 

マルバネコノメソウ Chrysosplenium ramosum Maxim.

神植目1933,神植誌1958,宮代(1958)に鎌倉とある.

 

ズダヤクシュ Tiarella polyphylla DC.

神植目1933に塔ヶ岳・丹沢山とある.奥山(1948b),神植誌1958,宮代(1958),林・小林・小山・大河原(1961)は神植目1933の引用と思われる.

 

オオバヌスビトハギ Desmodium laxum DC.

平地の林下に生える多年草.本州(千葉県以西)~九州に分布する.神植目1933,神植誌1958,神植誌1988に記録はないが,林・小林・小山・大河原(1961)は世附を産地としてあげているが,標本が残っていないようなので,本種であるか確認できなかった.

 

オオヤマカタバミ Oxalis obtriangulata Maxim.

神植誌1958や林・小林・小山・大河原(1961)に,丹沢,大山,塔ヶ岳の記録があるが,東京大学,国立科学博物館等に標本はなく,その分布域から考えて誤認の可能性もある.

 

ヒメオトギリ Sarothra japonicum (Thunb.) Y.Kimura

神植誌1958の三浦,横浜(保土ケ谷),松浦(1958)や原(1936)によるものであるが,標本は残されていない.本州(千葉県,東海以西),四国,九州に分布する.

 

シロスミレ Viola patrini DC. ex Gingius

神植誌1958に横浜(保土ヶ谷)・登戸 ,松浦(1958)に権現とある.

 

シハイスミレ Viola violacea Makino

神植目1933,神植誌1958,松浦(1958)に箱根の記録がある.

 

エキサイゼリ Apodicarpum ikenoi Makino

奥山(1948a)に横浜の記録がある.

 

ゴゼンタチバナ Cornus canadensis L.

林・小林・小山・大河原(1961)に記録があるが,前述のようにコメツガなどが分布していることから絶対とはいえないが,種の分布域から考えて神奈川県での分布は誤認と考えられる.

 

コイワカガミ Schizocodon soldanelloides Sieb. et Zucc. f. alpinus Makino

林・小林・小山・大河原(1961)に塔ヶ岳~丹沢山~蛭ヶ岳とある.

 

ヤマイワカガミ Schizocodon intercendens (Ohwi) T.Yamaz.

林・小林・小山・大河原(1961)に姫次~原小屋とある.

 

ベニバナイチヤクソウ Pyrola incarnata Fisch.

林・小林・小山・大河原(1961)にヤビツ峠~塔ヶ岳,蛭ヶ岳~原小屋とある.

 

アブラツツジ Enkianthus subsessilis (Miq.) Makino

林・小林・小山・大河原(1961)に丹沢山,大室山とある.

 

ウスノキ Vaccinium hirtum Thunb.

林・小林・小山・大河原(1961)に塔ヶ岳~丹沢山~ユーシンとあるが,神奈川県産の標本は確認できない.また,Thunbergの記載は箱根の標本に基づくとされているが,神植誌1988は産地のミスと解釈している.

 

クロウスゴ Vaccinium ovalifolium J.E.Smith.

林・小林・小山・大河原(1961)に塔ヶ岳~丹沢山~蛭ヶ岳とある.大谷(1960)も再検討を要するとしている.

 

サワトラノオ Lysimachia leucantha Miq.

松浦(1958)に箱根双子山,仙石原とある.

 

ミヤマコナスビ Lysimachia tanakae Nakai

林・小林・小山・大河原(1961)に玄倉(武田久吉博士)とある.

 

コカモメヅル Tylophora floribunda Miq.

松浦(1958)や林・小林・小山・大河原(1961)に記録があるが,神植誌1988では見出されなかった.神植誌1988では,神奈川県には花序が比較的発達するオオカモメヅル(ナガエオオカモメヅルと仮称)が多いので,これを誤認している可能性が高く,標本で確認できないかぎり,分布を認めがたいとしている.

 

オヤマリンドウ Gentiana makinoi Kusnez.

林・小林・小山・大河原(1961)に世附とある.

 

ツルカメバソウ Trigonotis icumae (Maxim.) Makino

林・小林・小山・大河原(1961)に札掛~塔ヶ岳とある.

 

ヒイラギソウ Ajuga incisa Maxim.

松(1958)に産地を引用せずに名前だけがでている.

 

ミヤマトウバナ Clinopodium sachalinense Koidz.

