展示余話「不思議な貝からひらめくものは?」

チマキボラの標本

螺旋らせん螺線らせんの「」という字は一字で「巻貝」を意味するように、巻貝はからだの中に螺線を持つことが大きな特徴の生きものです。

神奈川展示室、相模湾の貝のコーナーに展示されている「チマキボラ」は、とりわけ螺線がよく目立つ巻貝です。巻いている殻の上部が大きく張り出して角張り、まるで階段のようになった姿は独特で、他に似た貝がほとんど見当たりません。日本でも古くから珍しい貝として知られ、江戸時代の本草ほんぞう学者、武蔵石壽むさしせきじゅが著した「目八譜もくはちふ」という貝類図鑑にも描かれています。海外のコレクターにも人気があり、英語では「Japanese Wonder」という名でよばれています。近代建築の巨匠、フランク・ロイド・ライトもこの貝に魅了された一人として知られており、世界遺産「フランク・ロイド・ライトの20世紀建築作品群」の構成資産の一つである、ニューヨーク・マンハッタンのグッゲンハイム美術館は、この貝からインスピレーションを得て設計されたと言われています。

同じ場所をぐるぐる回っているように見えても、見かたを変えると上昇したり下降したりしている螺旋は、しばしば禍福かふく、人生、歴史、輪廻りんね、永遠などになぞらえられます。石壽やライトがチマキボラを見て何を思ったのかはわかりませんが、みなさんはこの“日本の不思議な”巻貝を見て、何かひらめくものがありますか?

(学芸員・佐藤武宏

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