植物篇 総論

はじめに

 神奈川県の維管束植物相については神奈川県植物目録(1933),神奈川県植物誌(1958),神奈川県植物誌1988により,その大要は明かに されている.今回の調査ではこれらの文献の記述と博物館や大学のハーバリウムに保存されている標本を調べ,神奈川県植物誌1988及びその後の調査記録と の比較により,神奈川県産維管束植物のうち絶滅または絶滅の恐れのあるものについて調べたものである.

 文献を調べ始めると,意外に対象種が多く,文献の記録,標本のチェックに手間取ってしまった.神奈川県立博物館,横須賀市自然博物館,平塚市博物 館の標本については神奈川県植物誌調査会と県立博物館の情報システム計画で蓄積してきた標本のデータベースを利用した.コンピュータのデータベースは開発 中のもので,十分な校正がされたものではなく,一部に入力ミスも見られた.重要なものについてはチェックを行なったが,中にはもれてしまったものもある.

 国立科学博物館,東京大学,東京都立大学の標本についてもすべて調べたかったが,対象種数が多すぎるため,時間的に間にあわず,消息不明種,絶滅 種の証拠標本を探す作業に留まった。神奈川県植物誌調査会では2000年頃を目標に「神奈川県植物誌1988」の改訂版を出すことを計画している。その中 でより正確な標本データの蓄積をはかりたい.

調査方法

 1992年度は「神奈川県植物誌1988」をもとに調査対象種の選定を行なった.過去に記録があり,神植誌1988で記録できなかったもの,神植 誌1988の記録が3メッシュ以下のものを選び,これに神奈川県に広く分布するが個体数の減少の著しいと思われるものを加えて1次リストを作成した.1次 リストには576種が選定された.

 1993年度にはこの1次リストからもれていたものを補い2次リストとして696種を選定した。この2次リスト選定種を対象に神奈川県植物目録 (1933),神奈川県植物誌(1958),神奈川県植物誌1988など主要文献の記録をパソコンのデータベースに登録した.神奈川県植物誌調査会と県立 博物館の情報システムで蓄積していた神奈川県産植物標本のデータベースより,神奈川県立博物館,横須賀市自然博物館,平塚市博物館の標本データを抽出し, 文献のデータとともに一覧できるようにした。これらの資料をもとに2次リスト対象種について評価の原案を作成した.

 評価はまず地勢により,多摩,三浦,湘南,西湘,箱根,丹沢,相模原,小仏の8ブロックに分け,絶滅種(リスト中の略号はEx),絶滅危惧種 (En),減少種(V),健在種(S)の4段階に分けた.過去に記録があるが「神奈川県植物誌1988」の調査及びそれ以後に記録のないものは原則として 絶滅種とした.

 県全体の総合評価はブロック別の評価をもとに,絶滅種をABCの3段階,絶滅危惧種をDEFの3段階,減少種をGHの2段階,健在種はI(希少 種)のみの合計9個のランクに分けて作成した.これらの基準については脊椎動物や昆虫と同一のものとした.くわしくは序論のレッドデータ度の考え方を参照 されたい.また,過去の文献の記録のなかには標本が残されておらず,現在の神奈川県とその周辺の分布状況から判断してとても神奈川県での生育が期待できな いものがある.これらについては証拠標本が残されていないので,確かめようがなく,消息不明種として扱った.

 1994年度は東京大学,東京都立大学,国立科学博物館の収蔵標本を調査し,不足していた標本のデータを補った.同時に県全体の総合評価の原案について議論し,評価の修正を行ない,リストを完成させた.

調査結果の概要

 A~Hの各ランクに選定されたものを以下に示す.

絶滅種(Ex)A 73種.このランクのものはもともと神奈川県では稀なものが絶滅してしまったケースである.多くは神奈川県が分布の縁にあたるものである.

