生命を考える
神奈川県立生命の星・地球博物館
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昆虫コーナー新規追加分展示 展示解説

昆虫コーナー新規追加分展示 展示解説

展示を見るときのお願い

当館の展示は、多くの方々のご支援によって支えられています。展示を長く皆様に楽しんでいただくために、以下の点についてご理解とご協力をお願いいたします。

  • 照明を内蔵した金属フレームには触れないようにご注意ください。強い力が加わると、破損する恐れがあります。
  • 虫メガネ(ルーペ)は、大切にご使用ください。特にお子様が使用される際は、展示台を叩いたり、虫メガネをぶつけたりしないよう、保護者の方の見守りをお願いいたします。
  • 各標本には、データを記したラベルがついています。通常は表を上にして取りつけていますが、希少種の産地に関する情報は、裏返している場合があります。希少な昆虫を守るための配慮です。ご理解いただければ幸いです。

展示の解説

今回増設した展示は2つの区画に設置されています。箱の中身は以下の通りです。

展示区画1「実物昆虫図鑑」(1階 常設展示室 エスカレーターの前)

butterfly_1.jpg

1. チョウ

moth_2.jpg2. ガ

beetle_3.jpg3. コウチュウ

bee_4.jpg

4 .ハチ

dragonfly_5.jpg5. トンボ

flies_6.jpg6. ハエ

stink_bug_7.jpg

7. カメムシ

grasshopper_8.jpg8. バッタ

other_9.jpg9. その他の昆虫

展示区画2「有名な昆虫」(乱舞するチョウの展示の前)

pest_10.jpg

10. 害虫や益虫とされる昆虫

alien-species_global-warming_11.jpg11. 外来種や地球温暖化で増えている昆虫

rare-species_12.jpg12. 希少な昆虫

昆虫は専門書から普及書まで多くの書籍に解説がある上、最近はインターネットも充実しています。また、分布や生態などの知見は日進月歩で増加しており、どんどん情報が更新されています。そのため、以下の解説では個々の種について、学問的な細かい解説よりも、展示を楽しむためのポイントとなるような解説を書いています。個別の種について興味をもたれた際には、ぜひ和名や学名を手がかりに、書籍やインターネットで調べてみてください。昆虫の書籍は当館ミュージアムライブラリーにもたくさんありますので、ぜひご活用ください。

なお、昆虫の和名や学名、絶滅危惧種や外来種などの指定情報は、展示制作段階でそれなりに信頼できる情報源(図鑑類やデータベースなど)によりましたが、必ずしも最新のものとは限りません。学問的に信頼できる情報が必要な方は、可能な限り各自で情報を調べるようにしてください(当館昆虫担当学芸員はトンボとハチの専門家ですので、これらについてはお問い合わせいただければ情報提供が可能です)。

以下の解説は、当館渡辺学芸員が主に執筆したものです。図鑑などの解説では一般的な「である」調で書いてあります。また、一般の方向けの解説であることから、一部の漢字、例えば「翅」と「脚」はそれぞれ「羽」と「足」に直している箇所があります。

実物昆虫図鑑

展示1 チョウの仲間

昆虫の展示では今も昔も花形で、種数が手ごろで名前調べも比較的簡単なため、人気がある昆虫である。美しい模様に目を奪われがちであるが、羽の形が個性的な種も多い。

大きいチョウ、小さいチョウ

モンキアゲハ Papilio helenus
オオゴマダラ Idea leuconoe

大きなチョウは色々いるが、この2種が横綱級だろう。モンキアゲハは神奈川県にも分布し、博物館の周囲でも見ることができる。

ホリイコシジミ Zizula hylax

シジミチョウの仲間は小さい種が多いが、その中でも特に小さくなる種が数種おり、本種はその一つである。日本で最も小さいチョウのひとつ。

日本を代表するチョウ

オオムラサキ Sasakia charonda
ギフチョウ Luehdorfia japonica
ミカドアゲハ Graphium doson

日本の国蝶はオオムラサキであるが、これは国が定めたわけではなく、日本昆虫学会が定めたものである。「日本を代表するチョウ」となると色々な意見があるが、ここでは担当の好みで選定してみた。いずれも比較的大型で美麗な種である。オオムラサキは大型で高貴な紫色が評価される。ギフチョウはこの中で唯一日本固有種でもあり、春の女神としても名高い。ミカドアゲハもその美しさや気品から上位人気種である。標本にすると少し色あせたように見えるが、野外でみる姿は格調高く、まさにミカドの名がふさわしい。国蝶の候補にはアゲハも挙げられていたようだが、身近で美しい反面、かんきつ類の害虫でもあるため、さすがに国蝶には選びにくかったのかもしれない。

チョウのオスとメス

ミヤマカラスアゲハ Papilio maackii
ツマキチョウ Anthocharis scolymus
スジボソヤマキチョウ Gonepteryx aspasia
ムラサキシジミ Arhopala japonica
ムラサキツバメ Arhopala bazalus
ヤマトシジミ Zizeeria maha
ルリシジミ Celastrina argiolus
アオタテハモドキ Junonia orithya

チョウは昼間に飛び回るため、仲間や異性を見分けるために色彩が多様化した。そのためオスとメスで色が違う種が多い。また、異性のコミュニケーションのためにフェロモン(匂い)を使うチョウも多い。ミヤマカラスアゲハのように、オスの前羽にフェロモンを放つフェルト状の毛束を持つものもいる。

模様が変化するチョウ

シロオビアゲハ Papilio polytes
キタキチョウ Eurema mandarina
ベニシジミ Lycaena phlaeas
アサマシジミ Plebejus subsolana

模様の変化は雌雄の違い以外でも生じる。シロオビアゲハは同種内にまったく別のチョウに見えるほどの色彩の違いが生じるが、これは遺伝子が関係しており、毒を持つベニモンアゲハに擬態しているとされる。生育時の温度や日長の影響で模様が変化するチョウは多く、キタキチョウやベニシジミなど、季節によって模様が異なる。このようなチョウは春型、夏型、秋型と呼ばれることがある(別の箱に展示してあるアゲハも、左が春型、右が夏型である)。また、長い歴史の中で隔離によって模様に違いが生じることもあり、アサマシジミは地域ごとに模様が異なることが知られている。

なお、キタキチョウの種名は年配の方には聞きなれないかもしれない。これはいままで図鑑などでキチョウと呼ばれていたチョウで、研究の進展により2種が含まれていることが明らかになり、日本本土部に広く分布するものはキタキチョウと呼ばれるようになったものである。

ウラオモテがあるチョウ

ゴイシシジミ Taraka hamada
ギンイチモンジセセリ Leptalina unicolor

チョウの模様は羽を開いたときに上を向く側が表、下を向く側が裏とされる。多くのチョウは表面の方が美しいが、中には裏面の方が明らかに美しいチョウがいる。ここに示した種の他、後述する「ゼフィルス」の仲間、例えばウラキンシジミやウラナミアカシジミは見事な裏面の模様をもつ。脚が上を向いた標本は裏向きに標本を作ったものであるので、見ていただきたい。

チョウ界のスーパースター「ゼフィルス」

ウラゴマダラシジミ Artopoetes pryeri
ムモンアカシジミ Shirozua jonasi
チョウセンアカシジミ Coreana raphaelis
ウラキンシジミ Ussuriana stygiana
アカシジミ Japonica lutea
ウラナミアカシジミ Japonica saepestriata
ミズイロオナガシジミ Antigius attilia
ウスイロオナガシジミ Antigius butleri
オナガシジミ Araragi enthea
ウラミスジシジミ Wagimo signatus
ウラクロシジミ Iratsume orsedice
フジミドリシジミ Sibataniozephyrus fujisanus
ミドリシジミ Neozephyrus japonicus
メスアカミドリシジミ Chrysozephyrus smaragdinus
ヒサマツミドリシジミ Chrysozephyrus hisamatsusanus
キリシマミドリシジミ Thermozephyrus ataxus
オオミドリシジミ Favonius orientalis

子どもにとって、アゲハの仲間やオオムラサキは人気の筆頭であるが、チョウについてある程度詳しくなってくると、人気の筆頭は他のチョウに移る。ここに挙げたシジミチョウの仲間は「西風」の意味をもつ「ゼフィルス」と呼ばれ、美しく多様な金属光沢が魅力的な、特に人気があるグループである。多くの種が梅雨から梅雨明けにかけて森林で見られ、煌びやかに舞う姿は、森の宝石といえよう。

チョウのあれこれ

ウスバアゲハ Parnassius citrinarius

図鑑ではウスバシロチョウと呼ばれることが多い。アゲハっぽくないが、アゲハの仲間である。日本海側などでは羽が黒っぽくなる個体が見られ、このような個体は神奈川県でもときどき見られる。幼虫はムラサキケマンという毒草を食べる。

ツマベニチョウ Hebomoia glaucippe

モンシロチョウの仲間はシロチョウ科だが、このチョウは日本産のシロチョウ科で最も大きい種である。南のチョウで、南西諸島などでハイビスカスの花に良く飛んでくる。飛び方は力強く、美しさと力強さを兼ね備えた姿はチョウ好きの心をときめかせる。

スジグロシロチョウ Pieris melete

身近なチョウで、モンシロチョウよりも暗い環境を好む。一般の人が公園などでモンシロチョウとしている白いチョウは本種のことが多い。幼虫はワサビなども好み、中々辛口好みである。

ルーミスシジミ Arhopala ganesa

ルーミスは明治時代に来日し、横浜に滞在した宣教師の名前。原生林に生息する珍しいチョウ。

キベリタテハ Nymphalis antiopa
クジャクチョウ Inachis io geisha

山地に見られるチョウたちである。特にキベリタテハはあまり見かけないため、チョウ好きに人気がある種である。クジャクチョウの日本に産する亜種はgeishaで、芸者にちなむ雅な名前である。

スミナガシ Dichorragia nesimachus

和名のセンスが格別である。由来はもちろん模様であるが、なんと風流な名前だろうか。羽を開いて止まり、口が赤色だったりと、なかなか個性的なチョウである。

オオイチモンジ Limenitis populi

本州ではかなり珍しく、簡単に出会えないが、北海道では探せば出会えるチョウである。大型で渋い美しさがあり、飛び方も格調高く、愛好家に人気がある。見た目は美しいがゲテモノ食いで、ヒグマのウンコに飛んでくることがある。

ジャノメチョウ Minois dryas
ヒメウラナミジャノメ Ypthima argus

ジャノメとは蛇の目である。その名の通り、この仲間にはヘビの目のような模様がある。この模様で敵を脅かすというよりは、鳥などにあえてその部分を狙わせ、体の大事な部分を守るという効果がある。

クロコノマチョウ Melanitis phedima

擬態の名手で、裏面の模様は枯れ葉そっくりである。温暖化の影響で数が増えているチョウで、神奈川県でも雑木林などでよく見られる。

テングチョウ Libythea lepita

天狗のように鼻が突き出たチョウ。成虫で冬を越すので、春先に野山を歩くと姿を見ることができる。

アサギマダラ Parantica sita

優雅で気品があるチョウで、長距離を飛んで「渡り」をすることが知られている。羽にペンでマークをつけて、どれくらい飛ぶのかを調べるマーキング調査が、チョウ好きたちによって行われている。和名のアサギは浅葱色(あさぎいろ)にちなむ。

アオバセセリ Choaspes benjaminii
ミヤマセセリ Erynnis montana
ホソバセセリ Isoteinon lamprospilus

セセリチョウは地味な種が多く、ガのような見た目からあまり人気がないが、よく見ると美しい種も多い。アオバセセリは成虫も派手だが、幼虫がまたド派手で人気がある。ミヤマセセリは春先に出現し、彼らが飛ぶ雑木林の林床では、この模様はすぐれた保護色となる。

展示2 ガの仲間

チョウとともにチョウ目(鱗翅目)に含まれる。ガの方が圧倒的に種数が多く、美しい種も多いのに、チョウばかり優遇されており、なぜか扱いがとても悪い。本来はチョウ目ではなく、ガ目とすべきなのである。今回はそのような酷い扱いを改善すべく、ガの仲間の展示数を大幅に増やし、ガだけで一箱展示を用意した。

ガの仲間は毒があると思われがちだが、そのような種はごくごくわずかで、ほとんどの種は毒をもたない(標本箱に入っている種は全て無毒)。昆虫好きの界隈では魅力を知ってしまいヤミツキなる人が多く、実はかなりの人気昆虫である。展示してあるガは、普通の人にとっては初めて見る種が多いと思われるが、じっくりその美しさを堪能してほしい。

「モスラ」みたいなガ

シンジュサン Samia cynthia
クスサン Saturnia japonica
ヤママユ Antheraea yamamai
ウスタビガ Rhodinia fugax
オオミズアオ Actias aliena
オナガミズアオ Actias gnoma

ヤママユの仲間の仲間は大型な種が多く、まさに典型的なガの見た目をしている。映画「ゴジラ」に出てくる「モスラ」っぽい見た目から、不気味という人がいる一方で、モフモフしていてかわいいという声も相当数聞く。おとなしい昆虫なので、触れたり知ったりすると好感度が上がる昆虫といえる。まゆ(さなぎを守るためにつくられる覆い)からテグスなどの糸をとったり、人間とのかかわりがある種も含まれている。まゆのデザインは各種個性的で、中でもウスタビガのまゆは「やまかます」と言われ、冬の落葉した雑木林でも、鮮やかな黄緑色が目立ち美しい。オオミズアオは独特の色彩からガの中でも人気が高い。

尺取虫(しゃくとりむし)

ヒトツメオオシロヒメシャク Problepsis superans
トラフツバメエダシャク Tristrophis veneris
トビモンオオエダシャク Biston robustus
アミメオオエダシャク Mesastrape fulguraria consors
スモモエダシャク Angerona prunaria turbata

シャクガの仲間の幼虫は、良く知られた尺取虫(しゃくとりむし)。毒をもつ種はおらず、子供の良い遊び相手であり、植物の枝に上手に擬態する擬態名人も多い。チョウのような美しい種も多い、人気のあるガである。

幼虫が家(巣)をつくるガ

ビロードハマキ Cerace xanthocosma
オオミノガ Eumeta variegata

ガの幼虫の中には、植物などを上手に利用して、巣を造るものが多い。ハマキガの仲間の幼虫は葉を巻いたり、糸で綴り合せたりして、自分の家をつくる。植物の種類ごとに色々なハマキガが特有の巣をつくるので、見ていて面白い。ビロードハマキは特に大型のハマキガで、タブノキの葉を糸でくっつけて巣をつくる。ミノガの仲間は幼虫が自分の家となる「ミノ」をつくるので、ミノムシと呼ばれる。ミノは種ごとに形が違う。以前はミノを破いて幼虫を取り出した後に、折り紙の欠片などでオリジナルミノムシを作る遊びがあったが、最近はミノムシが減ったために遊びにくくなった。

昼間に飛ぶガ

ホタルガ Pidorus atratus
トンボエダシャク Cystidia stratonice
カノコガ Amata fortune
オオスカシバ Cephonodes hylas
ホソオビヒゲナガ Nemophora aurifera
コトラガ Mimeusemia persimilis

これらのガは昼間に活動する。チョウと思って気づかない人もいるだろうし、自然観察会などで見たことがある人もいるだろう。トンボエダシャクは昼間にチョウのようにひらひら飛ぶ。ホソオビヒゲナガは小さなガで、雑木林の周りなどで良く見る。オスの触角はすごく長い。小さなガだがじっくり見るとその模様は格調高い。オオスカシバはスズメガの仲間で、幼虫はクチナシを食べるイモムシ。お尻の方に1本ひょろりと突起があるのはこの仲間のイモムシのチャームポイント。この類のイモムシは皆無毒なので、子供達の良い遊び相手。

マニアに人気のガ

キシタバ Catocala patala
コシロシタバ Catocala actaea
シロシタバ Catocala nivea
オニベニシタバ Catocala dula
ムラサキシタバ Catocala fraxini jezoensis

シタバ類のガは美しい模様をもち、比較的大型で見栄えも良いためか、ガの中でも人気があるグループである。属名をカタカナ読みした「カトカラ」という用語は、業界では公用語である。展示した5種は、ムラサキシタバがやや珍しいことをのぞき、比較的普通にみられる種たちである。