神植目1933に横浜・金沢・鎌倉・横須賀・茅ヶ崎・平塚・松田・箱根の記録があり,宮代(1958)は神植目1933の産地の他に大船,登戸をあげている.また,松浦(1958)にも産地を引用せずに出ている.

 

ミズトラノオ Dysophylla yatabeana Makino

文献: 神植目1933 産地記載なし.

 

トウゴクシソバタツナミ Scutellaria abbreviata H.Hara

神植誌1958には大山等,林・小林・小山・大河原(1961)には大山,札掛とある.

 

シソバタツナミソウ Scutellaria laeteviolacea Koidz.

神植目1933や宮代(1958)には大山,松浦(1958)には産地を引用せずに名前だけが出ている.

 

ナミキソウ Scutellaria strigillosa Hemsl.

神植目1933に産地引用せずに名前だけが出ている.神植誌1958には三浦・等 稀とある.松浦(1958)にも産地引用せずにでている.

 

マルバノサワトウガラシ Deinostema adenocaulum (Maxim.) T.Yamaz.

松浦(1958)に産地を引用せずに名前だけが出ている.

 

オニク Boschniakia rossica (Cham. et Schltdl.) Fedtsch.

神植目1933に大山・箱根・丹沢山の記録がある.奥山(1948b)に大山・丹沢,奥山(1948d)に箱根があるが,これは神植目1933の引用であろう.ミヤマハンノキに寄生するが,箱根からミヤマハンノキの報告はない.林・小林・小山・大河原(1961)のミヤマハンノキの項には丹沢山~蛭ヶ岳とある.神奈川県のミヤマハンノキの分布も確かな標本がなく疑問視されている.

 

ヒメタヌキモ Utricularia multispinosa (Miki) Miki

松浦(1958)に仙石原とある.

 

ノタヌキモ Utricularia pilosa (Makino) Makino

神植目1933と宮代(1958)に都築(白根),神植誌1958には産地の引用はなく「稀」とある.出口(1968)にも記録されている.

 

スズムシバナ Strobilanthes oligantha Miq.

神植目1933と宮代(1958)に足柄上(矢倉沢)・愛甲(七沢)とある.

 

ミヤマウグイスカグラ Lonicera gracilipes Miq. var. glandulosa Maxim.

神植目1933,神植誌1958,宮代(1958)に丹沢山,林・小林・小山・大河原(1961)に大山・丹沢山・世附とある.

 

ヤブヒョウタンボク Lonicera linderifolia Maxim.

神植目1933と宮代(1958)に箱根がでている.

 

ミヤマシグレ Viburnum urceolatum Sieb. et Zucc. var. procumbens Nakai

神植目1933に箱根・塔ヶ岳・丹沢山・蛭ヶ岳,神植誌1958 箱根・丹沢山等とある.林・小林・小山・大河原(1961)には丹沢山,大室山,犬越路~檜洞丸(小コーゲ)とある.

 

ミヤマニガウリ Schizopepon brioniaefolius Maxim.

松浦(1958)に権現とある.

 

テイショウソウ Ainsuliaea cordifolia Franch. et Sav.

林・小林・小山・大河原(1961)に大山,ユーシンとある.

 

ゴマナ Aster glehni Fr.Schm. ssp. hondoensis Kitam.

林・小林・小山・大河原(1961)に記録があるが,本種は神奈川県にないと思われる.おそらく,シロヨメナ類のどれかと誤認したものと考える.

 

ヨブスマソウ Cacalia hastata L. ssp. orientalis Kitam.

林・小林・小山・大河原(1961)に塔ヶ岳~丹沢山とあるが,本種は関東北部から北に産するもので神奈川県の記録は誤認と考えられる.

 

アゼトウナ Crepidiastrum keiskeanum (Maxim.) Nakai

神植目1933と宮代(1958)は三浦半島の海岸にあると記している.しかし,三浦半島に分布すると言う報告は同書しかなく,標本調査でも収蔵されているハーバリュームはなかった.本種は伊豆半島が分布の東限で,本県までは分布が及んでいないと言うのが通説であり,神植目1933や宮代(1958)の著者が採集しているかどうか,またグンバイヒルガオやイワタイゲキのように漂着して一時的に活着したものが見られたことがあるか,いずれも類推の域をでない.

 

ハンカイソウ Ligularia japonica (Thunb.) Less.

神植目1933に大山・箱根・塔ヶ岳とある.