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学芸員の折原らが地下生菌の絶滅種・絶滅危惧種についての新知見を明らかにした論文が公開されました

学芸員の折原らが地下生菌の絶滅種・絶滅危惧種についての新知見を明らかにした論文が公開されました

2020年4月7日更新

 

当館学芸員の折原貴道が参加する研究チームは、日本地下生菌研究会が発行する学術誌『Truffology』第3巻1号(2020年3月31日オンライン出版)において、環境省レッドリストで絶滅(EX) および絶滅危惧I 類(CR+EN)にランクされている3種の地下生菌*(スナタマゴタケChlorophyllum agaricoides、ハハシマアコウショウロCirculocolumella hahashimensis、シンジュタケBoninogaster phalloides)の実体と分布の現状についての新知見をまとめた論文を発表しました。

スナタマゴタケは国内では1930年に北海道で一度だけ採集されている菌で、環境省レッドリストにおいて絶滅(EX)にランクされています。この国内唯一の標本は、長年所在が不明でしたが、本研究における調査の結果、鳥取市にある一般財団法人日本きのこセンター 菌蕈研究所においてその所在が確認されました。しかし、現地野外調査では新たな発生は確認できず、現時点では引き続き国内での絶滅種と見なすのが妥当と考えられました。

ハハシマアコウショウロは1936年に小笠原諸島母島で採集されて以来、追加記録のない幻の地下生菌で、スナタマゴタケと同様に絶滅(EX)にランクされています。今回、本種のタイプ標本の観察と小笠原諸島での野外調査を行い、得られた標本についての詳細な検討を加えた結果、「ハハシマアコウショウロ」は、現地に多く発生する別のきのこ、ヨツデタケのごく未熟な状態のものを誤って新種として記載したものであったと結論付けられました。そのため、「ハハシマアコウショウロ」という独立した種は実際には存在せず、絶滅種という扱いも適当でないことが明らかになりました。

残る1種、シンジュタケもハハシマアコウショウロと同様、1936年に小笠原諸島で発見され、新属新種として発表された地下生菌で、現在は環境省レッドリストにおいて絶滅危惧I 類(CR+EN)にランクされています。本種はこれまで小笠原諸島特産と考えられていましたが、国内の多数の類似する標本の形態やDNA情報を比較検討した結果、実は小笠原諸島に限らず、本州にも比較的広く分布していることが明らかになりました。今後、レッドリストにおける評価の見直しが必要になると考えられます。

本研究成果に関する論文は、『Truffology』ウェブサイトより無料で閲覧・ダウンロードできます。

 

参照論文

折原貴道,保坂健太郎,山本航平,大前宗之,畠山颯太,糟谷大河. (2020) 環境省レッドリスト掲載地下生菌(スナタマゴタケ、ハハシマアコウショウロ、シンジュタケ)の再探索と分布の現状について.Truffology 3: 17–27.

 

*地下生菌—元来、トリュフ類など、地中に子実体(きのこなどの胞子を形成する器官)をつくる菌類を意味しますが、現在ではしばしば、より広い意味で、子実体が外皮におおわれたまま成熟し、自力で胞子を散布することが困難な菌類全般を指します。ここでも後者の定義に従っています。

図.小笠原諸島固有種ではなく、実は神奈川県にも分布していたシンジュタケ Boninogaster phalloides
神奈川県逗子市産(当館収蔵標本;KPM-NC 27983).