アスヒカズラ,ヒモラン,ヒモカズラ,ヒメハナワラビ,ナチシダ,ヤマソテツ,ウスヒメワラビ,ミヤコイヌワラビ,イワイヌワラビ,ツクシイワヘ ゴ,ナチクジャク,ナンカイイタチシダ,シムライノデ,タチヒメワラビ,オオバショリマ,アオガネシダ,イワダレヒトツバ,×ジンムジカナワラビ,×ビッ チュウヒカゲワラビ,×ノコギリヘラシダ,×ナガサキシダモドキ,×ミドリイノデ,シラビソ,ヒロハノエビモ,イトクズモ,ムサシモ,シバナ,セイコノヨ シ,タチスゲ,マメスゲ,オニガヤツリ,ヤリハリイ,イヌクログワイ,ヒメハリイ,スジヌマハリイ,アオテンツキ,シズイ,ニッポンイヌノヒゲ,ドロイ, イヌイ,キバナアマナ,オオキツネノカミソリ,イチヨウラン,ヒメミヤマウズラ,ノビネチドリ,フジチドリ,キソチドリ,ヒナチドリ,ヤハズハンノキ,ミ ヤマミズ,ホソバイラクサ,ヤナギヌカボ,ノカラマツ,ハクサンハタザオ,ハナハタザオ,イシモチソウ,コモウセンゴケ,ホソバキリンソウ,シウリザク ラ,イワタイゲキ,ミヤマクマヤナギ,タカノツメ,オオヤマツツジ,ミツガシワ,チョウジソウ,クサタチバナ,ゴマクサ,クガイソウ,ミミカキグサ,ホザ キノミミカキグサ,オオバノヨツバムグラ,ニッコウヒョウタンボク,クサヤツデ.

絶滅種(Ex)B 54種.このランクのものは神奈川県に数カ所の記録があったもので,絶滅してしまったものである.水辺に生えるものや草原生の植物が多く含まれている.

マンネンスギ,イッポンワラビ,ヤノネシダ,シシラン,ホソバミズヒキモ,カワツルモ,サジオモダカ,ヒナザサ,オオタマツリスゲ,ウマスゲ,ヒン ジモ,シロイヌノヒゲ,ミズアオイ,カキツバタ,アヤメ,アツモリソウ,カモメラン,ダイサギソウ,コフタバラン,ヒメフタバラン,アリドオシラン,ミヤ マモジズリ,ヤマサギソウ,コバノトンボソウ,クリンユキフデ,ナガバノウナギツカミ,ヌカボタデ,ノダイオウ,ジュンサイ,ヒツジグサ,コキツネノボタ ン,オトコゼリ,ヒキノカサ,イワレンゲ,ミソナオシ,ノウルシ,アゼオトギリ,ミズユキノシタ,ハナビゼリ,レンゲツツジ,タイミンタチバナ,サクラソ ウ,コハクウンボク,アサザ,カイジンドウ,ミズネコノオ,シロネ,ヒメハッカ,ママコナ,クチナシグサ,ハナムグラ,カノコソウ,シデシャジン,オオニ ガナ.

絶滅種(Ex)C 4種.神奈川県にかつては広く分布し,個体数も多かったと考えられるものが絶滅したケースである.いずれも池,沼,湿地に生えるものである.かつては県内 の低地には今とは比べものにならないほどの池,沼,湿地があったが,これらは河川改修,農地改良,宅地造成などによりすっかり失われてしまった.

サデクサ,ミズキカシグサ,タチモ,フサモ.

絶滅危惧種(En)D 101種.このランクのものはもともと神奈川県では稀なものがかろうじて生き残っているものである.現存する1(~3)ヶ所の産地が失われてしまえば絶滅 してしまう.神奈川県植物誌1988で記録されているが,その後の生育が危ぶまれるものも,その産地が造成等により確実に失われていない限りこのランクに 入れられている.