季節を告げるガ

イボタガ Brahmaea japonica
オオシモフリスズメ Langia zenzeroides nawai

ガを集める人にとっては、これらの種は春の到来を告げる心をときめかせる種である。イボタガは絨毯のような模様が美しい。幼虫は展示していないが、すごく奇抜な形をしており一度見たら忘れられない。オオシモフリスズメは日本最大のスズメガ。西日本で春先に現れる、東日本のガ好きにとって憧れのガである。

ミノウスバ Pryeria sinica

可憐なガで、秋が深まったころに成虫が見られる。生垣として植栽されるマサキを餌にするため、市街地でもときどき見かける。

ナミスジフユナミシャク Operophtera brunnea

いわゆる「フユシャク」とされるガの仲間で、メスの羽が退化し、空を飛べない。冬の夜に活動し、フェロモンを出してオスを呼ぶ。多くの昆虫好きにとって冬は退屈であるが、冬でも時期をかえて様々なフユシャクが見られるために、ガを愛でる人にはオフシーズンはない。

小さいガ

シイモグリチビガ Stigmella castanopsiella

すごく小さい!葉っぱ一枚で卵から成虫まで育つエコな虫。

ヨモギトリバ Hellinsia lienigianus

小さい昆虫にとって、効率良く飛ぶことは羽ばたくことよりも、風に乗るほうが便利なことがある。そのため、小さい昆虫の羽はしばしば羽毛状に退化する。トリバガはその代表的な例で、身近な場所でいくつかの種が案外普通にいるものの、ガに見えないためか気づかれていない。

マドガ Thyris usitata

土手などの草地で良く見られる。身近で種名がわかりやすい小さいガ。

イヌビワハマキモドキ Choreutis japonica

小さいが極めて美しい。

マダラミズメイガ Elophila interruptalis

幼虫がスイレンなどの水草を食べるため、水辺にいる。

ムモンコバネ Paramartyria immaculatella

原始的なガの仲間。ジャゴケ類がある場所にいる。普通に暮らしている人はほとんど出会わない虫の一つ。

ハチに似たガ

オオモモブトスカシバ Melittia sangaica
コスカシバ Synanthedon hector

スカシバガの仲間はその名の通り羽が透けていて美しい。ハチに擬態した見た目の種が多く、飛び方も似ている。網で捕獲するとすぐに毛や鱗粉が痛むため、美しい標本が特に作りにくい昆虫の一つである。この仲間を集める人たちは、メスが放つフェロモンを人工的に合成したものを利用したトラップを使う。メスに出会えるものと思って飛んできたスカシバガのオスたちは、網を持ったオジサンに次々と採集されるわけである。人間とは罪な生き物である。

奇天烈な生態を持つガ

セミヤドリガ Epipomponia nawai

セミを観察していると、時々白いわたくずのようなものがついている。気になってつまむと柔らかくて動くので、驚いた人もいるかもしれない。これはこのガの幼虫で、セミから吸血し、成長したらセミから離れてさなぎになる。ヒグラシに寄生することが多いが、アブラゼミなど他のセミに寄生することもある。

アカスジシロコケガ Cyana hamata

コケガの仲間は幼虫が地衣類を食べる。このガの幼虫はまゆを作るときに、自分の体毛をむしって毛でできた「覆い(おおい)」をつくる。このガに寄生したヤドリバエに寄生したキアシブトコバチの標本の脇に、このガが造った覆いを置いておいたので、見ていただきたい。

ガのあれこれ

フクラスズメ Arcte coerula

幼虫はカラムシという草についている、派手な模様がある毛虫で、少々不気味な見た目をしているが毒はない。つつくとブルブル揺れるため、さらに不気味。成虫で冬越しし、建物の中に入ってきて越冬することがある。

アゲハモドキ Epicopeia hainesii

アゲハの仲間にそっくりだが、動きは鈍い。

クロメンガタスズメ Acherontia lachesis

背中から視線を感じるガである。

アケビコノハ Eudocima tyrannus

ブドウなどに口を突き刺して吸汁するので、果樹園では害虫とされることがある。前羽は見事な木の葉模様である。

クワコ Bombyx mandarina

野生のカイコ。このガが人間によって家畜化されてカイコとなった。里山でクワの木を見るとたまに幼虫がついている。

キハラゴマダラヒトリ Spilosoma lubricipedum sangaicum

毒々しい色をしているが、無毒。

ハグルマトモエ Spirama helicina

樹液に飛んでくるので、夜にカブトムシなどを探していると時々見かける。羽の模様がなかなかセンス良い。

コウモリガ Endoclita excrescens

ガの仲間は研究者によって分類群ごとに大蛾類(大きなガ:マクロレピ)と小蛾類(小さなガ:ミクロレピ)に分けられる。このガは小蛾類の仲間らしいが「小さくないじゃん」と思う。

ガの「美」

エビガラスズメ Agrius convolvuli
ジョウザンヒトリ Pericallia matronula helena
ムクゲコノハ Thyas juno
アカエグリバ Oraesia excavata
ベニモントラガ Sarbanissa venusta
ギンモンスズメモドキ Tarsolepis japonica
ヒメウスベニトガリバ Habrosyne aurorina
ベニヘリコケガ Miltochrista miniata rosaria
オビガ Apha aequalis
トビイロシマメイガ Hypsopygia regina
マエアカスカシノメイガ Palpita nigropunctalis
キマダラコヤガ Emmelia trabealis

ガの美しさは玄人好みである。ジョウザンヒトリのような派手な美しさを持つ種もいるが、どこかチョウとは違う奥ゆかしさがある。また、オビガやマエアカスカシノメイガのように一見地味なガも、良く見てみると美しさを感じる。人類は昆虫を標本にすることで、動きを止めてじっくり観察できる方法を手に入れた。標本は逃げないし、動かない、昼間でも見ることができる。ぜひじっくりと彼らの美を堪能していただきたい。

展示3 コウチュウの仲間

チョウとならび人気のある昆虫である。多くの種は固くなった前羽で体を覆い、メカニカルなデザインがカッコ良い。カブトムシやクワガタムシのような大きいものが注目されやすいが、体長数ミリの小さなものも多く、顕微鏡で拡大すると、カブトムシも太刀打ちできないほどカッコ良い種も多い。

カミキリムシの仲間

カラカネハナカミキリ Gaurotes doris
モモブトハナカミキリ Oedecnema dubia
アラメハナカミキリ Sachalinobia rugipennis koltzei
フタスジカタビロハナカミキリ Brachyta bifasciata japonica
スネケブカヒロコバネカミキリ Merionoeda hirsuta
ハセガワトラカミキリ Teratoclytus plavilstshikovi
ハンノキカミキリ Cagosima sanguinolenta
アカジマトラカミキリ Anaglyptus bella
イッシキキモンカミキリ Glenea centroguttata
ルリボシカミキリ Rosalia batesi
オオトラカミキリ Xylotrechus villioni
キベリカタビロハナカミキリ Pachyta erebia
ヨツスジトラカミキリ Chlorophorus quinquefasciatus
トラフカミキリ Xylotrechus chinensis
ベニカミキリ Purpuricenus temminckii
フタコブルリハナカミキリ Stenocorus coeruleipennis
ヤノトラカミキリ Xylotrechus yanoi
オオアオカミキリ Chloridolum thaliodes
ジャコウカミキリ Aromia moschata ambrosiaca
ヨコヤマヒゲナガカミキリ Dolichoprosopus yokoyamai
ベニボシカミキリ Rosalia lesnei
フジコブヤハズカミキリ Mesechthistatus fujisanus

カミキリムシは昆虫の中でも特に人気があるグループの一つで、チョウに次いで愛好家が多いとも言われる。シロスジカミキリやゴマダラカミキリのイメージが一般的だが、形や色の多様さ、生態の多様さなど、その魅力は第一級である。今回は美しい種、珍しい種、ハチに擬態している種、愛好家に人気がある種などから、イチオシのものを展示した。結構珍しい種も並べたので、この仲間が好きな昆虫少年には少々刺激が強いかもしれない。

当館の元学芸員である故 高桑正敏さんはカミキリムシをこよなく愛し、夢中になりすぎて図鑑も著した。生前、高桑さんが特に夢中になっていたのが飛べないカミキリムシ、コブヤハズカミキリの仲間である。今でも嬉しそうにこの仲間の話をしている高桑さんの顔が目に浮かぶ。展示してあるフジコブヤハズカミキリは、私だけでなく、高桑さんのイチオシの昆虫でもある。

地面を歩くハンターたち

アオオサムシ Carabus insulicola
マイマイカブリ Damaster blaptoides
オオルリオサムシ Carabus gehinii

これらオサムシの仲間と、後述のハンミョウやゴミムシの仲間は、地表を歩き回る肉食昆虫で、「歩行虫(ほこうちゅう)」と呼ばれる。オサムシの仲間はカッコよく、美しい種も多い上に、飛べない種が多くて地域ごとに種分化しているので、「ご当地虫」として人気がある一群である。故手塚治虫氏もこの仲間をこよなく愛した一人であり、治虫(オサム)に氏をつけるとオサムシとなる。アオオサムシは東日本に産し、神奈川では最も普通に見られるオサムシである。千葉県房総半島南部の個体は赤くなる。マイマイカブリはカタツムリを好んで食べ、殻に首を突っ込んで食べるのでこの名前がある。地域ごとに色彩や形(首の太さやお尻の突起の長さ)に変異があり、人気が高い。展示している個体は左から、エゾマイマイカブリ(北海道)、キタカブリ(東北地方北部)、サドマイマイカブリ(佐渡島)、マイマイカブリ(西日本)、コアオマイマイカブリ(東北地方南部)、ヒメマイマイカブリ2個体(関東地方から中部地方)である。オオルリオサムシは北海道に産し、その美しさから虜になる昆虫愛好家も多い。同様に北海道内で地域によって色が異なる。

ハンミョウ Cicindela japonica
マガタマハンミョウ Cylindera ovipennis
コニワハンミョウ Cicindela transbaicalica

ハンミョウの仲間はタイガー・ビートルと海外で呼ばれ、敏捷に飛べる種が多いが、中にはマガタマハンミョウのように飛べない種もいる。種ごとに美しい模様があり、特にハンミョウは美しく、山道を歩く人を先導するように飛ぶので、ミチオシエの愛称で人気がある。

ヒョウタンゴミムシ Scarites aterrimus
オオキベリアオゴミムシ Epomis nigricans
ヨツボシゴミムシ Panagaeus japonicus
アオゴミムシ Chlaenius pallipes
ゴミムシ Anisodactylus signatus
フタモンクビナガゴミムシ Archicollius bimaculata
セアカヒラタゴミムシ Dolichus halensis
スジアオゴミムシ Haplochlaenius costiger
マルガタゴミムシの一種 Amara sp.
マルガタオオヨツボシゴミムシ Craspedophorus mandarinus
ミイデラゴミムシ Pheropsophus jessoensis

ゴミムシとは酷い名前だが、この仲間には美しい種も多い。実は愛好家が多く、「御美虫」と呼ぶ人がいるほどである(注:単なる当て字)。公園や畑の周囲に転がっている石ころ、板切れ、野菜くずなどをひっくり返すと、ダンゴムシに混じってちょこまか歩く姿が見られる。歩行虫の仲間は天敵に襲われたときに身をまもるため、お尻から薬品や酢のような匂いのする、刺激的な液を出す。中でもミイデラゴミムシは強烈なガスを噴射し、おならのような音とともに高温のガスを噴き出し、何も考えずにつかむと火傷する。

コガネムシの仲間

カブトムシ Trypoxylus dichotomus
コカブト Eophileurus chinensis
カナブン Pseudotrynorrhina japonica
アオカナブン Rhomborhina unicolor
クロカナブン Rhomborhina polita
シロテンハナムグリ Protaetia orientalis
キョウトアオハナムグリ Protaetia lenzi
アカマダラハナムグリ Anthracophora rusticola
コアオハナムグリ Gametis jucunda
ヒメアシナガコガネ Ectinohoplia obducta
オオトラフハナムグリ Paratrichius doenitzi
オオヒゲブトハナムグリ Amphicoma splendens
オオチャイロハナムグリ Osmoderma opicum
コガネムシ Mimela splendens
ドウガネブイブイ Anomala cuprea
ナガチャコガネ Heptophylla picea

皆さん誰でも知っているカブトムシをはじめ、コガネムシの仲間は良く知られた昆虫である。一般的な傾向として、カブトムシやカナブンの仲間は樹液や腐った果実を食べ、ハナムグリはこれらに加え、花を食べる。コガネムシやドウガネブイブイは葉などを食べる。そのため、人が大切にしている植物の葉を食べる種は害虫となる。

オオセンチコガネ Phelotrupes auratus
センチコガネ Phelotrupes laevistriatus
ツノコガネ Liatongus minutus

センチコガネやツノコガネは動物のウンコを食べるため、「糞虫(ふんちゅう)」と呼ばれ、種ごとに好みの落とし主がいる。例えばオオセンチコガネはシカの糞を好むため、最近激増している。人間から見るとゲテモノ食いであるが、糞の分解者として重要な存在であり、糞虫がいない島で家畜を放牧した際に、糞の処理のためにこの仲間が放たれたこともある。美しい種や闘争のためのツノがあってカッコ良い種も多く、糞の種類や鮮度などにこだわりがある珍しい種もいるため、糞をものともせずに探し回る熱烈な愛好家もいる。

タマムシの仲間

ヤマトタマムシ Chrysochroa fulgidissima
アオタマムシ Eurythyrea tenuistriata
アオマダラタマムシ Nipponobuprestis amabilis
マスダクロホシタマムシ Lamprodila vivata
ミドリナカボソタマムシ Coraebus hastanus
クズノチビタマムシ Trachys auricollis

この仲間は良く知られた昆虫だが、その場合はほぼ常にヤマトタマムシ(タマムシともいう)を示す。しかしながら、実際にはほかにも様々な美麗種がいる。日本産のタマムシでは大半が1 cmよりも小さく、ヤマトタマムシのような大きい種は少数派である。

ハムシの仲間

クロウリハムシ Aulacophora nigripennis
クルミハムシ Gastrolina depressa
ムシクソハムシ Chlamisus spilotus
クロトゲハムシ Hispellinus moerens
ツシマヘリビロトゲハムシ Platypria melli

ハムシはコウチュウの一群で、漢字では「羽虫」ではなく、「葉虫」と書く。その名の通り植物の葉を食べるベジタリアンである。この仲間は小さい種が多いが、顕微鏡で観察すると色や形が多様で魅力的である。トゲハムシの仲間は従来○○トゲトゲと呼ばれており、ムシクソハムシとともにチャーミングな名前であったが、トゲハムシに改称されてつまらない名前になってしまった。ハムシのような植物を食べる昆虫に詳しくなるためには、植物にも詳しい必要がある。植物好きにお勧めしたい昆虫である。

アカガネサルハムシ Acrothinium gaschkevitchii
キヌツヤミズクサハムシ(スゲハムシ) Plateumaris sericea
トホシクビボソハムシ Lema decempunctata

コガネムシと同様、ハムシも色彩の変異が大きい種がいる。アカガネサルハムシはタマムシに負けず劣らずの身近な宝石であるが、沖縄など、南の島にいくと色彩が変化し、場所により色彩が変化する。一方でキヌツヤミズクサハムシは同じ場所で様々な色の個体が見られる。トホシクビボソハムシは土手のクコによく止まっているが、トホシ(=斑紋が10個ある)の名とは裏腹に斑紋があまりないものばかりで、数は変異する。

クワガタムシやクロツヤムシの仲間

ノコギリクワガタ Prosopocoilus inclinatus
ミヤマクワガタ Lucanus maculifemoratus
コクワガタ Dorcus rectus
マダラクワガタ Aesalus asiaticus
ルリクワガタ Platycerus delicatulus
ツノクロツヤムシ Cylindrocaulus patalis

クワガタムシは一般の人に最も人気がある昆虫であろう。当館ではジャンボブック展示室に多くの種を展示しているので、ここでは代表的なもののみ展示した。体が青いルリクワガタや、すごく小さいマダラクワガタなど、一般の人にはクワガタムシに見えない種もいるのである。

