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学芸員の渡辺がハチの新種を発表しました

学芸員の渡辺がハチの新種を発表しました

2021年4月9日 更新

学芸員の渡辺はドイツのミュンヘン動物学収集博物館(Zoologische Staatssammlung München)のMatthias Riedel博士との共同研究で、日本産のCoelichneumonに属する寄生蜂について分類学的研究を行いました。その成果が、動物分類学の専門誌である「Zootaxa」に掲載されました。論文の概要は次の通りです。

 

論文の概要
本論文で扱ったCoelichneumonは、比較的大型のハチで、チョウやガの幼虫や蛹に寄生します。日本からは24種が記録されていましたが、全ての種が1950年代までに散発的に記録され、その中には同定が疑わしい種も多く、さらには多くの不明種が得られており、包括的な分類学的研究が必要とされていました。
論文では、日本産の本属を29種に整理し、5種の新種を新たに記載、命名しています。また、多数の日本新産種や異名、分布の新知見を報告しています。新種の概要は次の通りです。

 

Coelichneumon caerulogaster Riedel & Watanabe, 2021
タイプ産地※は栃木県那須塩原市沼ッ原。種小名は強い青色の(caerulo-)光沢をもつ後体節(gaster、見かけ上の腹部)にちなみます。ホロタイプ(KPM-NK 83915※※)とパラタイプの一部が当館に収蔵されます。

 

Coelichneumon carinator Riedel & Watanabe, 2021
タイプ産地は神奈川県横須賀市大楠山。種小名は小盾板の側方に隆起線(carina)を持つ者(-tor)にちなみます。ホロタイプは神奈川昆虫談話会の会員である鈴木裕氏が採集し、当館へ寄贈された標本です。ホロタイプ(KPM-NK 83916)とパラタイプの一部が当館に収蔵されます。

 

Coelichneumon cyanator Riedel & Watanabe, 2021
タイプ産地は栃木県大田原市福原。種小名は後体節がわずかに暗青色の(cyanea)光沢を持つ者(-tor)にちなみます。本種はホロタイプ(KPM-NK 83917)と1個体のパラタイプ(KPM-NK 83918)のみが知られ、いずれも当館に収蔵されます。

 

Coelichneumon terebrator Riedel & Watanabe, 2021
タイプ産地は東京都八王子市高尾山。ホロタイプは神奈川昆虫談話会の会員である城所竜弥氏が採集し、当館へ寄贈された標本です。種小名は本属としては非常に長い産卵管(terebra、本来は尾の意味だが、寄生蜂の産卵管を尾に見立てて使うことがある)を持つ者(-tor)にちなみます。本種は珍しい種のようで、ホロタイプのみが知られます。ホロタイプ(KPM-NK 83919)は当館に収蔵されます。

 

Coelichneumon uchidai Riedel & Watanabe, 2021
タイプ産地は神奈川県箱根町駒ケ岳。ホロタイプは神奈川昆虫談話会の会員である長瀬博彦氏が採集し、当館へ寄贈された標本です。種小名は日本のヒメバチ研究の基礎を築き、日本産既知種の大半を記録した北海道大学の故 内田登一博士に献名したものです。本種は珍しい種のようで、ホロタイプのみが知られます。ホロタイプ(KPM-NK 83920)は当館に収蔵されます。

 

Riedel博士はCoelichneumonが含まれるヒメバチ亜科の世界的なエキスパートで、欧州をはじめ各地のヒメバチについて多数の論文を公表しています。渡辺は2016年にミュンヘン動物学収集博物館へ標本調査のために訪問した際に博士と知り合い、その後の交流を経て今回の共同研究が実現しました。

 


図1. Coelichneumon cyanator Riedel & Watanabe, 2021 (ホロタイプ、KPM-NK 83918)Riedel博士提供.

 


図2. Coelichneumon terebrator Riedel & Watanabe, 2021 (ホロタイプ、KPM-NK 83919)Riedel博士提供.

 

※生物の学名を命名する際に使われる標本をタイプといいます。ホロタイプは学名の基準となる標本で、タイプの中から一つだけ選ばれます。パラタイプはホロタイプ以外のタイプです。ホロタイプが得られた産地をタイプ産地といいます。
※※KPM-NKは当館の資料番号であることを示す記号です。

 

論文詳細
Riedel, M. & K. Watanabe, 2021. Contribution to the genus Coelichneumon Thomson in Japan (Hymenoptera, Ichneumonidae, Ichneumoninae). Zootaxa, 4948(4): 501-545.