2012年度特別展「大空の覇者-大トンボ展-」関連連載記事

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「トンボの危機(2)急減するアキアカネ」(2012年8月24日掲載記事)

アカトンボは、戦後農薬が大量に使用されるようになっても何とか生き延びてきた。 ところが最近、新たな農薬の使用によって極端に減少しているのをご存じだろうか。

アカトンボの仲間は日本の20種類ほど生息しているが、特になじみ深いのがアキアカネであろう。 アキアカネは初夏に低地の水田で羽化すると、盛夏は涼しい高山に行き、秋になると再び低地に戻ってくる。 秋に産まれた卵はそのまま冬を越し、春先の水を引き込んだ田に幼虫がふ化するというライフサイクルだ。

これまでの農薬の多くは、稲の成長が盛んになる出穂時期から散布される。 そのため、初夏の田の水落としまでには、羽化しているアキアカネは大きな影響を受けずに生息してきた。

この状況が変化したきっかけは、外来種イネミズゾウムシなど新たな害虫の発生である。 これらの害虫は、田植えの直後に苗に大きなダメージを与えるため、それまで農薬量が少なかったこの時期に、新たな農薬(フィプロニル系の農薬。最近ではミツバチの減少要因のひとつとしても注目されている)が散布されるようになった。 その結果、アキアカネの減少が急速に進んだのだ。

アキアカネが復活できるかどうかは、低毒性農薬の開発と、私たちの意識にかかっている。たとえば無農薬栽培米を積極的に購入するなどの支援が可能だ。

(県立生命の星・地球博物館主任学芸員 苅部治紀)

「大空の覇者~大トンボ展」が11月4日まで県立生命の星・地球博物館で開催されている。

※こちらは2012年8月24日に神奈川新聞に紹介されたものです。

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