クロツヤムシの仲間は東南アジアなどで良く見かけるが、日本にも一種、ツノクロツヤムシが生息しており、四国や九州で出会うことができる。海外に産するこの仲間はのっぺりしてあまり格好良くないが、ツノクロツヤムシは体に厚みがあり、角まで持った、世界で最も格好良いクロツヤムシである。この虫は夫婦で暮らし、幼虫に餌を与えて子育てする風変わりな昆虫でもある。

ゾウムシの仲間

オトシブミ Apoderus jekelii
ヒゲナガオトシブミ Paracycnotrachelus longicornis
ゴマダラオトシブミ Paroplapoderus pardalis
ヒメクロオトシブミ Apoderus erythrogaster
アシナガオトシブミ Phialodes rufipennis
ドロハマキチョッキリ Byctiscus puberulus
コフキゾウムシ Eugnathus distinctus
ツバキシギゾウムシ Curculio camelliae
クロカタゾウムシ Pachyrhynchus infernalis

ゾウムシはゾウのような鼻(伸長した口器)を持つグループで、コウチュウの中でも屈指の種の多様性を誇る。口を上手に使って植物の組織中に卵を産む種が多く、オトシブミやチョッキリは折り紙をおるように葉っぱを巻いたり切ったりして葉を加工する。オトシブミの仲間は種ごとに固有の形をしたゆりかごを造り、その様子が落とし文を連想させ、和名になった。シギゾウムシは長い口をもち、種ごとに餌とする実の形や大きさに合わせた口の長さを持つ。クリを食べようとして割ったときに出てくるイモムシは、彼らの幼虫である。体が硬い種も多く、クロカタゾウムシは日本産の昆虫の中では最も硬く、虫ピン(標本針)を通すのに苦労する。

コウチュウのあれこれ

ヒメツチハンミョウ Meloe coarctatus
ヒラズゲンセイ Synhoria maxillosa

ツチハンミョウは幼虫がハナバチにくっついて巣まで運ばれ、そこでハチに寄生する。ヒラズゲンセイはクマバチ類の巣に侵入し、ハチに寄生する。いずれも血液中にカンタリジンという毒があるため、潰すと火傷を負ったように皮膚がただれる。

ヨツボシモンシデムシ Nicrophorus quadripunctatus
オオヒラタシデムシ Eusilpha japonica

シデムシの仲間は動物の死体を食べる昆虫で、分解者である。オオヒラタシデムシはミミズの死骸を好んで食べるので、街中でもよく見かける。

ハケゲアリノスハネカクシ Lomechusa sinuate

クロヤマアリの巣の中で暮らし、アリの巣の中にある餌をちゃっかり食べるらしい。不思議なことに、アリに敵視されず、巣内でアリと一緒にいても襲われない。こういう昆虫を「好蟻性昆虫(こうぎせいこんちゅう)」という。

ヨツボシケシキスイ Glischrochilus japonius

カブトムシやカナブンとともに、樹液に見られるが、隙間に隠れているためか、影が薄く、人気もあまりない。よく見るとクワガタムシ顔負けの立派な大あごがあり、赤い模様まであり、中々カッコ良い虫である。

ヒゲコメツキ Pectocera hige
サビキコリ Agrypnus binodulus

コメツキムシの仲間はひっくり返るとパチンと跳ねる習性をもつものが多いが、サビキコリは跳ねない。代わりに、古い雑巾のようなビミョーな臭いを放つ。

ゲンジボタル Luciola cruciata
ヘイケボタル Luciola lateralis
ムネクリイロホタル Cyphonocerus ruficollis

ホタルと言うとゲンジボタルとヘイケボタルばかりが有名であるが、あまり光らない種や、地味な見た目でひっそりと暮らしている種も多い。ホタルの幼虫は水の中で暮らすと考える人が多いが、そのような生態を持つ種はゲンジボタルやヘイケボタルなどごく一部で、世界的に見ても少ない。

カメノコテントウ Aiolocaria hexaspilota

日本最大級のテントウムシで、クルミハムシの幼虫を好んで食べる。よく見るテントウムシはつまむと黄色い汁を出すが、本種は赤色の禍々(まがまが)しい色の汁を出す。

ニホンキマワリ Plesiophthalmus nigrocyaneus
アトコブゴミムシダマシ Phellopsis suberea
ナガヒラタムシ Tenomerga mucida

枯れ木は昆虫にとって、とても大切な住み家であり、枯木そのものや、そこに生えるキノコは大切な餌でもある。キノコの生えた枯木を夜に見回ると、多くのコウチュウが楽しそうに歩き回り、キノコを美味しそうに食べている。枯れ木も虫の賑わいである。

ヨツボシテントウダマシ Ancylopus pictus

ダンゴムシを探していた板切れや石をひっくり返していると、時々見かける。テントウムシに似ているが、全く別のグループ。

ジョウカイボン Lycocerus suturellus

カミキリムシに似ているが、ホタルに比較的近い仲間で、肉食性のコウチュウである。

チビゲンゴロウ Hydroglyphus japonicus

ゲンゴロウの仲間にも小さい種がいる。この種は比較的身近な種だが、存在を認識している人は案外少ない。

展示4 ハチの仲間

ハチというとスズメバチやアシナガバチ、ミツバチ、クマバチあたりが有名だが、かなり多種多様な仲間を含み、皆さんの足元にいるアリもハチの仲間に含まれる。展示の主担当(私、渡辺)がハチの研究者ということもあり、他の虫よりも明らかに「ひいき」して展示している。こんなにマニアックなラインナップのハチを、常設展示している場所は国内であまりない(ほとんどない?)のではないだろうか。昆虫の世界では研究者も愛好家も、自分が推す昆虫が一番。究極の推し活といえよう。

葉っぱを食べるハチ

ヨウロウヒラクチハバチ Leptocimbex yorofui
セグロカブラハバチ Athalia infumata
オオナギナタハバチ Megaxyela togashii

ハチはもともと、植物を食べる昆虫であった。現在でもその仲間は繁栄していて、ハバチ類やキバチ類と呼ばれている。彼らの大半は、幼虫が植物食で、チョウやガの幼虫のようなイモムシ型の見た目をしている。ヨウロウヒラクチハバチは木の梢で縄張りを張り、それをめぐって争うために立派な大あごをもっている。セグロカブラハバチは最も身近なハバチの一つで、空き地や公園でもよく見る。成虫は毒がある植物をあえて食べて、体に毒をため込んで敵に襲われないようにする習性がある(人間には無毒)。オオナギナタハバチは少し前まではまぼろしのハバチであったが、春先のごく短い期間だけオニグルミの梢で見られることが判明し、神奈川県内でも続々と産地が見つかっている、元・まぼろしのハバチである。

寄生(きせい)バチ

アゲハヒメバチ Holcojoppa mactator
マイマイヒラタヒメバチ Pimpla luctuosa
ウスタビガフシヒメバチ Gregopimpla ussuriensis
ニホンヒラタタマバチ Ibalia japonica
キアシブトコバチ Brachymeria lasus

キバチの仲間が木に産卵する際に、誤って他の昆虫に卵を産み付けてしまい、その幼虫が肉の味を知ってしまったことで、寄生バチの仲間が出現したと言われている。針を上手に使うために、腹部を動きやすくするのに都合が良い「くびれ」が腹部に生じた。食料とする他の昆虫に卵を産み付け、寄生し、食べてしまう、自然界の「エイリアン」である(人間には寄生しないので、ご安心を)。寄生は寄生相手の抵抗があるため、多くは特定の相手にのみ行われる。アゲハヒメバチはアゲハの仲間に、マイマイヒラタヒメバチはマイマイガなど様々なガやチョウに、ウスタビガフシヒメバチはウスタビガに、それぞれ寄生する。マイマイガやアゲハは時に害虫になるため、寄生バチは害虫が増えすぎないように調整してくれている益虫という見方もできる。ニホンヒラタタマバチはキバチに寄生する。キアシブトコバチはありとあらゆるチョウやガに寄生し、さらにそれらに寄生したハエなどにも寄生する。寄生バチの生態は摩訶不思議である。

タマヌキケンヒメバチ Jezarotes tamanukii
エゾオナガバチ Megarhyssa jezoensis
ウマノオバチ Euurobracon yokahamae

寄生バチに狙われてしまったら、逃げることは難しい。上記の3種は木の中にかくれる昆虫に寄生する。獲物の匂いを手掛かりにしたり、触角や足の感覚器を使用して獲物の場所をつきとめ、長い産卵管を使って卵を産み付ける。木の中で何がおこなわれているのかは観察が難しく、ブラックボックスである。彼らが何を食べているのかを突き止める作業は、かなり大変である。

ミズバチ Agriotypus gracilis
エゾマルカギバラバチ(エゾカギバラバチ) Bareogonalos jezoensis

寄生バチの中には、極めて奇天烈な生態を持っているものもいる。ミズバチは川の中で暮らすニンギョウトビケラに寄生するため、成虫は水の中に潜る。川に流されないように足の爪が長く、体は空気を泡としてまとえるように、短い毛がびっしりと生えている。エゾマルカギバラバチも驚くような生態をもつ。彼らはヤナギなどの葉に、すごく小さい卵を膨大な数(1万個ともいわれる)産む。ガの幼虫などがその卵を葉と一緒に飲み込むことで、下準備は完了する。この後、スズメバチがそのガの幼虫を襲い、肉団子にして巣に持ち帰り、彼らの幼虫にその肉団子(エゾマルカギバラバチの卵入り)を与えることで、初めてスズメバチへの寄生が成立する。食料経由で獰猛なスズメバチの巣に入り込み、寄生する。しかも運任せの子育て。まさに自然界の驚異である(生態を明らかにした人もスゴイ)。

オオセイボウ Stilbum cyanurum
ハラアカマルセイボウ Hedychrum japonicum
ルイスヒトホシアリバチ Smicromyrme lewisi

セイボウ(青蜂)の仲間は、後述する狩りバチなどの幼虫に寄生する。美しい体が注目されがちであるが、彼らの体が頑丈で、ダンゴムシのように丸まり、身を守ることは、意外に知られていない。寄生相手の幼虫を探して巣に忍び込んだ際に、その親と鉢合わせ、毒針で反撃を受けたとしても、びくともしない合理的な体である。オオセイボウはスズバチ(スズメバチではない)に、ハラアカマルセイボウはナミツチスガリに寄生する。アリバチも同様に地面に掘られたハナバチなどの巣穴に入り込み、寄生する。オスには羽があり、メスをみつけると大あごでつかみ、飛べないメスをくわえて連れ去る。飛べない昆虫も運んでもらえれば遠くへ行けるのである。

オオモンツチバチ Scolia histrionica
コモンツチバチ Scolia decorata
アカスジツチバチ Scolia fascinata
キンケハラナガツチバチ Megacampsomeris prismatica
ツヤアリバチ Methocha japonica

ツチバチはコガネムシの幼虫に寄生する。メスのハチは匂いなどを手掛かりに、土の中にもぐり、獲物に麻酔して産卵する。ツヤアリバチはハンミョウ類の天敵で、ハンミョウの仲間の巣穴に近づき、餌と思って飛びかかってきた幼虫を毒針で返り討ちにし、産卵して餌にする。

狩りバチ

ベッコウクモバチ Cyphononyx fulvognathus
オオモンクロクモバチ Anoplius samariensis
オオシロフクモバチ Episyron arrogans

寄生蜂の仲間の中から、卵を寄主に産みっぱなしにするよりは、あらかじめ餌を集めて、それに卵を産むことを好むハチが進化した。それが狩りバチである。上記の種はクモを狩る。どうもうなクモを仕留めるため、強力な毒針をもっており、刺されると特に痛いハチらしい。ベッコウクモバチはこの仲間の代表で、いままでベッコウバチと呼ばれており、この仲間は皆○○ベッコウ、と呼ばれていた。しかしながら、べっ甲色の種は少数派なことから、最近ではクモバチと呼ばれるようになった。狩りをしてから巣穴を掘るので、古いタイプの狩りバチである。

キンモウアナバチ Sphex diabolicus
クロアナバチ Sphex argentatus
コクロアナバチ Isodontia nigella
サトジガバチ Ammophila sabulosa
キゴシジガバチ Sceliphron madraspatanum
ヤマトルリジガバチ Chalybion japonicum

アナバチの仲間はキリギリスの仲間を狩り、ジガバチの仲間はガの幼虫やクモを狩る。地面に巣穴を掘り、そこに獲物を貯蔵する。巣を用意してから獲物を貯蔵するため、少し習性が進化したカリバチである。巣の場所は景色で覚えているらしく、外出時はアリなどの天敵に巣を荒らされないよう、入り口を小石などで塞ぐ。ハチが外出中に、巣のそばに石などを置くと、景色が違うために帰ってきたハチが巣を見つけられず、迷ってあたふたする様子を見ることができる。

オオギングチ Ectemnius fossorius
ナミツチスガリ Cerceris storozhenkoi

ギングチバチの仲間は一般になじみが低いハチであるが、多様な一群であり、ハチ好きには人気があるグループである。枯れ木に巣をつくる種も多く、種ごとに様々な獲物を狩る。銀口蜂の名の通り、頭部の前方に銀色に光る部分をもつ(金色に光るゴージャス好きな種もいる)。ツチスガリは比較的ギングチバチに近いハチで、地面に巣穴を掘り、種ごとに様々な餌を狩る。

スズバチ Oreumenes decoratus
オオフタオビドロバチ Anterhynchium flavomarginatum
エントツドロバチ Orancistrocerus drewseni
ミカドトックリバチ Eumenes micado
ムモントックリバチ Eumenes rubronotatus
カタグロチビドロバチ Stenodynerus chinensis

巣をあらかじめ用意し、餌を蓄えてから産卵していた狩りバチの中から、産卵してから必要量の餌を蓄えるドロバチの仲間が出現した。巣も高度化し、「泥」で多種多様な巣をつくる能力を会得し、それは「紙」で巣をつくり、家族で暮らすスズメバチやアシナガバチに進化してゆくのである。トックリバチの巣は泥で作られた美しいもので、徳利(とっくり)のようにすぼまっており、中に餌は追加できるが、親や外敵は巣内に入ることができず、我が子を安全に守る。貯蔵が終わった巣は閉鎖され、安全な部屋で幼虫は成長する。彼らの短い前足やへら状の大あごは、泥を塗りたくるのに適した形をしている。見事な建築士であり、塗装工でもある。

アリの仲間

クロオオアリ Camponotus japonicus
クロヤマアリ Formica japonica
コツノアリ Carebara yamatonis

アリはれっきとしたハチの仲間である。地面に無数にある「すき間」を活用することで、巣をつくる労力を軽減し、地中生活に不便な羽を無くし、家族で暮らすようになった狩りバチともいえる。ハチの仲間なので、ヒアリのように刺すアリがいるのも納得できるだろう。ハチ目の昆虫はオスとメスを自由自在に産み分けることができる。また、家族で暮らすハチはカーストと呼ばれる分業制で、女王、オス、メスの働きバチ・アリがいて、それぞれの役割を担う。アリでも女王やオスには羽があり、ハチの姿そのものであるが、女王は巣をつくり始めたら羽を取り払ってしまう。コツノアリはおそらく当館で最も小さい展示物。ちゃんと紙の先に標本がついていて、しかも成虫である。見えないからといって老眼というわけではないので、ご安心を。

ハナバチの仲間

エサキムカシハナバチ Colletes esakii
ヒョットコメンハナバチ Hylaeus nigrocuneatus
ミツクリフシダカヒメハナバチ Andrena japonica
ウツギヒメハナバチ Andrena prostomias
ワタセヒメハナバチ Andrena watasei
ムネアカハラビロヒメハナバチ Andrena parathoracica
ヤマトヒメハナバチ Andrena yamato
シロスジフデアシハナバチ Dasypoda japonica
エゾケアシハナバチ Melitta ezoana
アオスジハナバチ Nomia incerta
アカガネコハナバチ Halictus aerarius
ホクダイコハナバチ Lasioglossum duplex
ヤマトツヤハナバチ Ceratina japonica
キオビツヤハナバチ Ceratina flavipes
サトウチビツヤハナバチ Ceratina satoi
ニッポンヒゲナガハナバチ Eucera nipponensis
シロスジヒゲナガハナバチ Eucera spurcatipes
アオスジフトハナバチ Amegilla dulcifera
ケブカコシブトハナバチ Anthophora plumipes

