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当館に収蔵されていた標本に基づきハチの新種が報告されました

当館に収蔵されていた標本に基づきハチの新種が報告されました

2021年4月6日更新

当館の学芸員はコレクションポリシーに則り、資料を収集しています。収集方法にはさまざまな方法がありますが、学芸員自らも野外に出かけて資料を収集しています。このたび、学芸員の渡辺が今までに収集してきたハチの標本の中から新種が見つかり、その標本が論文で使用されました。

論文は東京都立大学動物系統分類学研究室の菊地波輝博士と、愛媛大学ミュージアムの小西和彦博士によるもので、動物分類学の国際誌Zootaxaに掲載されました。この論文では寄生蜂の一群であるLinycusに属するヒメバチを初めて日本から記録し、その中で以下の新種が記載されています。

Linycus kyoheii Kikuchi & Konishi, 2021(KPM-NK 55268, ホロタイプ)菊地波輝博士提供.

 

当館収蔵の標本(KPM-NK 55268※)がホロタイプ※※となっています。この標本は学芸員の渡辺が山梨県で採集したもので、本種の標本はこの1個体以外に見つかっていないため、世界で唯一の標本となります。新種記載では種内の変異を把握するために、可能な限り多くの標本を用いることが理想ですが、珍しい種や顕著な新種の場合は、一個体で記載をすることもあります。

なお、本種の学名(種小名)は標本採集者である学芸員の渡辺恭平(Kyohei Watanabe)にちなみます。新種の命名において、その新種の発見に貢献した人物の名前を学名につけることを「献名」といい、貢献に対する謝意を示す分類学の慣習です。動物の新種記載のルールを定めた「国際動物命名規約第4版日本語版※※※」の条文31.1.2には『ある種階級群名は,それが現代人の人名から直接形成した(補足:ラテン語化した)名詞の属格であるならば、人名が男の人1人の名前ならば-iを、……(中略)……その人名の語幹に付加して形成するものとする……(以下略)』とありますので、学名(種小名)の「kyoheii」を見れば、日本語を解さない人にとっても渡辺が男性であることが一目でわかります。

ちなみに、新種に自分の名前をつけることは通常行わず、常識的な分類学者はまずそのようなことはしません。また、雑誌によっては、そのような命名行為は認められないこともあります。

 

※KPM-NKは当館の資料番号であることを示す記号です。

※※生物の学名を命名する際に使われる標本をタイプといいます。ホロタイプは学名の基準となる標本で、タイプの中から一つだけ選ばれます。

※※※昆虫を含む全ての動物を命名する際の決まりごとをまとめた規約。この決まりに則って命名されてはじめて、新種は有効になります。第4版の日本語版は動物命名法国際審議会から規約の日本語正文として正式に認定されたものであり、英語版、仏語版やその後に編さんされた各国語版などと等しい効力をもつ規約正文とされています。この規約は日本分類学会連合で公開されています。

 

論文情報:Kikuchi, N. & K. Konsihi, 2021. A taxonomic revision of the genus Linycus Cameron, 1903 from Japan. Zootaxa, 4948(4): 546-558.