ハチジョウシダ,ニシノコハチジョウシダ,コハチジョウシダ,オトコシダ,トガリバイヌワラビ,ルリデライヌワラビ,ツクシヤブソテツ,ミヤマノコ ギリシダ,コクモウクジャク,イヌナチクジャク,ワカナシダ,ミドリワラビ,ホウノカワシダ,ホソイノデ,ヤシャイノデ,メニッコウシダ,コタニワタリ, クルマシダ,アオネカズラ,タキミシダ,×ホソコバカナワラビ,×カワズカナワラビ,×テンリュウカナワラビ,×ホソバハカタシダ,×ヤマヒロハイヌワラ ビ,×マムシヤブソテツ,×フジクマワラビ,×ハガネイワヘゴ,×ハコネオオクジャク,×ミヤマオクマワラビ,×ゴサクイノデ,×ホクリクイノデ,×アイ カタイノデ,×フナコシイノデ,×ジタロウイノデ,×アマギイノデ,×オンガタイノデ,×タカオイノデ,×ヨコハマイノデ,×アイトキワトラノオ,×ヤマ ドリトラノオ,ヤマトミクリ,エビアマモ,ホッスモ,イバラモ,トリゲモ,ミカワスブタ,コウガイモ,スナシバ,センダイスゲ,サドスゲ,サギスゲ,ヤリ テンツキ,コイヌノハナヒゲ,ハタベカンガレイ,タイワンヤマイ,クロヒロハイヌノヒゲ,ヒメコウガイゼキショウ,ニッコウコウガイゼキショウ,ヒメニ ラ,イズアサツキ,ホソバアマナ,ユウシュンラン,クゲヌマラン,ヒメノヤガラ,ギボウシラン,フガクスズムシ,セイタカスズムシソウ,ムカゴサイシン, マイサギソウ,トキソウ,ウバメガシ,ベニバナヤマシャクヤク,バイカモ,ルイヨウボタン,イワユキノシタ,ミヤマトベラ,ミツバフウロ,ネコノチチ,ラ センソウ,ハマボウ,エゾノタチツボスミレ,ウシタキソウ,ミズキンバイ,チチブドウダン,ヒカゲツツジ,コバノミツバツツジ,シャシャンボ,クリンソ ウ,カリガネソウ,マネキグサ,カメバヒキオコシ,ウンラン,サツキヒナノウスツボ,タヌキモ,ウスユキムグラ,イナモリソウ,ソナレマツムシソウ,ハマ シャジン,ヤナギタンポポ,キツネタンポポ.

絶滅危惧種(En)E 86種.このランクのものはかつては数カ所の記録があったもので,1~3ヶ所の産地しか残っていないものである.Dランクとの違いは微妙でどちらに分類するか迷うものも多い.

マツバラン,ミズスギ,ヤマドリゼンマイ,タニイヌワラビ,シロヤマシダ,オニヒカゲワラビ,ナガサキシダ,ムクゲシケシダ,ヌリトラノオ,チャセ ンシダ,ミヤマウラボシ,ホテイシダ,ヒメサジラン,イワヤナギシダ,デンジソウ,クジャクフモトシダ,ナガエミクリ,ヒメミクリ,アギナシ,クロモ,ヒ メウキガヤ,オニシバ,ヤガミスゲ,ミズハナビ,ノテンツキ,ナガボテンツキ,コマツカサススキ,キヨスミギボウシ,クルマユリ,ハルナユキザサ,ヒナノ シャクジョウ,シラン,ナツエビネ,キソエビネ,アオチドリ,ナギラン,ベニカヤラン,アケボノシュスラン,フウラン,ヒメムヨウラン,サカネラン,ツレ サギソウ,ヤマトキソウ,クモラン,ヒトツボクロ,イイヌマムカゴ,センリョウ,トキホコリ,オオバヤドリギ,ホソバイヌタデ,マダイオウ,ヒメコウホ ネ,マツモ,フクジュソウ,カザグルマ,ハマハタザオ,モウセンゴケ,メノマンネングサ,ミツバベンケイソウ,ヤブサンザシ,ザイフリボク,ヒメツルキジ ムシロ,ヤブザクラ,ハマナタマメ,レンリソウ,ヒシ,セリモドキ,ムラサキツリガネツツジ,イヌセンブリ,ムラサキセンブリ,サワトウガラシ,シソク サ,ハマウツボ,オカウツボ,ムラサキミミカキグサ,ナベナ,ノコギリソウ,ユキヨモギ,カニコウモリ,オオガンクビソウ,モリアザミ,ハマアザミ,タカ サゴソウ,ヤマタバコ,オオモミジガサ,サワオグルマ.

絶滅危惧種(En)F 8種.このランクのものはかつては神奈川県にかなり広く分布していたもので,今では1~数カ所の産地が残っているだけのものである.神奈川県産植物のなかでもっとも急速に減少しつつあるものである.水辺に生えるものと,原野に生えるものがほとんどである.

イトモ,トチカガミ,オキナグサ,ツルカコソウ,バアソブ,キキョウ,イズハハコ,アズマギク.

減少種(V)G 123種.今のところ県内に数カ所の産地が残っており,すぐに絶滅してしまうとは考えられないが,放置すればいずれEランクを経て絶滅の恐れがある.

