2012年度特別展「大空の覇者-大トンボ展-」関連連載記事

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「トンボと文化 後世に魅力を伝えたい」(2012年9月7日掲載記事)

日本において、トンボが意匠として使われている例は、古くは弥生時代の銅鐸(どうたく)や古墳時代の青銅器の鞘(さや)金具にあるが、いずれも稲作文化の発展とともに、身近な存在となったトンボへの愛着の視点が感じられる。

また、「勝ち虫」という言葉を耳にされたことがないだろうか。 トンボは前進あるのみで退却(後退)しない。 この生態から縁起物として、江戸時代にはかぶとの前立てや刀のつばなどに使われている。 着物の意匠としての歴史も古く、能装束や狂言の肩衣(かたぎぬ)から産着まで多岐にわたる。

海外でも、ルネ・ラリック、エミール・ガレなどの美術作品にその姿を見ることができる。 私は海外調査に行った際には必ず土産店でトンボグッズを探すが、驚くほど多くの国で、まるで私を待っていたかのようにトンボグッズを発見する。

今の日本でも、気をつけてみると茶わんや手ぬぐいなど、これまたさまざまな日用品にその姿を発見できる。 既に身近な生き物ではなくなってしまったトンボだが、それでも郷愁の対象として根強い愛着が日本人にはあるのかもしれない。

連載を終えるにあたりひと言。 トンボに興味をもってくださった方は、ぜひ野外でその魅力に触れていただきたい。 現在のトンボたちの危機的な状況は、日本人が自然に対する愛着を捨て去ってきた歴史と無縁とは思えない。 トンボもすめなくなった水辺というものが端的に表しているものに思いをはせていただきたいと思う。

私たちは現在もさまざまな保全活動を継続して行っているが、少しでも多くのトンボを後世にバトンタッチしていきたいと願っている。

(県立生命の星・地球博物館主任学芸員 苅部治紀)

「大空の覇者~大トンボ展」が11月4日まで県立生命の星・地球博物館で開催されている。

※こちらは2012年9月7日に神奈川新聞に紹介されたものです。

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