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学芸員の樽が魚類耳石化石群集についての共著論文を国際学術誌に発表しました

学芸員の樽が魚類耳石化石群集についての共著論文を国際学術誌に発表しました

2023年5月10日 更新

当館古生物ボランティアの三井翔太氏、当館学芸員の樽らの研究グループは、横須賀市馬堀にある横須賀層大津砂泥部層(約12万5千年前)から得られた魚の耳石化石についての研究成果を国際学術誌「Historical Biology」に発表しました。この研究では合計544点の耳石化石を調査し、少なくとも35種の魚類が含まれていることが明らかになりました。これらの中には、私たちの食卓で馴染み深いマアジTrachurus japonicusなどの耳石も含まれています(写真A)。そして興味深いことに、現在では台湾より南の熱帯・亜熱帯海域にしか分布していない魚であるスリッシナ・セティロストリスThrissina setirostris(カタクチイワシ科)やクリソチル・アウレウスChrysochir aureus(ニベ科)の耳石が含まれていました(写真B・C)。

大津砂泥部層は、最終間氷期(約13万年~12万年前)と呼ばれる現在よりも温暖な気候だった時代の古東京湾でできた地層です。この地層からは貝類やクモヒトデ類などの化石が産出していますが、熱帯・亜熱帯性魚類の化石は知られていませんでした。今回の発見は、最終間氷期の横須賀には、現在の台湾のような亜熱帯の海が広がっていたこと、そして亜熱帯性の魚類群集が存在していたことを示す点で注目に値します。今後、他地域から産出する同時代の耳石化石を研究することで、かつて亜熱帯の魚類群集が、どこまで北上していたかを知ることができます。このようなデータは、気候変動による過去から現在の魚類の分布域の変化を考える上で重要です。小さな耳石化石の研究が、昨今の地球温暖化による海の魚への影響予測に繋がる日が来るかもしれません。

 

 
横須賀市馬堀から産出した魚の耳石の化石(A、Bは電子顕微鏡、Cは実体顕微鏡で撮影)
A:マアジの右耳石(KPM-NNV 1573);B:スリッシナ・セティロストリスの左耳石(KPM-NNV 1544);C:クリソチル・アウレウスの右耳石(KPM-NNV 1542)。


論文情報
Mitsui, S., C.-H. Lin, H. Taru and K. Shibata, 2023. Fish otolith record reveals possible tropical-subtropical fish community in temperate Japan during the exceptionally warm Last Interglacial period. Historical Biology.
DOI: https://dx.doi.org/10.1080/08912963.2023.2201933

 

※KPM-NNVは、当館の古脊椎動物資料であることを示す記号です。