スギラン,ミズニラ,アカハナワラビ,コヒロハハナヤスリ,コケシノブ,キヨスミコケシノブ,ヒメウラジロ,コバノイシカグマ,カラクサシダ,オオ バノアマクサシダ,ハマホラシノブ,ミズワラビ,オオキジノオ,キジノオシダ,シノブカグマ,サトメシダ,タカオシケチシダ,ヒロハヤブソテツ,ヒカゲワ ラビ,ハチジョウベニシダ,イヌイワイタチシダ,ナガバノイタチシダ,タニヘゴ,イブキシダ,ヒメイワトラノオ,ホウビシダ,イヌチャセンシダ,×オオサ トメシダ,×ミヤマキヨタキシダ,×ハコネイノデ,×カタイノデモドキ,×キヨズミイノデ,×アカメイノデ,×ミツイシイノデ,×ツヤナシイノ,ゴヨウマ ツ,コメツガ,イブキ,ハイネズ,ネズミサシ,ササエビモ,センニンモ,リュウノヒゲモ,サガミトリゲモ,トウゴクヘラオモダカ,ヤナギスブタ,ウミヒル モ,セキショウモ,ヒメコヌカグサ,ハマニンニク,ハイチゴザサ,アイアシ,ナガミノオニシバ,ヨコハマダケ,クロカワズスゲ,カンエンガヤツリ,コツブ ヌマハリイ,ビロードテンツキ,ヒメホタルイ,イセウキヤガラ,コシンジュガヤ,イヌノヒゲ,ソクシンラン,キジカクシ,カタクリ,クルマバツクバネソ ウ,ヒメシャガ,ムギラン,コアツモリソウ,セッコク,ハコネラン,エゾスズラン,ベニシュスラン,シュスラン,ミズトンボ,ジガバチソウ,スズムシソ ウ,アオフタバラン,ホザキイチヨウラン,コケイラン,ジンバイソウ,ミズチドリ,ナガバノキソチドリ,オオヤマサギソウ,ウチョウラン,オオハクウンラ ン,ハクウンラン,ミヤマヤナギ,マツグミ,タマノカンアオイ,ミヤマツチトリモチ,ヒメタデ,ハママツナ,ヤナギイノコヅチ,ワダソウ,アズマイチゲ, シギンカラマツ,ヤマブキソウ,コンロンソウ,アズマツメクサ,ヤシャビシャク,チョウセンキンミズヒキ,ヒロハノカワラサイコ,リンボク,イタチササ ゲ,タチフウロ,ミズオトギリ,マキノスミレ,ムカゴニンジン,サツキ,ナツハゼ,フナバラソウ,ムラサキ,スナビキソウ,ヒメナミキ,ヒメトラノオ,ヤ ブムグラ,ホソバノヨツバムグラ,オオキヌタソウ,サワギキョウ,カワラノギク,サワシロギク,マアザミ

減少種(V)H 24種.かつては神奈川県に広く分布していたが,いまは比較的稀な存在になってしまった.産地や個体数ではGランクのものに比べてまだまだ多いが,減少速度は速く,この段階で保存に勤めなければ,いずれF段階になってしまう.

ミドリカナワラビ,メヤブソテツ,サンショウモ,オオアカウキクサ,ミクリ,ササバモ,イトトリゲモ,ミズオオバコ,ミノボロ,キダチネズミガヤ, ホシクサ,アマナ,ノハナショウブ,エビネ,クマガイソウ,カキラン,ヨウラクラン,カヤラン,カワラアカザ,スハマソウ,ウメバチソウ,ノジトラノオ, イヌタヌキモ,マツムシソウ.

また,ここでは名前はあげないが,I(希少種)ランクと判断されるものが59種,消息不明種が73種あった.これらについては各論末尾のリストを参照されたい.

 分類群別,ブロック別,生育環境別の種類数一覧を表1~3に示す.

表1.分類群別種数一覧.
シダ 同雑種 裸子 単子葉 離弁 合弁 合計
Ex-A 17 5 1 25 14 11 73
Ex-B 4 20 15 15 54
Ex-C 4 4
Ex計 131
En-D 20 21 30 13 17 101
En-E 16 30 21 19 86
En-F 2 1 5 8
En計 195
V -G 27 8 5 47 22 14 123
V -H 4 14 3 3 24
V 計 147
合計 88 34 6 168 93 84 473
表2.ブロック別種数一覧.
多摩 三浦 湘南 西湘 箱根 丹沢 相模原 小仏
Ex 114 52 36 19 111 61 18 5
En 55 65 25 17 86 54 31 18
V 8 13 10 19 54 46 13 16
表3.生育環境別種数一覧.*シダの雑種は除く
湿地 海岸 河川敷 草地 岩場や樹幹 森林
Ex 48 8 1 21 13 34
En 42 16 1 26 27 55
V 37 14 2 16 17 54

 神奈川県には帰化植物を除いた在来種は2182種類ある.今回の調査で絶滅種,絶滅危惧種,減少種とされたものは合計で473種類あり,これは在 来種の約22%にあたる.神奈川県産の植物5種類のうち1種類は絶滅の危険にさらされていることになる.絶滅種は131種類あり,これは全体の6%にあた る.