狩りをするハチの中から、花の蜜や花粉の栄養価に魅力を見出し、植物食に回帰したものがいる。彼らはハナバチの仲間で、花と強い関係をもつ昆虫である。花には多種多様なハナバチが来ているが、小さいものはひとくくりにミツバチと思われていることが多い。実はミツバチ以外にも多くのグループがいる。これらの種は日本で見られる主要なハナバチのグループである、ムカシハナバチ、メンハナバチ、ヒメハナバチ、ケアシハナバチ、コハナバチ、ツヤハナバチ、ヒゲナガハナバチ、コシブトハナバチをそれぞれ代表する種である。それぞれに特有の生態があり、ウツギヒメハナバチやホクダイコハナバチでは詳しい研究がされており、本も出ている。

オオハキリバチ Megachile sculpturalis
ツルガハキリバチ Megachile tsurugensis
バラハキリバチ Megachile nipponica nipponica
マイマイツツハナバチ Osmia orientalis

ハキリバチの仲間はその名の通り葉を切り取って、それを巣の材料にする。巣を造る場所、葉の切り取り方や使い方は種によって様々である。ただしオオハキリバチのように葉ではなくヤニを使う種や、泥で巣を造る種もいる。特に変わった種はカタツムリの殻に巣をつくるマイマイツツハナバチで、貝殻の中にいくつも部屋をつくり、花粉を貯蔵して卵を産む。

キムネクマバチ Xylocopa appendiculata circumvolans
アマミクマバチ Xylocopa amamensis
オキナワクマバチ Xylocopa flavifrons

クマバチは大型のハチで、スズメバチの別名「くまんばち」と似ている響きや、黒くて大きな体から怖がられることがあるが、極めて温厚なハチで、手で掴まない限り刺されることはほぼない。オスは山頂や広場など、開けた場所でドローンのように一定の場所で飛び続け、メスを待ち、なわばりに他のオスが飛んでくると追い払う。オスは花が黄色くて目が大きいので一目でわかる。この仲間は日本国内では1か所に1種のみが分布しており、南の島では地域ごとに種が異なる。最近外来種のタイワンタケクマバチが本州で増えており、在来のキムネクマバチ(クマバチ)との競合が心配される。

コマルハナバチ Bombus ardens ardens
トラマルハナバチ Bombus diversus diversus
クロマルハナバチ Bombus ignitus
ニホンミツバチ Apis cerana japonica

ハナバチの仲間でも、家族で暮らすグループが見られる。その代表がマルハナバチとミツバチの仲間である。スズメバチやアリと同じように、女王、オス、メスの働きバチが見られる。マルハナバチはぬいぐるみのような見た目で人気がある。ハナバチの仲間はストローのような口を上手に使って花の蜜を吸うが、口の長さと花の形はある程度対応している。コマルハナバチやクロマルハナバチは口が短く、トラマルハナバチは口が長い。花とハチの間にも相性があるのである。

どろぼうバチ

ヤマトムカシハナバチヤドリ Epeolus tsushimensis
ダイミョウキマダラハナバチ Nomada japonica
ギンランキマダラハナバチ Nomada ginran
オカモトキマダラハナバチ Nomada okamotonis
エサキヤドリコハナバチ Sphecodes simillimus
ハラアカヤドリハキリバチ Euaspis basalis
ウシヅノキマダラハナバチ Nomada comparata
ヤノトガリハナバチ Coelioxys yanonis
ナミルリモンハナバチ Thyreus decorus

ハチたちにとって、巣を造り、維持し、子の餌を集める暮らしは大変である。ハナバチの中には、自分で巣を造ったり、子の餌を集めることをやめ、他のハナバチが作った巣や集めた餌を横取りするどろぼうのような種がたくさんいる。彼らは花粉を集めるための毛がなく、家主の反撃にあっても耐えられるように体が硬くなっている。泥棒する相手のハナバチの巣の周囲でじっとしていたり、うろつきながら、泥棒をするスキを伺っている。ナミルリモンハナバチはしばしば「幸せを呼ぶブルービー(青いハチ)」と呼ばれるが、その実体はドロボウであり幸せとは何かを考えさせられる。ハチの生活は過酷でスリリングである。

展示5 トンボの仲間

空を悠然と飛ぶトンボたち、その姿は飛ぶ昆虫の王者たる貫禄がある。色彩の美しい種が多く、その色彩も多様なことで撮影対象としても人気がある。身近な存在であったことから一般にも親しまれている昆虫である。古代日本の呼び名である秋津島(あきつしま)の秋津はトンボを示すとされ、古来から日本人と関りが深い昆虫でもある。彼らの幼虫は「ヤゴ」であり、水田や河川など、水辺が豊富な日本は本来トンボの楽園であったといえるだろう。今も昔も、トンボは子供の良き遊び相手である。

「ヤンマ」と名のつくトンボ

オニヤンマ Anotogaster sieboldii

日本最大のトンボ。大きい個体からすごく大きい個体まで、大きさには意外に変異がある。ここに展示した個体はすごく大きい個体。

ギンヤンマ Anax parthenope julius
マルタンヤンマ Anaciaeschna martini
マダラヤンマ Aeshna soneharai

ヤンマにも色々いる。子供のあこがれ(ギンヤンマ)、初心者の昆虫少年の憧れ(マルタンヤンマ)、それなりに経験値を積んできたトンボ好きの憧れる日本でも屈指の美麗種(マダラヤンマ)。活きている時のあの瞳の輝きは捕まえた人にしかわからない。マルタンは某宇宙忍者の星人に似た響きだが、フランスのトンボ学者にちなむ。

コオニヤンマ Sieboldius albardae

名前はヤンマだがヤンマ科ではなく、サナエトンボ科、ちなみにオニヤンマはオニヤンマ科。この種は他のトンボもよく襲って食べるので、他のトンボから見たらまさに鬼である。

「赤いとんぼ」と「赤とんぼ」

アキアカネ Sympetrum frequens
ナツアカネ Sympetrum darwinianum
ショウジョウトンボ Crocothemis servilia
ウスバキトンボ Pantala flavescens
ハッチョウトンボ Nannophya pygmaea

赤とんぼとされるのはこの中ではアキアカネとナツアカネ。ショウジョウトンボやハッチョウトンボ、ウスバキトンボは厳密に言うと赤とんぼの仲間ではない。最近赤とんぼが減っていると聞いても信じてくれない人は、たいていウスバキトンボに騙されている。ウスバキトンボは南方で成虫が発生し、台風などで北上して毎年関東にも多数が飛来し、北海道まで達するが、寒さのため毎年死滅する。そのため、水辺環境が劣悪でもたくさん見られるのである。ハッチョウトンボは日本最小のトンボで、オスとメスで体の色が大きく異なる。湿原で見られる。

生きた化石

ムカシトンボ Epiophlebia superstes

有名な生きた化石。日本昆虫学会のロゴマークにも使われているまさに日本を代表する昆虫の一つ。見た目はでっぷりしていて鈍くさそうだが、実は相当速く飛ぶ。春に山間の清流に見られ、神奈川県にもいる。ヤゴの期間が特に長いトンボで、長いものでは成虫になるまでに7年かかるとも言われる。

トンボの止まり方

ミヤマカワトンボ Calopteryx cornelia
アジアイトトンボ Ischnura asiatica
アオモンイトトンボ Ischnura senegalensis
チョウトンボ Rhyothemis fuliginosa
コシアキトンボ Pseudothemis zonata

野外でトンボを見ていると、止まるときに羽を閉じて止まるものと、開いて止まるものがいる。前者を均翅亜目(きんしあもく)といい、上記の種ではミヤマカワトンボ、アジアイトトンボ、アオモンイトトンボが該当する。後者は不均翅亜目(ふきんしあもく)といい、チョウトンボとコシアキトンボがこれらの中では該当する。このような傾向は割合はっきりしているが、ムカシトンボは不均翅亜目ながら羽を閉じて止まる。

展示6 ハエの仲間

昆虫の中で特に種数が多い分類群は5つある。チョウ目、コウチュウ目、ハチ目、カメムシ目、そしてハエ目である。これら五大昆虫の中で、チョウ目とコウチュウ目は人気があり、やたらと優遇される。そしてこれらの愛好家は他のグループの昆虫を「雑虫(ざっちゅう)」と呼び、その扱いは悪い。ハエ目はハエ、アブ、カ、ユスリカなどを含み、衛生害虫が含まれるせいでとにかく酷い扱いを受けやすいが、特に市民権を向上させたい分類群である。

今回この箱で展示している種の大半は、当館収蔵のハエ目標本の中から、特にカッコ良い種や美しい種などを中心に選んだ。これらはハエ目の専門家により種名が判明している点で、資料的価値も高いものである。展示している種の大半は人畜無害で、人知れず自然の中で暮らしているハエたちである。彼らの魅力が少しでも伝われば幸いである。

昆虫界の名ハンター、ムシヒキアブ

オオイシアブ Laphria mitsukurii
シオヤアブ Promachus yesonicus
メスアカオオムシヒキ Microstylum dimorphum
ハタケヤマヒゲボソムシヒキ Grypoctonus hatakeyamae

「虫引きアブ」の名の通り、この仲間は狩りの名手で、見通しの良い枝先などに止まり、通りかかった他の昆虫を空中で捕らえ、吸血する。メスアカオオムシヒキは南西諸島に見られる日本最大のムシヒキアブで、かなり大きい昆虫も捕獲する。ハタケヤマヒゲボソムシヒキは冬が目前に迫った山林を歩くと出会える種で、ゆるキャラみたいで可愛らしい種である。

スズメバチの巣で暮らす「つわもの」

ベッコウハナアブ Volucella jeddona
ニトベベッコウハナアブ Volucella linearis
シロスジベッコウハナアブ Volucella pellucens

ベッコウハナアブの仲間の幼虫はスズメバチの巣の中で暮らし、巣の底にたまったゴミや、場合によってはスズメバチ類の幼虫やさなぎを食べるという。ずいぶん危ない場所での暮らしが好きな虫である。

ハチの威を借るハエ

ハチモドキハナアブ Monoceromyia pleuralis
ヒメハチモドキハナアブ Takaomyia johannis
ムツボシハチモドキハナアブ Takaomyia sexmaculata
ヨコジマナガハナアブ Temnostoma vespiforme
オオナガハナアブ Spilomyia gigantea
シロスジナガハナアブ Milesia undulata
スズキナガハナアブ Spilomyia suzukii
ニトベナガハナアブ Temnostoma nitobei
オオモモブトハナアブ Matsumyia jesoensis
タカオハナアブ Criorhina takaoensis
ナミハナアブ Eristalis tenax
ミケハラブトハナアブモドキ Mallota inopinata
マダラマルズヤセバエ Mimegralla albimana

ハエの仲間、とくにハナアブやアブの仲間には、ハチのような見た目をしているものが多い。スズメバチのような見た目のものや、マルハナバチのような見た目のものまで、よく似た色彩をもつ種が見られる。これらの種は、見た目だけではなく、行動も擬態しているのが興味深い。いずれもモデルのハチたちは刺されると極めて痛いものばかりであるが、擬態するハナアブやアブの仲間自身は針がなく刺すことはできない。変わったハチ擬態の例としては、マダラマルズヤセバエがある。同所的に見られるヒメバチに似せて、中足を前に伸ばして歩き、まるでヒメバチの触角のように動かすのである。

オオハナアブ Phytomia zonata
アシブトハナアブ Helophilus eristaloideus
シマハナアブ Eristalis cerealis
ミツオビヒゲナガハナアブ Chrysotoxum coreanum
キガオハラナガハナアブ Brachypalpoides flavifacies
キバラナガハナアブ Macrozelima hervei
ハラアカハラナガハナアブ Chalcosyrphus frontalis
アカアシモモブトハナアブ Mallota rubripes
ツマグロコシボソハナアブ Allobaccha apicalis
フタスジヒラタアブ Dasysyrphus bilineatus

ハナアブの仲間はハチに似た色彩のものを含め、多くの種が知られる。ハエ目の中では特に人気がある一群で、「はなあぶ」という名前の雑誌すらあるほどである。花粉の媒介に役立つ種がいるほか、ヒラタアブ類がアブラムシの天敵となるため、農業上の益虫も存在する。

汚いムシはみな害虫か?

オオクロバエ Calliphora nigribarbis
ケブカクロバエ Aldrichina grahami
ヒロズキンバエ Lucilia sericata
ベッコウバエ Dryomyza formosa
ヒメフンバエ Scathophaga stercoraria
キイロコウカアブ Ptecticus aurifer

ハエの中には腐敗物や糞、動物の死がいなど、いわゆる汚物に来る種も知られる。そのため、汚いムシという文字通り汚名を着せられるが、見方を変えればこれらを分解してくれる、自然界の掃除屋ともいえる。そして、彼らを良く観察すると、足をつかってやたらと体の汚れを落としていたり、汚れがつきにくいように長い体毛を持っていたりと、色々工夫をしているのも見て取れる。上記種の中で、オオクロバエは暑い季節は涼しい場所に、涼しい場所は暖かい場所に移動する生態を持っている(アキアカネなどでも知られる)。さらに、最近では鳥インフルエンザの伝播に関与することが明らかになってきている。習性的にも防疫的にも興味深い昆虫である。ヒロズキンバエは衛生害虫に括られがちだが、花粉の媒介に利用されたり、マゴット・セラピー(ケガの治療法の一つ)に活用されたり、釣りえさの「サシ」としても利用されている。

グルメなハエたち

オオマエグロメバエ Physocephala obscura
ジョウザンメバエ Conops flavipes
ハマダラツリアブモドキ Atriadops javana
セダカコガシラアブ Oligoneura nigroaenea
ヒゲナガヤチバエ Sepedon aenescens

ハエ目の仲間はかなりグルメである。少し変わった餌を食べるものも多い。メバエの仲間はハナバチなど、ハチの仲間の成虫に寄生し、幼虫はハチを体内から食べて育つ。ツリアブモドキの仲間はバッタ目に寄生し、キリギリス等の成虫の腹部を食べ、幼虫は成長したら腹部に孔をあけて、食い破って出てくるという。セダカコガシラアブは不思議な見た目をした虫で、クモに寄生する。ヤチバエの仲間は貝を食べるため、水辺で見られる種が多い。

ドブ暮らしの悲劇

ミズアブ Stratiomys japonica
ルリミズアブ Sargus niphonensis
ヒラヤマミズアブ Odontomyia hirayamae

ミズアブの仲間は幼虫が水生のものが多く、水辺で見られる。その代表的な種であるミズアブはかつてドブなど、汚水環境で発生してよく見られたそうであるが、近年はドブが減り、下水が整備されたこともあり、あまり見られなくなった。キレイの基準は虫それぞれである。

見栄えが良いハエ

ミスジミバエ Bactrocera scutellata
ミツボシハマダラミバエ Proanoplomus japonicus

ミバエは見栄えが良いハエではなく、実に入るハエを意味する。果樹や野菜の害虫も多く、一部の種がゴーヤやカンキツなどの大害虫であるために悪者にされがちであるが、野山で平凡に暮らしている無害の種も多い。多くの種は実際に「見栄え」が良くて美しい。

カワイイ見た目にご用心

ビロウドツリアブ Bombylius major
クロバネツリアブ Ligyra tantalus
ニトベハラボソツリアブ Systropus nitobei

ツリアブの仲間は花に来ていたり、地表付近をゆっくり飛んでいたりと、良く目にする昆虫である。特にビロウドツリアブはもふもふした見た目が可愛らしく、ハエ界のゆるキャラであるが、その生態はえげつなく、お尻の先に砂を貯めこみ、その砂と自身の卵を一緒に地面に開いたハチの巣穴付近にばらまき、ふ化した小さな幼虫はそこから巣穴に侵入し、ハチに寄生する。ハチからみたら悪魔の使いである。

ハエのあれこれ

アリノスアブ(アリスアブ) Microdon japonicus

幼虫はアリの巣の中で暮らし、その見た目は奇天烈な姿である。図鑑類やインターネットなどでぜひ調べてみていただきたい。

ヒメシュモクバエ Sphyracephala detrahens

シュモクバエはシュモクザメのように目が突き出た不思議な形をしたハエで、東南アジアに多くの種が分布するが、日本には南西諸島に本種が分布するのみである。

ハマダラハルカ Haruka elegans

属名がハルカ(春蚊)、種名がエレガンス(上品)と、学名がカッコ良い種。春先に雑木林で見かけることがある美しい虫で、カとは違うグループなので、人を襲って吸血することはない。

