展示余話「謎のマグロ」

博物館の展示には剥製はくせいが欠かせません。魚類の場合、まるごと防腐処理を施した後に体内の筋肉や内臓、頭部を除く骨格をそっくり取り出して樹脂と入れ換え、体表には生鮮時の写真を見ながら彩色が施されます。

生命展示室の魚類コーナーに展示されているマグロの仲間のメバチも同様な工程を経たものと考えられます。この剥製は当館が開館する前の開設準備室時代にクロマグロを求めて発注したものですが、横浜の倉庫で対面した時に目が大きいことや胸びれが長いことからクロマグロではないことがすぐに分かりました。結局、改めて同定した上で正しい名前ラベルを付けて展示することになったのですが、いざ同定を試みると一筋縄ではいかないことがわかってきました。日本にはマグロの仲間が5種分布していて、そのうちクロマグロとビンナガでないことは確実なのですが、残りのコシナガ、キハダ、メバチのいずれにも決めがたい特徴を持っていたのです。

悩みに悩んだ末、体サイズを考慮した胸びれと、背びれの鎌のように伸びた部分の長さを重視してメバチに同定しました。しかしこの“もやもや”感は現在も続いていて、最近では最大サイズのコシナガに誤った彩色が施されたものではないかと思い始めています。今後の研究次第では、この剥製の名前ラベルが変わるかもしれません。

 

展示の様子

メバチに同定した剥製 全長約1.3 m

(学芸員・瀬能 宏

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