魚の会講演会
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魚の会(うおのかい) 令和4年度第1回講演会「ヤマメとアマゴの日本列島での進化」

魚の会(うおのかい) 令和4年度第1回講演会「ヤマメとアマゴの日本列島での進化」

「ヤマメとアマゴの日本列島での進化-系統遺伝学的事実に垣間みられる歴史-」

ヤマメ・アマゴは日本列島の渓流に生息し、日本人には馴染み深い魚である。琵琶湖固有のビワマスと、台湾の大甲渓固有のタイワンマスをれて合計4亜種が知られ、サクラマス類似種群とされる。朱点が有ればアマゴ、無ければヤマメと日本では長く朱点の有無で両者は認識されてきた。単純明快である。また東北以北では降海型が多くなり、西南日本では陸封性のものが多い。
アマゴは神奈川県西部以西本州太平洋岸、四国、瀬戸内海に注ぐ中国地方南部、四国北部、及び九州の大分県の一部(大分川や大野川等)の河川に分布する。ヤマメは関東以北の太平洋岸と日本海側全域、国外では朝鮮半島とロシアのカムチャッカ半島南部、大分県の瀬戸内海の周防灘と伊予灘に注ぐ河川を除く九州の河川に分布するとされている。小田原市に流れる酒匂川はまさにその境界の川とされ、両者の生息実態について多くの研究が行われてきた。これら2亜種の分布の境界は大島線として知られる。
北西太平洋におけるこれらサクラマス類似種群4亜種の生息域全体を網羅するよう調査・解析を行い、まず地理的遺伝系統の概観を把握しようとした。その結果、4亜種ではなく6つの遺伝グループと地理的遺伝系統の存在が明らかになった。この事実から今までのサクラマス類似種群の見方が従来と大きく変わってきた。
冷水性を好むサクラマス類似種群は、氷河期に北海道から東北地方を経て西南日本に南下してきて現在の分布が形成されてきたと考えられてきた。しかし、最近の地質学的研究によって東北地方は火山列島の多島海であったことや、現在のような日本列島の状態になったのは約80万年前であることが解き明かされ、これに遺伝学的な解析結果を重ねてみると、サクラマス類似種群は北方からではなく、朝鮮半島東岸を含む大陸を経由して日本の西南地方から日本列島全体に分布を拡大し、東北形成後は北からも南下してきた可能性がでてきた。ここではこれらサクラマス類似種群のダイナミックな進化の歴史を考えてみたい。

アマゴ 兵庫県 鈴木寿之撮影
KPM-NR 18762

ヤマメ 北海道 鈴木寿之撮影
KPM-NR 46537

ビワマス 滋賀県 鈴木寿之撮影
KPM-NR 131985

講師:岩槻幸雄(いわつきゆきお)氏(宮崎大学教授)

1957年兵庫県生まれ。1988年3月東京大学大学院農学系研究科博士課程修了。1989年7月宮崎大学農学部助手。2000年09月宮崎大学農学部教授、現在に至る。専門は魚類の分類学。FAO(国際連合食糧農業機関)の魚類顧問やIUCN(国際自然保護連合)のSSC(Species Survival Commission)メンバーとして、タイ科やクロサギ科、タチウオ科など、世界中の水産重要種の資源評価や絶滅危惧評価にも携わり、国際問題となっている魚類の分類学的再検討を行い、各国が正しい学名により魚類の資源管理が可能になるよう貢献してきた。最近、日本最南限のヤマメ生息地が宮崎県であることを北西太平洋のサクラマス類似種群の遺伝系統を研究して証明したことから、サケ科魚類の地理的遺伝系統と保全に関わる研究も行っている。主な著書に「潮目の科学」(恒星社恒生閣;共著)、「日本の海水魚」(山と渓谷社;共著)、The Living Marine Resources of the Eastern Central Pacific(FAO;共著)等がある。

開催日 2022年5月22日(日曜)
場所 神奈川県立生命の星・地球博物館 1階西側講義室
開催時間 14時30分から15時30分
定員

当日受付 先着14名

料金 無料
主催

魚の会(うおのかい)

「魚の会(うおのかい)」は、研究や産業、趣味を通じて「魚」に携わる人々が気軽に集い、親睦をはかり、あわせて水圏の環境保全に寄与することを目的として活動しています。第一線で活躍されている著名な先生をお招きして開催している年4回の講演会には、どなたでも自由に参加できます。お知り合いの方もお誘い合わせの上、お気軽にご参加ください。

問合せ先 神奈川県立生命の星・地球博物館 担当:瀬能 宏
電話:0465-21-1515 e-mail:senou@nh.kanagawa-museum.jp