トワダオオカ Toxorhynchites towadensis

日本最大のカ。刺されたらめちゃくちゃ痒そうであるが、人を襲うことはない。幼虫は他のカの幼虫(ボウフラ)を食べるため、むしろ我々の味方である。腹部が青光りして美しい。

ヒゲナガヒロクチバエ Lamprophthlama japonica
ハマダラナガレアブ Atherix ibis japonica
メスアカケバエ Bibio japonica
ミツボシキアブモドキ Xylomya moiwana
ハマダラヒロクチバエ Prosthiochaeta flavihirta
ネグロクサアブ Coenomyia basalis

ハエの仲間の特徴として、含まれる科の数がとても多い点がある。資料を調べてみると、聞いたことが無いような名前の○○バエ、○○アブ、○○カが並ぶ。このマニアックさと多様さがハエの魅力の一つであるといえよう。上記の種のうち、メスアカケバエを含むケバエは、初夏など特定の季節に大量の成虫が現れ、空を乱舞する。標本を見て、見たことあると思う方は案外多いのではなかろうか。

展示7 カメムシの仲間

カメムシというと「くさい虫」というイメージが強いが、昆虫の中で特に種数が多い五大グループ(チョウ目、コウチュウ目、ハチ目、ハエ目、カメムシ目)に不完全変態昆虫(サナギの段階がない昆虫)で唯一仲間入りしているすごいグループである。彼らの特徴は針状の口で、様々な食物を上手に利用して反映している。

この仲間にはセミ、ウンカ、ヨコバイ、アメンボ、タガメ、アブラムシ、カイガラムシなど、様々な昆虫が含まれている。意外に様々な昆虫がカメムシの仲間なので、「えっ、これもカメムシの仲間なの?」と思う人も結構多いだろう。今回の展示では、乾燥標本が作りにくいアブラムシなどを除き、様々なグループをなるべく広く展示するようにし、マニアックな種も多々含めた。出したい種が多すぎてスペースが不足し、アメンボの仲間だけはバッタやカマキリたちと同じ箱に移した。別の箱で紹介しているものもかなりある。併せて見ていただきたい。

アサシン・バグ

アカシマサシガメ Haematoloecha nigrorufa
ビロウドサシガメ Ectrychotes andreae
クロバアカサシガメ Labidocoris insignis
アカサシガメ Cydnocoris russatus
シマサシガメ Sphedanolestes impressicollis
トゲサシガメ Polididus armatissimus
モンキヒラタサシガメ Tiarodes miyamotoi
ウスイロカモドキサシガメ Tridemula ishiharai

カメムシの仲間にサシガメというグループがある。動きが緩慢な種が多いが、獲物に忍び寄り、一瞬の素早い動きで仕留める。暗殺者(アサシン)のような生態をもつ虫(バグ)のためか、海外ではアサシン・バグと呼ばれている。一部の種は手で持つと刺すことがあるので注意。獲物を捕らえるために前足がカマのようになっている種も見られる。アカシマサシガメやビロウドサシガメはヤスデを好んで食べるため、家の周りでもよく見られる。トゲサシガメはチガヤの草むらなどにしゃがみ込み、その根元を丁寧に探すと時々見つかる。トゲトゲの体がカッコよい。モンキヒラタサシガメは南西諸島の亜熱帯林に分布する珍しい種で、カメムシ愛好家が欲しがる種である。変わった虫として、カモドキサシガメの仲間がいる。カのような見た目をしていて、実際にカが多い茂みなどを網ですくうと、カに混じって採集される。

美麗なカメムシ

オオキンカメムシ Eucorysses grandis
アカスジキンカメムシ Poecilocoris lewisi
シロジュウジホシカメムシ Dysdercus decussatus
アオクチブトカメムシ Dinorhynchus dybowskyi
エサキモンキツノカメムシ Sastragala esakii
アカスジカメムシ Graphosoma rubrolineatum
ベニツチカメムシ Parastrachia japonensis
ナガメ Eurydema rugosa
ヒメナガメ Eurydema dominulus
アカアシカスミカメ Onomaus lautus

カメムシの仲間にも多くの美麗種がいる。標本にすると色あせてしまう種が多く、とびきり美しいキンカメムシの仲間のように、体に含まれる脂のせいで、どうしても生きている時の色が残せないものもある。ナガメとヒメナガメは春先のナノハナ類、アカスジカメムシは畑のニンジンで見かける。エサキモンキツノカメムシは背中のハートの模様がかわいらしい、美しいカメムシで、神奈川県内でもよく見る。カメムシに詳しい高校生によると、ときどき採れるハートの模様の中央が黒ずんだ個体は「失恋型」というらしい(学問的な定義ではないが秀逸な表現である)。ベニツチカメムシは子育てをする珍しいカメムシで、その母親の愛情あふれる子育ての様子は、下手なドラマよりも泣けるものである。

形がカッコよいカメムシ

オオヘリカメムシ Molipteryx fuliginosa
ヤセオオヒラタカメムシ Mezira tremulae
ホソヘリカメムシ Riptortus pedestris
ウシカメムシ Alcimocoris japonensis
ノコギリカメムシ Megymenum gracilicorne
ハサミツノカメムシ Acanthosoma labiduroides

枯れ葉や枯れ枝に似た見た目の種が多いのも、カメムシの仲間の魅力である。オオヘリカメムシはアザミなどにじっと止まっているが、知らないと枯れた部分に見える。ヒラタカメムシは枯れ木についているカメムシで、擬態の名人。キノコを食べてひっそりと暮らしている。ウシカメムシは牛のような立派な突起をもっている。天敵からみると、食べにくいのかもしれない。ハサミツノカメムシはオスにハサミのような突起があり、これでメスをしっかりつかむ。

カメムシの「美」

エビイロカメムシ Gonopsis affinis
ウズラカメムシ Aelia fieberi
オオメナガカメムシ Geocoris varius
クロナガカメムシ Drymus marginatus
オドリコナガカメムシ Scolopostethus odoriko
オオモンシロナガカメムシ Metochus abbreviatus
オオヒメヘリカメムシ Rhopalus latus
ヨコヅナツチカメムシ Adrisa magna
マルカメムシ Megacopta punctatissima
ヒイロカスミカメ Pseudoloxops miyatakei
コブヒゲカスミカメ Harpocera orientalis
ケブカカスミカメ Tinginotum perlatum

カメムシと言っても大小様々な種がいる。その色彩や形も千差万別、多様な昆虫である。臭い匂いで嫌がられるマルカメムシですら、体表にある細かな網目模様は、芸術的な美しさである。あまり注目されないカスミカメムシの仲間は、体が繊細で小さく、美しく標本をつくるのは大変で、種名調べも骨がおれるが、繊細な美しさがある。

グンバイムシの仲間

エグリグンバイCochlochila conchata
マルグンバイ Acalypta sauteri

軍配(団扇)のような見た目をした小さな昆虫で、種ごとに特有の網目状の美しい模様や突起があり、顕微鏡で見ると実に美しい虫である。この仲間のように、小さすぎるが故に人間に良さを分かってもらえない虫は多い。もしもこの仲間の大きさがカブトムシくらいあれば、きっと博物館の昆虫展示の一角は、この仲間が堂々と占めているだろう。

セミの仲間

アブラゼミ Graptopsaltria nigrofuscata
ミンミンゼミ Hyalessa maculaticollis
ツクツクボウシ Meimuna opalifera
ニイニイゼミ Platypleura kaempferi
ヒメハルゼミ Euterpnosia chibensis
イワサキクサゼミ Mogannia minuta

セミがカメムシの仲間と聞くと、ショックを受ける方がいるかもしれない。しかし彼らの口を見れば一目瞭然、カメムシの仲間の特徴である針状の口が観察できる。ここに示したセミのうち、アブラゼミ、ミンミンゼミ、ツクツクボウシ、ニイニイゼミはよく見られる身近なセミである。ヒメハルゼミは南方系のセミだが、神奈川県にも分布し、箱根町や湯河原町の照葉樹林で鳴き声を聞くことがある。イワサキクサゼミはもっと南に分布する日本最小のセミで、南西諸島で見られ、サトウキビ畑やその周りで割合にふつうに見られ、草の汁を吸う。セミは抜け殻も良く観察される。ニイニイゼミの仲間は幼虫が体に乾燥防止のための泥パックをする。それが羽化後にも残るため、泥付きの特別な抜け殻となり、個性的である。

ヨコバイやウンカの仲間

ツマグロオオヨコバイ Bothrogonia ferruginea
オオヨコバイ Cicadella viridis
シロズオオヨコバイ Oniella honesta
マエジロオオヨコバイ Kolla atramentaria
リンゴマダラヨコバイ Orientus ishidae
ハスオビヒシウンカ Betacixius obliquus
アカハネナガウンカ Diostrombus politus
ウスマエグロハネナガウンカ Zoraida albicans
キボシマルウンカ Gergithus iguchii
マルウンカ Gergithus variabilis

ヨコバイやウンカは、農業に関連する人にはなじみが深いが、一般の人にはあまり知名度がないかもしれない。ただ、その見た目から通称「バナナムシ」と呼ばれるツマグロオオヨコバイを見たことがある人は多いだろう。観察会などで聞かれたときには「鳴かないセミの仲間」、のように例えているが、セミにやや近い、カメムシ目の昆虫である。この仲間は飛ぶだけでなくピョンと跳ねるものが多い。草むらや森林など、あらゆる環境にいろいろな種がおり、地味に見える種も良く観察すると美しいものが多い。上記の種の中で変わった見た目をしているのがハネナガウンカやマルウンカの仲間で、一体何の虫だろうと思う人が案外に多い。マルウンカはテントウムシのような見た目をしており、美しい。

スケバやハゴロモの仲間

テングスケバ Dictyophara patruelis
アオバハゴロモ Geisha distinctissima
ベッコウハゴロモ Orosanga japonicus
アミガサハゴロモ Pochazia albomaculata

ヨコバイやウンカの仲間には後述のアワフキムシやツノセミ、ミミズクと言った仲間に加え、スケバ(透け羽)やハゴロモといったグループも含まれる。どれも個性的な見た目をしており、特に顕微鏡で観察した際の美しさや格好良さは、昆虫界でも上位に来る。その割に人気が出ないので、今回はあえて多めに展示に加えた。上記の種の中では、アオバハゴロモが特に身近で、公園などで見たことがある人は多いだろう。同様にアミガサハゴロモも身近だが、最近外来種のチュウゴクアミガサハゴロモが激増しており、見られるものは大半が外来種の方である。

アワフキムシの仲間

シロオビアワフキ Aphrophora intermedia
ハマベアワフキ Aphrophora maritima
テングアワフキ Philagra albinotata
ムネアカアワフキ Hindoloides bipunctata
タケウチトゲアワフキ Machaerota takeuchii

公園や野山を散歩していると、道脇の草木に泡が着いている様子を見ることがあるだろう。この中にはアワフキムシの幼虫が入っており、草木の汁を吸いながら、おしっこを泡立てて身をまもっている。この虫が成虫になったものが展示標本である。

ツノセミの仲間

ツノゼミ Butragulus flavipes
トビイロツノゼミ Machaerotypus sibiricus
モジツノゼミ Tsunozemia paradoxa

ツノゼミは近年では書籍も出て、人気が出ている昆虫である。海外の種には奇抜な形のものも少なくないが、日本の種はどれも比較的おとなしめで、地味である。しかしながら、彼らもよく見ると美しい。このような傾向は、どうも日本人の性格や美とも通じるものがある。

ミミズクの仲間

ミミズク Ledra auditura
コミミズク Ledropsis discolor
ヒラタミミズク Tituria angulata

まるで鳥のような名前だが、昆虫である。植物にもオオムラサキやミヤマクワガタがあるように、分野をまたいで同じ名前をもつものが、この業界ではときどきある。ヒラタミミズクは南に行かないと出会えないが、ミミズクやコミミズクは県内の山林でよく見かける、身近な昆虫である。

展示8 バッタの仲間

草むらに見られる代表的な昆虫で、子供の良い遊び相手も多い他、コオロギやキリギリスなど、いわゆる「鳴く虫」も多く、大人を楽しませる風流な種も多々含まれる。ここでは代表的な種に加え、全国各地に産する少しマニアックな種を展示した。標本づくりで言えば、他の昆虫よりも色が変わりやすく、特に緑色をきれいに残すことは手間がかかる。このために、たくさん見られる割に標本を集めにくいグループである。

バッタの仲間

トノサマバッタ Locusta migratoria
クルマバッタ Gastrimargus marmoratus
クルマバッタモドキ Odedaleus infernalis
ツチイナゴ Patanga japonica
ヤマトフキバッタ Parapodisma setouchiensis

子どもにとって大きくて逃げ足の速いこれらのバッタは人気者である。神奈川県内においては公園で良く見るバッタは大抵クルマバッタモドキとツチイナゴで、トノサマバッタは良く知られたバッタであるが、河川敷などある程度開けた草地がないとあまり見かけない。ツチイナゴは成虫で冬越しをするため、真冬に草むらで遊んでいて出会うことがある。

ショウリョウバッタ Acrida cinerea
ショウリョウバッタモドキ Gonisla bicolor

細長いバッタも人気がある。いずれも顔が細長く、よく見ると目と口が離れた愛嬌のある顔をしており、他の多くのバッタと同じく、メスの方がオスよりも明らかに大きい。両種は似ているが、ショウリョウバッタモドキの方が短足で、ショウリョウバッタのオスは飛ぶときにキチキチ音を出すが、ショウリョウバッタモドキのオスは音を出さない点でも区別できる。

ヒナバッタ Glyptobothrus maritimus
オンブバッタ Atractomorpha lata
コバネヒシバッタ Formosatettix larvatus
ノミバッタ Xya japonica

草むらには小さなバッタたちもいる。これらは身近な小さいバッタである。あまり遠くに逃げず、特にオンブバッタは小さな子どもでも捕まえやすいので、良き子どもの遊び相手である。

キリギリスの仲間

ヒガシキリギリス Gampsocleis mikado
クツワムシ Mecopoda nipponensis
クビキリギス Euconocephalus varius
クサキリ Ruspolia lineosa
カヤキリ Pseudorhynchus japonicus
ササキリ Conocephalus melanus
サトクダマキモドキ Holochlora japonica
コロギス Prosopogryllacris japonica

キリギリスの仲間は長い触角をもち、左右から圧されたような体形のものが多い。代表的な鳴く虫で、キリギリスのように風流な声で鳴くものもいれば、カヤキリのように騒音級の電子音のような声で鳴く種もいる。この仲間は肉食性が強いものと、草食性が強い種がいる。凶悪な見た目の口を持った種もいるが、これは硬い植物を食べるために発達したものであることがある。むしろ、肉食性が強い種は、足の内側に獲物を捕らえるためのトゲが発達するため、足の特徴を見る方がわかりやすい。

コオロギの仲間

エンマコオロギ Teleogryllus emma
ツヅレサセコオロギ Velarifictorus micado
マツムシ Xenogryllus marmoratus
カネタタキ Ornebius kanetataki
ケラ Gryllotalpa orientalis

キリギリスの仲間に似るが、地面に潜る種も多いためか、上下に圧された平べったい体形の種が多い。こちらも鳴く虫が多く含まれ、エンマコオロギやマツムシのように、美しい声を奏でる種も多い。上記の種の中ではケラ(おけら)はモグラのような前足がユニークで、可愛らしい昆虫だが、「もぐる」「泳ぐ」「飛ぶ」「鳴く」とあらゆる能力を持った、まさに「超虫」である。

南の島で見られるバッタ目の仲間

タイワンモリバッタ Traulia ornata
タイワンツチイナゴ Patanga succincta
ヒラタツユムシ Togona unicolor
マダラコオロギ Cardiodactylus guttulus
ヤンバルクロギリス Paterdecolyus yanbarensis

