2012年度特別展「大空の覇者-大トンボ展-」関連連載記事

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「トンボの危機(3)すみか奪う水辺改変」(2012年8月31日掲載記事)

生息場所である「水辺の改変や埋め立て」は「水質悪化」と並んでトンボが激減している二大要因の1つだ。

水田では、農機を使いやすくするため、乾田化を進めるほ場整備が進む。 これは、高齢化が進行し、人手不足に悩む農業に置かれた現状からはやむを得ない選択だが、同時にトンボに冬季の逃げ場になっていた水田の脇の堀上や小さな池なども消失する。

ため池でいえば、水生植物が豊富な「良い池」は「老朽化ため池整備事業」などの対象になる。 池の掘削や堤の改修が行われ、ひどい場合には池全体がラバーに覆われ、生物が絶滅する事例が相次いでいる。 さらに、後継農家のいない水田は埋め立てられて宅地になったり、放棄水田になったりして、湿地ですらなくなっていく。 ため池の埋め立ても珍しいことではない。

川や用水路では、コンクリート護岸化が進んでいるが、これは多くのトンボの生殖環境であり、幼虫の生息場所としても重要な水辺植生をなくしてしまう。 また工法によっては、コンクリートの成分が流出し、ヤゴがいなくなった事例もある。 せっかく池そのものが残された都市公園でも、たいていはコンクリートや石積み護岸にしてしまい、生物の生息場所を奪ってしまう。

こうした、私たちにとっては何げない改変がトンボたちの生息地を奪っているのである。逆にいえば、ちょっとした配慮で彼らを救うことも可能なわけだ。

(県立生命の星・地球博物館主任学芸員 苅部治紀)

「大空の覇者~大トンボ展」が11月4日まで県立生命の星・地球博物館で開催されている。

※こちらは2012年8月31日に神奈川新聞に紹介されたものです。

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