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学芸員の渡辺がハチの新種を発表しました

学芸員の渡辺がハチの新種を発表しました

2022年9月27日 更新

学芸員の渡辺は日本産のAlloplastaに属するウスマルヒメバチ亜科の寄生蜂について分類学的研究を行いました。その成果が、動物系統分類学の専門誌である「Zootaxa」に掲載されました。論文の概要は次の通りです。

 

【論文の概要】
本論文で扱ったAlloplastaは、チョウ目の仲間であるヤガ類に寄生するヒメバチです。研究に着手した際には日本からは2種が記録されていましたが、分類学的位置が疑わしい種やいくつかの不明種が得られており、包括的な分類学的研究が必要とされていました。

 

論文では、日本産の本属を9種に整理し、4種の新種を新たに記載、命名しています。各種の概要は下記の通りです。

 

Alloplasta breviterebra Watanabe, 2022

タイプ産地※は長崎県対馬市御岳です。農研機構収蔵のメス1個体しか知られていない珍しい種です。種小名はラテン語で「短い尾」という意味で、他種よりも顕著に短い産卵管に由来します。

 

Alloplasta japonica Watanabe, 2022

タイプ産地は栃木県那須塩原市大沼で、神奈川県内では箱根町駒ケ岳から標本が得られています。種小名は「日本」に由来します。ホロタイプ(KPM-NK 84735※※)とパラタイプの一部(KPM-NK 84736–84745)が当館に収蔵されています。

 

Alloplasta satana Watanabe, 2022

タイプ産地は長崎県対馬市上対馬町泉です。種小名はラテン語の「悪魔」の意味で、全身が黒色であることに由来します。ホロタイプ(KPM-NK 84746)とパラタイプの一部(KPM-NK 84747, 84748)が当館に収蔵されています。

 

Alloplasta septentrionalis Watanabe, 2022

タイプ産地は栃木県黒磯町(=那須塩原市)板室です。種小名はラテン語で「北方の」意味で、寒冷地で得られていることにちなみます。ホロタイプ(KPM-NK 84749)とパラタイプの一部(KPM-NK 84750–84758)が当館に収蔵されています。

 

図1. 今回新種記載されたAlloplasta japonica Watanabe, 2022のホロタイプ(B, D: メス)とパラタイプ(A: メス; C: オス)
-A: 側方から見た全形; B, C: 前方から見た頭部; D: 斜め背方から見た前伸腹節.

 

本論文ではさらに、ロシアや韓国から知られる3種(Alloplasta brevipetiolaris Kang & Lee, 2020, A.  kuslitzkii Kasparyan, 2007, A. subgrisea Kasparyan, 2007)を新たに日本から記録しました。また、日本各地で最も良く得られ、神奈川県を含む各地で多くの分布記録が報告されてきたクロウスマルヒメバチA. longipetiolaris (Uchida, 1952)が、ロシア東部、中国、韓国に広く分布するA. nigripes (Meyer, 1930)と同種であることも明らかにしました。生物の学名は通常先に命名されたものが有効となるため、前者は後者の異名となり、クロウスマルヒメバチの学名はA. nigripesとなります。普通種の種名が変更となる例は歴史的にも多々あり、2023年2月18日から当館で開催予定の企画展「超普通種展」でも紹介する予定です。

 

※生物の学名を命名する際に使われる標本をタイプといいます。ホロタイプは学名の基準となる標本で、タイプの中から一つだけ選ばれます。パラタイプはホロタイプ以外のタイプです。ホロタイプが得られた産地をタイプ産地といいます。

※※KPM-NKは当館の資料番号であることを示す記号です。

 

【論文詳細】
Watanabe, K., 2022. Revision of the genus Alloplasta Förster, 1869 (Hymenoptera, Ichneumonidae, Banchinae) from Japan.
Zootaxa, 5188(1): 55-73.
(DOI: https://doi.org/10.11646/zootaxa.5188.1.3)