バッタの仲間にも当然、南の島に見られるエキゾチックな種が存在する。上記の種は、それらの代表的な種である。モリバッタはその名の通り森に見られ、美しい模様をもつ。ヒラタツユムシは擬態の名人で、まさに葉そのものの見た目をしている。ヤンバルクロギリスは夜行性の大型種で、毒蛇ハブの恐怖に耐えながら、夜中に亜熱帯林を散策すると、その姿を見ることができる。

展示9 その他の昆虫

昆虫と言っても極めて多くのグループが存在する。現生の昆虫において、大きなグループである「目(もく)」の単位で見ても、諸説あるが30近い目が知られている。今までに7つの目(チョウ目、コウチュウ目、ハチ目、トンボ目、ハエ目、カメムシ目、バッタ目)を紹介してきたので、昆虫好きとしては、残りの20以上の目を紹介する必要がある。しかしながら、乾燥標本にしにくいグループや、入手が難しいグループなどもあり、今回は一部のグループのみを展示させていただくことにした。その他とひとくくりにするのは虫とそのファンに失礼かもしれないが、まずは色々な昆虫がいることを知っていただければ幸いである。

アメンボの仲間

オオアメンボ Aquarius elongatus
アメンボ Aquarius paludum
ヒメアメンボ Gerris latiabdominis
ケシカタビロアメンボ Microvelia douglasi

彼らはカメムシ目の仲間であるのだが、カメムシの推しが多すぎて、箱に収まらなかったため、この箱に入っている。アメンボとヒメアメンボは最もよく見られるアメンボの仲間で、多くの人が見たことがあるだろう。オオアメンボは見かけたときに思わず「おお!」と声が出る巨大なアメンボで、河川や大きなため池の水面を堂々と泳いでいる。都会育ちの昆虫少年の中には、「大きなアメンボ」をオオアメンボと思い込んでいた人も少なくないだろう。一方で、ケシカタビロアメンボは微小なアメンボで、展示している個体はこれでも成虫である。公園の池などでも意外に生息しており、池の縁にしゃがんで、水面をじっと見ると、足元付近をちょろちょろ歩き回っていることがある。

カマキリ目の仲間

オオカマキリ Tenodera aridifolia
ハラビロカマキリ Hierodula patellifera
ヒナカマキリ Amantis nawai

カマキリは子供たちに人気のスター。オオカマキリよりもハラビロカマキリの方が体は小さいのにカマでつかまれるとより痛いので、ハラビロカマキリをつかめる子供は度胸がある。顔が動いてこちらを見つめてくるのと、お互いの目線が合うのが昆虫好きとしてはたまらない。ヒナカマキリは成虫でも羽がなく、地面を歩く小さなカマキリで、昆虫を探している人は時々出会う虫だが、一般の人にはなじみが少ないと思う。

ゴキブリ目(G)の仲間

ヤマトゴキブリ Periplaneta japonica

日本に元からいるG。かつては害虫扱いされたこともあるが、黒いG(クロゴキブリ)に圧倒されて、県内では比較的自然環境が残っている場所でないとなかなか見られない。夜間に樹液の見回りでカブトムシやクワガタムシと一緒に見られ、ハズレ扱いされるが、よく見られるカブトムシやノコギリクワガタと比べたらはるかに良い虫なので、私自身は野外でこのGを見つけると少し嬉しくなる。

モリチャバネゴキブリ Blattella nipponica

野生のG。よく似たチャバネゴキブリは建物に出るが、この種は野外にだけ見られ、悪さをしない。胸の模様がチャバネゴキブリとモリチャバネゴキブリではすこしちがう。

オオゴキブリ Panesthia angustipennis

朽木を食べて暮らし、動きはのろくてどんくさい。かわいいG

ルリゴキブリ Eucorydina yasumatsui

南の島で見られ、美しい上に結構珍しいため、見つけるとかなり嬉しいG

ヤエヤママダラゴキブリ Rhobdoblatta yaeyamana

南西諸島の森林に見られる、日本最大のG。我々の業界では沖縄土産として喜ばれる。

ガロアムシ目の仲間

ガロアムシの一種 Grylloblattodea gen. et sp.

ガロアムシは昆虫好きのフランスの外交官、ガロアに献名された昆虫。ガレ場などの地中に暮らし、成虫でないと種名がわからず、しかも不明種も多いようで、今後の研究が期待されているグループである。体が縮みやすいので、本来はアルコールなどに浸して液浸標本にする。

シロアリモドキ目の仲間

コケシロアリモドキ Aposthonia japonica

足から糸を出す昆虫。昆虫好きでも知っている人は案外少ない。シロアリと異なり、木材を食べることはない。オスには羽がある個体と無い個体がいる。南方系の昆虫で、九州南部と南西諸島で見られる。かつて九州で昆虫研究家の集まりがあった際に、会場の前の木にこの虫がたくさんいたために、昆虫学者が喜々としてその木に群がり採集にはげむという、異様な光景が目撃されたという。

ナナフシ目の仲間

ナナフシモドキ(ナナフシ) Ramulus mikado

いわゆるザ・ナナフシ。ナナフシモドキ、またの名をナナフシ、頭がこんがらがる和名である。本来の意味ではナナフシは七節(たくさんある木の枝)を示し、それに似た虫でナナフシ+モドキ(似た者)とう名前が虫についたらしい。つまり、ナナフシモドキ、略してナナフシである。

トゲナナフシ Neohirasea japonica

全身とげだらけのナナフシで、羽がないため地上を歩き、シダを食べる。道路わきの側溝に落ちて抜け出せなくなっている個体を見ることもある。

ハサミムシ目の仲間

オオハサミムシ Labidura riparia

大きいハサミムシ。河川敷や海岸ではときどきすごく大きい個体が見られる。展示した個体もその一つ。

ハマベハサミムシ(ハサミムシ) Anisolabis maritima

いわゆるザ・ハサミムシ。和名はハマベだが、その辺の空き地や畑の脇など、どこでも見られる。この仲間には幼虫が成長するまで子育てをする種がいる。

トビケラ目の仲間

ガのような見た目をしている昆虫で、チョウ目と近縁のグループである。幼虫は水中で暮らすものが多く、様々な形の巣をつくることが知られている。ハチ目の箱に天敵ミズバチに寄生されたニンギョウトビケラの巣(石人形とよばれる)が展示してあるので、併せて見ていただきたい。川魚の餌になるため、カゲロウやカワゲラ(これらは液浸標本が主なので、展示していない)とともに川虫とされる。種ごとに好む環境が違うため、環境を測る物差し(環境指標)となる。

ムラサキトビケラEubasilissa regina

大型で美しいトビケラ。トビケラの仲間は地味な体色のものが多いが、本種は格別に美しい。夜に明かりに飛んでくる。

ヒゲナガカワトビケラ Stenopsyche marmorata

幼虫は川の中に住み、石の間に糸で網をはり、そこにひっかかった餌を食べている。この幼虫は信州などでは「ざざむし」として食用にされる。成虫は当館の明かりにも良く飛来する。

ウスバカゲロウ目の仲間

カゲロウとあるがカゲロウ目の昆虫(いわゆる「カゲロウ」)とはまったく別の昆虫で、不完全変態のカゲロウ目とは異なり、サナギの段階がある。ツノトンボやカマキリモドキ、ラクダムシなど、へんてこな見た目の昆虫も含まれる、地味に人気のある昆虫である。ヘビトンボやラクダムシの仲間は別の目とされることがある。

ウスバカゲロウ Baliga micans
ホシウスバカゲロウ Paraglenurus japonicus
コマダラウスバカゲロウ Gatzara jezoensis

幼虫はアリジゴクとよばれる。アリジゴクと一口に言っても生態は様々で、すりばち型の巣をつくる種(ウスバカゲロウ)もいれば、そういった巣をつくらない種(ホシウスバカゲロウ)、岩の表面にくっ付いたまま暮らす種(コマダラウスバカゲロウ)など、色々いる。個人的にはあの小さなアリジゴクがどうしてこんなに巨大な体の成虫になるのか、不思議でしょうがない。

アミメクサカゲロウ Apochrysa matsumurae

生きている時は薄緑色で美しい種が多いが、標本にするとどうしても色が消えてしまう。この仲間はアブラムシを食べるため、益虫とされる。

ツノトンボ Ascalohybris subjacens
キバネツノトンボ Libelloides ramburi
ヘビトンボ Protohermes grandis

トンボと名がつくが、トンボとは異なる昆虫。時々博物館に新種のトンボを採ったと持ち込まれるのは大抵ツノトンボ。ヘビトンボの幼虫は川に棲み、孫太郎虫(まごたろうむし)と呼ばれて薬とされることがある。成虫はつかむとしなやかな体で噛みついてくる気の荒い虫である。キバネツノトンボは草丈の低い草地に棲むが、神奈川県を含め、減っている地域が多い。

キカマキリモドキ Eumantispa harmandi
オオイクビカマキリモドキ Euclimacia badia

カマキリとウスバカゲロウを足したような不思議な昆虫。どちらかといえば後者に近い。幼虫はクモに寄生する。

ラクダムシ Inocellia japonica

どこがラクダなのか、いまいちわかりにくい虫。シロアリモドキやガロアムシとともに、マニアックな昆虫の代表格である。

シリアゲムシ目の仲間

ヤマトシリアゲ Panorpa japonica

シリアゲムシの仲間は森林の下草などによく止まっている。この種が一番身近で、よく見られる種である。オスの腹部の先端にはハサミ上の突起がついており、その見た目から海外ではスコーピオン・フライと呼ばれる。オスがメスに餌をプレゼントしたり、クモの巣にかかった虫をクモから横取りしたりと、なかなか面白い習性を持つグループである。

有名な昆虫

ここでいう「有名」とは、昆虫の研究者や愛好家が良く知っている、という意味ではない。社会の様々なところで人とかかわりのある昆虫、例えばニュースや新聞、書籍などで名前を見聞きすることがある昆虫をそのように扱った。害虫や益虫とされる昆虫、外来種や地球温暖化で増えている昆虫、絶滅危惧種や希少種、天然記念物の昆虫などである。名前は聞いたことがあるが実物は見たことない、という方々には、ぜひ見ていただきたい。

展示10 害虫や益虫とされる昆虫

カイコのように益虫とされる昆虫もいれば、アゲハやゴマダラカミキリなど、害虫であることを不思議に思われる昆虫もいるかもしれない。害虫や益虫という区分は人間の都合によるタグ付けだが、さらにいえばその人の暮らしもその判断に影響するといえる。

ここでは彼らの代表的な種を紹介するとともに、一生懸命生きている彼らについて、害や益という視点は一回脇においていただいて、その美しさや造形美も堪能してほしい。皆に忌み嫌われるゴキブリ一つとってみても、案外魅力を秘めているものである(自宅に出るのはご勘弁願いたいが...)。

農業や林業の害虫

アゲハ Papilio xuthus
モンシロチョウ Pieris rapae
イチモンジセセリ Parnara guttata

皆に愛されるチョウの仲間にも害虫はいる。アゲハはミカンやレモンなど、カンキツ類の害虫。庭の木を荒らされたことがある人は意外にいるだろう。モンシロチョウはキャベツなどの害虫。無農薬家庭菜園でキャベツを育てると、どこからともなく飛んできて、文字通り虫食いキャベツを作り出す。イチモンジセセリはイネの害虫。米粒ではなく、葉を食べる。葉は光合成に必要なので、葉が減ると植物の元気もなくなり収量に影響する。

ハスモンヨトウ Spodoptera litura
カブラヤガ Agrotis segetum
オオタバコガ Helicoverpa armigera
キクキンウワバ Thysanoplusia intermixta
コナガ Plutella xylostella (Diamondback moth)

ガの仲間には多くの害虫がいる。上記の種は著名な野菜の害虫たちで、農家さんには憎っくき虫たちである。ヨトウガはヤガ(夜蛾)の仲間で、彼らの幼虫は、昼間は土の中に隠れており、夜中になるとはい出てきて野菜を喰い荒らすため、夜盗蛾(ヨトウガ)と呼ばれるのである。育てていた野菜などで、イモムシがついていないのに何者かに葉をかじられた経験のある人は多いと思うが、一部の犯虫は彼らである。

マイマイガ Lymantria dispar (Gypsy moth)
マツカレハ Dendrolimus spectabilis
ミダレカクモンハマキ Archips fuscocupreanus
ウメエダシャク Cystidia couaggaria
キアシドクガ Ivela auripes

これらのガは森林や果樹の害虫である。昆虫の発生量は気候や植物の生育、天敵の発生状況などにより常に変動しており、条件が良いと(人にとっては悪いと)彼らは大発生する。マイマイガやキアシドクガはその代表格で、大発生すると木が丸裸になる。

サイカブト Oryctes rhinoceros
ウリハムシ Aulacophora indica
イネクビボソハムシ(イネドロオイムシ) Oulema oryzae
オオニジュウヤホシテントウ Henosepilachna vigintioctomaculata
キクスイカミキリ Phytoecia rufiventris
マツノマダラカミキリ Monochamus alternatus
キボシカミキリ Psacothea hilaris
ゴマダラカミキリ Anoplophora malasiaca
シロスジカミキリ Batocera lineolata
スギノアカネトラカミキリ Anaglyptus subfasciatus
クビアカツヤカミキリ Aromia bungii

コウチュウにも害虫は多い。上記の種のうち、上の5種は野菜や花の害虫、下の6種は樹木の害虫である。中でも、マツノマダラカミキリはマツノザイセンチュウという線虫と共生関係にあり、マツの木を次々と枯らし、マツ枯病を媒介する重大な森林害虫である。クビアカツヤカミキリは近年日本で急速に増加している外来種で、サクラやウメ、モモなどバラ科の様々な重要樹種を枯死させるため、観光や農業などに壊滅的な被害を与える恐れがある、最も警戒すべき害虫の一つである。

ブナハバチ Fagineura crenativora
ルリチュウレンジ Arge similis
マツノクロホシハバチ Diprion nipponicus
バラクキバチ Syrista similis
ニホンキバチ Urocerus japonicus

ハチの中でも、葉や木を食べるハバチ類やキバチ類には害虫が存在する。ブナハバチは神奈川県の水源林に生えるブナを加害する害虫で、ブナの枯死の原因にもなっている。ルリチュウレンジはツツジ類の害虫で、博物館の周囲の植栽でもよく見られる。ニホンキバチは針葉樹の材に幼虫が入り、材の変色など、品質を下げてしまう。

ウリミバエ Bactrocera cucurbitae
リュウコツナガマドキノコバエ Neoempheria carinata
スイセンハナアブ Merodon equestris

ハエの仲間にも農業害虫は多い。ウリミバエは著名な害虫で、放射線で不妊化した個体を沖縄に放飼して滅ぼした話は、テレビ番組「プロジェクトX」でも取り上げられた。現在、八百屋で沖縄産のゴーヤが買えるのは、この取組みのおかげである。ナガマドキノコバエ類はシイタケの栽培現場で問題になっている害虫である。スイセンハナアブはスイセンやチューリップを加害する外来種である。

クサギカメムシ Halyomorpha halys
チャバネアオカメムシ Plautia stali
ツヤアオカメムシ Glaucias subpunctatus
チュウゴクアミガサハゴロモ Ricania shantungensis
ツマグロヨコバイ Nephotettix cincticeps

カメムシの仲間は針状の口で植物の汁を吸い、被害を生じさせる。果樹や米など、刺された跡が変色することも大きな被害で、やたらと食べ物の見た目を気にする日本人とは相性が悪い害虫である。上記3種のカメムシは近年増えているが、スギの樹皮が越冬場所となり、実が栄養豊富な餌となる点で、スギの植林が彼らの増加を引き起こしているという考えがある。チュウゴクアミガサハゴロモも近年急増している外来種で、様々な樹種に被害を与える。

コバネイナゴ Oxya yezoensis

イナゴはイネを食べる害虫でもあり、一方でつくだ煮などにされて食用になる益虫でもある。神奈川県内では農薬の影響で彼らの姿も減り、害虫となるほどイナゴが大発生している田んぼはほとんど見られない。

穀物を喰い荒らす害虫

ノシノマダラメイガ Plodia interpunctella
コクゾウムシ Sitophilus zeamais

コメなどの穀物は、貯蔵ができることで人の暮らしの安定に大きく貢献しているが、貯蔵中も決して油断はできない。上記の種は貯蔵しているコメを加害する害虫である。最近の家ではほとんど姿を見かけないが、これは米屋が不断の努力を続けているためである。

毒針で刺す害虫

オオスズメバチ Vespa mandarinia
コガタスズメバチ Vespa analis
キイロスズメバチ Vespa simillima
セグロアシナガバチ Polistes jokahamae
キアシナガバチ Polistes rothneyi
キボシアシナガバチ Polistes nipponensis
ムモンホソアシナガバチ Parapolybia crocea
ヒアリ Solenopsis invicta (Fire ant)

毒針をもつ昆虫は色々いるが、その代表格はスズメバチやアシナガバチであろう。本来産卵管であった針を攻撃用に転用し、さらに家族を守るために攻撃性を増やした彼らは、強力な毒液を発達させ、人間の脅威となる。一方、自然界での彼らは強力な捕食者であり、巣の仲間に場所を教え、いなくなるまで獲物を狩り続ける種もいることから、その生態系の調整能力は決して侮れない。アシナガバチなどは、直接危険な場所になければ巣をそのままにしておく方が、かえって天敵として害虫駆除に役立つことがある。困ったことに、最近彼らに加えて、外来種のヒアリも問題となっている。幸い野生化は食い止められているが、この虫が広まった際には大きな被害が生じる恐れが高い。

クロシタアオイラガ Parasa sinica

イラガの仲間の幼虫は毒々しい見た目と凶悪な毒針で、見るからに危ない毛虫である。誰も好き好んで触るとは思えないが、庭木の手入れや藪こぎなどで、葉の裏に止まっていた毛虫に刺され、痛い思いをすることがある。痛みはしばらくすると消え、後遺症もないが、あの痛みはかなりのものである。

在来の生態系を破壊する害虫

アルゼンチンアリ Linepithema humile

外来種の中には、生態系への被害が甚大なものがある。特にアリはその個体数や食性から見て、悪質なものが少なくない。アルゼンチンアリや先述のヒアリはその筆頭で、在来のアリたちを駆逐し、生態系を破壊してしまう。また、人家に大群で侵入する生活害虫でもある。

吸血する害虫

アカウシアブ Tabanus chrysurus
ウシアブ Tabanus trigonus
キンメアブ Chrysops suavis
ゴマフアブ Haematopota tristis
アカイエカ Culex pipiens
ヒトスジシマカ Stegomyia albopicta
シナハマダラカ Anopheles sinensis
トコジラミ Cimex lectularius
ノミの一種 Siphonaptera gen. et sp.

