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学芸員の渡辺がハチの新種を発表しました

学芸員の渡辺がハチの新種を発表しました

2023年9月8日 更新

学芸員の渡辺が大阪府在住の昆虫研究者である伊藤誠人博士との共同研究で、ハチの新種を発表しました。日本産のLeptobatopsisに属するウスマルヒメバチ亜科の寄生蜂について分類学的研究を行い、その成果が動物系統分類学の専門誌である「Zootaxa」に掲載されました。論文の概要は次の通りです。

 

【論文の概要】
本論文で扱ったLeptobatopsisは、メイガ類などのチョウ目昆虫に寄生するヒメバチです。研究に着手した際には日本からは4種が記録されていましたが、分類学的位置が疑わしい種やいくつかの不明種が得られており、包括的な分類学的研究が必要とされていました。

 

論文では、日本産の本属を8種に整理し、1種の新種を新たに記載、命名しています。また、1亜種を亜種から種に昇格させ、韓国に分布する1種を異名とし、中国に分布する1種に置換名※を与えるとともに、3種を日本新産種として報告し、各種の分布や生態についても報告と考察をしています。新種と日本新記録種の概要は次の通りです。

 

Leptobatopsis yaima Watanabe & Ito, 2023

(図1, 2)

 

今回の論文で記載された新種です。タイプ産地※※は沖縄県西表島古見で、石垣島と西表島の森林に棲息します。種小名は石垣島と西表島が属する八重山地方の方言で、「八重山」を意味します。ホロタイプ(KPM-NK 91436 ※※※)とパラタイプの一部(KPM-NK 91437–91472)が当館に収蔵されています。

 

Leptobatopsis annularis Kasparyan, 2007

 

日本から新たに記録された種で、国内では本州と九州に分布し、神奈川県からは未発見ですが、近隣の山梨県甲州市で採集されていることから、神奈川県からも見つかる可能性があります。

 

Leptobatopsis koreana Lee & Kang, 2015

 

2015年に韓国で発見、記載された種で、今回の研究により日本から新たに記録されました。国内では静岡県金谷で1958年に採集された1個体のメスのみが知られる珍しい種です。本種は日本各地に分布するマガタマウスマルヒメバチL. lepida (Cameron, 1908)に酷似していますが、爪の形で区別ができます。記載されてからわずか8年で日本から発見されたとはいえ、60年以上前の標本しか確認できていないことから、今後現在の生息状況の把握が必要です。

 

Leptobatopsis nigricapitis Chandra & Gupta, 1997

 

日本から新たに記録された種で、国内では北海道、本州、三宅島、四国、九州、屋久島に分布し、これらの地域では日本産本属で最も普通に見られる種です。神奈川県では川崎市生田緑地で採集されていますが、他の地域からも発見される可能性が高いです。

 

図1. Leptobatopsis yaima Watanabe & Ito, 2023のメス(ホロタイプ, KPM-NK 91436).

図2. Leptobatopsis yaima Watanabe & Ito, 2023のオス(パラタイプ).

※同じ種に付けられた複数の学名(種小名)を異名(シノニム)、複数の種に付けられた同じ学名を同名(ホモニム)といい、いずれも先に命名された学名が有効となります。同名の場合は、後に命名された学名が使えないため、新たな学名(置換名)が付けられます。

※※生物の学名を命名する際に使われる標本をタイプといいます。ホロタイプは学名の基準となる標本で、タイプの中から一つだけ選ばれます。パラタイプはホロタイプ以外のタイプです。ホロタイプが得られた産地をタイプ産地といいます。

※※※KPM-NKは当館の昆虫標本の資料番号であることを示す記号です。

 

【論文詳細】

Watanabe, K. & M. Ito, 2023. Revision of the genus Leptobatopsis Ashmead, 1900 (Hymenoptera, Ichneumonidae, Banchinae) from Japan, with some taxonomic notes of Asian species.
Zootaxa, 5339(5): 401–426.
(DOI: 10.11646/zootaxa.5339.5.1 )