学芸トピックス―樽 創―
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当館のクジラ化石標本が新属新種の記載に使用されました

当館のクジラ化石標本が新属新種の記載に使用されました

2016年11月3日更新

当館1階の「生命を考える」をテーマとする常設展示室に展示されている大きなクジラの化石標本をご存じでしょうか?ペルーの南岸、ナスカから南に約80kmのアグアダ・デ・ロマスにある新生代第三紀後期中新世のピスコ層から採集されたものです。このクジラには名前がなく、「ヒゲクジラの一種Balaenoptera sp.」として展示されていますが、国立科学博物館の外国人特別研究員であったFelix G. Marx博士と、国立科学博物館の甲能直樹博士の共同研究により、新属新種のナガスクジラ類の1種であることが分かり、Incakujira anillodefuego(インカクジラ・アニリョデフエゴ)と命名されました。また、記載にあたってはこの標本(KPM-NNV 730※)がタイプ標本のひとつであるパラタイプ(学名の基準となるホロタイプの予備的な標本)に指定され、論文の発表に大きく貢献しました。

哺乳類・鯨偶蹄類のナガスクジラ類は、 海に生活する生物の中では体サイズが最大ですが、このクジラはホロタイプに指定された蒲郡市生命の海科学館の標本(GNHM Fs-098-12※※)が体長8.25 m、当館の標本では体長7.15 mとやや小型で、鼻骨や前頭部、後頭部などに特徴があるとされています。属学名のIncakujiraは、コロンブスのアメリカ大陸発見以前のペルーを統治したインカ帝国の名と、日本語のクジラを組み合わせたもので、種小名のanillodefuegoはペルーと日本を結ぶ環太平洋火山帯を意味するスペイン語にちなんだものです。

このクジラ化石が発見された地層の時代は、神奈川県では大磯層が該当し、やはりヒゲクジラ類の化石が発見されています。この機会に展示室に横たわる730~750万年前のクジラを見ながら当時の海の様子に思いを馳せてみてはいかがでしょうか?

 

※KPM-NNVは当館の化石資料であることを示す記号です。
※※GNHM Fsは蒲郡市生命の海科学館の化石資料であることを示す記号です。

 

論文情報

Marx, Felix. G. and Naoki Kohno, 2016. A new Miocene baleen whale from the Peruvian desert. The Royal Society
DOI: http://dx.doi.org/10.1098/rsos.160542