学芸トピックス―瀬能 宏―
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学芸員の瀬能がタツノオトシゴの新種記載に協力しました

学芸員の瀬能がタツノオトシゴの新種記載に協力しました

2017年11月12日更新

学芸員の瀬能が、釜慶大学(韓国釜山)のHan, Sang-Yun氏とKim, Jin-Koo博士、ならびに京都大学の甲斐嘉晃博士と共同で、タツノオトシゴ種群に属する新種の記載論文を発表しました。この論文は国際的学術誌『ZooKeys』に10月31日付けで公表されました。第1著者のHanさんは、Kim博士の学生で、2015年4月に来館して日本海産や相模湾産のタツノオトシゴ属標本の調査を行いました。今回の論文はその時に得られた成果を含みます。

今回の種の学名haemaは、タツノオトシゴ類の韓国名、標準和名のヒメタツは、よく似たタツノオトシゴよりも体サイズが小さいという特徴がお姫様を連想させることに由来します。この種は韓国と本州の日本海沿岸と東シナ海の一部に分布しており、太平洋沿岸からは見つかっていません。

タツノオトシゴ種群は種間で互いによく似ている一方、色彩や形態の変異幅が大きい魚で、分類学的に著しく混乱していました。1913年にはタツノオトシゴ、ハナタツ、エンシュウタツの3種が認められていましたが、1956年にハナタツはタツノオトシゴの個体変異であり、これら2者は同種とする研究が発表されると、しばらくはこの説に従うことが多くなりました。ところが、1999年にハナタツはエンシュウタツとは同種だけれども、タツノオトシゴとは別種であるとの研究発表があり、さらに2013年に瀬能が日本海側に分布する“タツノオトシゴ”がいわゆるタツノオトシゴとは形態的に区別できる別種であることを示唆して以来、この仲間の分類学的再検討が待たれていました。新種として記載された種は瀬能が示唆した日本海側に分布する種で、今回の論文はタツノオトシゴ種群の分類学的混乱に終止符を打つものとして大きな意義があると言えるでしょう。なお、タツノオトシゴ属の新種が日本から記載されるのは116年ぶり、韓国からは初めてのこととなります。

 

ヒメタツの標本

ヒメタツHippocampus haema

KPM-NI 31881 パラタイプ 雄 若狭湾
タツノオトシゴとは頭部の突起が低いこと、ハナタツとは背鰭の基底付近に側方
へ張り出す突起があることで区別できる。主に藻場に生息する。

 

 

タツノオトシゴの標本

タツノオトシゴHippocampus coronatus

KPM-NI 7302 雌 相模湾
ヒメタツやハナタツとは、頭部の突起が
著しく高いことで区別できる。主に藻場
に生息する。

 

ハナタツの標本

ハナタツHippocampus sindonis

KPM-NI 19475  雄 相模湾
頭部の突起は低く、背鰭基底付近に側方へ張り出す突起がない。岩礁性で、岩に付着した藻類や刺胞動物などに付く。

 

論文情報

Han, S.-Y., J.-K. Kim, Y. Kai & H. Senou, 2017. Seahorses of the Hippocampus coronatus complex: taxonomic revision, and description of Hippocampus haema, a new species from Korea and Japan (Teleostei, Syngnathidae).

ZooKeys, (712): 113-139.https://doi.org/10.3897/zookeys.712.14955


※KPM-NIは当館の魚類標本の資料番号であることを示す記号です。また、資料番号は、当館の電子台帳上ではコンピュータでデータを管理する都合上、ゼロを付加した7桁の数字で入力されています。