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学芸員の大西と名誉館員の勝山が新種のスゲ属植物に関する論文を発表しました

学芸員の大西と名誉館員の勝山が新種のスゲ属植物に関する論文を発表しました

2024年2月25日 更新

学芸員の大西と名誉館員の勝山輝男、岡山理科大学の研究グループによる新種のスゲに関する論文が出版されました。鹿児島県に特産するスゲ属植物について分類学的研究を行い、2新種として植物分類学の専門誌である「植物研究雑誌(The Journal of Japanese Botany)」上で発表しました。

 

【論文の概要】

カヤツリグサ科スゲ属は、熱帯域から北極圏までの世界各地に分化し、2,000種以上あるとされる大きな植物のグループで、日本国内には約270種が知られています。目立つ花をつけず、初めて見た人には近縁種間の違いが分かりにくいため、識別の難しい植物として研究者や植物愛好家らに知られています。今回、鹿児島県内に生育する2新種、サツマセンダイスゲ(新称)Carex satsumasendaica Okih.Yano, Katsuy. & W.Ohnishi およびカノヤスゲ C. shimizui Okih.Yano, Katsuy., W.Ohnishi & T.Hoshino を記載しました。

サツマセンダイスゲは鹿児島県薩摩川内市内の照葉樹林の1か所に生育し、繊細さと力強さを併せ持つ美しいスゲです(図1)。西南日本に分布するタシロスゲやツクシスゲに似ていますが、複数の点で形態的に区別できることから新種として記載しました。

カノヤスゲ(図2)は鹿児島県鹿屋市内の1か所に生育するもので、ヒメカンスゲやオオシマカンスゲに似た植物として既に和名が与えられていましたが、その分類学上の位置づけは不明のままでした。本論文の主著者である矢野興一博士(岡山理科大学)は、カノヤスゲを含むヒメカンスゲ類の分子系統ならびに細胞生物学的研究を過去に実施しており、今回大西、勝山とともに現地調査を実施して、カノヤスゲを独立種として記載しました。

サツマセンダイスゲ、カノヤスゲのホロタイプ※は岡山理科大学(OKAY)に、アイソタイプ※は神奈川県立生命の星・地球博物館(KPM)と鹿児島大学総合研究博物館(KAG)、東京大学植物標本室(TI)、北海道大学総合博物館(SAPS)に収蔵されています。

※ホロタイプとは、生物種の学名の命名時に指定され、その学名の基準となる唯一の標本。アイソタイプとは、ホロタイプと同時に採集された同じ生物種の標本を指します。

 

サツマセンダイスゲ(図1)

カノヤスゲ(図2)

【論文情報】

Two New Species of Carex (Cyperaceae), C. satsumasendaica and C. shimizui, from Kagoshima Prefecture, Japan Okihito YANO, Wataru OHNISHI, Teruo KATSUYAMA and Takuji HOSHINO The Journal of Japanese Botany 99(1): 16–24 (2024)

doi: https://doi.org/10.51033/jjapbot.ID0185

 

【大西のコメント】

今回記載した2新種の生育地は、いずれも鹿児島県内の人里の樹林下です。特にサツマセンダイスゲの生育地は暖温帯の低地照葉樹林で、周辺には実に様々な植物の生育が見られました。九州南部などに見られる暖温帯の低地照葉樹林は、特異な生物多様性の存在が指摘されているにもかかわらず、既存の自然保護地区には組み込まれていない場所が多く、主に開発行為により近年も消失の一途をたどっています。鹿児島県には、屋久島や奄美大島といった世界的にも生物多様性の宝庫として知られた島々がありますが、九州本土の鹿児島県内、しかも人里に、未だ知られていなかった植物が2種も生育していた事実は、まだまだ未知の生物多様性を擁する自然環境が人々の生活圏に残されていることを示しています。そうした地域の自然環境の保全が図られることと同時に、さらなる生物多様性の把握が急務と言えます。