学芸員の渡辺がハチの新種を発表しました
2026年7月7日 更新
学芸員の渡辺が愛知県豊橋市在住の昆虫愛好家である森下俊介氏との共同研究で、ハチの新種を発表しました。日本産のメンガタヒメバチ属Metopiusの亜属Ceratopiusに属するヒメバチ科の寄生蜂について分類学的研究を行い、その成果が系統分類学の専門誌である「Zootaxa」に掲載されました。論文の概要は次の通りです。
【論文の概要】
メンガタヒメバチ属は顔面にお面のような形をした隆起線をもつ特徴的なヒメバチの一群です。大型で美しい種が多い上、夜間に灯火に飛来する種が多いことからも、昆虫の調査では良く採集されるグループです。この仲間は日本には3つの亜属(Metopius、PeltastesおよびCeratopius)が確認されており、2024年に森下氏と渡辺によりそれらのうちの二つが整理されましたが、亜属Ceratopiusについては標本数が極めて多く(約1000個体)、種の分類が難しかったために、さらに1年以上の年月をかけて研究を進めました。
この仲間は日本から4種が知られており、最もよく見られる「ムラサキメンガタヒメバチ」は、体色に多くの種内変異があると考えられてきました。一方で、産地や採集日ごとに標本を並べてみると、その色彩は割合に安定しており、複数種が含まれている可能性がありました。そこで、改めて様々な特徴を検討し、種を再定義したところ、日本産のムラサキメンガタヒメバチには7種が含まれていることが判明し、5種の新種と多くの異名※1も確認されました。結果として、日本産の亜属Ceratopiusは10種となりました。
論文で記載された新種は下記の通りです。いずれも和名はまだありません。
Metopius (Ceratopius) flavofacies Morishita & Watanabe, 2026
本州、四国、屋久島に分布します。神奈川県からは見つかっていません。パラタイプ※2の一部が当館に収蔵されます。種小名は顔面の色彩が黄色いことにちなみます。
Metopius (Ceratopius) iris Morishita & Watanabe, 2026(図)
国内では北海道、本州、四国に分布し、海外では中国と韓国に分布します。神奈川県からは山北町の菰釣山(こもつるしやま)と小田原市早川で採集されており、前者はタイプ産地になっています。ホロタイプ(KPM-NK100571)とパラタイプの一部が当館に収蔵されます。種小名は腹部にあやめ色(青紫色)の光沢があることにちなみます。
Metopius (Ceratopius) minimus Morishita & Watanabe, 2026
本州、四国、対馬に分布します。神奈川県からは三浦市と山北町の三国峠、明神山、箱根町の乙女峠、湯河原町の幕山で採集されています。ホロタイプ(KPM-NK100572)とパラタイプの一部が当館に収蔵されます。種小名は本種がこの仲間で最も体が小さい種であることにちなみます。
Metopius (Ceratopius) splendens Morishita & Watanabe, 2026
北海道と本州の寒冷地に分布します。神奈川県からは見つかっていません。ホロタイプ(KPM-NK100573)が当館に収蔵されます。種小名は本種の体色が美しいことにちなみます。
Metopius (Ceratopius) violaceus Morishita & Watanabe, 2026
国内では本州、四国、九州、対馬に分布し、国外では韓国に分布します。神奈川県からは見つかっていません。ホロタイプ(KPM-NK
100574)とパラタイプの一部が当館に収蔵されます。種小名は本種の体色がすみれ色(紫色)であることにちなみます。
分類学の一つの重要な仕事に、身近な種をきちんと認識できるようにする、という点があります。ついつい珍しい種や新種ばかりに注目が集まりますが、本研究の最大の意義は、野外調査で頻繁に採集される「普通種」がきちんと整理され、識別できるようになった点にあると言えます。
※1 同じ種に対して複数の学名がある場合は、基本的には先に命名された方が有効となり、それ以外は無効になり、異名(シノニム)とされます。海外の種と比較をすることで、別々とされていた海外の種と日本の種が実は同じ種であることが判明することは良くあることです。このような問題を解決することも、分類学の重要な仕事です。
※2 生物の学名を命名する際に使われる標本をタイプといいます。ホロタイプは学名の基準となる標本で、タイプの中から一つだけ選ばれます。パラタイプはホロタイプ以外のタイプです。ホロタイプが得られた産地をタイプ産地といいます。KPM-NKは当館の昆虫標本の資料番号であることを示す記号です。

図. Metopius (Ceratopius) iris Morishita & Watanabe, 2026のホロタイプ(KPM-NK100571), メス.
A: 横から見た全形; B: 正面から見た頭部.
【論文詳細】
Morishita, S. & K. Watanabe, 2026. Review of the subgenus Ceratopius Clément, 1927 of the genus Metopius Panzer (Hymenoptera:
Ichneumonidae: Metopiinae) from Japan. Zootaxa, 5837(2): 257-288.
https://doi.org/10.11646/zootaxa.5837.2.3