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学芸員の折原らによる、トリュフ型きのこの新種に関する論文が出版されました

学芸員の折原らによる、トリュフ型きのこの新種に関する論文が出版されました

2021年7月1日更新

きのこを形成し繁殖する菌類の中でも、地中にトリュフ型(団子型)のきのこを形成するものを総称して「地下生菌」と呼びます。今回、当館学芸員の折原(菌類担当)を中心とする国際共同研究により、担子菌門イグチ目イグチ科に含まれる地下生菌、ホシミノタマタケ属の2新種および1新ランク(変種→種への変更)の提案、およびそれらを対象に種間交雑の痕跡を分子系統学的に明らかにした研究論文が、菌学分野の主要国際誌の一つであるIMA Fungusから出版されました。

 

本論文中で、神奈川県産を含む日本産標本をもとにOctaviania tenuipes Orihara(和名:アシボソホシミノタマタケ)およびO. tomentosa Orihara(和名未定)の2新種が記載されました(ホロタイプ※を含む標本は当館収蔵)。また、過去に北米東部から知られていたO. asterosperma var. potteri という菌を再検討し、独立種Octaviania potteri (Singer & A.H. Sm.) Orihara, Healy, M.E. Sm.(和名未定)に格上げするとともに、本種が日本(北海道)と南米コロンビアにも分布することを示しました。ホシミノタマタケ属の地下生菌はこれまでに北半球を中心に記録されていましたが、南米からはこれが初の記録となります。また、本属の既知種全体のおよそ半分に相当する計14種が日本国内から報告されたことになり、世界的に見ても、日本におけるホシミノタマタケ属の多様性が著しく高いことが明らかになりました。

また、これらの菌が含まれる亜属を対象に、複数DNA領域の系統解析を行ったところ、核DNAの1領域において、O. tenuipes の1標本が近縁種ミヤマホシミノタマタケ(O. japonimontana)の配列を有していることがわかりました。さらに、同じDNA領域において、O. potteri の1標本はまだ実体が確認されていない、未知の近縁種のDNA配列を有していました。論文中では、これらの現象が、分布域の重なる近縁種間の交雑によるものである可能性を分子系統学的に示し、詳細な考察を加えています。

 

掲載論文

Orihara, T., Healy, R., Corrales, A., Smith, M.E. (2021) Multilocus phylogenies reveal three new truffle-like taxa and the traces of interspecific hybridization in Octaviania (Boletaceae, Boletales). IMA Fungus 12, 14 (2021). Impact Factor (2020): 3.636

https://doi.org/10.1186/s43008-021-00066-y (オープンアクセス)

 

※ホロタイプ(正基準標本):生物種の学名の命名時に指定され、その学名の基準となる唯一の標本。

 

図1.本論文で記載されたホシミノタマタケ属地下生菌

 

A: Octaviania tenuipes Orihara アシボソホシミノタマタケ 子実体(KPM-NC 27972; ホロタイプ)

B: Octaviania tomentosa Orihara子実体(KPM-NC 27954; ホロタイプ)

C: Octaviania potteri (Singer & A.H. Sm.) Orihara, Healy, M.E. Sm. 子実体(FH 0028431, duplicate: KPM-NC 17827; Rosanne Healy博士撮影)

図2.ホシミノタマタケ属Octaviania 亜属の4DNA領域の遺伝子系統樹の比較(上記論文中Fig. 2より引用)。
RPB1遺伝子の系統樹(右から2番目)において、O. tenuipesおよびO. potteri のそれぞれ1標本(緑および赤のフォント)が、他の標本と異なる系統に含まれることが示されている。また、TEF1遺伝子の系統樹(右端)において、O. japonimontana(ミヤマホシミノタマタケ)の1標本(茶色のフォント;神奈川県丹沢産)が同種の他の標本と比べて著しく分化していることが示されている。