人を襲って食べる昆虫はほとんどいないが、血を吸って食料とする昆虫はいくつもいる。アブ(ハナアブ科ではなく、アブ科)の仲間や、カの仲間はその筆頭で、不愉快なだけでなく、人によっては刺されたところがアレルギーで腫れることもある。中でも、感染症を媒介するカは人類にも脅威となる。アカイエカは日本脳炎、ヒトスジシマカはデング熱やウエストナイル熱、シマハマダラカはマラリアを媒介する。トコジラミはカメムシの仲間で、ナンキンムシとも呼ばれる。近年殺虫剤が効かない個体が増えており、「スーパートコジラミ」と称されている。昆虫は世代交代が早く、殺虫剤が効きにくい突然変異が生じやすい。薬は容量用法を守って使いたい。ノミの仲間は通常プレパラート標本にするため、台紙に張り付けたこの標本では種名はわからない。「のみのような」と形容されるように、小さい昆虫である。世の中が清潔になったため、ネコノミなど一部を除いて珍しくなり、入手が難しい。

やけどやかぶれを起こす害虫

アオバアリガタハネカクシ Paederus fuscipes
アオカミキリモドキ Nacerdes waterhousei
ドクガ Artaxa subflava

昆虫の中には、人にやけどのような症状を起こすものがいる。アオバアリガタハネカクシやアオカミキリモドキの仲間は体液にカンタリジンという毒が含まれており、これが皮膚につくとやけどのような水ぶくれを起こす。これらの虫は夜に明かりに飛んでくるため、家の中でも被害が生じることがある。ドクガは体毛に毒があり、これが皮膚に刺さるとかぶれる。本当はこの仲間で最悪の有毒種であるチャドクガを展示したかったのだが、さすがにかぶれてまで標本を作る猛者はいなかったのか、展示作成時点で博物館に標本がなかった。今後標本を集めたいが、かぶれたくはない、悩ましい問題である。

汚い場所に生息する害虫

クロゴキブリ Periplaneta fuliginosa

黒い「あれ」。最も良く見るGで、害虫の代表格。衛生害虫というよりは、その見た目や振る舞いの悪さによる不快さの方が大きく、不快害虫とされる。

チャバネゴキブリ Blattella germanica

有名な害虫であるが、一般家庭ではあまり見かけない。むしろビルなどの大きな建物や飲食店などに多い。特に飲食店経営者にとっては、憎むべきGである。

ワモンゴキブリ Periplaneta americana

温暖な場所を好むG。暖かい場所では黒いやつと同様か、あるいはそれ以上に見られる。巨大で存在感があるので、いきなり出会うと少し驚くかもしれない。南日本には普通で、地球温暖化で今後増える可能性が高いGなので、皆さん覚悟しておいていただきたい。

コウカアブ Ptecticus tenebrifer

後架(こうか)とは便所のことで、汚れた場所に見られる。外来種のアメリカミズアブとならび、汚れた場所に見られる。特に悪さはしないのに、いる場所と見た目のせいでベンジョバエとかベンジョバチと呼ばれ、不快害虫にされてしまった、「不幸害虫」といえよう。

博物館を恐怖のどん底に陥れる害虫

タバコシバンムシ Lasioderma serricorne
ヒメマルカツオブシムシ Anthrenus verbasci

博物館には飲食できない場所が多々あったり、燻蒸のために休館日がある。また、運よく?バックヤードに入ったことがある人の中には、「靴を履き替えろ」とか「収蔵庫への出入りは素早く」と、口うるさく言われた人も多いだろう。これらの主な原因は昆虫(とカビ)対策である。上記の2種は私を含む博物館関係者が恐れる大害虫で、標本を好んで食べる。屋外から飛んでくるほか、ヒメマルカツオブシムシは衣類の害虫でもあり、人の服にくっついて運ばれてくることもある。憎ったらしいことに、彼らはいつの間にか標本を加害し、あの忌々しい糞や抜け殻が見つかったときには、大切な標本が無残な姿に変化している。さらに憎ったらしいことに、昆虫標本を食害するときは、珍しい昆虫の標本から食べるのである。嘘のような話だが、昆虫関係者では同意する人が多い現象である。

展示標本は「ご来館」したものの運悪く私に見つかり、標本にされた連中である。彼らはまさに「お呼びでない虫」と言えよう。

人の役に立つ物を生み出す益虫

カイコ Bombyx mori
クロスズメバチ(ジバチ、ヘボ) Vespula flaviceps
マメコバチ Osmia cornifrons

害虫の話ばかりしていると昆虫が嫌われてしまうかもしれない。今度は人の役に立つ益虫の話もしたい。カイコと後述するセイヨウミツバチは、誰もが納得する益虫で、どちらももはや家畜に近い利用のされ方をしている。カイコは絹糸(シルク)を生み出し、それは明治時代に外貨を稼ぐために役立ち、日本の近代化に大きく貢献した。また、それを運ぶために、横浜線などの鉄道が敷かれたという歴史もある。カイコのことをお蚕様と言うことがあるが、感謝しなければいけない虫である。クロスズメバチは比較的穏やかな性格の小さなスズメバチで、刺されるともちろん痛いが、「ハチの子」として食用になる点から、むしろ益虫となる。花粉媒介者として忘れてならないのがマメコバチで、東北地方ではリンゴの花粉媒介で本種が活用されている。甘くておいしいリンゴを食べる時には、健気に花で働くこのハチを思い浮かべてもらえると嬉しい。

天敵として害虫を駆除してくれる益虫

ナナホシテントウ Coccinella septempuncutata
ホソヒラタアブ Episyrphus balteatus
ブランコサムライコマユバチ Glyptapanteles liparidis
ホウネンダワラチビアメバチ Charops bicolor
アオムシヒラタヒメバチ Itoplectis naranyae
キモンブナハバチヒメバチ Cteniscus fagineurae
シイタケハエヒメバチ Orthocentrus brachycerus
ヒメハラナガツチバチ Campsomeriella annulata

益虫、害虫というくくりは実に人間の都合の産物である。上記の昆虫たちは「たまたま」餌が人間にとっての害虫であったために、益虫と呼ばれているものである。彼らを上手に活用することで、農薬の使用量を減らせたり、害虫の大発生を抑制したりすることができる。「虫をもって虫を制する」である。ナナホシテントウはアブラムシの天敵として有名だが、ヒラタアブが同様にアブラムシを駆除してくれることはあまり知られていない。アブの中にも良いアブがいるのである(もっともハナアブ科であるが...)。ハチの中でも、寄生蜂は特に益虫が多く、ブランコサムライコマユバチはマイマイガの天敵で、ホウネンダワラチビアメバチやアオムシヒラタヒメバチは水田に生息するチョウやガの天敵となる。昔の人はホウネンダワラチビアメバチのまゆが水田にたくさんあると、害虫が少ないことを知っており、このまゆを「豊年俵(ほうねんだわら)」と呼んだのである。キモンブナハバチヒメバチとシイタケハエヒメバチは私が関わった益虫で、前者は私が新種記載したブナハバチの天敵、後者は私が日本から初めて記録したナガマドキノコバエ類の天敵で、各害虫の個体数を大幅に減らしてくれる。

展示11 外来種や地球温暖化で増えている昆虫

グローバル化した現代社会では、モノやヒトにくっついて様々な昆虫が日本にやってくる。そして日本から海外にも昆虫が運ばれてゆく。交通手段の発達で移動中に死亡するものが減り、また、安く作り、安く輸入するために、十分な殺虫処理がされずにモノが輸入されたり、ペットで飼われた昆虫が無責任に放される。それらが人の管理下から外れ、野生化、繁殖したものは外来種となり、日本在来の生き物や人の暮らしに悪影響を与えるものも多い。そして、残念なことに年々外来種が増えているのが現状である。安さを求めてケチった(儲けようとした)せいで、対策費や駆除費などにかえって多額のお金がかかり、我々自身も気づかないうちにそれらを価格や税金、健康被害等の形で負担させられていることに気づくべきである。

地球温暖化は、様々な昆虫にとっては良くないことであるが、人間よりはるかにしたたかな生物である昆虫の中には、この変化を上手に利用して分布を広げているものがいる。特に、都市部の緑地などでは、外来種や地球温暖化の影響で増えた昆虫が目立ち、ひどい場合は見られる大半がこれらの昆虫に置き換わっている。昆虫がたくさんいるからといって、その環境が健全なわけではない。その内訳が重要なのである。

少し近所で昆虫を探してみてほしい、見られる昆虫の中には、展示してある昆虫が多少とも含まれているはずである。在来の生き物が減った場所は、新しく持ち込まれた外来種や分布が拡大傾向の昆虫たちにとって、天敵や競合相手もいない天国である。このような場所は特定の昆虫ばかりが目立ち、目が肥えた人が見ると多様性が調和していない、「不自然」な自然であることが特徴である。あなたは「不自然」に気づけるだろうか。

人が意図的に持ち込んだ外来種

アカボシゴマダラ(名義タイプ亜種) Hestina assimilis assimilis
フェモラータモモブトハムシ Sagra femorata
セイヨウオオマルハナバチ Bombus terrestris
セイヨウミツバチ Apis mellifera

昆虫が好きな人の中にも、残念ながら自然史や地域の生物への理解が無い人、無責任な人がいる。アカボシゴマダラやフェモラータモモブトハムシは放虫目的で何者かが野外に放ったか、ペットが逃げ出したものが野生化して外来種になったとされる。セイヨウオオマルハナバチは農業現場が生み出した外来種である。このハチは花粉媒介能力が高いため、ハウスでの野菜や果物の栽培に用いられてきたが、逃げ出して野生化し、在来のハナバチを脅かしている。セイヨウミツバチは日本在来のニホンミツバチよりも飼いやすく、ハチミツを得る上で大活躍しているほか、イチゴなどの花粉媒介にも使用されている益虫である。本来は侵略性の強い外来種になりうるハチであるが、日本では天敵としてオオスズメバチがいるため、野生化できない。その点でいえば、オオスズメバチのおかげでセイヨウミツバチは純粋な益虫となりうるのである(オオスズメバチがいない場所では野生化し、在来種と競合し、害虫化した例もある)。

輸入や物流などに伴って持ち込まれた外来種

リュウキュウツヤハナムグリ Protaetia pryeri
ラミーカミキリ Paraglenea fortunei
ハラアカコブカミキリ Moechotypa diphysis
ムネアカオオクロテントウ Synona consanguinea
クズクビボソハムシ Lema diversipes
ヨツモンカメノコハムシ Laccoptera nepalensis
ヤツボシハンミョウ Cosmodela batesi
アメリカジガバチ Sceliphron caementarium
アギトアリ Odontomachus monticola
イラガセイボウ Praestochrysis shanghaiensis
オデコフタオビドロバチ Anterhynchium gibbifrons
ツマアカスズメバチ Vespa velutina
タイワンタケクマバチ Xylocopa tranquebarorum
スダキヌゲハキリバチ Megachile pusilla
オオハリアリ Brachyponera chinensis
アメリカミズアブ Hermetia illucens
マツヘリカメムシ Leptoglossus occidentalis
クスベニヒラタカスミカメ Mansoniella cinnamomi
ヨコヅナサシガメ Agriosphodrus dohrni
シタベニハゴロモ Lycorma delicatula
ヘリチャアオバハゴロモ Salurnis marginella
ラデンキンカメムシ Scutellera amethystina
ムネアカハラビロカマキリ Hierodula chinensis
アオマツムシ Truljalia hibinonis

意図的か非意図的かに関わらず、人間の活動によって分布を広げた外来種は極めて多く、しかも毎年のように増えている。アオマツムシのように古くに定着・拡散したものもいるが、グローバル化が進んだ近年はニューフェースが次々加わり、しかも分布の拡大が速い種が多く、対症療法的な対策はもはや困難である。上記の種の中ではクズクビボソハムシ、ムネアカオオクロテントウ、クスベニヒラタカスミカメ、ヘリチャアオバハゴロモあたりが近年神奈川県で急増している外来種である。これら以外にも、例えばハラアカコブカミキリはシイタケの害虫であり、ムネアカハラビロカマキリは強力な肉食昆虫で、生態系への悪影響があると考えた方がよいだろう。外来種対策は「入れず、放さず、増やさず」が肝要である。

人が植えた植物に関連して定着・分布拡大した昆虫

アオスジアゲハ Graphium sarpedon
バナナセセリ Erionota torus
クロマダラソテツシジミ Chilades pandava
ムシャクロツバメシジミ Tongeia filicaudis
ブタクサハムシ Ophraella communa
ヤシオオオサゾウムシ Rhabdoscelus ferrugineus
コウヤホソハナカミキリ Strangalia koyaensis
アシグロアオゴミムシ Chlaenius leucops
リュウキュウベニイトトンボ Ceriagrion auranticum ryukyuanum
アワダチソウグンバイ Corythucha marmorata

人間が植栽する園芸植物や街路樹、農作物などの存在は、その植物を利用する昆虫にとっては、分布拡大のチャンスとなる。ソテツやヤシのような樹木が植栽されたことで、本来は餌がなくて生息できないクロマダラソテツシジミやヤシオオオサゾウが生息できる。また、外来の植物が入ってきた後に、それを食べる外来種が入ってくることもあり、アワダチソウグンバイやブタクサハムシはその好例である。このほか、日本にもともといた昆虫が人間の影響で分布を広げたり、増えた例として、スギの植林で増えたスギノアカネトラカミキリやコウヤホソハナカミキリ、クスノキの植栽で増えたアオスジアゲハ、水草の運搬に伴い分布を拡大したリュウキュウベニイトトンボなどがある。アシグロアオゴミムシは近年記録が増えており、芝生の流通で分布を広げている可能性があるが、まだ外来種なのか在来種なのか分かっていない。外来種と決めるためには地道な調査が必要となることもある。

