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学芸員の瀬能が共同執筆した南方種カワアナゴの記録地北上を示唆する論文が公表されました

学芸員の瀬能が共同執筆した南方種カワアナゴの記録地北上を示唆する論文が公表されました

2021年9月22日 更新

 

国立大学法人筑波大学生命環境科学研究科生物科学専攻博士後期3年の山川宇宙氏と同生命環境系・山岳科学センター菅平高原実験所の津田吉晃准教授は、当館学芸員の瀬能と共同で、南方種のカワアナゴ科魚類のカワアナゴが、近年日本海沿岸において記録地を500 km以上も北上させていることを発見し、その成果を日本生物地理学会の英文誌『Biogeography』に論文として発表しました。

 

近年、地球温暖化によって海水温が上昇しており、日本でも太平洋沿岸において、南の暖かい地域に生息する魚類が北上していることが分かってきました。同様に、日本海沿岸でも南方に生息する魚類が北上している可能性が示唆されていました。そこで本研究では、日本海側の秋田県の河川下流域で魚類の採集調査を行いました。その結果、従来は石川県以南から記録されていた南方系の魚類「カワアナゴ」の稚魚が採集されました。本種が秋田県で採集された記録はこれまでになく、日本海側の記録地を約500 kmも北東に広げることになりました。

 

カワアナゴの稚魚や成魚は河川に生息しますが、孵化直後の個体は一度海に下って浮遊生活を送ります。今回の調査では、本種の成魚は採集されておらず、また、秋田県は従来の記録地と比べて寒いため、稚魚が越冬し、成魚まで成長して産卵している可能性は低いと考えられます。従って、今回採集された稚魚は、秋田県より南の地域で生まれ、浮遊生活時に日本海を北東へ流れる対馬海流に乗って、同県まで移動してきたと推測されます。

 

また、既往文献を調査し、これまでの日本海側におけるカワアナゴの記録状況をまとめたところ、本種の記録は近年増加しており、成魚も複数県の沿岸で見つかっていることが分かりました。これらのことから、本種は日本海側において北上傾向にあると思われます。

 

本研究の手法は、今後も温暖化が進む中で、カワアナゴ以外にも多くの南方種の北上傾向、さらには全体の魚類相や生態系の変化をモニタリングするのに有効であり、水圏生物多様性保全や水産資源の管理などにも役立つと期待されます。

 

なお、研究の背景、研究内容と成果、今後の展開についての詳細は筑波大学からのプレスリリースを参照してください。

 

参照論文

Yamakawa, U., H. Senou and Y. Tsuda. 2021. Northernmost record of Eleotris oxycephala (Gobioidei: Eleotridae) based on a juvenile specimen from Akita Prefecture in northern Japan: range extension along the Sea of Japan coastline. Biogeography. DOI:10.11358/biogeo.23.6

 

関連情報

信濃毎日新聞(信毎web)