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学芸員の渡辺が外来種のスズメバチについて報告しました

学芸員の渡辺が外来種のスズメバチについて報告しました

2021年12月26日 更新

学芸員の渡辺は、鹿児島市の山根正気博士、東京農業大学昆虫学研究室の廣瀬勇輝氏と共同で、沖縄島から発見されたクロスズメバチ属のオスについて研究を行いました。このたび、その成果をまとめた論文が、鹿児島県自然環境保全協会の会誌「Nature of Kagoshima」で公表されました。

論文はオープンアクセスで、会誌のウェブサイトでどなたでも閲覧できます。このトピックスでは裏話も含めて紹介します。

共著者の山根正気博士はスズメバチ科とアリ科の分類学における世界的権威であり、日頃より当館に不足しているアリ科の参照標本の収集にご協力をいただいています。ごく最近、山根博士から渡辺に、外来種と思われるクロスズメバチ属の女王バチが、従来この仲間の記録がなかった沖縄島から得られたという情報提供がありました。その数日後、寄生蜂の標本調査で来館した廣瀬勇輝氏が同定依頼のため持参したハチの中に、まさしく同種と思われる沖縄島産のクロスズメバチ属が1個体含まれていました。この個体はオスであり、しかも女王バチが得られた産地から離れた場所で採集されたものでした。このことは沖縄島のクロスズメバチが偶産ではなく、すでに定着して繁殖をしている可能性を示していると考えられました(オスは繁殖期にしか出現しないため)。

渡辺は早速、この情報を山根博士と共有し、報告の作成に取り掛かりました。その過程で、沖縄島産のクロスズメバチは日本には分布する亜種とは別の、ユーラシア大陸に分布する亜種であることが判明しました。沖縄島は多くの昆虫学者や愛好家が調査を行っている場所であり、比較的大型で目立つ本種が、今年に入るまで一切の採集されてこなかった点も踏まえて、沖縄島産のクロスズメバチは国外外来種であると結論しました(ただし、導入経路は未知です)。また、当館および大阪市立自然史博物館収蔵の標本を基に、正確な同定ができる資料を作成しました。これらの情報をまとめたものが今回の論文です。

外来種のクロスズメバチは、対馬に侵入した特定外来生物のツマアカスズメバチのように、人間に刺傷被害を与えるリスクがあります。さらに、元々沖縄島にはクロスズメバチの仲間は分布していないことからも、島の生態系にも悪影響を与える可能性があります。また、温暖な産地に侵入したクロスズメバチ類が、定着後に巣ごと越冬する生態を獲得し(通常は女王バチのみが越冬するため、冬に個体数が大きく減る)、爆発的に増加した事例が海外で報告されており、温暖な沖縄島における本種の動向には注意が必要です。

 

なお、論文の証拠標本は当館に収蔵されています(KPM-NK 80896※)。

※KPM-NKは当館の昆虫資料であることを示す記号です

 

沖縄島で発見されたクロスズメバチのオス(KPM-NK 80896)

 

論文情報

渡辺恭平・廣瀬勇輝・山根正気, 2021. 沖縄島で確認されたクロスズメバチ名義タイプ亜種Vespula flaviceps flaviceps (Smith, 1870)(ハチ目,スズメバチ科)のオス個体と本亜種の野外定着の可能性. Nature of Kagoshima, 48: 153–160.

論文URL: https://journal.kagoshima-nature.org/048-031/