展示余話「ザ・日本のカニ」

イチョウガニの画像

カニはお好きですか? 食の世界ではズワイガニ、ケガニ、タラバガニを日本三大ガニと呼ぶそうですが、ガザミやアサヒガニも人気ですね。当館にもカニはたくさん展示されています。

ところで、イチョウガニはご存じですか? 実は知る人ぞ知る由緒(ゆいしょ)正しいカニなのです。

イチョウガニの学名はCancer japonicus、Cancerはラテン語で「カニ」を、japonicusは「日本の」を意味します。つまり、イチョウガニこそが「ザ・日本のカニ」なのです。基準となった標本は東京湾で採集されたもので、関東以南の暖かい海の水深100メートル以浅に生息します。とても美味しいカニですが、サイズが小さく、まとまって得られないことから市場に出回ることは少ないようです。

さて、英語でcancerというとガン、つまり悪性腫瘍(あくせいしゅよう)を意味します。不規則に盛り上がる腫瘍の姿がカニの甲に、腫瘍を取り囲む無数の血管が甲を取り囲む多数の脚にそれぞれ似ていることが、その由来とされているようです。この病気を「cancer」と名づけたのは医学の祖ヒポクラテスとか。これにも由緒の正しさを感じます。このイチョウガニ、神奈川展示室に展示されていますし、「ウェブで楽しむ地球博」の「ぬりえひろば:標本deぬりえ」でも取り上げています。「ザ・日本のカニ」、どうぞお見知りおきを。

(学芸員・佐藤武宏

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