学芸トピックス―苅部治紀―
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学芸員の苅部による都市部の希少昆虫に関するコメントが朝日新聞に掲載されました

学芸員の苅部による都市部の希少昆虫に関するコメントが朝日新聞に掲載されました

2016年6月3日更新

都市部に生息する希少昆虫に関する学芸員の苅部のコメントが、5月29日付けの朝日新聞に掲載されました。

国内の絶滅危惧種が急速に増加している中、通常は環境が劣悪と考えられる都市部において希少種が生息している例が紹介されました。この中で横浜市鶴見区にある「二ツ池」に生息する昆虫についてコメントしました。同池は周囲を市街地に囲まれた農業用ため池で、周辺の農地の消失によってため池としての使命は終えていましたが、そのままの形で保存されてきました。20年ほど前から西側の池で、ヒメガマなどの抽水植物やマツモなどの沈水植物が繁茂するようになり、急速に水質が改善しました。環境が整ったことから、それまで確認されていなかった多くの希少水生生物が確認されるようになっており、トンボ類では約40種が記録されています。アオヤンマ、ハネナシアメンボなど県内では現在この池でだけ確認されている種も多く知られています。希少種の存在だけでなく、トンボ類の個体数が非常に多いことも特徴で、これは周囲が市街地になっているため、農村地帯では多用される農薬の影響がないことが、都市部ならではの大きなメリットとなっていると考えられます。

原生自然に生息していた種類が、人間が管理する農村環境で活路を見出し一定期間共存した後、耕作方法の変化や放棄、農薬の導入などの環境の劣化によって、その多くは絶滅しました。とくに第二次大戦後に里山の自然環境は激変し、生物には住みにくい場所になっています。今回の記事では、市街地の一部で里山ではほぼ消滅した草刈りが定期的になされることや、食草を変えることで生き残ったチョウなども紹介されていますが、自然が回復したわけではなく、生き残っているのもそうした環境に適応できたごく一部の種類であることは忘れてはならないでしょう。

 

二ツ池のようす

希少水生昆虫の生息場所となった横浜市二ツ池

草にとまるアオヤンマのようす

希少種アオヤンマ。ヨシなどの抽水植物の多い池を好み、県内ではこの池でのみ生息が確認されている