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学芸員の渡辺がハチの新種を発表しました

学芸員の渡辺がハチの新種を発表しました

2021年9月22日 更新

学芸員の渡辺は大阪市立自然史博物館の松本吏樹郎博士との共同研究で、日本産のキイロヒラタヒメバチ属Xanthopimplaに属する寄生蜂について分類学的研究を行いました。その成果が、昆虫系統分類学の専門誌である「Deutsche Entomologische Zeitschrift」に掲載されました。論文の概要は次の通りです。

 

論文の概要
本論文で扱ったキイロヒラタヒメバチ属は、黄色い体に多くの種では黒紋をもつ特徴的な色彩のヒメバチで、チョウやガの幼虫や蛹に寄生します。中にはサトウキビやイネの害虫に寄生する天敵も知られており、亜熱帯、熱帯地域の農業においても有用な分類群です。本属は南方系のグループで、南西諸島を中心に日本からは9種が記録されていましたが、本州から九州を含めていくつかの不明種が得られており、包括的な分類学的研究が必要とされていました。

論文では、日本産の本属を15種に整理し、3種の新種を新たに記載、命名しています。また、3種の日本新産種の記録や分布や生態についても報告と考察をしています。新種の概要は次の通りです。

 

Xanthopimpla nipponensis Watanabe & Matsumoto, 2021(図1A)
タイプ産地※は神奈川県小田原市石垣山で、講座の最中に渡辺により採集された個体です。種小名は日本にちなみます。ホロタイプ(KPM-NK 55284 ※※)とパラタイプの一部(KPM-NK 55285-55288)が当館に収蔵されています。

Xanthopimpla sylvicola Watanabe & Matsumoto, 2021(図1B)
タイプ産地は鹿児島県奄美大島大和村大棚で、渡辺により採集された個体です。種小名はラテン語で森に住む者という意味で、環境が良好な照葉樹林に生息していることに由来します。ホロタイプ(KPM-NK 55289)とパラタイプの一部(KPM-NK 55290-55293)が当館に収蔵されています。

Xanthopimpla yoshimurai Watanabe & Matsumoto, 2021(図1C)
タイプ産地は京都府舞鶴市女布。種小名は本種の存在に最初に気づいた吉村弘之氏に献名したものです。本種は本属中で最も普通に見られる既知種のミノオキイロヒラタヒメバチに形態が酷似していますが、DNAを用いた系統解析では顕著に区別され、斑紋の形状によっても区別できることから新種として記載しました。本種のホロタイプは大阪自然史博物館に収蔵され、パラタイプの一部(KPM-NK 55294)が当館に収蔵されています。

図1. 今回新種記載されたキイロヒラタヒメバチ属Xanthopimplaの3種-A, X. nipponensis; B, X. sylvicola; C, X. yoshimurai.いずれもホロタイプ.

※生物の学名を命名する際に使われる標本をタイプといいます。ホロタイプは学名の基準となる標本で、タイプの中から一つだけ選ばれます。パラタイプはホロタイプ以外のタイプです。ホロタイプが得られた産地をタイプ産地といいます。

※※KPM-NKは当館の資料番号であることを示す記号です。

論文詳細
Watanabe, K. & R. Matsumoto, 2021. Revision of the genus Xanthopimpla Saussure, 1892 (Hymenoptera, Ichneumonidae, Pimplinae) from Japan. Deutsche Entomologische Zeitschrift, 68(2): 269-297. (https://doi.org/10.3897/dez.68.69768)