2012年度特別展「大空の覇者-大トンボ展-」関連連載記事

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「トンボの危機(1)農薬などで水質悪化」(2012年8月17日掲載記事)

小さな国土にもかかわらず豊富な種類のトンボを誇ってきた日本。 しかし今、日本のトンボは危機的な状況にある。 トンボが激減している要因はさまざまだが、大きく分けると「水質の悪化」と生息場所である「水辺の改変や埋め立て」の二つだ。 今回は「水質の悪化」について説明する

トンボをはじめとする水生昆虫にとっての「水」は、われわれにとっての「空気」と同じで、生きていく上で不可欠なものである。

古来、日本人にとってトンボは身近な存在だったが、この関係に終止符が打たれたのが、第2次大戦直後に始まった有機リン系農薬の大量使用だ。 使用開始当初は人的被害も出た。

もちろん、長年害虫に苦しんできた農家の方にとっては、農薬は大変な福音だったと思う。 だが、残念なことに農薬はターゲットとする害虫だけを駆除するわけにはいかない。 大量の「巻き添え死」をもたらしてしまうのだ。

今となっては、農薬使用前の水田の昆虫が、どれほど豊かだったのかは想像もできないが、最大の水生昆虫だったタガメが激減したように、トンボにとっても水田は快適なすみかではなくなってしまった。 また、農薬だけでなく工場や家庭の排水、除草剤なども複合的にトンボを追い詰めている。

かつては河川で、ごく普通に見られたハグロトンボでさえ、県東部ではまったく見られない時期が長く続いた。

(県立生命の星・地球博物館主任学芸員 苅部治紀)

「大空の覇者~大トンボ展」が11月4日まで県立生命の星・地球博物館で開催されている。

※こちらは2012年8月17日に神奈川新聞に紹介されたものです。

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