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学芸員の渡辺がトネリコの害虫に寄生する新種のハチを記載しました

学芸員の渡辺がトネリコの害虫に寄生する新種のハチを記載しました

2023年10月13日 更新

学芸員の渡辺が科学研究費による研究の一環で、ハチの新種を発表しました。有用樹木のトネリコを加害するトネリコクロハバチという害虫の天敵として知られる日本産マルヒメバチ亜科の寄生蜂Priopodaについて分類学的研究を行い、その成果が動物系統分類学の専門誌である「Zootaxa」に掲載されました。論文の概要は次の通りです。

 

【論文の概要】

トネリコの木はその材質から野球のバットなどの素材となる有用な樹木です。東北地方にはトネリコの森林がありますが、その葉を食べるトネリコクロハバチという害虫の大発生により、樹木に被害が生じていました。森林総合研究所の研究者がこの害虫を調べたところ、有力な天敵としてヒメバチの一種が発見されました。この標本はヒメバチの分類学者である渡辺の手元に渡り、マルヒメバチの一属であるPriopodaの未記載種であることが判明したため、新種として記載、命名し、標準和名を付与しました。新種の概要は次の通りです。

 

Priopoda macrophyae Watanabe, 2023 クロハバチマルヒメバチ
(図1)

 

今回の論文で記載された新種です。タイプ産地※は岩手県滝沢市葉の木沢山で、いまのところ岩手県でのみ発見されています。種小名と和名は寄主のトネリコクロハバチが含まれるクロハバチ属Macrophyaにちなみます。ホロタイプ(KPM-NK 91390※※)とパラタイプの一部(KPM-NK 91391–91435)が当館に収蔵されています。このヒメバチはトネリコクロハバチの個体数の抑制に大きく貢献している可能性があり、本研究で種名がついたことで今後の生態学や応用昆虫学の進展が期待できます。

 

学芸員には日々様々な方々から問い合わせが来ます。昆虫担当学芸員の場合、分類群を問わず様々な昆虫についての問い合わせが来ますが、寄生蜂のように専門家が少ない分類群を専門としていると、県外や海外からも多くの問い合わせがあります。渡辺は年間数千個体のハチの標本の同定依頼を受けていますが、農林業の試験場をはじめとする研究機関から送られてくる標本の中には新種であるだけでなく、人々の暮らしにも役立つ可能性がある種も含まれていることがあります。また、試験場などでは標本を保管する機能が無いことも多く、このような標本が博物館に収蔵されることで、コレクションの多様性が高まるだけでなく、研究や普及教育といった博物館の様々な活動に活かすことが可能となります。

 

※生物の学名を命名する際に使われる標本をタイプといいます。ホロタイプは学名の基準となる標本で、タイプの中から一つだけ選ばれます。パラタイプはホロタイプ以外のタイプです。ホロタイプが得られた産地をタイプ産地といいます。

※※KPM-NKは当館の昆虫標本の資料番号であることを示す記号です。

 

図1. クロハバチマルヒメバチPriopoda macrophyae Watanabe, 2023のメス(ホロタイプ, KPM-NK 91390).

 

【論文詳細】

Watanabe, K., 2023. Priopoda macrophyae (Hymenoptera, Ichneumonidae, Ctenopelmatinae), a new species of parasitoid of Macrophya satoi (Tenthredinidae), a serious pest of Japanese ash tree (Oleaceae).

Zootaxa, 5352(4): 594-600.

(DOI: 10.11646/zootaxa.5352.4.9)