温暖化で分布を拡大している昆虫

イシガケチョウ Cyrestis thyodamas
ツマグロヒョウモン Argyreus hyperbius
ハラグロオオテントウ Callicaria superba
アミダテントウ Amida tricolor
アオドウガネ Anomala albopilosa
キバラハキリバチ Megachile xanthothrix
ツマアカクモバチ Tachypompilus analis
サトセナガアナバチ Ampulex dissector
リュウキュウコオロギバチ Liris deplanatus binghami
ホソミイトトンボ Aciagrion migratum
キマダラカメムシ Erthesina fullo
ミナミアオカメムシ Nezara viridula
シロヘリクチブトカメムシ Andrallus spinidens
イネカメムシ Niphe elongata
クマゼミ Cryptotympana facialis
ヒゲナガサシガメ Serendiba staliana
シオカラトンボ Orthetrum albistylum speciosum

温暖化の影響は昆虫たちに大きな影響を与えている。温暖化に伴う乾燥化や極端な降雨もあり、多くの昆虫では温暖化は減少の要因になっているが、一部の昆虫では分布拡大に影響していそうである。上記の昆虫はいずれも温暖化により分布を広げていると考えられている種である。サトセナガアナバチはゴキブリを狩るハチで、温暖な環境を好むゴキブリが増えたことが影響していると思われる。ミナミアオカメムシは重大な農業害虫で、分布が広がることが我々の暮らしにも悪影響を与える例である。同様にイネカメムシも要注意害虫で、一時は数が減り、「まぼろしの害虫」となっていたが、近年になりなぜか復活し、急激に数を増やしている。シオカラトンボは神奈川では昔から普通種であるが、近年北海道や中部山岳など、寒い地域でも個体数が増えており、南方系種が北上することで、新たな競合が生じることが危惧される。温暖化による悪影響は自然が豊かな場所でも生じているのである。

環境の変化によって増えたと考えられている昆虫

ゴホンダイコクコガネ Copris acutidens
ヒラタアオコガネ Anomala octiescostata
クリストフコトラカミキリ Plagionotus christophi
アカアシオオアオカミキリ Chloridolum japonicum
ルイスホソカタムシ Gempylodes ornamentalis
チャイロスズメバチ Vespa dybowskii
ヒメシカシラミバエ Lipoptena fortisetosa
ヒグラシ Tanna japonensis

温暖化以外にも様々な環境問題がある。シカの増加はその糞を好むゴホンダイコクコガネやオオセンチコガネを増やしたし、シカから吸血するシラミバエの仲間も数を増やしている。ナラ枯れにより枯れ木や樹液を出す木が増えたことで、クリストフコトラカミキリやアカアシオオアオカミキリ、ルイスホソカタムシといった今まで比較的珍しいとされた昆虫が増えている。芝生の増加や草刈り機の変化のためか、ヒラタアオコガネも増えており、スギの植林が増え、しかも成長し暗くなったためにヒグラシが増えている。チャイロスズメバチはモンスズメバチやキイロスズメバチの巣を乗っ取り、家主を奴隷として酷使する変わった生態をもち、以前はまぼろしのスズメバチと呼ばれていたが、近年モンスズメバチとともに激増している。攻撃性が高い上に体の色が地味で目立たないので、刺傷事故の増加が危惧される。

水質が改善されたことで増加したと考えられている昆虫

ハグロトンボ Atrocalopteryx atrata

このトンボの増加は、生活排水処理が進み水質が良くなったために生じたと考えられており、数少ない健全な例である。神奈川県では一時県東部からほぼ姿を消したが、2010年代から回復して、今では横浜市内でも見られる。

日本から海外に侵入あるいは放された昆虫

マメコガネ Popillia japonica
マメコガネコツチバチ Tiphia popilliavora

昆虫の移動は何も海外から日本だけではない。マメコガネは「ジャパニーズ・ビートル」と海外で忌み嫌われる大害虫で、欧米では深刻な農業害虫となっている。近年ではヨーロッパで分布を拡大し、ブドウを加害することでワインの生産などに悪影響を与えることが危惧されているらしい。マメコガネの天敵であるマメコガネコツチバチは、マメコガネを駆除するためにあえて海外に放されたハチであるが、あまりうまくいかなかったようである。

原因がまだはっきりしないが増加している昆虫

スギタニルリシジミ Celastrina sugitanii
コガタノゲンゴロウ Cybister tripunctatus
シラホシハナムグリ Protaetia brevitarsis
クビアカトラカミキリ Xylotrechus rufilius
モンスズメバチ Vespa crabro
ミイロツメボソクモバチ Agenioideus cinctellus
ホソミイトトンボ Aciagrion migratum
コガシラコバネナガカメムシ Pirkimerus japonicus
ヒメクダマキモドキ Phaulula macilenta

増えている昆虫の中には、その原因がわからないものも存在する。理由となりうる環境の変化が多すぎる上、それらが組み合わさって影響している可能性もある。

展示12 希少な昆虫

人間の活動が自然環境に多大な影響を与えていることは、全ての人に同意いただけることと思う。体が小さくて比較的少ない資源で生息できる昆虫でさえ、多くの種類が人間の活動により、直接的・間接的に数を減らしている。そのような希少種をレッドリストなどで絶滅危惧種などにランクづけをし、保護をする動きもある。しかしながら、守れている種よりも守れていない種の方が圧倒的に多く、新しく絶滅危惧種や希少種とされる昆虫は急増している。

この展示ではこれらの代表的な種のうち、公開できる種を紹介している。これらの中にはかつては普通に見られた種も少なくなく、60年前の日本では普通に見られた種が大半である点には、人間活動の自然への影響を知る上で留意しておく必要がある。なお、展示は標本の状態を劣化させるリスクを伴う。そのため、このような希少な種の標本は長期間展示される常設展示には出さないことが多い。しかしながらこのような昆虫が増えていることを、一人でも多くの人に知っていただきたいという思いから、今回はあえて展示した。

高山や寒冷地に生息する昆虫

キイロウスバアゲハ(ウスバキチョウ) Parnassius eversmanni
クモマツマキチョウ Anthocharis cardamines
ミヤマシロチョウ Aporia hippia
ミヤマモンキチョウ Colias palaeno
カラフトルリシジミ Albulina optilete
アサヒヒョウモン Clossiana freija
ベニヒカゲ Erebia neriene
クモマベニヒカゲ Erebia ligea
タカネヒカゲ Oeneis norna
ダイセツタカネヒカゲ Oeneis melissa
ノサップマルハナバチ Bombus florilegus

地球温暖化に伴い、冷涼な環境を好む昆虫は、さらに寒い場所に住み家を移す必要が生じる。つまり、北に逃げるか、より高標高で涼しい場所へ逃げることである。しかしながら、現在進行している急激な温暖化は昆虫が適応するにはスピードが速すぎ、また、人間の開発による生息地分断の進行で移動は困難であり、すでに高山に生息している昆虫には逃げ場がない。今回展示したチョウたちの多くは、高山蝶として知られているもので、温暖化の影響を特に受ける恐れがある種たちである。また、タカネヒカゲやベニヒカゲ、ミヤマシロチョウなどの危機には、近年増加したシカの食害による影響も見逃せない。シカが温暖化で生息範囲を高標高地に広げることが、チョウの餌を減らすことにつながるのである。

寒い環境に適応した昆虫は、気温が上がることで活動に様々な支障が出る恐れがある。ノサップマルハナバチは日本では北海道東部の限られた場所にしか見られないハチで、ごく寒冷な気候の場所に分布が極限されている上、外来種のセイヨウオオマルハナバチとの競合があり、絶滅が危惧される。

草原に生息する昆虫

オオルリシジミ Shijimiaeoides divinus
オオウラギンヒョウモン Fabriciana nerippe
ゴマシジミ Maculinea teleius
ヒョウモンモドキ Melitaea scotosia
ベニモンマダラ Zygaena niphona
ダイコクコガネ Copris ochus
アサカミキリ Thyestilla gebleri
フサヒゲルリカミキリ Agapanthia japonica
ガロアキマダラハナバチ Nomada galloisi
カグヤキマダラハナバチ Nomada kaguya
タカチホヒメハナバチ Andrena takachihoi
セイタカヒメハナバチ Andrena solidago
ホンシュウハイイロマルハナバチ Bombus deuteronymus maruhanabachi
フジジガバチ Ammophila atripes japonica

日本は本来森林が主体の国で、大陸のように豊富な草原がある地域ではなかった。しかしながら、人々の暮らしによって森が切り開かれ、放牧地やかや場などで使用されることで、草原に暮らす昆虫には生息場所を提供していた。しかしながら、近年では管理されなくなった草原は森林になり、そこで暮らす昆虫も住み家を追いやられている。上記の種のうち、チョウやカミキリムシはその危機的な状況が周知されているが、近年の私たちの調査で、小さなハナバチたちの中にも、同様に危機的な種が存在することがわかってきた。ならばハエやカメムシではどうだろうか、私たちが考える以上に、事態は深刻である。

水辺や湿地に生息する昆虫

フチトリゲンゴロウ Cybister limbatus
ヒメフチトリゲンゴロウ Cybister rugosus
シャープゲンゴロウモドキ Dytiscus sharpi
ゲンゴロウ Cybister chinensis
ミズスマシ Gyrinus japonicus
ガムシ Hydrophilus acuminatus
マークオサムシ Carabus maacki
アカガネオサムシ Carabus granulatus
キイロホソゴミムシ Drypta fulveola
ツヤキベリアオゴミムシ Chlaenius spoliatus
ワタラセハンミョウモドキ Elaphrus sugai
オオサカアオゴミムシ Chlaenius pericallus
マダラナニワトンボ Sympetrum maculatum
ムカシヤンマ Tanypteryx pryeri
ノシメトンボ Sympetrum infuscatum
ミヤマアカネ Sympetrum pedemontanum
タガメ Kirkaldyia deyrolli
ヒメタイコウチ Nepa hoffmanni
タイコウチ Laccotrephes japonensis
ミズカマキリ Ranatra chinensis
コバンムシ Ilyocoris cimicoides exclamationis
ツヤクサレダマバチ Macropis dimidiata
シロアシクサレダマバチ Macropis tibialis

水辺や湿地も草原とならび、最も環境が悪化している場所である。有名なゲンゴロウやタガメはもちろん、湿地に暮らすゴミムシやトンボなど、一部の種というよりは大半の種で絶滅のリスクが増大している。かつての普通種どころか、比較的近年まで普通に見られたガムシやタイコウチ、ミズカマキリ、アカネ類なども姿を消しており、深刻さは高まるばかりである。農薬や圃場整備、外来種などの悪影響に加え、最近では温暖化の影響も危惧される。ムカシヤンマやヒメタイコウチ、ワタラセハンミョウモドキなどの昆虫は水中ではなく、湿った場所に依存して生活する種で、高温により乾燥化が生じることで、適した生息場所が無くなる恐れがある。現在のように生息場所が断片化し、点々と虫が残存する状況は、これらの種を守る上ではリスクが高いといえよう。

海岸や砂地に生息する昆虫

オオヒョウタンゴミムシ Scarites sulcatus
オニヒラタシデムシ Thanatophilus rugosus
イカリモンハンミョウ Abroscelis anchoralis
カワラハンミョウ Chaetodera laetescripta
キオビクモバチ Batozonellus annulatus
キスジツチスガリ Cerceris arenaria
ニッポンハナダカバチ Bembix niponica
ヤマトハキリバチ Megachile japonica
キヌゲハキリバチ Megachile kobensis
ヤマトマダラバッタ Epacromius japonicus
オオウスバカゲロウ Synclisis japonica

一見すると生き物の気配が乏しい砂地も、多くの昆虫が生息する。舗装や開発、土壌汚染により、美しい砂地は限られた場所に見られるのみとなった。現在砂地を利用する種の最後の砦は海浜だが、レジャーでの過度な利用、車の乗り入れによる生物へのダメージは大きい。神奈川県では湘南地域に砂丘があったが、開発でそのほとんどが破壊されてしまった。キスジツチスガリやキヌゲハキリバチなど、全国的にはまだよく見られる種ですら、大きく減少しており、恥ずべき有様である。また、海岸に打ちあがる死骸や海藻、流木はそこに依存して暮らす生きものがおり、過剰な海岸の清掃でこれらが無くなり、キレイな海岸にされてしまうと、住み家を奪われた昆虫たちの姿はどんどん消えてゆく。観光の場としての美しい海岸と、生き物の多い海岸のゾーニングなど、共存に向けて良く考える必要があろう。

森林に生息する昆虫

オキナワマルバネクワガタ Neolucanus okinawanus
ハルゼミ Terpnosia vacua

森林に生息する昆虫にも、減少している種がいる。マルバネクワガタ類は照葉樹林の伐採により生息適地が減ったほかに、ペットやコレクション目的での過剰な採集によって、その数を減らした。昆虫好きの人には、愛するからこそ、科学的に減っていることが明らかな種については、守ることに力を注いでもらいたいものである。ハルゼミはその名の通り春(の終わりごろ)に鳴くセミで、マツ林に生息する。開発や松枯れ病などでマツ林が減ったことや、松枯れ病のための薬剤散布のために、神奈川県など一部では、数を減らしている。

限られた場所に分布する昆虫

ミクラミヤマクワガタ Lucanus gamunus
オガサワラハンミョウ Cylindera bonina
チチジマヒメカタゾウムシ Ogasawarazo rugosicephalus
イケダメンハナバチ Hylaeus ikedai
オガサワラオオアリ Camponotus ogasawarensis
シマアカネ Boninthemis insularis

何かしらの理由により、分布する範囲が狭い昆虫がいる。一番わかりやすいのは島で、周囲に海があるために、狭い島に暮らす種は逃げ場が少なく、環境変化に脆弱である。小笠原諸島の昆虫たちは周囲と断絶した海洋島に暮らし、独自の進化をとげた固有種が多いことで知られる。

しかし、人間が持ち込んだ外来種により、急激に数を減らしている。特にグリーンアノールというトカゲの被害は深刻で、「イケメン」の愛称でごく一部の界隈では人気のあるイケダメンハナバチなど、花に来る昆虫はトカゲがいる島ではほとんど見られなくなっている。新たな外来種の確認例は近年も続いており、オガサワラオオアリのように今はまだ見られるような種でも、今後の生息状況は楽観視できない。

ニシキキンカメムシ Poecilocoris splendidulus
アナアキアシブトハナバチ Pseudapis mandschurica

生態的な条件が、分布を局限させることも多い。ニシキキンカメムシは餌として利用する植物が特定の地質条件の場所にしか生えないために、分布が限られる。アナアキアシブトハナバチは水はけのよい、開けた草地や裸地を好むようで、放っておくと森林に遷移してしまう日本においては、人が造りだしたサツマイモ畑やダイズ畑を上手に利用して生き延びている。調べてみると、農薬の有無はもちろんであるが、栽培のスケジュールとハチの生活との一致や、畑の周囲の雑草の種類など、生息する上で重要な条件がありそうだが、科学的にはまだ解明されていない。なぜ珍しいのか、減ったのか、その理由は様々である。

木造建造物に生息する昆虫

ゴミアシナガサシガメ Myiophanes tipulina

従来の人の暮らしは、自然の物で造った建物で暮らしていたこともあり、多くの生物にも住み家を提供していた。このカメムシは乾燥した建物内でクモを捕食して繁栄していた種で、木造家屋が多かった昔は、物置きやぼっとん便所(汲み取り式トイレ)などでよく見られたという。しかしながら、建物が近代化し、室内からクモをはじめ生き物が姿を消したことで姿を消し、ほとんど見られなくなってしまった。我々の近代的な都市は昆虫から見て砂漠である。暮らしの質を大きく下げずに、少しの配慮や工夫を積み重ねて、生き物の住みかを増やすことができないか、考えてゆきたい。

原因がわからないが減少した昆虫

ヨツボシカミキリ Stenygrinum quadrinotatum

減っている昆虫は様々な研究者により調査され、多くの場合はその原因が多少とも説明できる。しかしながら、中には理由ははっきりしない種もいる。このカミキリムシは、かつては最普通種で、クリ畑によく見られた。特に特殊な生息環境や生態が知られていないのに、急激に姿を消した種である。同じような場所にいる他のカミキリムシなどが減っていないために、なぜこの種だけが姿を消したのか。理由がわからないことには保全もできないのである。