 分類群別では,単子葉植物が多いが,これはラン科植物と湿生・水生植物に絶滅,絶滅危惧種が多いためである.

 ブロック別では,多摩ブロックと箱根ブロックで絶滅している植物が多い.多摩ブロックは横浜市や川崎市などの最も都市化が進んでいる地域であり, そのために生育環境が破壊され絶滅したものが多い.箱根山地は丹沢山地や小仏山地に比べて早くから観光地化が進み,そのために生育環境が破壊されたり,採 取されたりして絶滅した植物が多い.また,箱根には多くの植物学者が訪れ,過去の植物の分布がよく把握されていたことも絶滅種が多くなった原因と考えられ る.丹沢や小仏山地では箱根ほど密度の濃い植物調査は行なわれていないので,過去の植物分布そのものが十分には把握されていない.

 生育環境別では全体に森林に生えるものが多いが,ラン科植物やシダ植物を除くと,湿地や水中に生えるものが多く,次いで草地に生えるものが目につ く.特に絶滅種ではこれが目立つ.池,沼,湿地,氾濫原,草原などの原野的な環境が著しく減少してきたことをよく示している.かつては萱場としてのススキ 草原が各地にあったが,現在では利用されなくなり,森林に遷移している所が多い.また,数の上ではそれほど多くはないが,海岸の干潟に生えるものも神奈川 県では早くから埋め立てにより失われてしまった.最近では湘南海岸の砂浜での踏みつけや車の乗り入れが激しく,海浜植物の減少も憂慮されている.地域ごと の状況についてはブロック別の概要を参照されたい.

調査執筆の分担

 ブロックの評価は,多摩丘陵(横浜市北部~川崎市)は北川淑子,三浦半島(横浜市南部~三浦半島)は大森雄治,相模原・愛甲(厚木付近から北の平 地,台地,丘陵)は高橋秀男,湘南(藤沢,茅ヶ崎,平塚など湘南地方の低地)は秋山守,西湘(大磯丘陵,渋沢丘陵,足柄平野)と丹沢(酒匂川から道志川ま での間の山地)と小仏山地(道志川から北の山地)は城川四郎,箱根(箱根,湯河原,真鶴,足柄山地)は井上香世子と長谷川義人が担当した.

 評価,標本,文献のデータベースは勝山輝男,北川淑子,木場英久,田中徳久が入力,加工作業を担当した.

 分類群別各論は秋山守(ラン科),大森雄治(双子葉類離弁花の前半,アマモ科),小崎昭則(シダ植物),勝山輝男(その他の単子葉類,タデ科), 木場英久(イネ科),高橋秀男(双子葉類合弁花の後半,スミレ科),田中徳久(裸子植物,双子葉類離弁花の後半),長谷川義人(双子葉類合弁花の前半,ヤ ナギ科)で担当した.

 全体の構成や文章の統一は勝山輝男,木場英久,高橋秀男,田中徳久で行なった.

謝辞

 シダの情報については,執筆者以外に田中一雄,岡武利,志澤光郎,中池敏之,山本明,酒井藤夫,酒井啓子の諸氏より多大なるご教示をいただいた. 厚く御礼申し上げる。この調査では多くの標本のデータ,文献のデータを利用させていただいた。標本の閲覧を許可してくださった,国立科学博物館植物研究 部,東京大学総合研究資料館,東京大学附属植物園,東京都立大学牧野標本館の方々に御礼申し上げる.また,多くの標本を集めて下さった神奈川県植物誌調査 会の会員の方々,神奈川県の植物を調べてきた先輩の方々に厚く御礼申し上げる.標本のデータは神奈川県植物誌調査会と神奈川県立博物館の情報システム計画 でコンピュータに蓄積してきたものを利用させていただいた.データ入力やシステムの構築には多くの方々がたずさわった.これらの方々にも心から感謝した い.